「いくつかの点」シリーズでまだやっていなかったπ/2、π/4以外の値を代入することにより、ゼータ山脈の地下に
眠っていたディリクレのL関数L(χ,s)に関する大きな秩序が明らかになり始めました。
「金星」では新たにわかったその鉱脈を示します。末尾に、二つの予想を提示。
<cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + ・・)の重回積分-重回微分にπ/3を代入>
まず若干の復習をしますと、「いくつかの点」シリーズでは、次の@やAの重回積分の結果に、π/2やπ/4を代入
することにより、ディリクレのL関数の一種ζ(2n+1)やL(2n)の正体が、次々と「偶数ゼータの無限和」の形で求めら
れていったのでした。
簡単に述べると、@式の重回積分-重回微分の結果にπ/2を代入するとζ(2n+1)が求まり、π/4を代入すると
ζ(2n+1)とL(2n)が求まります。またAの重回積分-重回微分の結果に、π/2を代入するとL(2n)が求まり、π/4を
代入すると、なんとL1(s)、L2(s)が求まるのでした。詳しくは、「いくつかの点」のまとめをご覧ください。
早い話、π/2代入でもπ/4代入でもすべてディリクレのL関数L(χ,s)に属するゼータが出てくるのです!(リーマン・
ゼータ関数ζ(s)もL(χ,s)の1種。)
cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + ・・・) -------@
1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・) -------A
さて、私は、それではπ/3やπ/6を代入すればどうなるのか?と以前より気になっていました。
ただ、なにやら複雑になりそうな予感がし実行できずにいたのですが、今回、π/3とπ/6代入の場合を実際に調べ
た結果、まったく本質的な秩序が潜んでいることがわかってきました。
佐藤郁郎氏は、先に氏のコラムで、ベルヌ−イ多項式を利用してL(s)の値が明示的に求まる場合をπ/3を代入して
調べておられます。そこではmod 3のあるディリクレ指標χに対応する1/1^s−1/2^s+1/4^s−1/5^s+・・
の値が求められていますが、詳しくは氏のコラムをご覧ください。
さて、私がこれからやろうとしていることは、値が明示的に求まらない場合にも、裏側に深い構造が潜んでいるこ
とを示そう、というものです。「いくつかの点」シリーズでよく調べたπ/2やπ/4代入を、それ以外の値(π/3やπ/6
やその他)の代入に変えて、隠れた構造の本質を探ろうとしているのです。
”明示的に求まらない”という言葉は、例えばn>=1のζ(2n+1)すなわち、ζ(3)、ζ(5)、・・のように「偶数ゼータの
無限和」やあるいは「重回積分」他のような特殊な形でしか表示できない場合に対応した言い方です。
一方、ζ(2)=π^2/6などのようにきっちりと求まるものは「明示的に求まる」と表現されます。
さて、本論に入りましょう。
まずここでは、@式の重回積分、重回微分の結果に、π/3を代入した場合を調べていきます。
もう一度@式を書きます。
cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・) ------@
この@を重回積分や重回微分した式を書いていきます。
[重回積分、重回微分した一連の式]
・
・
4回微分
{2sin2x・sinx+4(2+cos2x)cosx}/(sinx)^5=2^4sin2x + 4^4sin4x + 6^4sin6x + 8^4sin8x + ・・・・
3回微分
(2+cos2x)/(sinx)^4=2^3cos2x + 4^3cos4x + 6^3cos6x + 8^3cos8x + ・・・・
2回微分
cosx/(sinx)^3=-(2^2sin2x + 4^2sin4x + 6^2sin6x + 8^2sin8x + ・・・・)
1回微分
-1/(sinx)^2=2(2cos2x + 4cos4x + 6cos6x + 8cos8x + ・・・・)
0回積分
cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・)
1回積分
log(2sinx)=-2(cos2x/2 + cos4x/4 + cos6x/6 + ・・・)
2回積分
∫log(2sinx)=-2(sin2x/2^2 + sin4x/4^2 + sin6x/6^2 + ・・・)
3回積分
∫∫log(2sinx)=2(cos2x/2^3 + cos4x/4^3 + cos6x/6^3 + ・・・) - ζ(3)/2^2
4回積分
∫∫∫log(2sinx)=2(sin2x/2^4 + sin4x/4^4 + sin6x/6^4 + ・・・) - ζ(3)/2^2・x/1!
