『大英帝国衰亡史』

PHP文庫
安倍晋三を応援していた疑惑で知られる京都大学の中西教授の力作。内容は、衰亡史とは言うものの、基本的には16世紀以降の英国通史という形になっている。ただ、随所に衰亡に関わる考察が鏤められているのが特徴。大英帝国はいつ滅んだのかというのは定義にもよるので難しいが、中西教授はスエズ動乱で帝国が消滅したとしている。
読了して思うのは、普通は、大きな戦争に負けたことがないということは、強い英国ということの象徴のようでもあるが、結局は、敗戦という外圧がなかったことが、英国の「改革」の動きを鈍らせ、また人々の意識が帝国の衰亡という点に向かなかったことが、原因のような気がする。勝ったとはいえ戦争で国民は疲弊し(本書では終戦後も英国では物資の配給制度が続いたことが紹介されている)、米国に主役を完全に譲り渡し、各地の植民地も続々と独立し、結局、英国は第二次大戦に勝って何を得たのか。別に、敗戦国日本の負け惜しみという訳ではないが。
『小さな大国イギリス』 森田浩之

東洋経済新報社
著者は政治評論家の森田実の森田総合研究所に所属する政治経済学者。本書は英国の生活だけでなく、政治学、経済学、哲学まで手広く簡潔かつ平易に記述してあり侮れない。時々「これは何の本だっけ」という気になってしまう「ごった煮感」は否めないが、結構参考にはなるし役に立つ。それに、以下のような英国の見方は結構私と近い。
私は、イギリスの日常生活は日本のそれよりもかなり劣っていると考える。繰り返しになるが、もしこれだけしか書かなければ、本書はイギリス批判の本になるだろう。しかし、一方で、政治や思想のレベルでイギリスはまだ生き生きとしている。そして、この文化レベルにおける優越性が日常レベルの劣悪さを補って余りある、というのが私の基本的な視点である。(p.16)
尚、本書の中で、ポンド補助通貨単位ペニーは複数形ではペンスになるが、そのままペニーと言われることが多いとされ、本文中にも「45ペニー」等と書かれている。私の知る限りでは、口語ではペニーともペンスとも言わず、単にpenny (or pence)の頭文字の「ピー」と言うだけだ。但し、最も多いのは、何にも言わない場合である。例えば、3ポンド45ペンスであれば、"Three pounds and fourty five, please."という具合に。ま、人によるか。
『続イギリスと日本』 森嶋通夫

岩波新書
『イギリスと日本』に続く岩波新書のアンコール復刊シリーズ。元々は昭和50年代前半に経団連やロンドン日本婦人会等で行われた講演が元となっているので、語り口調になっていて読み易い。しかし、英国内に於ける階級間の移動や絶対王政崩壊後の日英の経済発展についての比較等、講演の寄せ集めであるが故に一冊の本としての統一感はあんまりない。それにしても、歴史の比較のためとはいえ「明治維新」の講釈が長すぎる。
本書で面白いのは、近代経済学が英国で産まれたことの悲劇である。多くの国は国内に所得差のある二重構造であるが、英国は一重構造だったり、或いは農業を無視し得たりと、全く他の国の参考にならないモデルであるにも関わらず、それを分析して経済理論が出来上がり、それを無批判に他国に当て嵌めていった、というわけである。成る程ねえ。
どうでもいいが、イタリアを「イタリー」と言うのは爺くさい。
『イギリス人はしたたか』 高尾慶子

文春文庫
「おかしい」「かなしい」に続く高尾慶子の3作目は「したたか」と初の形容動詞。失業して苦労している姿が痛々しい筈だが、高尾氏は相変わらず元気である。特に興味深いのは英国人が水を大切にしないという部分。私もロンドンに住んでいたときのフラットでは、不動産屋から「水道代は大家がずっと払ってるから払わなくていいです」と言われていたので全く払わなかった。だから無駄遣いをしたという記憶は特にないけど。因みに、本書によれば英国では水をどれだけ使っても水道代が一律らしい。それもどうかと思うが。
『頑固な英国 ソフトなイギリス』 木野 悍

実業之日本社
著者の木野氏は日航ロンドン支店勤務で、その後辞職してそのままロンドンに住み着いている在英40年になる人物。無批判に英国を礼賛するのではなく、その文章からは在英40年の余裕が感じられる。娘2人も英国生まれの英国育ちで結婚相手も英国人ときており、本書は次女の結婚式のエピソードから始まる等、英国に根を下ろして生活している人ならではの情報が記述されており面白い。
ただ、著者が日航辞職後に何をしていたのかいまいちよく分からないため(終わりの方にちろっとだけ出ているが)、本書を読むときに視点の置き方に迷ってしまう場面があるのが難点と言えば難点。
『女王陛下の町ロンドン』 出口保夫

