「世界が悲しみに包まれたとしても、キミはそれでも何とかするんだろうな」
「何とか出来る力なんてあたしにはないわ。あたしが出来るのは友達や好きなヒトを助けることだけ」
「いつか、キミに死が訪れたら…キミは何を考える?」
「あたしの先は見えているの。あたしは自ら命を絶つ。そうしないとダメなんだもん」
「何故……」
「世界を救うため。なんて言えたらカッコいいわよね。そうじゃなくって友達を助けたいから」
「助けるために命を絶つなんてばかげてる」
「そうかもしれない。でもそれがあたしには必要」
「それは彼の姫の最後の言葉……」
闇色の男は目の前にいるエルフにそう告げる。
「知っている……」
「彼女は何故命を絶ったか知りたい?」
「………彼女は友人を救うためだと言った。ばかげているとその時は答えた。でもそれはとても彼女らしい……」
闇色の男にエルフはそううつむき答える。
「キミがオレを畏れるとは思わなかった」
「畏れてはいない……。ただ、奥底をのぞかれたくはないだけだ。お前はオレの奥底をのぞく」
栗色の髪にタンザナイトブルーの瞳を持つエルフの男はエルフ神族だと闇色の男は知っていた。
古い仲だ。
もっとも彼と彼等は同種のモノではない。
彼が知る以上に彼は彼等の事を知っていた。
「彼女に会いたいと願うか?」
「さぁ、オレはそれを望む立場にない。彼女はどうだろうな………。彼女は今はドコにいるのだろうか……。彼の国にある彼女の墓に参りたいとも思うが……。あいにくそんな事が容易に出来る身分ではないんでな。そんなことしたらクゼルが調子にのって放浪を始める」
エルフ神族の男はそう言って友の名をだす。
「彼女の魂はさてドコにあるのか」
「お前が知っているとでも?」
「一応それなりの力を持つ」
闇色の男は手をエルフ神族の男に見せる。
「お前の願いは昔と変わらない。因果な運命だな。お前は長い時を生き彼女は必ずヒトとしての一生を終える。お前と彼女の時間が重なるのはたかだか数十年。それを永遠と繰り返す」
風のながれる方を見るエルフ神族の男に闇色の男は哀れみの瞳を向ける。
「選択肢を与えよう。彼女の魂をお前と同じにする方を」
「やめてくれ。オレは…」
「一人でも大丈夫だと?仲間がいればそれで構わないと?それは自己満足だ」
「だが彼女の魂をオレと同じにすることも自己満足に過ぎない」
「…… それは正しい。だが願うモノは願うぞ?同じでありたいと。ほぼ永遠に近い時を生きるエルフ神族とたかだか数十年、長くて100年余りの生しか持たないヒト。彼女は必ずお前に会うぞ?今までと同じように……200年、廻り廻るにはもう適した時間だ。……彼の姫の犯した罪……自害を既に浄化されている」
闇の男はエルフ神族の男に一つの宝石を渡す。
「………コレは……」
淡く光る宝石。
その姿はダイアモンドにも似ている。
「彼女の魂を探す宝石。というよりも、彼女はこの石を探してこの国に来る。この石は彼女の魂の片割れ」
「 …………」
その石を見つめるアルマ。
光の加減では青みがかかるその石。
「出会うかはお前次第だ。アルマ」
「礼を言っておく。ありがとう、冥府王ダーウィン」
何かを吹っ切った様な表情をだしたアルマにダーウィンは満足がいったのかその場から立ち去る。
「お前はそれで良いのさ。ファイル……。お前をこの名で呼ぶのは久方ぶりかな?」
その身を冥き場所に移したダーウィンはアルマの姿を鏡に映してそう呟く。
「この男は……確かエルフ神族、アルマ・レコリュナ」
その鏡をのぞき込んだカリィはそう思い出すように言う。
「そう、逢ったことは?」
「母上……女王陛下に謁見の時に顔を見たぐらいだ」
どこか寂しそうにカリィは言う。
「久しぶりに昔々の話をしようか」
「いつの頃だ?」
「かなり昔の話。導かれしモノと導くモノの話。光の勇者と呼ばれたファイルと彼に付き従っていた…というか彼の側にいたソアラという女性の話……」
ダーウィンはその話を紡ぎ始める。
まるで今、見てきたかのように……。
本編が終わった後の話です。 ダーウィンが最後に呟いたのは前に書いたリーとロンの頃の時代。