夏。
事件だ推理だ工藤だと奔走するのには季節は全く関係ない。
けど。
せやけど………。
なんやろな。今年の夏は。
去年と同じはずだというのに、同じじゃない。
改方学園内にある武道館で今は剣道部が貸し切って稽古中。
1学期体育会系部の目標はインターハイ出場だ。
それが叶い目下猛稽古中。
剣道部主将であるオレももちろんその稽古には参加している。
事件にうつつを抜かしたオレにとうとう雷が落ちた。
もちろんオカンとオトンの二人にや。
部活、勉強これを両立させられるのなら、『探偵ごっこ』してもいいと。
探偵ごっこという言葉は気にくわないけれど、それでも事件が解決出来ればそれはそれで良し。
なのでオレは事件の片手間に勉強をし、部活もやっていたのだが。
インターハイ出場決定ということをどうやら和葉が言ったらしいのだ。
なんであいつは余計なことばっかり言うんや。
和葉はどちらかというとって言うか、間違いなくオレが事件に行くことを反対する。
心配すんな言うてもや。
ぎょうさんあるお守りがそれを物語ってる。
ともかく、オレは目下稽古中。
そしてそれを見張る和葉。
ちなみに、一人居残って素振りの練習中やったりする。
和葉はこの一年で変わった。
どう変わったと説明していいかよう分からん。
せやけど、変わったとしか言いようがない。
まず、言い寄る男が増えた。
ナンパしてくる男が増えた。
全部撃退してるのはオレや。
クラスメートが言う。
「遠山、綺麗になったと違う?」
と。
「そんなん知るか」
とか。
「そんなわけないやろ」
とか言うても皆信じてくれへん。
「小さい頃から兄妹(姉弟)みたいな者やったんやで?今更綺麗になったとか思わんやろ?」
そう言っても信じてくれない。
「それは幼なじみだからそう思うだけ」
とかわされる。
幼なじみって得やなとか不利やとか思うたことがない。
工藤は時々うなってるけど。
「平次、足がおろそかになっとるよ。ちゃんと足使わんと」
「オマエに剣道の何が分かる」
「武道の何かは分かるで。アタシかて武道ぐらい心得とるし」
そう和葉は言う。
和葉は逮捕術をおもしろがって習ってる。
合気道もちょっとずつかじってるらしい。
かじってるぐらいを心得っていうか?
「平次、何考えとるん?さっき静かやったけど、今はなんかうるさい」
感覚的に和葉は何かを感じたと言うのだろうか。
さっきまで無心に竹刀を振っていた。
けど今は雑念で振ってる気がする。
これもそれも和葉のせいや。
「……オマエに言われたないわ」
「どういう意味なん。それ」
和葉が少し怒る。
………八つ当たりや完全に。
雑念が入り始めたのは多分和葉の事を考えるようになってしまったからだろう。
オレとしたことが情けないわ…。
「………オマエの言うとおり。集中力が切れたっちゅーことや。今日は仕舞いや」
「お疲れ様」
そう言って和葉はタオルをくれる。
その行為がどこか照れくさい。
けど、嬉しいのはそれも照れくさいわ…。
「和葉」
「何?」
「何かアイスでもおごったるわ」
夏。
部活で明け暮れそうな気がするけど。
すぐに受験勉強だって来そうな気がするけど。
何かを変えようなんてそんなこと思った。
歌聴きながらだと不満になるのかな?
平和の夏休み。