5回積分
∫∫∫∫log(2sinx)=-2(cos2x/2^5 + cos4x/4^5 + cos6x/6^5 + ・・・) + ζ(5)/2^4 - ζ(3)/2^2・x^2/2!
6回積分
∫∫∫∫∫log(2sinx)
=-2(sin2x/2^6 + sin4x/4^6 + sin6x/6^6 + ・・・) + ζ(5)/2^4 ・x/1! - ζ(3)/2^2・x^3/3!
7回積分
∫∫∫∫∫∫log(2sinx)
=2(cos2x/2^7 + cos4x/4^7 + cos6x/6^7 + ・・・) - ζ(7)/2^6 + ζ(5)/2^4 ・x^2/2! - ζ(3)/2^2・x^4/4!
8回積分
∫∫∫∫∫∫∫log(2sinx)
=2(sin2x/2^8 + sin4x/4^8 + sin6x/6^8 + ・・・) - ζ(7)/2^6 ・x/1! + ζ(5)/2^4 ・x^3/3! - ζ(3)/2^2・x^5/5!
・
・
と、このように上下に延々と続いていきます。すべての∫は0〜xの定積分、またdx・・dxは略しました。
さて、上の一連の式の x にπ/3を代入してみます。すると、次のようになります。途中計算は省略。
[π/3代入の式]
・
・
4回微分
LA(-4)=2/3
3回微分
ζ(-3)=1/120
2回微分
LA(-2)=-2/9
1回微分
ζ(-1)=-1/12
0回積分
√3・{1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1 + ・・・}=1/√3
すなわち、LA(0)=1/3
1回積分
1 + 1/2 - 2/3 + 1/4 + 1/5 - 2/6 + 1/7 + 1/8 - 2/9 + ・・・=log3
2回積分
-√3/2^2・LA(2)=∫(0〜π/3) log(2sinx)
3回積分
- 1/2^3・(3-1/3^2)ζ(3)=∫(0〜π/3)∫log(2sinx)
4回積分
√3/2^4・LA(4) - ζ(3)/2^2・(π/3)=∫(0〜π/3)∫∫log(2sinx)
5回積分
1/2^5・(3-1/3^4)ζ(5) - ζ(3)/2^2・(π/3)^2/2!=∫(0〜π/3)∫∫∫log(2sinx)
6回積分
-√3/2^6・LA(6) + ζ(5)/2^4・(π/3) - ζ(3)/2^2・(π/3)^3/3!=∫(0〜π/3)∫∫∫∫log(2sinx)
7回積分
-1/2^7・(3-1/3^6)ζ(7) + ζ(5)/2^4・(π/3)^2/2!- ζ(3)/2^2・(π/3)^4/4!
=∫(0〜π/3)∫∫∫∫∫log(2sinx)
8回積分
√3/2^8・LA(8) - ζ(7)/2^6・(π/3) + ζ(5)/2^4・(π/3) ^3/3!- ζ(3)/2^2・(π/3)^5/5!
