「アヤ大尉に迷惑かけるなよ」
「あのなぁ、ガキじゃねえんだからさぁ」
「オマエの場合はやりかねないから言ってるんだ!!!」
出発前だと言うのに二人は喧嘩する。
「ライ。出発の時間よ。リュウ、私たちは見送りに来たのよ?」
二人と、それを咎めた私。
その3人を見て、ラトゥーニとカイ少佐は苦笑いを浮かべた。
「行っちゃったな」
リュウがぼそりと飛び立ったタウンゼントフェスラーを見て言う。
一人かけたSRXチーム。
伊豆基地に残る私とリュウ。
ハワイのヒッカム基地へと向かったライ。
どこか寂しいのは、いろんな事を3人で乗り越えたからだろう。
発足当時からリュウとライは仲があまり良くなくって、どうやってまとめていこうと本当に悩んだこともあったけれど。
L5戦役の最後にはちゃんと仲間意識が芽生えてホッとした。
………イングラム少佐が裏切ったことがきっかけだとしても。
それでも、私たちは機体から降りることも軍を辞めることもしなかった。
「リュウ、少し散歩しない?」
いつまでも上を見上げているリュウに私は声をかける。
「いいけど、どこにだ?」
「基地内だけど一応海岸もあることだし」
と基地内にある空港から海岸を指さす。
伊豆基地は海岸に沿ってあるために綺麗な砂浜も残っている。
軍人達の訓練にも使われている砂浜だ。
「まぁ、たまにはいいか」
「でしょ?」
浜辺まではそう距離はなくでも波止場ですこし休憩。
「ライがさぁ一人勝ちだぜ?悔しいったらないよなぁ」
以前、リュウとライとマサキの3人で釣りをしたときの事をリュウは面白可笑しく話してくれる。
「釣りかぁやってみたことないのよね」
「そうか?じゃあ後でやってみる?」
「教えてくれる?」
「あぁ、いっぱい釣って皆の事驚かそうぜ」
「そうね」
風に吹かれて浜辺までやってくる。
「お母様のお元気?」
地球に戻ってきて少し経った後、私はリュウに一時帰宅の許可をだした。
リュウは母一人子一人の親子なのだ。
「あぁ、元気だったぜ。ありがとな、アヤ」
「んん、お礼なんて必要ないわ」
リュウの言葉に私はそう言った。
彼が母親思いなのは私はしってるから。
「皆に会ってみたいなんて言ってたな。皆連れてこいって…無理か」
「……そんなことないわ。今は非常事態じゃないから、休みが取れれば逢いに行ける。休みが取れればだけどね」
「そっか…じゃあ休みが取れたらアヤ、一緒に行こう?」
「え?」
リュウの言葉に驚く。
深い、意味は、ないのよね。
リュウの事だもん。
「アヤ?」
「え、あぁ。そうね、私で良ければ行かせていただくわ」
「当たり前だろ。アヤは俺たちSRXチームのリーダーなんだからさ」
笑って答えてリュウは先を歩く。
リュウは私よりも念動力が高くて、そのリュウの言葉は皆に勇気を与えてくれる。
私をリーダーって言ってくれるけれど…、ちゃんとリーダーになれてるのかしら。
今でも少しだけ不安。
「アヤ?どうしたんだよ」
「ん?別に何でもないわ」
「何でもないって顔してねぇぞ」
そんなに落ち込んでるような、元気のない様な、いつもの表情をしてないのかしら…。
「うん、ちょっとね。…リュウだけだから、言っちゃおうかな」
少しだけ、弱音吐いてもいい?
「なんだ?」
「今、リーダーなんだからって言ったじゃない。私、ちゃんとリーダーやってる?」
「何を言い出すかと思えば」
「結構深刻なのよ」
「アヤが居なかったら、絶対オレ、ライと仲良くなんかならなかったぜ?自信あるね」
そんなところで自信持たなくても…。
「アヤはちゃんとリーダーだよ。アヤが居るからちゃんとSRXチームって言うのが出来てる。アヤが居なかったら無理だろ?オレとライ」
苦笑いを浮かべてリュウは言う。
言われてみれば、ヒッカム基地出向の面々の出発前、いつものように始まったリュウとライの他愛もない喧嘩を止めたのは私だったっけ?
「な?心配することないって。アヤがリーダーじゃなかったらオレやだしな」
「もう、おだてたって何も出ないわよ」
「え?マジかよ」
「期待しない」
「ちぇ〜」
リュウは子供っぽさが抜けきらない表情を見せる。
それをみて少しだけホッとする。
どうしてホッとしたのか分からないけれど。
「リュウ、そろそろ戻る?」
「そう、だな」
基地内にある宿舎へと向かう私たち。
傾きかけた太陽がいつものように伊豆基地を照らしていた。
この話ただし、唯一の欠点が。伊豆基地に浜辺が存在すること。