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大和書房 |
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「イギリスのみならずヨーロッパは長い歴史の中で日本に比べゆったりと金をたくわえてきた。その中でチャリティも育った。ところがもともと貧しかった日本は第二次世界大戦後いきなり金持ち国になったんだ。裕福に慣れていない国民がいきなり大金をつかんだら二度と手放せなくなる。金がなくて貧しくみじめだった体験が根本にある日本人は金さえあれば何でも手に入り、何でもまかり通る社会を作ってしまったんだ。他人を蹴落としても自分がのし上がろうとする社会。弱い者はいつも切り捨てられ、誰も他人をかえりみない。だからこそ日本人はいつも空しく人生に深い満足感を得られないのではないか」(p.244)。
繰り返すが、これは英国人の発言として紹介されている。他も大体こんな感じ。
私はこれは著者の全くの創作だと思うことにしている。こんなことを当の日本人に向かって言う英国人の神経が信じられないからなのだが、もし本当だとしたら、それを有り難がっている著者の神経、祖国を面罵されて喜び、更に活字にして流布しようとしている神経の方が信じられなくなる。
そもそも、英国人の口を借りてではなく、言いたいことは自分の言葉で語ったらどうか。英国人の発言で自分の説得力の無さを補わせようとするならば、卑怯な手口である。
とにかく、他にも明らかに矛盾している記述、極端すぎる記述が目を覆わんばかりに頻出する。一体、こいつに思考力はあるのか、と問いたくなる。私も、英国は古いものを大切にする国であり、そういうところは日本も見習った方がいいというぐらいのことは思っている。そういう英国の良い点を客観的に紹介するだけにしておけばいいのに、主観的かつ強引に日本と比較して駄目出しするようなことをするからボロが出まくるのである。自分の国を客観的に語れず、主観的に悪し様に罵るような人間は、結局のところ国際社会では信頼されないのである。
と言うわけで、以下、順番にぶった斬る。
英国人の発言とのことだが、正直言って疑わしい。逆に「英国の1ポンドショップは、店員が怠惰であるため、薄暗くて物が雑に並べられていて、買い物をするのにとっても不便で、買い物客のことを思いやるということがない。」とも言える。別に英国人に向かってこんなことを言おうとは思わないが。
栄養だけで健康は成り立たないことをイギリス人の食生活の一面は示唆している(p.102)
という言葉で締め括る。無茶苦茶な論理である。
更に、食事に関しては、英国人の或る家庭の娘が、甘いものばかり毎日食べて、コーラを1日6本も飲み、しかも歯を磨かないのに、歯は真っ白で綺麗だ、という事例が紹介される(実在するかは相変わらず怪しい)。そして、英国の水道水は弗素を含み、牛乳をよく飲むから、虫歯が少ないという分析が続き、翻って日本は「歯を磨け」「甘い物を食べ過ぎるな」と注意するのに虫歯が多いのは何故か?という問が発せられるが、文中にその答が出てくることはない。結局何が言いたいのかよく分からない、論旨不明の悪文である。
これとて逆に、「英国の親は、子供が甘い物ばかり食べて飲んで、夕食を殆ど食べなくても、虫歯にならないからというので放ったらかしである。日本ではこういうことはなく、甘い物を食べ過ぎるな、食べたら歯を磨け、と親はきちんと注意する。」と書いてもいいよね。
で最後に、
甘味飲料を飲み続けたり、歯磨きを怠ることが正常とは思わないが、私たちの暮らしの中で自然に出来上がった「こうしなければ」「こう悪くなる」という方程式は必ずしも正しいとはいえないのではないか。(p.122)
という結論めいた文が出てくるのみである。「甘い物ばかり食べて歯を磨かなければ」「歯が悪くなる」という方程式を、一人の英国の小娘の例ごときで疑ってかかってどうするというのか。つーか、結局、どうしろと言いたいのか。
更に読み進めていくと、こんな記述にぶつかる。どう折り合いをつけるんだ。
とりわけイギリスの子どもはしつけがいいと、つねづね感じていた。(p.204)
