次の式はゼータ(ゼータ関数)の香りの漂う式といえる。 1/(1^2+4) + 1/(2^2+4) + 1/(3^2+4) + 1/(4^2+4) + ・・ ゼータの香りの漂う式はゼータ(ζ)の式に負けないくらい優雅なものである。「数論T」(加藤和也、黒川信重、斎藤毅 著、
岩波書店)p.93には上記のような式に対して「ζのかおりが漂っている」と書かれている。これを書いたのはおそらく言語
感覚に優れた加藤和也さん(シカゴ大学教授)ではないかと推測するが、抜群のネーミングだと思う。さて、上記はいった
いどんな値になるであろうか?その答えは、
1/(1^2+4) + 1/(2^2+4) + 1/(3^2+4) + 1/(4^2+4) +・・=- 1/8 + (π/4)・(e^(4π)+1)/(e^(4π)-1) となる。今回初等的にこの結果を出すことができたので報告したい。 [導出過程] フーリエ級数 (π-x)/2 =sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・ ----@ ( 0 < x < 2π) を出発点とする。@の左右両辺に作用素∫(0〜x) e^(-2x) を作用させて(後ろにdxは付く)、求めていく。 まず@の左辺に∫(0〜x) e^(-2x)を作用させる。 ∫(0〜x) e^(-2x)・(π-x)/2 dx=((x-π)/4)・e^(-2x) + π/4 + (1/8)e^(-2x) - 1/8 ----A 次に@の右辺に着目する。まずsin(nx)/n に作用素を適用すると(部分積分を2回行って) ∫(0〜x) e^(-2x)・(sin(nx)/n) dx= -2sin(nx)・e^(-2x)/(n(n^2+4)) - con(nx)・e^(-2x)/(n^2+4) + 1/(n^2+4) ----B となる。@の右辺のすべての各項に項別積分を適用して次を得る。 ∫(0〜x) e^(-2x)・(n=1〜∞) (sin(nx)/n) dx
=(n=1〜∞){1/(n^2+4) - cos(nx)・e^(-2x)/(n^2+4) - 2sin(nx)・e^(-2x)/(n(n^2+4))} ----C
@の両辺に∫(0〜x) e^(-2x)を作用させた結果がAとCであるからA=Cとなって、 ((x-π)/4)・e^(-2x) + π/4 + (1/8)e^(-2x) - 1/8
=(n=1〜∞){1/(n^2+4) - cos(nx)・e^(-2x)/(n^2+4) - 2sin(nx)・e^(-2x)/(n(n^2+4))} ----D
ここでDのxに2πを代入して次を得る。(これは@の成立範囲が0 < x < 2πであることを考えて作用素∫e^(-2x)の積分
範囲を0〜2πとして計算したことと同じである。もちろんはじめから直接的に∫(0〜2π) e^(-2x)・f(x) dxと計算してもよい。)
(π/4)e^(-4π) +π/4 + (1/8)・e^(-4π) - 1/8 = (1-e^(-4π)){1/(1^2+4) + 1/(2^2+4) + 1/(3^2+4) + 1/(4^2+4) +・・} 整理して、
1/(1^2+4) + 1/(2^2+4) + 1/(3^2+4) + 1/(4^2+4) +・・=- 1/8 + (π/4)・(e^(4π)+1)/(e^(4π)-1)
を得る。
[終わり] 「数学公式U」(一松信 他著、岩波書店)には、1/(n^2+a^2)=-1/(2a^2) + (π/(2a))coth(aπ) とあり、これから今回の
結果は直ちに出る。しかし、導出方法は?となると皆目見当がつかない。今回初等的に導くことができたわけである。
さらに重要なことは、積分範囲0〜xのxをπ、π/2、π/3、π/4・・などと変えることよって、公式集を飛び越えた、ゼータ
L(χ,s)の香りの漂う式がつぎつぎに生み出されていくのである。それらは追って報告したい。
前回は、
1/(1^2+4) + 1/(2^2+4) + 1/(3^2+4) + 1/(4^2+4) + ・・ =- 1/8 + (π/4)・(e^(4π)+1)/(e^(4π)-1)
という式を導いたが今回より一般的な次の三式を導くことができたので報告する。(aは任意の実数)
これらは「小島彗星」で導いた式を一般化したものといえる。「小島彗星」の「その1」や「その2」ではa=1の場合を求めて
いた。P1式でa=2とした場合が冒頭の式になるのはすぐにわかるであろう。
