単行本感想[4]

*単行本の価格は購入時のものです


サイドカー刑事/小宮政志 パープル/竹下堅次朗
仙木の果実/八房龍之助 ぼくはおとうと/小原愼司
致死量ドーリス/楠本まき いきばた主夫ランブル/星里もちる
ブロイラーおやじFX/桜玉吉 胡桃/佐藤宏之
今日のおススめ!(1〜)/新田朋子 ワガランナァー/羽生生純 

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サイドカー刑事/小宮政志

 今は亡きOPEN増刊に連載されていたまんがです。
 妻子の復讐のために悪の組織と闘う刑事が主人公。俳優だったり、研究者だったり、貴族だったりする組織の構成員との死闘が毎回のように描かれています。一見するとごくシリアスなまんがに見えなくもありません。

 でも、これは確かにギャグまんがです。
 ほとんどシリアスなストーリーのなかのところどころにはさみこまれた、妙なシーンやコマ。変なネーム。作者が狙ったのは、この微妙なずれで笑いをさそうことだったと思います。「なんか変」というあの感じ。そういう意味で、かなり実験的なギャグまんがと言っていいでしょう。
 残念ながらその試みは完全には成功していないし、成功しなかったがためになかば未完の形で話が終わってしまったのかもしれません。でもその意欲は評価したい。というより、こういう細かいギャグ好きなんです。

 小宮政志はもう1つ「世界はじめて物語」というギャグを同じ雑誌に描いてました。OPEN増刊の巻頭や表紙を飾ったこともあるのだけど、OPEN廃刊後はいまいち活躍の場に恵まれていません。
 この手のギャグ作家は雑誌としても使いにくいのかな。もっと読みたい作家の一人です。

・講談社・モーニングKC  ISBN4-06-328483-2 C9979 520円(505円)

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パープル(全2巻)/竹下堅次朗

 ヤングサンデーで「カケル」を連載中の作者の初単行本。内容は乱暴にまとめてしまえば、高校生のシリアスな性愛譚です。
 母子相姦、両性具有、同性愛、インポテンツ。いろんな業を背負った主人公3人がその業を克服していく過程を、きわどくも真摯なタッチで描いています。

 うがった見方をすれば、連載スタート時は「両性具有の美少女が出てくるまんが」という程度の設定だったのかもしれません。とにかくやたらHシーンの多いまんがです。それも(一般誌としては)けっこう刺激的なシチュエーションのが。
 でもそういう目的で読むには、このまんがはあまりに正攻法です。なかでも主人公たちがあがきながらからみあう2巻はかなり迫力があるし、ラスト前のエピソードはけっこう心に響きます。
 ストーリーにご都合主義的なところもあるし、めでたしめでたしのラストにもいまいち納得がいかないけど、「プラスチック解体高校」同様、こういう正攻法まんがにはどうも弱いのです。かわいい感じながらどこか濃い絵もわりと好みだし。
 積極的にすすめたい、というのではないんだけど。個人的にはけっこう捨てがたく思えてしまうまんがです。

・小学館・ヤングサンデーコミックス  (1)ISBN4-09-151751-X C9979 509円(485円)
  (2)ISBN4-09-151752-8 C9979 510円(486円)

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仙木の果実/八房龍之助

 ゲーム顔・アニメ顔のまんがが氾濫する電撃大王で、あきらかに異質なまんがが2つ。1つはご存じアナルマン。もうひとつがこれでした。

 八房龍之助の初単行本でもあるこの本、魔道関係に造詣が深い謎の男ジャックとその助手ジュネを狂言回しに描いた連作短編集です。
 ページをぱらぱらとめくって印象に強く残るのが黒。黒の強調された絵柄は、魔物が跳梁し髑髏の散在する世界によく合っています。
 ホラーにしようと思えばできる内容ながら、登場人物のどこかとぼけたせりふ、コマとコマの微妙な間が、妙な味をかもしだしてます。このあたりの雰囲気は初期高橋葉介を思い出させます。絵柄はぜんぜん違うんだけど、味加減がなにやら似ているのです。

