「大切なティナ」
眠るキミは何とも愛おしいんだろう。
この腕にいるとはまるで夢の様だ。
彼は誰だろう。
ティナの隣にいる彼は。
今までそんな人物見たこともなかった。
彼女はティナ・アリス・ミッシーナ。
いつも僕は共にいる。
はずなのに。
彼女の隣にいる男は誰だろう。
刀を帯刀している人間なんてラプテフではそうは居ない。
あの男は誰?
どうして僕のティナに触れるの?
だから、許せないんだ。
あの男から僕のティナを取り戻す。
大切な大切な女の子。
僕を助けてくれた僕の女神。
あの男は悪魔に等しい。
「……お前、オレを怒らすなよ」
リランがそいつに向かって刀を向ける。
勝手に持ち出した刀、朔月。
コレはトーニック専用の武器の1つでリランが使用している。
「ん〜、ティナもとんでもない奴に目を付けられたよな」
そう軽口叩けば睨まれた。
「睨まないでよ、リラン。こう言えばリランの気も紛れるかな……って。ごめん。陽炎使って探すよ」
オレが使う陽炎であたりを探る。
隠密部隊でもあるアースガルドの人間であるオレにとって陽炎はとても相応しい。
「見つけた。どうする?」
そう視線を向ければリランは奴にしっかりと目を向けてる。
ティナがいる場所はココではない。
奴に人質として囚われてる訳じゃない。
「アースガルドの人間かそれか、センター達に行ってもらう?」
「俺の手で決着つける」
そう言うと思った。
リランはティナに関してある種の負い目も持っているんだと思う。
だからこそココまでティナを誘拐した目の前の……もう既に人ではない奴に怒りを感じているのだろう。
奴は元は人だった。
姉さんの話だと近所に住む青年だったか。
ティナとは何度か話をする間柄だったという。
彼がティナに恋心と呼ばれる物を抱いてもおかしくはない。
それはあまりにも憧れという言葉でしかくくることは出来ないけれども。
彼はソレを本当の物だと自分の中で解釈した。
だからこそティナに執着し、リランの手からティナを奪おうと躍起になりこんな結果を抱いたのだろう。
人が人で無くなる方法は難しいようであまりにも簡単だ。
それに手を出すかは…人が人である事を選ぶための最終選択肢なのだろうけれども。
「うがああああぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁああ」
咆吼する。
もう、人ではないそれに僕は何の感情も抱かない。
あぁ、彼は道を誤ったのだ。
「哀れだね……」
「だからこそ、…………。闇に走れ夜叉北辰剣!!!」
リランが朔月を振るとまっすぐにその剣先から繰り出された力はそのまま奴を貫いた。
「うぎゃあああああああああぁあああああぁ」
人ではない叫びを上げた後、奴はその場に倒れ込む。
この後の処理は警察がアースガルドと共同で行うだろう。
こうなった原因を探さなくちゃならない。
人でなくなった彼は獣と呼んでいい姿に替えていたのだから。
「リラン、ティナの元へ」
オレの開いた『道』を通りオレとリランはティナの元へと向かう。
彼女が居た部屋は……どこかのマンションの一室で。
ただ何もない、寝具だけの部屋で。
「……ティナ……」
「リラン、オレは戻る?」
「…………」
何も言わない。
オレは戻った方が良いと自分で決めて踵を返したときだった。
「ふあ〜〜〜〜」
間抜けなあくびの声が聞こえる。
振り返ればティナが起きたところで。
「リラン、ライナス?ここ……どこ?」
あまりののんびりっぷりにオレ達が、特にリランがどのくらい苦労したか教えたくなったけど。
「ちょ、リラン、苦しいってばっっ」
無事な事に安心したリランがティナを力一杯(それはもうティナが嫌がるぐらい思いっきり)抱きしめて居たから言うのはとりあえず後にすることにした。
どうせ姉さんや、アエロマから言われることは間違いないんだから。
「ティナ、怪我してない?」
小言は後にしてそう問い掛けてみれば、自分に何があったのか思い出したらしく……。
「大丈夫、リラン、ご免ね。ライナスも、ごめんなさい」
「オレはいいよ。ソレよりミリア姉さんやアエロマから何か言われること覚悟しておいた方が良いよ」
「うっっ」
オレの言葉にティナは想像できたはずなのにショックを受ける。
「まぁ、オレは先に帰るから。道はそのままにしておくから」
そう言ってオレはリランとティナを残し先に戻る事にした。
今はまだ二人だけにしよう。
またいつか僕達はどこか行かなくてはならないのだから。
書き出しからちょっとキョーフな感じで。
もっとダークにしようかと思いましたがやめました。