*単行本の価格は購入時のものです
歩くひと/谷口ジロー | 超兄貴/田丸浩史 |
未来さん/新谷明弘 | エノティック/榎本俊二 |
はるかリフレイン/伊藤伸平 | おねがい神様/小栗左多里 |
PRINCE STANDARD/別天荒人 | 極楽りんご/林正之 |
ニルヴァーナ・パニック!!/伊藤勢 | 蠢動/園山二美 |
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53、20、25、13、8、30、16、0、16、0、23、23、12、3、0、0、7。全17話のこのまんがの、各話ごとの吹き出しの数です。
回を追うにつれだんだん少なくなって、0というのが4話もあります。そういうまんがです。
最終話を除き、主人公が歩くのは旅先や異国の街ではありません。自分の住む町です。ふとしたことで木によじのぼったり道に迷ったり、夜の学校にもぐりこんで泳いだり、酔っぱらって町じゅう歩き回ったり。さまざまな歩く景色を作り出しているのは−−ひいてはこのまんがを成立させているのは、主人公の好奇心であり、腰の軽さであり、こどものような心です。
そしてそれはすなわち作者の心でもあるに違いありません。こどものような大人は、こどものような大人にしか描けないはずです。
画力の裏打ちについては触れるまでもないかもしれません。8ページの話をときにせりふ抜きで成立させるだけの。上質の大人の絵本、とも言っていいと思います。
連載時の掲載誌がマイナーだったこともあってか、あまり知られてない感のあるまんがですが、興味を持った人は古本屋で探してみてください。なかなか置いてないとは思いますが。
・講談社・パーティKC | ISBN4-06-176637-6 C0379 530円(515円) |
もともとはコンシューマーゲームのコミック化であるようです。いちど本屋で小説版を見たことがあります(ゲームの小説化です。ゲームのコミック化の小説化ではない)。まあ、出自なんざおもしろけりゃどうでもいいのです。
悪の皇帝を倒そうとする主人公たちという設定は、シリアス・ギャグ両用の便利な設定です。悪の皇帝が鬼のようなボディビルダーで、敵も味方もビルダーだらけというあたりいかにもあれなんですが、かまやしません。主人公(たるべき登場人物)がいきなり1話で死んでしまい以下身代わりが主人公だったりしますが、まあどうでもいいことです。
多々脱線はあれど、基本的にこのまんがの登場人物たちは真面目です。気合いが入っています。主人公側も敵役側も。目指す方向があらぬ方向で、気合いが入れば入るほどおかしいというあたり、宴会芸のばかばかしさに通じるものがあるかもしれません。
名は体を表す。そもそもタイトル自体、あらぬ方向に気合いが入っています。
ラストは反則です。なんというか、「ほんまにこれで終わりでええんか?」とつっこみを入れずにおれないものです。
「このまんがに限っては、このラストでいいのだ」という評を見たことがありますが、至言かもしれません。少なくともまじめに怒るのは不粋というものです。
・徳間書店・少年キャプテンコミックススペシャル | (1)ISBN4-19-834031-5 C9979 520円(505円) |
(2)ISBN4-19-830023-2 C9979 520円(505円) | |
(3)ISBN4-19-830057-7 C9979 520円(505円) |
コミックビーム連載作品。新谷明弘、待望の初単行本です。
さて、このまんがはいったいどういうまんがか。
SFであるというのは妥当な評価でしょう。舞台は未来だし。未来に存在する技術や、未来に発見されている概念なども登場するし。
だけども、その技術や概念がどこかガラクタ・スピリッツを持っているあたりが、よくある未来SFと違います。未来の科学技術にしてはいささかスマートさに欠けていて、どこか子供のころ遊んだ、透明のプラスチックに包まれたおもちゃたちに似ているのです。
同じように、主人公を始めとする登場人物たちも、未来SFのわりにはスマートではありません。喜怒哀楽の感情、行動パターン、いまの人間と全然変わるところはありません。そのままです。
このあたりが、未来が舞台なのに読んでて妙な懐かしさを感じる理由かも知れません。あるいはそれは、子供のころ読んだ古典SFに味わいが似ているためかもしれません。