 個々の短編の出来では、タイトル作「仙木の果実」が抜けていいです。作者もそう思ったから単行本タイトルに選んだのかも。
 作者自身も認めるように張りっぱなしで終わった伏線も多く、ひとつの物語として見たときの完成度には課題もあるけど、この時点で確立された作風を持っているのは頼もしい限り。モノトーンの絵と独特のセンスが完成されたストーリーと融合したとき、たぶんこの人は「異色の」まんが家として注目されるんじゃないかな。先が楽しみです。

・メディアワークス(発行)主婦の友社(発売)電撃コミックスEX  ISBN4-07-308896-3 C0979 850円(本体)

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ぼくはおとうと/小原愼司

 生きていくのはめんどうくさいことです。
 どうでもいいことに手間をとられ、会いたくもない人と関わり、大事な人は離れてしまう。自分の妄想をふくらまし、そのなかで暮らしていけたらどんなに楽なことか。
 それでもやっぱりふくらませた妄想をおりたたんで、人は生きていくしかないんです。死ぬまでは生きていなくちゃいけないんだから。

 これはまあ、そういうまんがです。事故で両親が死んで、社会人の姉とふたりでくらす夢想家の「ぼく」。つとめて周りとかかわらないようにしながら、それでもすこしずつ現実と向き合っていくさまや、姉と弟の微妙な−ときに隠微な関係やそのまわりの人たちが、うまくなく書き慣れてもいない、とてもいい絵で描いてあります。関西弁のせりふのやわからさも効果的です。
 菫画報はいいまんがだし、個人的にもお気に入りです。それでもやっぱりこのまんがは特別です。ときどきゆっくり読み返すために、本棚の一番前に置いておく。そんなまんがです。

・講談社アフタヌーンKC  ISBN4-06-314092-X C9979 520円(505円)

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致死量ドーリス/楠本まき

 フィールヤング誌に連載されたまんがです。まんがと思います。まだ。
これだけまんがの量が増えると、あちこちにまんがとしての最前線が生まれています。これはそういう最前線に位置するまんがです。

 まんがと文学と絵画の融合…表層だけすくって表現するとそういうことになります。
 コマと吹き出しというまんがの手法、モノローグを多用した一人称恋愛小説といえる内容。文字の配置には現代詩の一部に近いものを感じます。
 その文字配置も含め、いわゆるまんが的手法から遠く離れたコマの使い方、色の使い方。文字と吹き出しを消して額に入れたら、そのまま部屋に飾れそうです。
 それでもやはり、小説でも詩でも絵画でもないこれはまんがなんでしょう。手塚治虫から50年、まんが表現はここまで広がっている。そういうことだろうと思います。

 このまんがの感想や書評を書くのは勇気がいります。書いたものがそのまま書き手のふところや力量をさらしてしまうからです。この感想にしろ、書いてて内容の浅薄さにいやになりました。
 だとしても、まんが読みを自認する人なら買って読んで、好き嫌いはおいてもその評価をしておかないといけない。これはそうする「べき」まんがです。

・祥伝社フィールコミックス  ISBN4-396-76177-5 C9979 980円(933円)

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いきばた主夫ランブル/星里もちる

 「会社逃げた 社長つぶれた 給料でない…」このご時勢に実にしゃれならん出だして始まるこのまんが。刊行は1989年です。
 主人公は少女まんが家と同棲するアニメーター。でも連載開始2ページ目に元アニメーターになってしまう。仕事を探すけどなかなか口がない。同棲相手も締め切りに追われるまんが家だから、ついつい家事が中心の毎日。
 たまたま隣に住んでいたプロ意識に燃える主夫にあれこれアドバイスされ、家事の面白さにも目覚めてきた。でも、これでいいんだろうか。
 世間の常識との間で主人公が葛藤する間にも、物語はずるずる進みます…

 これが少年誌(キャプテン)に連載されていたというのが驚きです。作者は「TVのスタジオドラマみたいなの」が描きたかったそうですが。担当がえらかったのか、雑誌のふところが広かったのか。
 設定は異色だけど、内容は読んで楽しく、そして少し心にしみます。今は絶版で古本屋で探すしかないけれど、見つけたらぜひ試してみてください。良質のまんがです。
 これに限らず、宝島・徳間時代の星里もちる作品はどれもすてきなのばかり。今のも読んでるし買ってるし嫌いではないけど、いつかまたこういうの描いてくれたらなあ。そんなふうに思ってます。

