百武彗星 その6

 テイラーシステムの意味をまとめました。テイラーシステム成立の条件を考察した。


2006/8/6            < テイラーシステムの意味 >

 ここでは、私が開発したテイラーシステム成立の条件を調べたいのですが、その前にテイラーシステムの意味を
まとめておきましょう。「百武彗星 その3」での例を示しつつ、その意味をさぐりたい。
条件Cos[ s=s, π/2代入,πテイラー]の場合を見ると次のようになる。

[テイラーシステム]Cos[ s=s, π/2代入,πテイラー]
 まず
 f(x)=(cosx)/1^s + (cos2x)/2^s + (cos3x)/3^s + (cos4x)/4^s + ・・・ -------@

という母関数を考える。
 @例えばx=π/2を代入すると
 f(π/2) = -2^(-s)・(1-1/2^(s-1))・ζ(s)   -------A
となり、ζ(s)が現れる。

 次に@右辺の(cosx)/1^s, (cos2x)/2^s,(cos3x)/3^s, (cos4x)/4^s,・・・をそれぞれ独立にx=πの周り
テイラー展開します。その各々を並べて、同類の(x-π)^nの係数をまとめあげ、すべてを足し合わせる。
すると次のようになる。

 f(x)=- (1-1/2^(s-1))・ζ(s)  + (1-1/2^(s-3))・ζ(s-2)(x-π)^2 /2!
       - (1-1/2^(s-5))・ζ(s-4)(x-π)^4 /4!+ (1-1/2^(s-7))・ζ(s-6)(x-π)^6 /6!
         - (1-1/2^(s-9))・ζ(s-8)(x-π)^8 /8!+ (1-1/2^(s-11))・ζ(s-10)(x-π)^10 /10!
             ・・・・・・・・・・・                                     -------B

Bにx=π/2を代入して整理すると次のようになる。

f(π/2)
 =- (1-1/2^(s-1))・ζ(s) + (1-1/2^(s-3))・ζ(s-2)π^2 /(2!・2^2)
    - (1-1/2^(s-5))・ζ(s-4)π^4 /(4!・2^4) + (1-1/2^(s-7))・ζ(s-6)π^6 /(6!・2^6)
       - (1-1/2^(s-9))・ζ(s-8)π^8 /(8!・2^8) + (1-1/2^(s-11))・ζ(s-10)π^10 /(10!・2^10)
            ・・・・・・・・・・・・・・                                      -------C

 AとCは等しいので、ζ(s)を左辺にまとめて

(1-1/2^s)・(1-1/2^(s-1))・ζ(s) 
  = (1-1/2^(s-3))・ζ(s-2)π^2 /(2!・2^2)
      - (1-1/2^(s-5))・ζ(s-4)π^4 /(4!・2^4) + (1-1/2^(s-7))・ζ(s-6)π^6 /(6!・2^6)
         - (1-1/2^(s-9))・ζ(s-8)π^8 /(8!・2^8) + (1-1/2^(s-11))・ζ(s-10)π^10 /(10!・2^10)
             ・・・・・・・・・・・・・・・・                                       -------D

 このように、ζ(s)を「無限個のζ(s)」で表現できた。

[終わり]

 
これら現代数学でも超難問のゼータ特殊値をいとも簡単に導出できる一般的な力強な手法であることを「百武彗星
その1〜その5」で見てきた。
この手法の利点は、以下に示すようにζ(s)に限らず一般的なゼータ、ディリクレのL関数L(χ,s)に拡張できる点
にある。

 上では、Cos[ s=s, π/2代入,πテイラー]というやや特殊な場合を示した。
なぜこのシステムが一般的な手法であるかというと、Cos[ s=s, π/2代入,πテイラー]のパラメータを色々に
変えることができる点にある。
Cos[ s=s, p代入,qテイラー]とは、
「@のコサイン級数で、@のsにある実数sを与え、@左辺へのp代入と、@右辺のp周りテイラー展開へ
p代入を行う」
ということを意味する。

 s、p、qの三つのパラメータを見よう。
 まずsはζ(s)のsであり、実数点sでの特殊値をあたえる役割を果たす。例えば、s=1/2とすればζ(1/2)が出る。
s=5とすればζ(5)が出る・・という具合である。
 ではp代入のpはどんな役割を果たすのでしょうか?これは@右辺の形に着目すれば、私の予想L-4が利用できる
と気付く。すなわち「ゼータ惑星での結果がそっくりそのまま使える。例えば、p=π/2の場合は、上ではゼータは
リーマン・ゼータζ(s)が出たわけであるが、これなど「火星 その1」のπ/2代入での奇数回の結果をみればζ(s)
出現がすぐわかる。
 またではp=π/4の場合はどんなゼータが出るのでしょうか?これも「火星 その4」のπ3/4代入で奇数回を
みればL1(s)というディリクレのL関数L(χ,s)の一種のゼータが出るとわかる。