PHP
出口保夫もよく同じような内容でこんなに本が書けるなというどうでもいいことに感心してみたりする。内容は、一言で言えばロンドンの牧歌的な紹介。出口氏の本は他のよくある学者の本と違って、「翻って日本はどうのこうの」という記述は無くて、純粋に英国が好きなんだなということだけが分かる。そういう意味では、毒にも薬にもならないが、気楽に読みたいときにはお勧め。各話も相互に関連無く一話完結みたいな感じでずっと行くから、ぱらぱらと捲って読んでもいい。
尚、「女王陛下の町」と題名では言ってはいるが、本文中で女王に触れているのはごくごく僅かなので、普通のロンドン案内の本と思っていただいて結構です。
『お金とモノから解放されるイギリスの知恵』 井形慶子

大和書房
苦しみながらも何とか読み終えた。それだけでも自分を褒めてあげたい。
この人は、日本の何を見てきたのだろう。本書の中にはどこまでも荒んだ日本の光景が並ぶ。
この人には論理構成の力が全般的に欠けているが、その中でも「比較力」が決定的に欠けている。英国の一番素晴らしい例と日本の一番駄目な例とを「比較」して、イギリスは素晴らしい、それに引き替え日本はダメダメ、ってな論調で進み、各節の最後の方には、天からの啓示であるかの如く英国人からの「日本は駄目だ」式の発言が引用される。
私はこれは著者の全くの創作だと思うことにしている。こんなことを当の日本人に向かって言う英国人の神経が信じられないからなのだが、もし本当だとしたら、それを有り難がっている著者の神経、祖国を面罵されて喜び、更に活字にして流布しようとしている神経の方が信じられなくなる。
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『幽霊(ゴースト)のいる英国史』 石原孝哉

集英社新書
わざわざ「ゴースト」と振り仮名が付けられているが、読み終えてみると「幽霊」と「ゴースト」とは違うものだという気がしてくる。基本的に、英国のゴーストは愛されているのである。それが言い過ぎであれば、忌避されていないのである。その象徴的な例が、日本では幽霊が出る物件は気味悪がられるだけだが、英国ではゴーストが出る物件は値が上がるというものだ。
著者は、例えば或る人物(国王の謀略により悲劇の死を遂げた人物等)に対する民衆の感情が、タブーであるがゆえに表面には現れず、代わりにゴースト伝説という形になって現れたものだと分析している。そういうわけで、恨めしやーという点では日英の幽霊・ゴーストは同じなのだが、民衆は本来ならばゴーストになってしまった人に同情し味方したい、と思っているから、ゴーストは愛され、その物件の価値が高まる、という寸法だろう。
というわけで、興味深い本なのだが、難を言えば、章立ての構成が年代順でもなければ地域順でもないので、ちょっと混乱する。
『アーロン収容所』 会田雄次

中公新書
英国を知る為に絶対第一に読むべき本、それが本書、会田雄次『アーロン収容所』である。世間には、英国について、おいしいとか豊かだとか知恵があるとか色々関連の書籍が山のように出ている。別段、それらを読むなとは言わないし、現に私も粗方読んでいる。しかし、そういう暢気な英国本はいつでも読める。この『アーロン収容所』は、その手の本とは全く異質である。more『イギリスはおいしい』 林 望

文春文庫
日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した林望氏(音読みして「リンボウ先生」と言うことが多い)のエッセイ第一弾。文春文庫はあるのは私が読んだのが文庫版だったからで、元々の単行本は平成3年に平凡社から出ている。
いきなり言ってしまうが、この本は、私が「英国情報」の扉ページのところで念押しするように書いてある「英国を褒め称え、翻って日本を貶めるといった類の読み物ではありません」に言うような「英国を褒め称え、翻って日本を貶めるといった類の読み物」の代表格なのである。more『リンボウ先生 イギリスへ帰る』 林 望

文春文庫
もうイギリスへ「帰る」という題名からしてイヤらしい感じ全開だ。何様のつもりなのだろう。『イギリスはおいしい』は、基本的には料理の話が中心だったので、まあまだ許容範囲に収まっていた感があるが、本書は英国生活の全般的な内容を扱っているため、もう本性が出まくっていて、目を覆いたくなるような記述が後から後から溢れ出てくるのである。何とかしてほしい、ほんとに。more『イギリス人はおかしい』 高尾慶子

