闇。
深淵。
その深い闇は、自分をいつか取り込むのだろうか。
「…私が行かなくちゃいけないのか!!!」
「キミはオレの眷属だから」
「そう簡単に言うな!!!」
「コレがおそらくきっかけ。キミに頼みたい」
「分かった」
闇を纏う男にそう懇願された光を包む彼女は鏡に映るその男に目を向ける。
魔法陣に向かって苦悩する男。
その場所は彼女にとって見慣れた場所か、それを思って彼女は首をかしげる。
男はその闇の奥を知らない。
「お前が呼んだのは私か?」
黒髪に小豆色瞳を持つ青年の目の前に金色の髪の少女が現れる。
死神を呼んだはずなのだが、彼の目の前にあるのは死神には思えない程、その青い目は精気に満ちあふれていた。
「……あなたは、死神ルーザか?」
青年は確認するかのように少女に問い掛ける。
「確かに、私はルーザという名を持つ。死神かどうかは分からない。何故私を呼ぶ」
「私は一人の男を滅ぼしたい」
「死神が人の死に手を貸せと?」
ルーザはバカにしたように言う。
なぜならば死神は人の死を決めるのではない、ただ死に際に現れるだけだ。
「……アレの力は強大で死神の力を借りるしかできない」
「その男の名は?」
ルーザは青年に問い掛ける。
闇を纏う男にそう問い掛けるよう言い含められていたからだ。
「ピエヌ・シャハガール」
「名は聞いたことある。狂皇、という二つ名があったな。魔族にその身を堕としたベラヌール聖道教国の法皇候補だった男」
ルーザはそう言いながら何かを思い出しかけたがそれは消えることとなる。
「契約は?何を望む」
闇を纏う男がルーザの背後に現れたからだ。
「お前が出てくることはなかったんじゃ」
ルーザは背後の男を見て驚く。
闇を纏う男が人界に出てくることはほとんど無いからだ。
青年は男を見て驚く。
「全てを闇に纏う、緑の瞳の男……。まさか、冥府王ダーウィン……?」
「ほぉ、一目見ただけでオレを冥府王と見抜く奴がいるとは思いもしなかった。ゴルドバの3人以外分からないと思ったが。確かにオレは冥府王ゼブル・ダーウィン。お前の名前は、ウルム・シュバイクで構わないか?」
「構わない」
ダーウィンの問いに青年…ウルム・シュバイクはうなずく。
「お前の望みはピエヌ・シャハガールを滅ぼすことと聞いた。その気持ちに迷いはないか?」
「ない……」
「何があっても構わないか?」
「構わない。それで、ピエヌ・シャハガールを滅ぼすことができるのなら」
ダーウィンはウルム・シュバイクの答に考え結論を出す。
「良いだろう。ただし、1つだけ問題がある」
「問題?」
「そう、滅ぼすことは簡単だが問題は奴の大量の魔力だ。滅ぼしたところで簡単に消えない。単純に殺したとしてその死骸を他の魔族が吸収し、そいつが新たに力を得る可能性がある。おそらく第二の奴として行動するだろう」
ダーウィンはピエヌ・シャハガールの今後が見えるように言う。
「ならば、どうすれば」
「あの男を瀕死の状態に落とし、オレを呼ぶ。そうしてその奴の力をお前に移動させる。そうすれば奴は滅ぶ。問題は大量の魔力を吸収したお前だ。発狂する可能性がある。まぁ、ルーザを呼ぶことができたのならそんな事はないだろうが。それでも構わないか?」
最後の確認の様にダーウィンはウルム・シュバイクに問い掛ける。
「構わない。でも瀕死の状態に陥れるにはどうすればいい。奴の魔力防御は強力で並みの呪文は太刀打ちできないだろう」
「簡単だ、魔力を打ち消してしまえばいい。奴は今、ラルドエードに攻め入る計画を立てている」
「ラルドエード?エルフ神族の王国?何のために」
ウルム・シュバイクはピエヌ・シャハガールがラルドエードに攻め入る理由が分からない。
「簡単だ、エルフ神族は世界を守る剣。エルフ神族を滅ぼしてしまえば世界の盾だけになる。これがどういう状態だか分かるか?」
そうダーウィンに言われウルム・シュバイクは気付く。
魔族から世界を守るための魔族を滅ぼす役目を追ったエルフ神族が滅びれば盾だけになる。
ゴルドバは最後の聖地と言われているが盾の3人だけでは世界は守りきれない。
世界は魔族に蹂躙され人々は次々と滅んでいく。
「……魔族の世界になる……」
「その通り。エルフ神族が世界の剣と言う理由を教えよう。あの国には決定的な対抗手段があるんだ。どんな物にも負けない決定的な手段が。ソレを使えばあの男を瀕死の状態に陥れることが可能だ。最後の決断だ。ウルム・シュバイク。オレはお前に茨の道を歩ませようとしている。それでも構わないか?」
「……私は、既に死んだも同然。生き残ったのは生まれた国を滅ぼした男を滅ぼすために勝手に選ばれたようなものだと思っている。だから、それでも構わない」
そう言ったウルム・シュバイクはただその為だけに生きているのだとダーウィンは気付く。
「良いだろう。たった1つの手段を教えよう……。そして、お前に、耐えうるだけの力の覚醒めを……」
そうダーウィンはウルム・シュバイクに手をかざし呪文を唱えた。
闇の世界で鏡をのぞき込む。
「さて彼はどう選択するか。どう思う?」
「願わくば、彼の未来に光があらんことを……。闇に包まれた彼に手を伸ばす者があらんことを」
「キミが祈るなら、彼は救われるかもしれないね、カリィ」
「何故だ?」
「それは、また後で。キミは……知らない方が良いかもしれないけれど……」
赤の瞳に青みがからせた青年の歩いていく姿を鏡に映しながらアシュレイは呟く。
その隣でカリィは青年の為にただ祈りを捧げていた。
シュウの人生は結構、過酷です。本編でも言ってるとおり、平凡な生活から一転したんですから。
でも今(本編中)はシェリーとゼンがいるから救われてるんだと思うな。
二人の存在は大きいと思います。うん。 ゼンは当たり前なんだけど、特にシェリーね。
シュウの王国時代編も書いてみようかな……。登場人物どうしよだけどね。
それからちょこっと修正しました。
ベラヌールの唯一の汚点の文章を削除。
消し去りたい汚点はもう一つあったことをうっかり忘れてました。
その事はまた後で………。