  L1(s)=1/1^s - 1/3^s - 1/5^s + 1/7^s+・・・    ------E
である。

 ディリクレのL関数L(χ, s)は、ディリクレ指標χ(a)によって特徴づけられるゼータであり、次のようなζ(s)を拡張した
ような形をしている。
  L(χ, s)=χ(1)/1^s + χ(2)/2^s + χ(3)/3^s + χ(4)/4^s +・・・     ------F

 L1(s)は、mod 8に対応したχ(a)をもち、
「a≡1 or 7 mod 8-->χ(a)=1、 a≡3 or 5 mod 8 -->χ(a)=-1、それ以外のaではχ(a)=0」というχ(a)に
対応したL(χ,s)となる。これとFから、L1(s)はEとなることがわかるだろう。

 では、「qテイラーとp代入の関係」は何を意味するのか?
これはDなどの右辺にどんな種類のゼータが出現するかを規定する意味をもち難しい。まだはっきりとまとまって
いない。さらに多くの実験を重ねるうちにわかってくる類のものである。とにかく当分は正確にわかった実験結果を
報告するというスタイルをとりたい。今後の実験過程であきらかにしていく。

 「qテイラーとp代入の関係」について「百武彗星 その1〜その5」でわかったことは、「π/2代入,πテイラー」では
Dのように右辺はζ(s)のみ出現となる。
また、「百武彗星 その1」のζ(1/2)値の導出 で見た「π代入,π/2テイラー」ではζ(s)とL(s)の2種類が出る
という事実である。ここまでわかっている。
ここで、L(s)は次のゼータである。
 L(s)=1 - 1/3^s + 1/5^s - 1/7^s + ・・・   ------G

これもディリクレのL関数L(χ,s)の一種であり、
 L(s)は、a≡0, 1, 2, 3 mod 4に対しそれぞれχ(a)=0, 1, 0, -1としたときのL(χ,s)に一致する。これとFからL(s)は
Gとなることがわかる。

 L(1)=π/4であること、すなわち、
  π/4 = 1 - 1/3 + 1/5 - 1/7 + 1/9 - 1/11 + 1/13 - 1/15 +・・・
は有名だ。

 このテイラーシステムをゆたかにしている要因がじつはもう一つある。
お気づきだろうか?
そう、@はコサイン級数だが、これをサイン級数としても同様の議論が展開できるのである!

 g(x)=(sinx)/1^s + (sin2x)/2^s + (sin3x)/3^s + (sin4x)/4^s + ・・・

という母関数を考えて同様にまた別の世界が見えるのであるから、その広大さが容易に想像できる。

 そして、このサイン級数にπ/2代入をしたら、どんなゼータが出現するかも、「ゼータ惑星」での私の予想L-4から
容易にわかる。じつはL(s)が出るのだが、その話はまた先で行うことにする。
そこではL(s)=「ゼータの無限和」という興味深い結果が待ち構えていよう。




2006/8/6          < テイラーシステム成立の条件 >

 ここでは、テイラーシステム成立の条件をさぐりたい。抽象的な議論より、具体例をあげてたしかめていく。

 条件Cos[ s=s, p代入,qテイラー]でs、p、qがどんな関係のときにテイラーシステムが正しく働くのか?どんなときに
ダメになるのか?を調べたいわけである。

 sは、pとqとは関係なく、これだけで独立であることは自明である。そして「その1〜その5」で調べた限りどのよう
な数s(実数)でもOKであった(-1/2や-5/2などまだ調べていないものもあるが成立しているだろう)。

 さて、問題はpとqである。これらがどんな数のときOKで、どんな数のときシステムが破綻するのか、これが最も
関心のあることである。

 まず、「その1」の<ζ(1/2)値の導出 その2>でζ(1/2)をCos[ s=1/2, π/2代入, πテイラー]で求めたもの
を再掲する。

*************************************************************************************
[ζ(1/2)を導出する] [π/2代入、π周りテイラー]
 まず
 f(x)=(cosx)/1^0.5 + (cos2x)/2^0.5 + (cos3x)/3^0.5 + (cos4x)/4^0.5 + ・・・ -------@

という母関数を考えます。
 そして、まず上でx=π/2を代入します。すると
 f(π/2) = -2^(-0.5)・(1-2^0.5)・ζ(1/2)   -------A