あっちこっちで失敗しながら、前を向いて進んでいく登場人物たちは十分に魅力的です。連載開始前に「ポジティブ仮面」という読み切りが掲載されたのだけど、あれはこのまんがのプロローグだったのかなと今となっては思います。
とにかく、編集部に感謝です。「新谷明弘の単行本!」とわめきつづけて1年以上、本屋で手に取ったときは感慨迫るものがありました。売れるといいなあ。売れて「学園委員シリーズ」も単行本化されたら、これ以上の幸せはありません‥
・アスペクト・アスペクトコミックス | ISBN4-7572-0153-2 C0979 880円(本体) |
成人むけです。どこから見ても成人むけだと思うんだけど、なぜか成人指定されずに普通のまんがの振りをして売られています。子供に読ませていいんだろうか、これ。
個人的には待望久しい短編集です。
巻頭に収められた「スカトロジーX」は、寝ても覚めても脱糞しつづける人々がトイレでだけ脱糞をやめるという、言ってしまえばただそれだけのまんがです。ただそれだけのまんがだし、あとがきで作者自身「テンポがギクシャクしている」と書いているように、完成度抜群というのでもありません。ただ、雑誌に掲載されたこのまんがを読んで「ふっきれたな榎本」という印象を受けたことは確かで、個人的に忘れがたいまんがでもあります。
「ロリロックロン」が完全収録されているのもうれしいところです。これは麻雀まんが誌に隔月で2年間連載された、実験色の濃いまんがです。それだけに失敗作も多いのだけど、エロ・スプラッタ・ギャグとも言うべきPART2、見るだに痛そうなバイオレンスもののPART7は強烈だし、ほのぼの動物ものと見せかけて裏切るPART5、きれいに麻雀ネタでおとしたPART6もうまいと思います。どこか実話じみたPART8もほのぼのとおかしい。
COMIC CUEに掲載されて好評(?)を得た地下沢中也との合作「われら動物家族」も収録されています。ゾウ・ライオン・サル・ヘビの動物家族の祖父が和式便所で、兄=ライオンに食われた弟=サルがくそを経て洋式便所になるという書いてて頭痛くなるようなストーリーで、そのくせこっそり無常感を漂わせた得難いまんがです。
単行本で初めて読んだ中では「スパーム・オブ・ラヴ」があんまりでした。宇宙船・戦闘オペレーション・ミサイル発射という比喩はありがちだけど、オチがここに書くのをはばかるほどひどい。コミックビンゴが初出だけど、こんなもん読まされたビンゴの(普通の)読者はそのあとどうしたんでしょうか。
それにしても、この文体と感想のスタイルがこれだけ合わないまんがもないかもしれません。読み返すとなんだかばかみたい。
欲しい人はとっとと買ってしまうと思うので、あまり人に薦めようとは思いません。というか恐くてとても薦められない。これをジャケ買いしてしまった人の困惑たるやいかばかりか。
・双葉社・アクションコミックス | ISBN4-575-93581-6 C9979 800円(762円) |
これはネタばれ厳禁のたぐいのおはなしです。これから読もうという人は、この感想見ないほうがいいです。もう読んでしまった人、読んでないけど見てみようという人は続きをどうぞ。
短編集です。作者の経歴とか活躍場所とか、少女まんが初心者なのでよくわかりません。ジャケ買いで当てた1冊です。
収録されている短編は4つ。太めに悩む女子中学生を描いたタイトル作、結婚間近の彼の妙な家族たちに染まっていくOLの話「家庭の庭」、夢想家のプータローを主人公にした「ディビダバディ」、ごく平凡なOLが登場する「熱帯の青い月」。登場する主人公たちは、どこかで社会のあたりまえからはみ出していたり、はみ出して行ったり。
「ディビダバディ」の主人公はいささか度を越した夢想家で、その場でいきなり自分の想像に入り込んでしまいます。甲子園の高校球児になりきってしまったり、リオのカーニバルで踊り出してしまったり。だからバイトもすぐくびになってしまう。それならばと紹介されたぬいぐるみショーのバイトで才能を発揮したのもつかの間、うさぎの分際で王子様役を蹴りたおして脱走してしまう。社会的には困った人としかいいようがない。でもまんがのなかで、主人公は終始楽しそうです。「家庭の庭」でもそうだけど、変な人に対する温かい視線はこの単行本の特徴です。