=∫(0〜π/3)∫∫∫∫∫∫log(2sinx)
・
・
と、ζ(2n+1)とLA(2n)が出る式が並びます。
上で右辺の重回積分は一番左の(最後の)∫だけが0〜π/3の定積分で、その他の∫はすべて0〜xの定積分
です。
ここで、もちろんζ(s)はリーマン・ゼータ関数で次のものです。
ζ(s)=1 + 1/2^s + 1/3^s + 1/4^s + ・・・
またLA(s)は、
LA(s)=1 - 1/2^s + 1/4^s - 1/5^s + 1/7^s - 1/8^s + 1/10^s - 1/11^s + ・・・
で定義されるゼータ関数です。
ここで大事なことは、ζ(s)もLA(s)もどちらもディリクレのL関数L(χ,s)の一種のゼータ関数である、ということです。
簡単にいえば、ζ(s)は、全てのaに対しχ(a)=1としたときのディリクレのL関数L(χ,s)です。
またLA(s)は、a≡0, 1, 2 mod 3に対し、それぞれχ(a)=0, 1, -1としたときのL(χ,s)に一致します。
なお、ディリクレのL関数L(χ,s)は次のように定義されるもので、様々なディリクレ指標χ(a)に対してL(χ,s)は
色々と変ってくるのです。
L(χ,s)=χ(1)/1^s + χ(2)/2^s + χ(3)/3^s + χ(4)/4^s + χ(5)/5^s + χ(6)/6^s + ・・・・
上のπ/3代入の一連の式を眺めてわかることは、ζ(2n+1)はもちろんですが、LA(2n)もその正体は結局
LA(s)=[偶数ゼータの無限和]
という形になる、ということです。
その理由を簡単に説明しておきますと(「いくつかの点」シリーズを読まれた読者はすぐわかると思いますが)、
log(πx/sinπx)= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ }
( 0 < |x| < 1 )
という異様な式があって(「いくつかの点」シリーズその3参照)、変数変換すると、
log(sinx)=logx + [偶数ゼータの無限和]
という形に容易に表せますから、これを重回積分の定積分を重ねていけば(収束半径内で項別積分)、
∫(0〜π/3)log(2sinx)も∫(0〜π/3)∫log(2sinx)も∫(0〜π/3)∫∫log(2sinx)も∫(0〜π/3)∫∫∫log(2sinx)も・・・も
みんな結局、
[logの値] + [定数] + [偶数ゼータの無限和]------B
というような形になるのです。
今後は、簡単にBを[偶数ゼータの無限和]と表現する場合もあると思いますので、注意してください。
「いくつかの点」シリーズ「その4」〜「その7」までは、ひたすらこのようにしてζ(3)、ζ(5)、ζ(7)、・・の姿を
具体的に求めていったのでした。「その7」で本当にBのようになっていることをご確認ください。
また奇数ゼータζ(2n+1)に関しては、@式の重回積分の式にπ/2を代入すると、ζ(2n+1)=「偶数ゼータの無限和」
となることが示せます(「いくつかの点」シリーズ「その11」参照)。
以上より、∫(0〜π/3)∫・・∫log(2sinx)=[偶数ゼータの無限和]、またζ(2n+1)=[偶数ゼータの無限和]となる
のだから、上の一連の[π/3代入の式]より、結局LA(s)もその正体はLA(s)=[偶数ゼータの無限和]になるという
ことがわかります。
ただし、∫(0〜π/3)∫・・∫log(2sinx)を見れば、それが[偶数ゼータの無限和]となることは、以上の理由から
自明なことですので、今後は、あまり[偶数ゼータの無限和]を表に出さない形で書いていきます。
すなわち、上式のような重回積分のままの形で置いておくことが多くなることをお断りしておきます。その形の方が、
ゼータの本質をより表しているような気がするからでもありますが。
じつは、上の[重回積分した一連の式]は、水星「その5」でやったようにζ(1)が出現するような形に書くことも
できますが、ここでは「いくつかの点」シリーズでやったような常識的な式でまとめました。
さらに注目してほしいのは、@やAの等式から、出てくるものはゼータの特殊値が明示的に求まらない場合ばかり
であるということです。
明示的に求まる場合は佐藤郁郎氏の研究がありますのでそちらをご覧ください。ベルヌ-イ数多項式、オイラー多項
式を絡めた素晴らしい研究です。--->佐藤氏のコラムの”奇数ゼータと杉岡の公式”「その6」〜「その9」参照。
話が長くなりましたが、とにもかくにもπ/3を代入したらζ(2n+1)とLA(s)というゼータが次々と出てくる、という
ことがわかったわけです。
そして大事なことは、どちらも現代数学(とくに数論や数論幾何)で最も重要なものの一つであるディリクレのL関数だ
ということです。
<cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + ・・)の重回積分-重回微分にπ/6を代入>
上では、π/3代入の場合を調べたので、ここでは、π/6代入を調べてみることにしましょう。
その前に、”ある予想”をしたいと思います。
まず、中心的な役割を果たしてくれる二つ母等式を再度書きます。
cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + ・・・) -------@
1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・) -------A
「いくつかの点」シリーズでは、@やAに重回積分-重回微分をしてπ/2やπ/4を代入していくことにより、次々と
ディリクレのL関数L(χ,s)が求められました。
そして一つ上では@の重回積分-重回微分の結果にπ/3を代入したのですが、それでも、やはりあるL(χ,s)の
ゼータ関数が出てきたのでした。
いまから、@式に対するπ/6の場合を調べようとしているのですが、「今度も、ディリクレのL関数L(χ,s)が飛び
出してくるのではないか?」と期待もこめて予想したくなります。
そして、実際この予想は正しいのです!