となり、ζ(1/2)が現れます。

 次に、(cosx)/1^0.5, (cos2x)/2^0.5,(cos3x)/3^0.5, (cos4x)/4^0.5,・・・をそれぞれ独立にx=πの周り
テイラー展開します。その各々を並べます。そして同類の(x-π)^nの係数をまとめあげ、すべてを足し合わせます。
すると、次のようになります。

 f(x)= - (1-2^0.5)・ζ(1/2)  + (1-2^2.5)・ζ(-3/2)・(x-π)^2 /2!
      - (1-2^4.5)・ζ(-7/2)・(x-π)^4 /4! + (1-2^6.5)・ζ(-11/2)・(x-π)^6 /6!
       - (1-2^8.5)・ζ(-15/2)・(x-π)^8 /8! + (1-2^10.5)・ζ(-19/2)・(x-π)^10 /10!
        - (1-2^12.5)・ζ(-23/2)・(x-π)^12 /12! + (1-2^14.5)・ζ(-27/2)・(x-π)^14 /14!
             ・・・・・・・・・・・                                          -------B

 無限個の半整数ζ(s)値が出てきました。こちらにもζ(1/2)が出ています。

 さて、Bにx=π/2を代入してζ(s)の関数等式
  ζ(1-s)=cos(πs/2)・Γ(s)・2^(1-s)・π^(-s)・ζ(s) 
と、次のL(s)の関数等式
  L(1-s)=π^(-s)・2^s・Γ(s)・sin(sπ/2)・L(s)

を利用して、ζ(-3/2),ζ(-7/2)・・・をすべて現実的なζ(5/2) ,ζ(9/2),・・・に直して整理整頓すると、
次のようになります。

f(π/2)
 = - (1-√2)・ζ(1/2)
 + (√2-1/2^2)・{(1・3)/(2・4)}・ζ(5/2)/2^2
  + (√2-1/2^4)・{(1・3・5・7)/(2・4・6・8)}・ζ(9/2)/2^4
   + (√2-1/2^6)・{(1・3・5・7・9・11)/(2・4・6・8・10・12)}・ζ(13/2)/2^6
    + (√2-1/2^8)・{(1・3・5・7・9・11・13・15)/(2・4・6・8・10・12・14・16)}・ζ(17/2)/2^8
     + (√2-1/2^10)・{(1・3・5・7・9・11・13・15・17・19)/(2・4・6・8・10・12・14・16・18・20)}・ζ(21/2)/2^10
                       ・・・・・・・・・・・・・                                  -----C

  1・3は1×3の意味です。Cは階乗n!を使って表すこともできますが、このように表現しました。

 AとCは等しいですので、ζ(1/2)を左辺にまとめて整理すると、次のようになります。

 (1-1/√2)・(1-√2)・ζ(1/2)
 = (√2-1/2^2)・{(1・3)/(2・4)}・ζ(5/2)/2^2
  + (√2-1/2^4)・{(1・3・5・7)/(2・4・6・8)}・ζ(9/2)/2^4
   + (√2-1/2^6)・{(1・3・5・7・9・11)/(2・4・6・8・10・12)}・ζ(13/2)/2^6
    + (√2-1/2^8)・{(1・3・5・7・9・11・13・15)/(2・4・6・8・10・12・14・16)}・ζ(17/2)/2^8
     + (√2-1/2^10)・{(1・3・5・7・9・11・13・15・17・19)/(2・4・6・8・10・12・14・16・18・20)}・ζ(21/2)/2^10
                       ・・・・・・・・・・・・・                                  -----D

 なんとも美しいものですね。
 右辺のζ(5/2),ζ(9/2),・・・は、現実世界において確定した値ですので、無限級数を計算していけば右辺は
-1.46035・・に収束します。 Dは、冒頭でのζ(1/2)の級数とは比較にならないくらい収束が速かった。

 なんと、たったの100項で、-1.460354455・・となったのですから!(*) 
(厳密値はζ(1/2)=-1.460354508・・・)

(*)なお、この計算はExcelのVBAでプログラムを組んでやりましたが、ζ(5/2)〜ζ(69/2)までは計算で出したかなり正確なζ(s)値を使いまし
たが、それ以外のζ(s)値はすべて1として計算しました。

以上
********************************************************************************


 このように現代数学でも難解この上ないζ(1/2)値が簡単に求まったわけである。
テイラーの威力を味わってください。

 先をいそぐ。

 f(x)=(cosx)/1^0.5 + (cos2x)/2^0.5 + (cos3x)/3^0.5 + (cos4x)/4^0.5 + ・・・ -------@

 この@のようなCos級数は、私が「いくつかの点」シリーズから「ゼータ惑星」を経由して以来ずっと扱ってきたとも
いえる親近感のある式である。
 そして、この種の式を扱う上で大切なのは、右辺をベキ級数展開したときに、その収束半径内のxで@を
扱わないと結果がデタラメになるという点である。逆にいえば、収束半径内のxで議論している限りは常に正しい
結果を出してくれるのであった。
 @のようなCos級数(or Sin級数でも同じ)を扱う際に、ベキ級数展開での収束半径がいかに決定的な役割を
果たしているかがわかるのである。