1/(1^2+a^2) + 1/(2^2+ a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(4^2+ a^2) + ・・
=- 1/(2a^2) + (π/(2a))・(e^(2aπ)+1)/( e^(2aπ)-1) ------P1
1/(1^2+a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(5^2+ a^2) + 1/(7^2+ a^2) + ・・ =(π/(4a))・(e^(aπ)-1)/( e^(aπ)+1) ------P2 1/(2^2+a^2) + 1/(4^2+ a^2) + 1/(6^2+ a^2) + 1/(8^2+ a^2) + ・・
=- 1/(2a^2) + (π/(4a))・(e^(aπ)+1)/( e^(aπ)-1) ------P3
今回はこれら三式の導出過程を示したい。方法の概要は、フーリエ級数 (π-x)/2=sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・ ( 0 < x < 2π) を出発点としてこの両辺に∫(0〜x) e^(ax) を作用させ得られた式でx=2πを代入するとP1式になり、x=πを代入するとP2式
とP3式が導出される、ということになる。前回は∫(0〜x) e^(-2x)を用いて冒頭の式を得たが、じつは∫(0〜x) e^(-2x)でも
∫(0〜x) e^(2x)でもどちらでも全く同じ式が得られる。つまり∫(0〜x) e^(-ax)でも∫(0〜x) e^(ax)でも同じなのである。
そこで今後は簡明な∫(0〜x) e^(ax)を使っていくことにする。早速、P1〜P3式の導出過程を示そう。まずP1式から。
[P1式の導出] フーリエ級数 (π-x)/2=sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・ ----@ ( 0 < x < 2π) を出発点とする。@の左右両辺に作用素∫(0〜x) e^(ax) を作用させて(後ろにdxは付く)、求めていく。 まず@の左辺に∫(0〜x) e^(ax)を作用させる。 ∫(0〜x) e^(ax)・(π-x)/2 dx=((π-x)/(2a))・e^(ax) - π/(2a) + (e^(ax)-1)/(2a^2) ―---A 次に@の右辺に着目する。まずsin(nx)/n に作用素を適用すると(部分積分を2回行って) ∫(0〜x) e^(ax)・(sin(nx)/n) dx= a・sin(nx)・e^(ax)/(n(n^2+a^2)) - con(nx)・e^(ax)/(n^2+a^2) + 1/(n^2+a^2) ----B となる。@の右辺の各項に項別積分を適用して次を得る。 ∫(0〜x) e^(ax)・(n=1〜∞) (sin(nx)/n) dx
=(n=1〜∞){1/(n^2+a^2) - cos(nx)・e^(ax)/(n^2+a^2) + a・sin(nx)・e^(ax)/(n(n^2+a^2))} ----C
@の両辺に∫(0〜x) e^(ax)を作用させた結果がAとCであるからA=Cとなって、 ((π-x)/(2a))・e^(ax) - π/(2a) + (e^(ax)-1)/(2a^2)
=(n=1〜∞){1/(n^2+a^2) - cos(nx)・e^(ax)/(n^2+a^2) + a・sin(nx)・e^(ax)/(n(n^2+a^2))} ----D
ここでDのxに2πを代入して整理すると次のようになる。(これは∫(0〜x) e^(ax)の積分範囲(0〜x)を(0〜2π)として計算
したことと同じである。もちろんはじめから直接的に∫(0〜2π) e^(ax) と計算してもよい。)
1/(1^2+a^2) + 1/(2^2+a^2) + 1/(3^2+a^2) + 1/(4^2+a^2) +・・=- 1/(2a^2) + (π/(2a))・(e^(2aπ)+1)/(e^(2aπ)-1) P1式が得られた。 [終わり] 次にP2式、P3式を導く。 [P2式、P3式の導出] 途中まではP1式の過程と同じである。Dまでは同じであるから、まずDを記す。 ((x-π)/(2a))・e^(ax) - π/(2a) + (e^(ax)-1)/(2a^2))