タイトル作「おねがい神様」では、家族揃って太めの主人公がユーモラスに描かれます。後半で主人公はいきなりスリムになってしまい、それゆえに起こるさまざまな出来事にとまどうのですが、ラストは「スリムになってハッピー」でも「やっぱり太めが吉」でもありません。それはそれでどちらでもいいじゃないですかというようなところがテーマのおはなしであります。
4つ目の「熱帯の青い月」の主人公はふつうの人です。普通に働いて普通に暮らして、でもどこかで違和感を感じている。28歳で独身で、「28歳で独身」とことさら言われる社会になじめない。平凡な毎日をまぎらわすのは持っている大きなルビーで、次の宝石を買うことを励みにしている。
昼休みの公園でペットショップ店員の青年と知り合った彼女は、それが元で運命を狂わせることになるのですが、その過程で感じていた違和感の正体を、大きなルビーで代償されていたものを自覚していきます。自分よりもはっきりと社会になじめない青年を写し鏡として。
当たり前のことを当たり前と感じられないなら、当たり前でないなにものかを自分で探し出すしかない。たとえピーターパンといわれようと、心理学者に冷笑されようと。それが当たり前に育たなかった人の不幸でもあり、幸福でもあるのだと思います。
「熱帯の青い月」のラストで描かれる東京の夜景がすごく印象的です。絵のそのものよりも、この物語のラストにこのシーンをもってきたそのことに対しての共感かもしれません。
ジャケ買いでこんなまんがを当てる幸せを考えると、まんがにビニールがかかってるのもまんざら悪いことではない、そんなふうに思ったりもします。なかば冗談、なかば本気で。
・集英社・ヤングユーコミックスコーラスシリーズ | ISBN4-08-864386-0 C9979 530円(505円) |
誰が呼んだか、アキバ系まんが雑誌の極北・コミックガム。そのコミックガム掲載作です。
読み切りで登場したあと好評につき連載化という、わりとよくあるパターンの連載まんが。その第1巻は別天荒人の初単行本でもあります。
主人公・スタア王子は冒険者にあこがれる無邪気な少年。深く考えずに城を飛び出したのはいいけれど、経験も腕力も度胸もない、おまけに危険を察する能力もない。いきなりならずものに喧嘩を売って殴り倒される。そのならず者をたたきのめした町の警備隊長に説教されてべそをかく。「王族の肉を食ったら永遠の命と美貌をなんとやら」といういいかげんな言い伝えを信じた女魔法使いにつけ狙われる。なにやら面白そうとばかり首を突っ込む魔法使いの知り合いの女とその姉、姉の作った亜人間どもや、王子の護衛を頼まれてあとを追って来た女剣士やらが絡んでの大騒ぎ。いまのところはこんな展開です。
こうやってあらすじを追うと、物語そのものはわりとありがちなファンタジーです。だけどこのまんがの魅力は別のところにあります。
ひとつは絵。登場人物の顔はどれもかなり丸く、しばしばそれがさらに丸くなり、ときにほとんど真円だったりします。だからというわけではないでしょうが、この絵がよく弾みます。線が生きています。静と動のめりはりがきいていて、大きく動きます。
その絵に引きずられるように、登場人物たちもよく弾みます。情けないやつはどうにも情けなく、わがままなやつはとことんわがままで、真面目なやつは芯からまじめ。まぬけなやつは救いがたくまぬけ。キャラクターの描きわけがはっきりしています。
よけいなことを考えないでいいまんが。と言うとあまりほめてるように聞こえないかもしれないけど、そんなあけっぴろげの解放感がこのまんがには漂っています。それはたぶん作者が好き勝手描いてるまんがだからだと、そう勝手に思っています。
それというのも、最近少年エースで始めた連載が別人のように冴えないからです。原作・あかほりさとるというのがなんともはや‥
このまんが、そこかしこにギャグが挿入されています。あらぬ方向にぶっぱなされる感じのこのギャグには、平野耕太や目黒三吉、すがわらくにゆきや八房龍之助(のなかでも高岩博士もの)といったあたりとどこか共通したものを感じます。しかつめらしくプロのまんが家然としていることへの照れのようなものと言うか。
人によってはそれを一種の甘えと感じるかもしれないけど、もともとこういうギャグ自体が嫌いではないわたしはあまり気にしていません。むしろそういうことを気にせず、好きに描いてくれればと思っています。
