「…ワール・ワーズに…言わなくても良いんですか？」
　そう言ったら、主人は苦笑いを浮かべた。 「結局、ラテス様はワール・ワーズに何も言わずに行かせちゃったわけ？」
　目の前の金髪のクォートエルフはそう言う。
　彼女はクロンメルのお目付役でカレン。
「…そうみたい」
「そうみたいって、シェラ。それで良いの？」
「っていうか、カレンも同じじゃない」
「そうだけど…」
　カレンの言葉を止めて、あたしはテラスに出る。
　ここは、ラプテフのカイサリー島。
　古代裁きの神ニスク様が眠り、現代海の神ラテス様が支配する島。
　あたしは、ラテス様の神官なんだから仕方ないじゃない。
　マレイグに何も言えないわよ。
　責められたって仕方ないわ。
「ま、海の神ラテス様も大変だって言うのはわかってるけど。…でもさぁ、やり方あると思わない？仮にもクロンはセリア様の神官なのよっ」
　カレンの物言いにあたしは笑ってしまった。
「結局カレンが言いたいところってそこだよね」
「……………………シェラ、あんた人のこと言える？」
　そのカレンの言葉にあたしは思わず詰まる。
　…そうよね、あたしもカレンの事言えないわよね。
「………心配だもん…。月の迷宮なんて…『フラウの鏡』の安置場所なんて…迷宮の一番奥だもん。エルフなら皆知ってるもん。ハーフだってクォートだって…」
　ワール・ワーズはトマスビル大陸のアルタミラの湖にほど近い『月の迷宮』に『フラウの鏡』取りに行ってる。
　そこは、古代月の女神ミディアが作った遊び場。
　ミディア様がおもしろがっていろんな『モノ』放っちゃった所だから危険極まりない所。
　ワール・ワーズはそこに行っちゃったのよ。
　無事…かな、マレイグ。
「大丈夫じゃない？見てよ、上。結構星がきれいよ」
「それ今関係ある？」
　そう言いながらカレンの言葉通りに夜空を見上げる。
　天鵞絨の布にビーズをちりばめた様な夜空。
「きっとね、チェスの事だからこの夜空見ながら『大丈夫、何とかなるよ』とか言ってるのよ」
　カレンはチェスターの口調をまねる。
「それ聞いてマレイグとクロンは笑ってるのね」
「そうそう」
　そう考えたらなんだか楽しくなってきた。
「無事に帰ってくるわよ。そして苦労話を笑い話に替えるのがあの人達なんだから」
「大変だったよっていうマレイグとチェスに」
「クロンがツッコミ入れるのよ」
　カレンのその言葉であたし達はその状況がありありと思い浮かんで爆笑してしまった。
「あぁもう、笑わせないでよ、カレン！！」
「笑ってたらきっと明日か明後日あたり帰ってくるわよ。時間そんなにかけられないんだから」
　カレンの言葉にうなずいてあたしは降りしきる星を見つめる。
　心配してるから、ちゃんと思ってるから。
　気持ちだけは、あなたのそばにあるように…。