文春文庫
「イギリス人はおかしい」とはまた刺激的な題名だが、内容もまあまあ過激である。筆者の高尾氏は英国人と結婚した後に離婚(ここまでだと誰かさんとおんなじ)し、京都・祇園でのホステス生活を経て再渡英し、映画監督のスコット氏(「ブラック・レイン」とかの監督)の家でハウス・キーパーとして働く。著者のそうした経歴からか、本書はどちらかと言えば主に英国人の庶民階級の人々の生活を描いた本になっている(例えば、貸した金を返さない奴とか)。この点で、上流階級中心の交友を綴ったどこかの書誌学者等の著作とは対照的である。尚、個人的な体験の記述が目立つので、英国一般の判断の一つの材料にはなるが、普遍化するのは多少危険か。
それにしても、筆者はよっぽどサッチャーのことが嫌いと見えて、本書の中でも繰り返し彼女を罵倒している。『イギリス人はかなしい』 高尾慶子

文春文庫
「イギリス人はおかしい」の続編である。本のカバーには「イギリスへの滑稽な『片思い』を蹴っ飛ばす!」と相変わらず威勢がいい。また前作の本のカバーには「英国ベタ誉めはもうたくさんだ!!」とあって、英国メッタ斬りの感もあるが、著者は英国の良いところは良いときちんと認めており、英国の悪しき点まで何故か美徳に見えてしまう、どこかの書誌学者の本とは毛色が異なっている。
また著者は、英国人に対して日本の立場、日本の良さをきちんと説明しており好感が持てる。日本は先の大戦について謝罪しろとぬかす英国人に対して、「あんたたちは、インドやアフリカ、中国やシンガポール、ビルマに謝ったの?」と言い返している(だからといって俘虜虐待を正当化している訳でもない)。前作よりは、普遍的っぽい記述の分量が若干増えた分だけポイントアップ。
あと、雑誌の投書欄(「出会い系サイト」の雑誌版か)を使った著者の「お見合い」体験記が興味深い。『英国ありのまま』 林 信吾

中公文庫
林信吾氏は、英国に10年間滞在し、日本語新聞の編集長も務めたジャーナリストである。著者は、同じ名字の書誌学者氏のように上流階級中心社会にいた訳でもなく、バランスの取れた英国観察に基づいた記述なんではないかと思う。本書では、ビザから始まって、食事や英語、気候、テロ、王室等について綴っている。その文体は非常に柔らかくて読みやすく、価値観を押し付けるようなところがないので、お気軽に読める。
その他、泥棒に入られた記述や、田原総一朗氏の取材のコーディネートをしたエピソードなんかも入ってます。more『英国一〇一話』 林 信吾

中公文庫
林信吾氏の「英国ありのまま」に続く著作。単行本で出たときには見開きで一話が完結する仕掛けになっていたようだが、残念ながら文庫本では体裁が崩れてしまっている。まあ大した問題ではなかろう。
本作でも筆者は、10年間住んでいたにも関わらず英国的な価値判断に囚われてはいない。いや、逆にちょろっと滞在しただけの人間の方が、英国の良い面だけを見てしまい、過てる英国観をせっせと日本に輸入しているのかも知れないが。more
『こまったロンドン』 福井星一

明窓出版
著者も出版社もよく分からない1冊。著者が1年間ロンドンに住んでみて、色々と体験した困ったことをまとめた本。私は書名を長らく『だめなロンドン』だと勘違いしていたが、それも著者が「困った」を通り越して「駄目」としか言いようのないひどい事態に遭遇しているからだろう。特に住居関係。
しかしながら、記述は至って平板だし、各項目の長さも区々で全く統一感がない。自分の体験したことだけを書いており、何か他の資料に当たった形跡もないので、英国を貶すネタを探している人以外は読む価値は無いでしょう。『イギリスレッスン』 井田俊隆

南雲堂
著者は立命館大学の英文学の教授で、本書は平成5年にレディング大学に1年間留学したときの経験を綴ったもの。著者は妻子とともに渡英しており、お隣さんやご近所さんとの、ほのぼのした家族交流が描写されている。特にお向かいの老夫婦ラルフとアンジェラとはサンデーランチの会を催したり英語を教わったりと、かなり仲良しのようだ。まそんな感じで、英国人達との付き合い模様が淡々と続いていく。いかにも象牙の塔の学者が書いたという雰囲気が伝わってくる。
レディング(Readingと書いてレディングと読む)はロンドンから電車で1時間ぐらいの街だが、もうここらへんに来ると有色人種の数はぐっと減って、アングロサクソン系の比率が随分と高くなる。本書を読むに当たっては、そうした情報を念頭に置いておく必要があると思うのだが、残念ながら、本書にはレディングがどういう街なのかとか(普通の日本人はレディングなんか知らないと思う)等の情報が全く出て来ないし、そもそも留学で行ってる筈なのに、大学の記述が一切無いというのは合点が行かない、というかそんなんありか。『僕のロンドン』 桜井俊彰