・ワニブックス・ガムコミックス | (1)ISBN4-8470-3294-2 C0979 850円(本体)(以下続刊) |
ネムキが「眠れぬ夜の奇妙な話」であったころからの連載作。このたびめでたく完結となりました。実際には「極楽りんご」はとっくに終わってて、「それ行け りんご君!」がほそぼそと続いていたのですが。
実生活における笑いの記憶には、乱暴に分けて二種類あります。何度思いだしてもおかしいのと、何がおかしかったんだかさっぱりわからないのと。それぞれがどういう種類の笑いか‥‥という分析をここでやってるととても文字数が足りない、というより時間が足りない、いや、能力が足りないのでパスしますが、俗に言う一発ギャグに後者が多いかな、という印象がぼんやりとあります。
その状況で、そのタイミングで繰り出されたときには抜群の破壊力のあったはずのギャグが、あとで思い返すとちっともおもしろくない。ましてや人に説明しようとした日には、聞いてるほうもおもしろくないし、話してるほうも途中でやめられないし、かなり寒いことになります。(何度となく失敗した経験が‥)
繰り返しがきくか、一発芸か。実生活の笑いにおけるこの分類は、おそらくギャグまんがにおいても有効であります。長い前振りだなあ。
花と小箱(ビーム連載作)で知ってから極楽りんごを買ったのか、その逆か。そのへんの記憶はどうもあいまいですが、2巻から買ったのは覚えています。途中から買ったのは1巻より2巻のほうができがいいことが多いという経験則から生じたくせで、今でもときどきやってます。邪道です。
読んで大笑いしたのは覚えています。大笑いして、1・3巻もすぐに購入して読んで大笑いして、しばらくして読み返したらこれがぜんぜんおもしろくないんでやんの。当惑しました。あんなにおもしろいと思ったのは、あれはなにかの間違いだったのか。それともおもしろいと感じる自分のつぼが変わったのか。
けっこう長い間釈然としないままでいた気持ちは、4巻買って読んで氷解しました。やっぱりおもしろかったんです。
一発芸としてのギャグまんがに、700円近い金を投じて読む価値があるか。ギャグまんがが好きで、この手のギャグがはまればという条件が成立さえすれば、読む価値はあります。少なくともわたしはぜんぜん後悔してません。
きわめてベタで、非常にくだらないこのまんがは、一回の笑いで元が取れるだけの破壊力を備えています。つぼにはまれば。つぼにはまんなかったらとてもつまんないまんがになってしまうので、自分がベタでくだらないギャグが好きか、700円投じて空振りしても後悔しないか、よく胸に手を当てて考えてから買ったほうがよいと思います。あんまりおすすめになってないな、これ。でもほんとにおもしろかったんだってば。
・朝日ソノラマ・眠れぬ夜の奇妙な話コミックス | (1)ISBN4-257-90193-4 C0979 680円(660円) |
(2)ISBN4-257-90221-3 C0979 680円(660円) | |
(3)ISBN4-257-90271-X C0979 680円(660円) | |
(4)ISBN4-257-90356-2 C0979 660円(本体) |
インドを主な舞台としたまんがです。ニルヴァーナってなんでしょう、わかりません。だれか教えて。
考古学者の兄を持つ少女・星督(ほし・まなか)がいちおう主人公です。いちおうと書いたのは、まなかの額にはもうひとつ目玉があって、この目玉が四千年の眠りから醒めてまなかの前頭葉に寄生しているシヴァ(インドの神様)だからです。いや、そういう設定なんですって。
まなかがインドくんだりで三つ目になっちまったのは、なにもかも兄・真一郎のせいです。真一郎が遺跡から発掘した宝石が、眠りについているシヴァ神の復活キーで、まなかはインドから送られたそれを持っていたばっかりに、シヴァ神を崇拝する宗教集団にさらわれてインドまでやってきたわけです。んで、ばたばたやってるうちにシヴァ神は復活したものの、四千年分風化したシヴァの体はあっけなく崩壊。新たな体を求めて襲いかかるシヴァにむかい、真一郎はわが身を守るためにまなかを「盾」にします。まなかをかっさらったシヴァは、めでたくその額に住みついてしまったわけです。
