単行本感想[3]

*単行本の価格は購入時のものです


宇宙家族カールビンソン(1〜13)/あさりよしとお ZERO(上・下)/松本大洋
パパゲーノ/坂田靖子 ライヤー教授の午後/高橋葉介
夏待ち・ドッペルゲンガー・光の庭/あとり硅子 GREY/たがみよしひさ
カルバニア物語(1〜3)/TONO インドにて/仲能健児
がらくた屋まん太(全5巻)/能田達規 ばんえい駆ける(1巻)/いわしげ孝

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宇宙家族カールビンソン(1〜13)/あさりよしとお

 その昔まだ学生だったころおおみそかに帰省したら、駅近くの工事現場のフェンスにサンドウォームとショベル・マウスが描いてあったことがあった。あのときはびっくりしたなあ。

 あさりよしとおがまだ無名だったころに始まったこのまんがは、結局掲載誌が廃刊になるまで10数年続きました。
 その間にあさりよしとおはワッハマンを描き、まんがサイエンスを描き、しまいにはエヴァのキャラクターデザインまで。でもまんがのほうはちっとも進んでません。コロナはいくらか成長し、へんな登場人物は増えつづけ、思わせぶりなエピソードもいくつかあったけど。絵柄もだいぶ変わったけど。
 ラストシーンを見てみたいという気持ちの一方で、これはもうこのままでいいんじゃないかとも思います。中断しておしまいという終りかたは、なにかこのまんがには似合っている気がするし。

 いちおう紹介しておくと、内容はほのぼのコメディSFといえばいいのか。とくに最初のうちは、けっこう腰の抜けるようなギャグがたくさん出てきます。あさりよしとおらしく若干皮肉も効いています。何も起こらないマンガに我慢できる人なら。

・徳間書店少年キャプテンコミックス  (1) ISBNなし        370円
(2) ISBNなし        370円
(3) ISBNなし        370円
(4) ISBNなし        370円
(5) ISBN4-19-839070-3 C0079 380円(369円)
(6) ISBN4-19-830080-1 C0079 380円(369円)
(7) ISBN4-19-831030-0 C0079 390円(379円)
(8) ISBN4-19-832080-2 C0079 390円(379円)
(9) ISBN4-19-833070-0 C0079 390円(379円)
(10)ISBN4-19-830033-X C9979 410円(398円)
(11)ISBN4-19-830087-9 C9979 410円(398円)
(12)ISBN4-19-830137-9 C9979 410円(398円)
(13)ISBN4-19-830171-9 C9979 420円(400円)

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ZERO(上・下)/松本大洋(新装版)

 ミドル級で10年間無敗のチャンピオン・五島雅。「壊れない玩具」を要求してやまない彼の29回目の防衛戦、若く最強の挑戦者トラビスとの一戦に、物語の半分以上がさかれてます。

 興をそぐといけないので、これ以上説明はしません。天才ボクサーを天才が描いたまんがです。「ピンポン」読んで鼻血出した人は、絶対に読む価値あり。

・ビッグスピリッツコミックススペシャル  (1)ISB14-09-184734-X C9979 900円(874円)
  (2)ISBN4-09-184735-8C9979 900円(874円)

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パパゲーノ/坂田靖子

 ファンならだれもが知ってることだけど、坂田靖子にはまった人は泣きをみます。
 なにせ単行本が多い。それもただ多いんじゃなくて、タイトル数がやたら多い。キャリアが長いから絶版になったのも多い。そのうえあっちこっちの出版社から出てる。たまったもんじゃないです。

 「パパゲーノ」はファンタジーまんがです。一般的にファンタジーまんが家というイメージを持たれているだけあって、坂田靖子はたくさんファンタジーを描いてるけど、一番のお気に入りはこれ。
 題材はオリジナルなファンタジーあり、夢ものあり、アンデルセンあり、子どもごごろやおとめごころを扱ったものありとこの人らしくバリエーション豊かで、どの短編もつぶが揃ってます。感動したりショックを受けたりはしないけど、気が向いたときに何度でも読める。薄焼き菓子のようなまんがです。

 坂田靖子は実際にはいわゆるファンタジー以外もたくさん描いてます。「バジル氏の優雅な生活」はイギリスものだし、「伊平次とわらわ」は和風妖怪ものだし、ジュネにホモまんがも描いてます。竹書房系4コマ誌に絵日記まんが描いてたりもしてたっけ。

・偕成社ファンタジーコミックス ISBN4-03-014320-2 C0079  880円(854円)

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ライヤー教授の午後/高橋葉介

 「学校怪談」でベテラン健在ぶりを見せる高橋葉介の初期中編です。
 デビュー当初は絵も作風も湿り気たっぷり入ってた高橋葉介は、やがて筆をペンに持ち替えて技巧派へと転じるけど、これはまだ筆で描いてたころのまんが。とはいえ湿り気がだいぶ抜けて、ずいぶん読みやすくなってます。