と英国人に言わせておいて、一方では、アイオナ島という果ての島へ渡る船着き場の売店に日本語で「おみやげはこちらで」とあるのを見て一言、
この世の果てまで日本人におみやげはついて回るのだと茫然とした(p.150)
とをどう両立させるのだろう。
というわけで、日本は営業しすぎと言いたいのかも知れないが、日本の大手スーパーと比較するならば英国の大手スーパーと比較すべきである。確かに、英国の個人商店なんかでは午後5時には店が閉まる。では大手スーパーはと言うと、これが結構、24時間営業しているのである。例えば、大手スーパーASDAの或る店舗の例。最初の台詞は「日本に暮らすイギリス人の主婦」のだから、最近の英国事情には疎いのかな(と好意的解釈をしておく)。
日本では3Kと呼ばれ嫌がられる肉体労働を担う外国人就労者に対しても厳しい締め出し政策を貫いてきた。(p.196)
ワークキャンプと比較すべきは日本の農家の在り方だと思うのだが、なんで3K職場の話になるのか分からない。それに、「締め出し政策」というのは、要は不法就労者の話であって、外国人就労者などという一般的な用語で語るべきではない。それに英国だって、ワークパーミット(労働許可証)が無くては働けないのは同じことだろう。
という英国人の発言が紹介されているが、そもそも議論の前提として日英の大学数は全く違うということを本文では紹介すべきではないたろうか。日本が約650校に対して英国は約80校である(これでも結構増えた)。結局、英国では大学は社会エリートを養成するところだから、そんなに多くは必要ないと思われているし、そもそもワーキングクラスは大学に行こうとは考えてもいない。そういう社会的背景には全く本書は触れていない。
更に同じページで、
たとえば神学をオックスブリッジで勉強した生徒が政治家や一流企業の社長になった場合、本物の教養をベースにはるかに高い想像力で新分野を開拓できると言われている。(p.220)
著者の理屈で言えば、神学を勉強した学生は、聖職に就くべきとなる筈なのだが…。
日本では大学の専攻と仕事に関連がなく非現実的であるとこきおろしておきながら、同じページでこういうことを言ってしまうということは、要は言いたいことが何もないから、その時々で教訓めいたことを言ってるだけだ、ということがここからも窺える。論理破綻はここだけじゃないけど。
ロンドンと比較するならば東京であり、東京の中心部には日比谷公園や浜離宮庭園という巨大な公園がある。勿論、ハイドパークの方が自然に親しめるし、芝生が広がっていて楽しいが、いきなり日本の公園は砂場にすべり台だけという比較は暴論では。
「イギリスのモーターウェイには日本のように方々に表示板を設置していない。ドライバーは気象状況に応じて自分の判断でスピードを調整するからだ。」(p.249)
とあるが、これは表示板がないから自分の判断でスピードを調整せざるを得ない、と解釈する方が自然だと思うのだがどうだろう。そもそも、速度規制を表示するシステムを構築する前に、英国の高速道路は街灯を設置すべきである。ロンドン近郊以外では高速道路に照明がないところが多く、反射板も小さいので道路がどこなのか夜になると見えないのである。大雨の中、真っ暗な高速道路を走った時は命懸けだったが、その時、私は自分の判断でスピードを調整した。
とあるが、英国では"Centre"と綴る。40回以上も渡英しといて、そんなことも知らんのか。
「イギリスの法律はオーナーより賃貸人に有利に作られている。」(p.70)
日本の借地借家法を読んで下さい。あと「賃貸人」とは貸してる人だから「オーナー」と同じ意味である。正しくは「賃借人」。そんなことも知らんのか。
「たとえば、日本の年賀状についているお年玉はあくまで年賀状を購入した個人に景品が当たるだけ。『得した』と一瞬喜ぶが寄付にはつながらない。」(p.246)
年賀状のお年玉は貰った人に当たるものです(送らなければ買った人だが)。それに、寄付金付きの年賀はがきも発売されていて、それは各種団体に寄付されている。そんなことも知らんのか(参考)。
「…塾に行けば学校の定期テストや入試で良い成績が取れる。逆に行かない子どもたちは出題傾向をはずしてしまう。これでは不公平だよ。」(p.214)
【評価】寝てた方がまし。