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中公文庫 |
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本作でも筆者は、10年間住んでいたにも関わらず英国的な価値判断に囚われてはいない。いや、逆にちょろっと滞在しただけの人間の方が、英国の良い面だけを見てしまい、過てる英国観をせっせと日本に輸入しているのかも知れないが。
例えば、「漫画について」というエッセイがある。英国人が出張で日本に来て、著者の妻に「どうして日本のビジネスマンは、あんなにみんなして、電車の中で漫画を読んでるのか。私の国では考えられない」などとほざいたと言うのである。
ここで、英国礼賛派なら、そうだ日本人は大人になっても漫画を読んで情けない、英国では大人が漫画を読んだりしないぞ、などと息巻くのかも知れないが、本書にそういう反応を期待してはいけない。筆者はそこで正しく、ただの1人の手塚治虫も生み出せなかった英国漫画界を哀れむのである。確かに、英国を舞台としていても『MASTERキートン』みたいな作品を英国人が描けるとはあんまり思えない。まして日本を舞台とした英国漫画など、文化考証をしなければならない時点で論外だろう。
さて本文はこう続く。
にも拘わらず、この英国人ビジネスマンに味方するような人が、今の日本には多い。英国で聞きかじってきた、英国流の価値判断でもって、同じ日本人をけなすような手合いである。
そのうち、まとめてシメてやろうと思っている。(p.281)
あと、内容としては、サッチャーとメージャーを比較した稿もあるが、日常の細々した話題も多く、英国を全然知らない人が読むというよりは、ちょっとでも滞在していた人が英国を懐かしむ為に読む方が向いているかも知れない。
【評価】まあまあ。時間が有れば読んでみるのもいい。