英国情報−英国本を読む−英国全般

『イギリスはおいしい』

林 望


文春文庫
 日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した林望氏(音読みして「リンボウ先生」と言うことが多い)のエッセイ第一弾。文春文庫とあるのは私が読んだのが文庫版だったからで、元々の単行本は平成3年に平凡社から出ている。

 いきなり言ってしまうが、この本は、私が「英国情報」の扉ページのところで念押しするように書いてある「英国を褒め称え、翻って日本を貶めるといった類の読み物ではありません」に言うような「英国を褒め称え、翻って日本を貶めるといった類の読み物」の代表格なのである。

 その内容は、リンボウ氏が主に英国ケンブリッジに滞在した時の、料理に関する蘊蓄をあーだこーだ書き綴ったもので、イラストも氏自身の手によるものである。これを読んで、これが英国の全てだと思われても困るなあと思ってしまうぐらい、本書には平和で牧歌的で親切でいい人ばかりが登場する。まあ林氏にとっては、それが英国の全てなのかも知れない。ケンブリッジという特殊な街に住む人々と交わってきた氏のような大学教授(林氏は書誌学が専門の大学教授なのです)には、英国がこのように映ってしまうのかということが読み取れる、おめでたい本。

 まあ、それで終わってくれていればいいのだが、英国はいいよなあという話に続いて、それに引き替え日本は云々、という記述がそこかしこに出てくる。しかもその比較はろくな比較になっていない部分が多くて、どういう感性をしているのか、英国の回し者としか思えないような記述が目立つ。特に、酒が全く飲めないというのに、パブについてぐだぐだ書いてるあたりは、どうしようもなくひどい。ひどすぎる。あまりひどいので、読んで欲しい。氏の言うパブというのが、どうにも田舎の牧歌的なパブのイメージで書かれており、それと日本の赤提灯や大衆居酒屋を比較して、日本の酔っ払いはけしからん的な言説がつらつら続くのである。林氏は、まさかロンドンの猥雑なパブ、サッカーの試合を観ながら、荒れ狂ってる奴らが徘徊しているパブを知らぬとでも言うのか。英国のパブに酔っ払いが居ないとでも言うのか。

 とにかく、どうしたらこうまで英国に肩入れ出来るのか、はっきり言って全く分からない。

【評価】うーむ…。読むな、とまでは言いません。


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