(「はるかリフレイン」感想の続き)

 物語は主人公・はるかと幼なじみで恋人の啓太の、幸せそうな日常から始まります。しかしそれもつかの間、朝の登校の待ち合わせ場所、はるかの目の前で、啓太は自動車事故で命を落とします。
 悲嘆にくれるはるか。悲しみもまだ覚めやらぬある日の午後、時計台が4時の鐘を告げた瞬間、はるかは事故の2日前へとタイムスリップしてしまいます。まだ啓太の生きている世界へ。
 いままでの自分の体験が夢であると、最初は思ったはるか。
 だけど同じように啓太が事故に遭い、ふたたび事故2日前へとタイムスリップするに至って、はるかはなにが起きているかを悟ります。
 どうすれば事故が防げるか。どうすれば啓太の命を救えるか。やがて現れた啓太の幽霊とともに、はるかはさまざまな方法を試みます。ふたりの運命を変えるために。

 結局、啓太は助かりません。6度目の事故のあと現れた啓太の幽霊は、はるかに感謝の気持ちを伝え、そして去っていきます。時計台の4時の鐘を聞きながら、はるかは恋人のいなくなった現実をようやく受け入れたのでした。

 読んでいる途中では、最後には啓太は助かるのかと思っていました。最後まで読んで、この作者がそんな甘い物語を書くわけないことに気づくまで。
 それがどんなに大切な人間でも、死んでしまった人は還らない。この当たり前で大事なテーマを丁寧に描く作者の筆致には、しかしいつにない優しさがあるように感じます。
 5度目まで直接の加害者だった自動車事故のドライバーは、最後にその立場から救われます。
 そして−−読み返して気づいたのですが、第1話、はるかのひいたおみくじは「末吉」でした。「くり返し困難が訪れるけど、努力と根性で乗り越えろ」−−啓太は還らなかったけど、このおみくじは外れてはいない。少し甘すぎるかもしれないけど、そう解釈することにしたいと思います。

 伊藤伸平のベストだと思います。いままでの作風を期待して読むと、少しあてがはずれるかもしれません。でも、読んでみてください。

・白泉社・ジェッツコミックス  ISBN4-592-13320-X C9979 530円(505円)

元に戻る