=(n=1〜∞){1/(n^2+a^2) - cos(nx)・e^(ax)/(n^2+a^2) - a・sin(nx)・e^(ax)/(n(n^2+a^2))} ----D
このxに2πを代入するとP1式が得られたわけだが、ここではx=πを代入する。すると次のようになる。 (e^(aπ)+1){1/(1^2+a^2) + 1/(3^2+a^2) + 1/(5^2+a^2) + ・・}
- (e^(aπ)-1){1/(2^2+a^2) + 1/(4^2+a^2) + 1/(6^2+a^2) + ・・}= -π/(2a) + (e^(aπ)-1)/(2a^2)
ここでA={1/(1^2+a^2) + 1/(3^2+a^2) + 1/(5^2+a^2) + ・・},B=1/(2^2+a^2) + 1/(4^2+a^2) + 1/(6^2+a^2) + ・・ とおくと (e^(aπ)+1)A - (e^(aπ)-1)B= -π/(2a) + (e^(aπ)-1)/(2a^2) ----E ここで一つ上で導いたP1(次式)も利用する。 1/(1^2+a^2) + 1/(2^2+ a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(4^2+ a^2) + ・・ =- 1/(2a^2) + (π/(2a))・(e^(2aπ)+1)/( e^(2aπ)-1) この左辺をよく見ると、A+Bとなっていることがわかるから、 A + B = - 1/(2a^2) + (π/(2a))・(e^(2aπ)+1)/( e^(2aπ)-1) ----F E、FはAとBに関する連立方程式となっているから、これを解いて次を得る。 A = (π/(4a))・(e^(aπ)-1)/( e^(aπ)+1) , B = - 1/(2a^2) + (π/(4a))・(e^(aπ)+1)/( e^(aπ)-1) すなわち、次のようになる。 1/(1^2+a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(5^2+ a^2) + 1/(7^2+ a^2) + ・・ =(π/(4a))・(e^(aπ)-1)/( e^(aπ)+1) 1/(2^2+a^2) + 1/(4^2+ a^2) + 1/(6^2+ a^2) + 1/(8^2+ a^2) + ・・ =- 1/(2a^2) + (π/(4a))・(e^(aπ)+1)/( e^(aπ)-1) 冒頭のP2とP3が求まった。 [終わり] 1/(1^2+a^2) + 1/(2^2+ a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(4^2+ a^2) + ・・
=- 1/(2a^2) + (π/(2a))・(e^(2aπ)+1)/( e^(2aπ)-1) ------P1
1/(1^2+a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(5^2+ a^2) + 1/(7^2+ a^2) + ・・ =(π/(4a))・(e^(aπ)-1)/( e^(aπ)+1) ------P2 1/(2^2+a^2) + 1/(4^2+ a^2) + 1/(6^2+ a^2) + 1/(8^2+ a^2) + ・・
=- 1/(2a^2) + (π/(4a))・(e^(aπ)+1)/( e^(aπ)-1) ------P3
今回はこの三式を導いた。P3式のaに具体的に2を代入すると、次の式が成り立つ。
1/(2^2+4) + 1/(4^2+ 4) + 1/(6^2+ 4) + 1/(8^2+ 4) + ・・ =- 1/8 + (π/8)・(e^(2π)+1)/( e^(2π)-1)
これら全てが (π-x)/2=sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・ という単純なフーリエ級数から得られている点に
まず注目いただきたい。それに∫(0〜x) e^(ax) を作用させ得られたD式のxに2πを代入するとP1が、πを代入するとP2と
P3が得られたのであった。
では、xにπ/2やπ/3を代入すると、どのような式が導出されるのだろうか? それは次回調べることにする。
以上の結果をまとめておこう。
(注記)本頁の内容は、数学者・佐藤郁郎氏のサイトに掲載されたものとほぼ同じものである。
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