 内容はファンタジーには違いありません。でも、かわい目の主人公やへんなギャグと、血まみれや死体やグロテスクなものどもが混在する、この人独自のものです。そもそもこの絵に耐えられる人からして限られるかもしれない。
 高橋葉介はのちにホラー作家として有名になるけれど、個人的にはこれや「腹話術」「仮面少年」あたりの初期作品が一番気に入ってます。「腸詰工場の少女」はまた違った意味で特別な本なんだけど、この話はまた別のところで。

 ベテラン健在ぶりとか言いながら、実はいかんことに「学校怪談」まだ読んでません。早くなんとかせねば。

・朝日ソノラマ・サンコミックス  ISBNなし 380円

 (現在は全集版のほうが入手しやすいと思います)

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夏待ち・ドッペルゲンガー・光の庭/あとり硅子

 まんがの数は多すぎて、どんなまんが家がいてどんなまんがが出ているか、ひとりではとても追い切れません。カバーするには信頼できる−好みに共通した部分のある−人たちからの情報は必要だし、とてもありがたいものです。
 あとり硅子はそうやって教えてもらったまんが家のひとりです。

 あとり硅子のまんがの特徴は、やさしい視線と小気味よいユーモアセンスにあると思います。こういうこっ恥ずかしい言葉を臆面もなく吐けるくらい、この人のまんがは読む人の肩の力を抜いてくれます。
 登場人物はなかなかバリエーション豊かです。失踪して帰ってきたら記憶喪失だったり、極端にプレッシャーに弱くてすぐ倒れたり、勉強・スポーツともに優秀だったり、元気だったり病弱だったり、人間だったり狐の精だったり人魚だったり。はては幽霊だったり宇宙人だったり。舞台も現代だったり一昔前だったりファンタジー世界だったり。
 そういった登場人物たち、巻き起こす奇妙なできごとども。自分勝手だったりいろいろと煩悩豊かだったりする彼らを、作者はリズムよくギャグも交えて描いていきます。それがなぜか淡々とした印象を与えるのは、何を主張するわけでもなくただ物語が物語として書かれているため、それからどの登場人物も好意的に描かれているためでしょう。
 3冊とも寝つけない夜に、ナイトキャップがわりに少しずつ読みました。そういう本です。

 派手さはないし、刺激的でもないけど、このまんがたちがもっと広く読まれることを願ってやみません。いいまんがなんです、ほんとに。

・夏待ち
 新書館ウイングスコミックス  ISBN4-403-61406-X C0079 520円(505円)
・ドッペルゲンガー
 新書館ウイングスコミックス  ISBN4-403-61430-2 C0079 520円(505円)
・光の庭
 新書館ウイングスコミックス  ISBN4-403-61478-7 C0979 520円(505円)

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GREY/たがみよしひさ

 たがみよしひさで一番有名なのは「軽井沢シンドローム」か「NERVOUS BREAKDOWN」だろうと思うけど、たがみよしひさは実際はSF・伝奇ものをたくさん描いてます。どちらかというと「滅日」のような伝奇ものの方が多いけど、この「GREY」は純然たる近未来SFです。

 スラムのような町に暮らす人々。彼らが「市」に入り「市民」となるためには、戦士となり敵を倒し、生き残り続けないといけない。
 最初の戦闘で死んだ恋人の弔いのために戦士となった主人公・グレイ。その強さと、何度となく部隊ただ一人の生き残りとなったために「死神」と呼ばれた彼を狂言回しに、物語は進んでいきます。
 次第に明らかになる世界の構造。なぜ町によってこんなに装備がちがうのか。なぜ巨大なレジスタンス組織があり、存在を許されているのか。それらすべてを管理している、「市」の中央管制コンピュータの意図は。
 容赦なく斃れる登場人物たち。壮大な構成、ラストに近づくにつれ色濃さを増す終末感。かなりハードな内容のこのまんがは、文句なく一級品のSFだと思います。

 たがみよしひさには同系統の「メタルハンターズD」というまんがもあります。こちらも読む価値はあるけど、出来は「GREY」が上です。SFまんが史上に残っていいまんがです。

・徳間書店・少年キャプテンコミックス  (1)〜(3)ISBNなし 370円

 (現在は愛蔵版のほうが入手しやすいと思います)

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カルバニア物語(1〜3)/TONO

 わりとよくある架空王国もののファンタジーです。
 連載開始時は初めての女性国王という設定の王女が主人公だったけど、回を重ねるに連れて、幼なじみでこれまた初めての次期女性公爵である女性が主役になりつつあります。
 ほとんど男のような彼女が、ほとんど男のようであるために巻き起こす騒動譚がメインのこのまんが、コメディタッチだけどテーマはしっかりしてるし、絵もくどくなくていい感じだし、なかなかいいまんがです。

 異様だったのは、このまんがを初めて見たわたしの反応でした。
 なんとなく本屋で手にとって、表紙と中をぱらぱら見るやいきなり1・2巻をむんずとつかんでレジへ。作者も中身もまるで知らないのに。
 買った2巻を読み終えた翌日、今度は本屋を数軒まわって出てる漫画のほとんど(ねこまんがだけは敬遠した)を買いあさるありさま。
 まるで蹴っ飛ばされたようなこういう買い方、個人的にはそうそうあることではありません。いったいこのまんがの何をそんなに気に入ったのか。