以下、この事実を示していきます。
方法は一つ上とほとんど同じですので、[重回積分、重回微分した一連の式]は上をそっくり使い、それらの式に
π/6を代入した式のみを書き下します。
[π/6代入の式]
・
・
4回微分
LA(-4)=2/3
3回微分
ζ(-3)=1/120
2回微分
LA(-2)=-2/9
1回微分
ζ(-1)=-1/12
0回積分
√3・{1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1 + ・・・}=√3
よって、LA(0)=1/3
1回積分
0=0
2回積分
-√3/2^2・(1+1/2)LA(2)=∫(0〜π/6) log(2sinx)
3回積分
(1-1/2^2)(1-1/3^2)ζ(3)/2^3 -ζ(3)/2^2=∫(0〜π/6)∫log(2sinx)
4回積分
√3/2^4・(1+1/2^3)LA(4) - ζ(3)/2^2・(π/6)=∫(0〜π/6)∫∫log(2sinx)
5回積分
- (1-1/2^4)(1-1/3^4)ζ(5)/2^5 + ζ(5)/2^4 - ζ(3)/2^2・(π/6)^2/2!
=∫(0〜π/6)∫∫∫log(2sinx)
6回積分
-√3/2^6・(1+1/2^5)LA(6) + ζ(5)/2^4・(π/6) - ζ(3)/2^2・(π/6)^3/3!
=∫(0〜π/6)∫∫∫∫log(2sinx)
7回積分
(1-1/2^6)(1-1/3^6)ζ(7)/2^7 -ζ(7)/2^6 + ζ(5)/2^4・(π/6)^2/2!- ζ(3)/2^2・(π/6)^4/4!
=∫(0〜π/6)∫∫∫∫∫log(2sinx)
8回積分
√3/2^8・(1+1/2^7)LA(8) - ζ(7)/2^6・(π/6) + ζ(5)/2^4・(π/6) ^3/3!- ζ(3)/2^2・(π/6)^5/5!
=∫(0〜π/6)∫∫∫∫∫∫log(2sinx)
・
・
と、このようになり、またζ(2n+1)とLA(2n)が飛び出してきました。
LA(s)は
LA(s)=1 - 1/2^s + 1/4^s - 1/5^s + 1/7^s - 1/8^s + 1/10^s - 1/11^s + ・・・
であり、またζ(2n+1)はもちろんリーマン・ゼータです。
上でも述べましたが、繰り返しますと、ζ(s)は全てのaに対しχ(a)=1としたときのディリクレのL関数L(χ,s)です。
LA(s)は、a≡0, 1, 2 mod 3に対し、それぞれχ(a)=0, 1, -1としたときのL(χ,s)に一致します。χ(a)はディリクレ指標。
さて、これまで、「いくつかの点」シリーズのπ/2やπ/4の種々の結果とそしてここでのπ/3の二つの結果を考えて
いると、もうπ/6やπ/12やその他π/nのようなどんな値を代入しても、どこまでも、ディリクレL関数L(χ,s)の特殊値
(値が明示的に得られない場合の)が飛び出してくるのではないか?と予想したくなります(予想1)。
いや、もっと大胆に、全てのL(χ,s)特殊値(値が明示的に得られない場合の)は、今回のような手法で得られる
L(χ,s)特殊値に完全に一致しているのではないか?と、予想したくなります(予想2)。
予想1は、おそらく正しいでしょう。
予想2は、本質的であると予感され、これを追求することは非常に深い意味があると感じます。
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