「ロシュオール、カイン将軍が呼んでる」
この国の巫女ラティアが外に出て遠くを眺めていたロシュオールに声を掛ける。
「ありがとう、ラティア」
「ロシュオール」
「何?」
戻ろうとするロシュオールをラティアが呼び止める。
「………。何でもない」
そう言うラティアの様子に首をかしげながらもう一度遠くを見て中に入る。
「………時は近い。ゲイルシュトロスが戻ってくる……」
そう、ラティアは呟きロシュオールの後を追った。
「巫女、どうかなさったのですか?」
バルコニーで遙か彼方を見つめるミアに、近頃従騎士になったばかりのランディール・ハイリゲンが話し掛ける。
「ラン、貴方にも迷惑を掛けるわね。私がもう一人の従騎士を決めないばかりに、正従騎士である貴方に負担がかかってる」
「いえ、自分はまだまだです。そう言う重責を負っているのは巫女の方ではありませんか?神官からもう一人の従騎士を決めろと言われておられるところを、失礼ではありましたが目撃いたしましたので」
「あのときはまだ時期じゃなかったのよ」
ミアは遙か遠くを見つめながら言う。
「ヴェクレイ殿やイスフィア殿もおっしゃっておられましたが。その時期とはどういうものでしょうか」
「もう一人の従騎士がまだここに来る時じゃないだけ」
そう言ってミアは柔らかく吹く風を浴びる。
「風はまだ吹かないの。あの国の力はまだ動かない…。ラン、ハーシャを知ってるわね」
「はい。ハーシャはベラヌールより南に位置する国ですから」
「あの国の王の選定方法を知っていて?」
「選定ですか?世襲ではなかったので」
「違うわ。世襲ではあるけれど、世襲ではない」
ミアの言葉にランディールは首をかしげる。
「どういう意味で…」
強い風が吹く。
長い髪を押さえるランディールに対しミアはそのまま風を受ける。
「ミア」
低い女性の声がランディールとミアの耳に入る。
「なぁに?イスフィア姉さん」
「ハーシャでクーデターが起きるらしいわ。神官が全員見てる。後は、貴女が見るだけよ」
姉であるイスフィアの言葉にミアはうなずく。
神官が見たというのは神託が降りたと言うこと。
神託はゴルドバの神官全てが聞くことが出来るがはっきりとは聞くことが出来ない。
だが、唯一の巫女であるミアは違う。
「もう、見えてるわ」
彼女は神の声を聞き、神の見る景色を見、そして先を見る事が出来るのだ。
「一人で行くつもりか」
ミアの言葉が終わらないうちにイスフィアと共にやってきたミアの兄であるヴェクレイが遮る。
「あの森にも用があるのだし、その方が便利だから。ハーシャではゲイルシュトロスを出現させなくちゃならないし」
「ミア、あの森にしろ、クーデターが起こった国に行くにしろ、一人では危険だ」
あくまでも冷静にヴェクレイは言う。
「大丈夫。心配する必要はないわ。帰りはボディーガードを雇うから」
といたずらっ子のようにミアは微笑む。
「へ?行くって、巫女、ハーシャに何故、行くんです?クーデターが起こった国は危険だ。あの国の王は斬首王。それを分かっていくおつもりですか?」
急な展開についてこれなかったランディールがあわてて言う。
「行く理由は斬首王はこのクーデターで死ぬから。王が死ぬと言うことは国が滅びると言うこと同意よ。そうならないために私があの国で王を選定するの」
「まさか、『ゲイルシュトロス』によってですか?」
「その通りよ。やっぱり、元ベラヌールの聖騎士団団長だけはあるわね。それにね、あそこにいるの」
ミアは柔らかく吹く風を浴びながら言う。
「居る?」
「そう、居るの。もう一人が…」
ミアは遠くまで透き通る青空を見つめどこまでも吹く風を感じながら言う。
「さっき言ったでしょ。あのときは時期じゃなかった。でも、もう違う。時期が来てるの」
「従騎士か?」
ヴェクレイの言葉にミアはうなずく。
「クーデターは終わる。斬首王の死という形で。そしてあの国は新たな王が建つ。賢王と呼ばれた六聖王の一人ミリオン11世の再来と呼ばれ…。そして彼はその前に国を立つ。彼の道はここに続いている。彼の道はあの国に無いことを知って彼はここに通ずる道を歩き始めるの……」
「その前に逢ってみたいと言うのね」
イスフィアの言葉にミアはうなずく。
神官が見えなかった絵が、聞こえなかった音がミアになら見えている。
その『従騎士』となるはずの男の姿もミアには見えている。
彼が何をしてどういういきさつでゴルドバに来るのかをミアには分かっているのだ。
「だったら、行きなさい。私たちは巫女の言うことに反対は出来ないわ」
「ごめんなさい。姉さん、兄さん」
ミアはイスフィアの言葉にうなずき兄と姉二人に謝る。
ランディールはまだ納得できていないままミアを見ている。
「あなたが何を言いたいか分かってるわ。でも、分かって欲しいの」
「えぇ、納得は出来ませんが、理解はしました。出来うるならば、その従騎士候補の人間は腕が立つ人間でないと困りますね」
「大丈夫よ、彼は」
全てを知るミアはにっこりと微笑む。
風が神殿内に吹き渡る。
「ロシュオール・ダルハート。貴方は貴方の思うままに道を進みなさい。途中何が起きても、貴方の思うままに」
「宜しくね、ロシュオール」
「ロシュでいいよ。ミア」
「じゃあ、宜しく、ロシュ」
イントロ書いてないの気がつかなかったので、加筆。
イントロはハーシャでのお話。
ラティアとロシュオールの会話。
ヴェクレイと、イスフィア、ラティアは本編には出てきません。
そのことはまた後に。 ちなみに、キャスティングはヴェクレイは古澤徹さん、イスフィアは田中敦子さん、ラティアは平井理子さんです。
もっとついでに、ミアは冬馬由美さん、ランは置鮎龍太郎さん、ロシュは三木眞一郎さんです。