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『英国ありのまま』

林 信吾


中公文庫
 林信吾氏は、英国に10年間滞在し、日本語新聞の編集長も務めたジャーナリストである。著者は、同じ名字の書誌学者氏のように上流階級中心社会にいた訳でもなく、バランスの取れた英国観察に基づいた記述なんではないかと思う。本書では、ビザから始まって、食事や英語、気候、テロ、王室等について綴っている。その文体は非常に柔らかくて読みやすく、価値観を押し付けるようなところがないので、お気軽に読める。

 私としては、英語について書かれた部分に共感する部分が多かったので、少し紹介したい。「英語はやっぱり楽じゃない(2)」と題した章には以下のような記述がある。宮澤元首相の英語力は「エクセレント」だったが、話の内容は少しも面白くなかったと、という英国人ジャーナリストの談を紹介した後の続きである。

 白人でも黒人でも、別に何国人でもよいが、
「よォ、シンゴ、ナンパ行こうぜ、ナンパ。シブカジでバリバリでよォ」
 などと話しかけてきたりしたら、私なら、
「尊皇攘夷!」
 と叫ぶなり、一刀のもとに斬り捨てる……わけにはまさか行かないけれども、アホかこいつは、と呆れてしまい、それ以上相手にしないことは請け合いである。(p.102)

 そうなんですよね。ここで筆者は、英語の発音がいくら良くても、要は話の内容が大事だということを強調している。どうもそこんところがまだ日本でも十分浸透していないと私も思う。英語はもはや受容だけでなく発信の為に用いられなければならないのであるし、発音などある程度通じる水準に達すれば、あとは話の中身の方が大事である。

英語圏で生まれて育ちさえすれば、アホでもガキでも英語は喋るのである。この当たり前の事実を、日本人が当たり前に認識するように、早くなって欲しいと思う。(p.104)

 たまにテレビを見ていて、無教養そうな英語話者がちゃんと動詞に三単現のsを付けて喋っているのを聞くとき、ああやっぱり英語なんて学問じゃねえよなと思うのである。

 その他、泥棒に入られた記述や、田原総一朗氏の取材のコーディネートをしたエピソードなんかも入ってます。

【評価】なかなか面白い。お奨め。


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