以下、シヴァ=まなかやそれを崇拝する宗教集団や真一郎に、ガネーシャやハヌマット(ハヌマーンは主格でハヌマットの方が適当な呼び名ではとのこと)なども加わっておはなしは展開していくのですが、おはなしの基幹はノンストップ・アクションです。ではあるんだけどその基幹を食い荒らすほどに、ギャグがどかんどかんと連発されます。水につけると戻る干物のガネーシャ。それをカレーで戻すと黄色いガネーシャができて、「からだじゅうが辛い」と暴れる。からだが辛いというのはあいにく経験がありませんが、どういう感覚なんでしょうか。
なまじっかスピード感のあるまんがだけに、ギャグでのこけかたが大きい。アクションだけではなく、ギャグだけでもなく、アクションとギャグのバランスの妙に支えられて成り立っているまんがです。
1995年に出たまんがですが、本・作者ともについ最近までその存在を知りませんでした。佐藤明機や目黒三吉や西川魯介の読切を目当てにコミックドラゴン買っているうちに、この作者の連載作「モンスター・コレクション」が気になり、どれ試しにと買ってみたのがこの本です。知らないまんが家のおもしろい本、まだまだたくさんあるんだろうなあ。見つけるのが楽しみです。
・徳間書店・少年キャプテンコミックススペシャル | ISBN4-19-830097-6 C9979 880円(854円) |
わぁ、蠢動出るんやぁ。うれしいわあ、なつかしいわあ。でもなかみは雑誌で読んでもう知っとおからなぁ。‥‥違いました。そうではなかったのです。
今回単行本におさめられた7篇のうち、「狂人遺書」「一人の夜」の2つは未読で、残り5篇はコミックビーム掲載時に読んでいます。ラブホテルでのカップルの行動をただだらだらと描いた「信長」は掲載時にも気に入りました。「サルマタケ」はどういうわけかあまり印象がありません。コンビニ青年がラブラブハッピーな「コンビニキング」は「あぁこういうのも描くんだなあ」と思って読んだ記憶があります。前後編の「宇宙のはじまり」は不登校の、いじめが理由でもなくただなんとなく中学校へ行かない女の子の自問自答で構成されたまんがで、真実味のある(フィクションとは思えない、という評もあります)内容といささか唐突とも言える終わり方で、パソコン通信上でけっこう話題になりました。ちょうどエヴァの最終回の余韻がまだ強かったころで、関連についてもとりざたされたり。個人的に「あれでいいんだ、でもあと2ページ欲しかった」と主張したこともあって、印象に残ったまんがでした。
そんなこんなも含めて、園山二美のまんがについてはよく知っているつもりでした。モノローグを多用した独特の世界はおもしろいけど、未熟なところもあるこれからの人かなーと思っていました。そうではなかったのです。
単行本を買って読みはじめて、目からうろこが落ちる思いでした。あれぇ、こんなにすごかったっけ?
雑誌で読むまんがと単行本で読むまんがの差異については承知しているつもりだったし、それぞれで読むのに向いたまんがについても意識はありました。「これは雑誌だとちょっとたるいけど、単行本ならいい感じじゃないかなあ」とか。それでもこれだけ予想を裏切られたのは久しぶりです。
上質紙に印刷され、きれいに装丁された本で読むそれは、雑誌掲載時に読んだ印象とはまるで違ってました。まるでひとつひとつではただのパーツなのに、組み上がり完成されて初めて、強烈なオーラを発揮しはじめたかのように。
それはそのまま、わたしの目が節穴であることの証左でもあったわけです。絵の力にも内容の持つエネルギーにも気付かなかったまぬけだということ。ああ、ほんとまだまだ、修行が足らん。
物語に起承転結を求めるひとには、よくわからないまんがかもしれません。ありのままの感情をそのまま焼きつけた「ように見える」短編群を読んで、作者のしたたかさを感じて、同時に描かずにはいられない業も感じて。それが見えたとき、この本の価値は確かなものになります。
「女の花道」が突然終わって以来ビームでは描いていなかった園山二美は、98年12月発売の1月号から復帰します。再開された「蠢動」と、まだ単行本未収録となっている多くの短編を、また単行本の形で読むことができるか。そのためにもこの本の売れ行きよかれと祈るのみです。
・アスペクト・アスペクトコミックス | ISBN4-7572-0258-X C0979 880円(本体) |