‥‥それがわからなくて困惑してます、実は。絵柄がめちゃくちゃ好みとかのたうちまわりたいほど話が好みとか、そういうわけでもないのに。
 鍵は−−ひょっとすると−−目にあるような気がします。イラ姫もそうだけど、くりくりっとして光る目というのは、ことわたしに対しては異様な吸引力を発揮するようです。唐沢なをきの女の子も(ついでに言えば藤井ひまわりも)くりくりっとしてるけど、あれはそんなに光ってない。まんがの絵をみて何を言ってるんだおれは。

 とりあえず、わりとだれでも楽しく読めるまんがなのは確か。肩のこらないのを読みたいときにでも試してみてください。

・徳間書店・キャラコミックス  (1)ISBN4-19-960002-7 C9979 560円(533円)
  (2)ISBN4-19-960027-2 C9979 560円(533円)
  (3)ISBN4-19-960052-3 C9979 560円(533円)

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インドにて/仲能健児

 日本人ならだれもが一度は行ってみたいと思うインド。当然のようにいろんな人がインド旅行記を書いてます。
 まんがでは最近ねこぢるが「ぢるぢる旅行記インド編」を出してるけど、これは8年ほど前に連載されてたまんが。

 一見淡々としたエッセイまんがなんだけど、いかんせんインドだけに内容が淡々としてくれない。仲能健児の異様な絵が内容とどんぴしゃりで、どうにも怪しげな1冊に仕上がっています。
 このまんががねこぢるのよりすぐれているのは、ねこぢるのまんがが山野夫妻の価値観の中で閉じているのに比べ、こちらは努めて作者の主観を排しているところにあると思います。今は古本屋でしか手に入らないし、出回ってる数も少ないけど、見かけたら絶対に買い。読んでこりゃいいやと思うかなんだこりゃと思うか、どっちかは読んだ人次第ですが。

 仲能健児の本ではもう1冊、モーニングに連載された「猿王」が出ています。インドねたでもうひとつ、「ひまわり」という怪作をビームに連載してたけれど、これは単行本になってません。たぶん永遠にならない。なるとうれしいけどなあ。

・講談社・ワイドKCパーティー  ISBN4-06-176622-8 C0379 530円

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がらくた屋まん太(全5巻)/能田達規

 週刊少年チャンピオンで連載中の「おまかせ!ピース電器店」(以下おまP)の祖形ともいうべきまんがです。おまPの連載が始まったとき「ああ、この人こーゆーの好きなんだなあ」としみじみ思ったものです。

 同作者の同タイプまんがなんで、基本的に片方が気に入ったらもう片方も気にいることは間違いありません。
 どちらかといえばおまPよりまん太の方が好きなのは
 ・どっちも1話完結で、まん太のほうがページが多い(32Pと20P)
 ・まん太のほうがよりいいかげんで情けない(主人公も話も)
 ・おまPの方がハートフルなのが多い
といったあたりが理由か。3つめは掲載誌の違い(アスキーコミックと少年チャンピオン)のせいかもしれないけど、単純にギャグとアクションで押してくるほうが好みではあります。

 現在、このまんがはどうやら絶版になっているようです。でもまだ店頭ではときどき見かけます。
 おまP揃えててまん太は持ってない人、まだ間に合うかもしれません。本屋へ急げ。

・アスキー・アスキーコミックス (1)ISBN4-7561-0679-X C0379 580円(563円)
(2)ISBN4-7561-0861-X C0379 580円(563円)
(3)ISBN4-7561-0887-3 C9979 580円(563円)
(4)ISBN4-7561-1144-0 C9979 590円(573円)
(5)ISBN4-7561-1191-2 C9979 590円(573円)

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ばんえい駆ける(1巻)/いわしげ孝

 直球派の主人公・大野ばんえい。大型書店への就職初日に飲めない酒で酔いつぶれ、気がついたら介抱してくれた友人といっしょにテレクラに。そこで偶然とった電話、電話口から聞こえるかわいい声につい会う約束をしたものの空振り。
だがしかし、ある日仕事先の本屋で本を探していた女の子と会う。彼女の声は電話口の声と同じだった‥

 デビュー以来延々と不器用な男の子を描き続けているいわしげ孝。これもそんな話です。
 電話をかけてきた女性と、本屋であった女性が同一人物か。ただそれだけを確かめるために蔵書を売り払って興味のないテレクラに通いつめ、3つある「東西線のM駅」の改札を友人のカメラマンに張ってもらい、自分も毎晩終電まで別の改札に。
 思いつめた目をしたとことん男。「ぼっけもん」の主人公もそんなだったけど、こういうのを描かせるといわしげ孝はうまいです。思いつめた原因が日本の一大事であるより些細なことであるほうが、不器用さ加減が浮き彫りになる。そういう点でこのまんがは成功しています。

 このまんがは全2巻なんだけど、たぶん1巻で描きたいこと描いてしまったんでしょう。新展開に失敗した2巻はまんがになってません。1巻だけ読むにとどめておくのがいいと思います。

・小学館・ビッグコミックス  (1)ISBN4-09-183071-4 C0379 500円(485円)

 

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