私は、ここにいる。
今までの世界と違う世界。
私は、もう元の世界には戻れない。
「カリィ、ここへ」
アシュレイが私を呼ぶ。
「何故オマエの所に行かなくちゃならないんだ!!」
納得できない私は、離れたところからアシュレイに言う。
「言ったはずだ。カリィはオレの眷属(注:一族郎党、配下)になったのだから」
眷属になった…その意味がよく分からない。
「全く、話したって言うのにもう君は忘れてしまったというのか」
そうアシュレイは言う。
アシュレイはこの世界の王。
この世界の主。
元の世界からすれば彼は神と呼ばれる域に居るのかも知れない。
そんな奴の眷属?
どうして私が。
これでも私は古より続く魔法国家ランデールの王女だぞ?
それなのに、何故得体の知れないアシュレイの眷属にならなくちゃならない!!
「全く、君は強情だ」
呆れたようにアシュレイはため息をついて、軽く指をならす。
すると、私の体は糸を巻かれたように彼の側に行ってしまう。
そして、アシュレイの腕に抱かれてしまった。
「だから言ったはずだ。君はオレの眷属なのだと」
「オマエは私をどうしたいんだ!!」
この男の考えていることが分からない。
どうして、この男はこんなことをするのか。
この男は何をしたいのか。
「答えろ、アシュレイ・ゼブル!!」
私はアシュレイに問い詰める。
わたしがここに来てから数日、私はこの男に翻弄されている。
その理由が知りたいのだ。
「ただ単純。君に側にいて欲しいから」
私の声の強さに、彼は何かを思ったのか答える。
もちろん、その答えは私が欲しいものでもなかった。
「訳が分からない!私がオマエの側にいると言うことに、オマエに何のメリットがあるって言うんだ!!」
私には何もない。
国にいない私は何の価値もない。
ランデールの王女だと虚勢を張ったとしても、国内にいるから通じる言葉だ。
「本当にそれだけだよ。メリットとかデメリットとかそう言う意味で君にいて欲しいんじゃない」
私がここにいる意味も知らぬと言うのにか?
「君がここにいる理由はオレが作る。側にいて欲しいからオレは君を眷属にした。この世界ではそうしないと君を守れないから」
と、寂しそうな声でアシュレイは言う。
「アシュレイ、オマエは寂しいのか?イルヴィスがフレイアを作ったように…」
そう思った。
河原で、私は人形のような私と同じ年の少女、ワインレッドの髪と瞳をもった少女にあった。
彼女はフレイアと名乗り、イルヴィスが作った人形だと称した。
イルヴィスは寂しくてフレイアを作ったと。
真意は知らない。
イルヴィスとは2度しかまだ逢ってない。
だいたい、そこまで聞けない。
「寂しい…そうかも知れない。ここは暗くて寂しい。君が居た世界は明るくて生命の光にあふれている。正直うらやましい。それでも、オレはここにいなくちゃならない。済まない、カリィ」
アシュレイの心に触れたような気がした。
「カリィを見たとき、君だと思った。君こそオレの側にいてくれる人だと」
アシュレイは私の髪にふれながら言う。
「お、オマエなぁ、そんなこと言うな!!!」
仕草と言葉に私はどうして良いか判らなくなる。
「ここにいて、カリィ」
「…………しょうがないから、居てやる」
そう呟いたのは寂しそうなエメラルドグリーンの瞳に惹かれたせいなのかも知れない。
アシュレイの隣に寝転がりながらそんなことを思う。
まだ、体は自由になってないような気がしないでもないが。
「それに、ここに呼んだのは他でもないんだ。カリィがつまらなくないように、寝入りに話を聞かせてあげようと思ったんだが…」
髪を柔らかくなでながらアシュレイは言う。
知らないのか?
なでられたら眠くなることを。
「話?」
「そう、おとぎ話」
「昔話でそんな話を読んだぞ。王に話を聞かせる妃の話だ」
霞がかかる記憶の奥にそんなものを引っ張り出す。
「似てるかもね」
そう言って笑ったアシュレイの顔はとても楽しそうだった。
私の心の中ではあるけど。
なんか、これで『冥府王の恋人』の序章が出来た感じ?
ちなみにっていうか、ミアの恋バナはこの『冥府王の恋人』の一部になります。