駿台曜曜社
英国の大学に留学するため、家族揃って英国に引っ越し、そこで起こったあれやこれやの騒動の記録、と言うと前に出た『イギリスレッスン』と同じような境遇だが、こっちの方が家族の話や大学の話が出てきて面白いし、文体も素朴で親しみやすい。
著者が留学したのはロンドン大学のユニバーシティ・コレッジ(米国風に言うとカレッジ)・ロンドン(略称UCL)。ここは伊藤博文も留学していた由緒正しく、また日本と縁の深い大学で、庭には日本人留学生の碑が建っている。著者はここに西洋史を学びに来たのである。が、本書では、よほど楽しかったのか、大学よりも、大学に入る前の準備コースでの悪戦苦闘ぶりに多くの記述が裂かれていて、肝心の大学院の部分は殆ど出てこないが、どうも続編が出てるらしいので、そっちに詳しく出ているのかも知れない。
因みに、著者の桜井氏は、ロンドンの日本人向け新聞にコラムを書いていました。
『大人の国イギリスと子どもの国日本』 マークス寿子

草思社
さあてマークス寿子の出番である。この人も英国貴族だか何だか知らないが、英国べったり派であり、それ故に日本の事情に疎くなってしまったのか、ピント外れの日本批判を繰り返す困ったおばちゃんである。
なんかもう、とにかく、どんな事にでも文句を付けようと思えば付けられる、ということを証明する為に書いたとしか思えない、言い掛かりと独り善がりの勝手な意見に満ちた本である。もう笑うしかない。more『漱石の「不愉快」』 小林章夫

PHP新書
英国関係の本に最も欠かせない人物のうちの1人がこの小林章夫先生。上智大学のイギリス文学の教授であり、英国関係の著書も多数。又、テレビでもNHK教育テレビの「イギリス大好き」という英国英語を使った英会話番組の講師も務めている。人の良さそうなおじさんである。
ところで先ず、『漱石の「不愉快」』が何で英国本なの?という疑問に答えなければならないだろう。周知の如く、夏目漱石は英国ロンドンに2年間文部省の官費で留学する。その2年間の漱石の足跡を辿り、彼がどのように英国での生活を送ったかという点を細かく検証したのが本書であり、立派な英国本なのである。more『前代未聞のイングランド』 ジェレミー・パクスマン

筑摩書房
このコーナーで唯一の英国人の手になる本である。英国人と言うより、イングランド人と言うべきだろう。本書(原題The English: a Portrait of a People)は、連合王国としての英国ではなく、その中のイングランドに焦点を当てまくった本だからである。そういう点でも独特である。確かに、スコットランドやウェールズ、或いは(北)アイルランド、そして英国全体について書かれた本は沢山あるだろうが、イングランドのみに対象を絞った本というのは寡聞にして聞かない。more『ダービー卿のイギリス』 山本雅男

PHP新書
英国競馬の歴史を綴った新書である。色々面白い蘊蓄が語られており、競馬好きにはたまらない。中でも第12代ダービー卿とバンベリー卿とが、後に「ダービー」と呼ばれるレースにどちらの名前を着けるかをコインを投げて決めたというエピソードが面白い。当然、自分の名前を残そうとしたと思いがちだが、事実は全く逆。ダービー卿としては、当時のジョッキークラブ会長のバンベリー卿の名前を使いたいが、バンベリー卿にしてみれば一介の地方競馬のレースなんかに自分の名前を使われてたまるか、という争いだったらしい。この勝負の結果によっては、ひょっとしたら「バンベリー馬」とか「日本バンベリー」とか「クイズバンベリー」になっていたかも知れない。因みに、その第1回のダービーに優勝したダイオメドの馬主はバンベリー卿である。『アフタヌーン・ティの楽しみ』 出口保夫

丸善ライブラリー『ロンドン』 鈴木博之

ちくま新書『イギリス・シンドローム』 林 信吾

KKベストセラーズ『林望のイギリス観察辞典』 林 望

平凡社『イギリス人は「理想」がお好き』 緑ゆう子

紀伊國屋書店『ロンドン A to Z』 小林章夫

丸善ライブラリー『ロンドン―世界の都市の物語』 小池 滋

文春文庫『四季の英国紅茶』 出口保夫

東京書籍『続イギリス四季暦』 出口保夫

東京書籍『こちらロンドン漱石記念館』 恒松郁生

中公文庫『イギリスの芝はなぜ青い』 菊池哲郎

日本評論社『イギリスに暮らすとき』 井形慶子

ミスター・パートナー『戦勝国イギリスへ 日本の言い分』 マークス寿子

中公文庫『イギリス発・私的日本人事情』 渡辺幸一

朝日文庫『英国サブ・カルチャー情報館』

ゑゐ文社『物語イギリス人』 小林章夫

文春新書『イギリス四季暦〈春・夏〉』 出口保夫

東京書籍『イギリスは愉快だ』 林 望

平凡社 『ロンドン・パブ物語』 石原孝哉・市川 仁

丸善ライブラリー『英国式人生のススメ』 入江敦彦

新書y