 そして、テイラーシステムでも事情はまったく同じであった。
上のζ(1/2)では条件はCos[s=1/2, π/2代入, πテイラー]で求めた。Cos[s=s, p代入,qテイラー]と比較して
p = π/2,q = πである。

さて上のBのベキ級数の収束半径Rを計算するとR = πとなった(計算略)。Bの観察から、
| x-π | < R より、| x-π | < π よって、0 < x < 2π -------E
となる。
 よってBは、Eを満たす x ならば(このx を代入するならば)収束する級数であるということになる。
上での| x - π |のπはBでのπ周りテイラー展開でのπを意味する。つまりq = πのπである。
一般的にいえば、
  | x - q | < R   ------F

を満たす必要がある。ここで、xは代入するpと同じであるから、Fは
  | p - q | < R   ------G

と同じである。Rは収束半径R。
つまり、テイラーシステムを行う場合、条件Cos[ s=s, p代入,qテイラー]のp と q は常にFを満たす必要がある
のである。

 さて、もう一度、上のζ(1/2)の導出条件がGを満たしているか見てみよう。
Cos[s=1/2, π/2代入, πテイラー]であるので、Cos[s=s, p代入,qテイラー]と比較してp = π/2,q =πである。
Bでの収束半径RはR=πであった。Gより、

 | π/2 - π| < π

であり、これは成立している。OKである。
この条件が成立していたから、正しい結果が得られたのだった。条件Cos[ s=1/2, π/2代入, πテイラー]で
システムが正しく機能してくれたのはこのような理由があったからである。

 ただ、一点注意を述べると、Gで左辺と右辺がイコールとなる場合でもテイラーシステムが成立する
場合があるかもしれない。つまり
 | p - q | = R

の場合である。そのような場合はその都度、実際の数値計算で確めることにする。

テイラーシステム成立の条件

 テイラーシステムが成立するには、Cos[ s=s, p代入,qテイラー]やSin[ s=s, p代入,qテイラー]
のp、q が次を満たす必要がある。

   | p - q | < R の場合はOK。
または
  | p - q | = R の場合はその都度、実際の計算で確めることにする。 

 ここでR は次のAやBをテイラー展開したときの収束半径である。

 f(x)=(cosx)/1^s + (cos2x)/2^s + (cos3x)/3^s + (cos4x)/4^s + ・・・ -----A

 g(x)=(sinx)/1^s + (sin2x)/2^s + (sin3x)/3^s + (sin4x)/4^s + ・・・   -----B



 上のことを具体的に見てみよう。
例えば、上記A式でCos[ s=1/2, 5π/2代入, πテイラー]のような場合に、はたしてζ(1/2)値が正しくが求まる
だろうか?答えはNoである。なぜならp=5π/2,q=πより、また収束半径R=πより、
  | p - q | < R
が成立しないからである。すなわち、
  | 5π/2 - π | < π
で、これは不成立である。(実際に詳細な計算をしてもやはりだめである)

では、例えば、Cos[ s=1/2, 0代入, πテイラー]のような場合はどうだろうか?
こちらもNoである。なぜならp=0,q=πより、また収束半径R=πより、
  | p - q | < R
が成立しない。すなわち、
  | 0 - π | < π
で、これも不成立だからである。(詳細な計算をしてもだめである。矛盾した結果が出る。)

 さて、| p - q | < R を満足すればよいのであるから、Cos[ s=1/2, 5π/2代入, テイラー]のような場合は
OKとなる。しかし、これはCos[ s=1/2, π/2代入, πテイラー]と本質的に同じであり、今後の議論を簡潔にする
ために、0 < q < 2πと q の範囲を限定しておいて全くかまわない。
0 <= q < 2πとするか 0 < q < 2πとするかであるが、じつはB式で特異点の問題をはらんでいるのでq=0は省く
ことにする)
よって、上記の条件を次のように少し変更しておこう。

テイラーシステム成立の条件

 テイラーシステムが成立するには、Cos[s=s, p代入,qテイラー]やSin[s=s, p代入,qテイラー]
のp、q が常に次を満たす必要がある。

  | p - q | < R の場合はOK。
または
  | p - q | = R の場合は、その都度、実際の計算で確めることにする。 

 ここで 0 < q < 2π であり、R は次のAやBをテイラー展開したときの収束半径である。

 f(x)=(cosx)/1^s + (cos2x)/2^s + (cos3x)/3^s + (cos4x)/4^s + ・・・ -----A

 g(x)=(sinx)/1^s + (sin2x)/2^s + (sin3x)/3^s + (sin4x)/4^s + ・・・   -----B







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