・徳間書店・少年キャプテンコミックススペシャル  ISBN4-19-839120-3 C0079 490円(476円)

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ブロイラーおやじFX/桜玉吉

 そうでなくてもギャグまんがの感想は書きようがないんですが。これはまたなかなか途方にくれるしろものではあります。
 このまんが、下ネタまんがです。エロではありません。岩谷テンホーを筆頭にスポーツ紙のエロページに載ってるような、どちらかといえばそういうの系統に属します。4コマではないけど。

 ではこのまんがを下ネタまんがにとどまらせず、ギャグとして成立させてる要因は。
 ひとつは絵でしょう。基本的に桜玉吉の絵はかわいいんだけど、ときどき妙にリアルなのをはさんでみたり、脱力感あふれるいいかげんな絵を描いてみたり。このへんの呼吸はさすがにうまいもんです。
 もうひとつは下ネタまんがの約束をふまえたうえでの、着想の羽目の外しかた。話の展開もそうだし、登場人物もそうだし。おやじを紙袋に入れて誘拐する女子高生なんてのは、思いつかない人は一生思いつきません。

 ああでも、こうやって書いててもなんともどかしいことか。こんな感想読んでるひまがあったら、本屋で買って読んでください。防衛漫玉日記あたりがヒットする人は、今すぐにでも。

・秋田書店・グランドチャンピオンコミックススペシャル  ISBN4-253-10377-4 C0979 890円(864円)

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胡桃/佐藤宏之

 「気分はグルービー」「プリーズMr.ジョッグマン」の作者として、あるいは「以蔵のキモチ」の作者として知られているだろう佐藤宏之。いや、もしかしてもう忘れている人も多いかもしれないけど。
 その佐藤宏之の1990年刊行の短編集です。今は古本屋にしかないはずです。

 タイトル作「胡桃」には、小知恵の回る主人公・筒井とそのクラス委員仲間の女の子・森川、それに無口で喧嘩無敵の同級生・洋二郎が登場します。
 洋二郎が森川にほれた弱みにつけこみ、いいように用心棒扱いする筒井。その関係は筒井が森川の魅力に気付いてしまったこと、それに続いての予想外の森川の告白による、結果としての裏切りで瓦解。用心棒を失った筒井はそれまでのつけで、敵対していた不良どものおもちゃになります。
 で、この物語のラストはというと、数年後に筒井が偶然に洋二郎に再開して別れ、その後筒井が森川に洋二郎に会った話をするところで終っています。空白の数年間については説明されず、数年後筒井がどうなっているかもよくわかりません。
 別のSF短編「WHO」では、両親と一人息子の三人家族が描かれます。惑星探査から帰ってきて以来、人が変わったように闊達になった父。やがて今の父が元の父と同一人物ではないらしいことに気付く息子、父が政府機関に拘束され、彼が人間ではないと告げられて、そんなはずはないと父(と思っていたもの)をかばう二人。疑わしい存在のままの父と暮らしていこうとする二人を示して、物語は終っています。そのあとどうなったかは描かれません。
 昨年刊行された「銀の月」でも変わっていなかったこのスタイルは、不完全燃焼だとかオチがないとか尻切れとんぼとか、納得しない・不満に思う人はたくさんいるのでしょう。だけど、現実世界にはオチなんてほとんどないのです。
 現実世界をリアルに描く手法として、あるいはまんが世界にリアリティを与える方法として、わたしはこのスタイルに強い魅力を覚えます。

 内容もいいんだけど、太い描線、巧みな黒の使い方は、眺めているだけでも気持ちのいいものです。すっかり寡作になってしまった佐藤宏之だけど、ゆっくりでいいからまた描いてほしいと思います。

・小学館ビッグコミックス  ISBN4-09-182191-X C0379 500円(485円)

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今日のおススめ!(1〜)/新田朋子

 4コマです。あまり4コマは読まないほうなんだけど、これは以前1度だけ雑誌で読んだときから気に入ってました。ファミレスバイト娘が主人公のこのまんが、連載5年目にして今回ようやく単行本となりました。めでたい。

 新田朋子の描くキャラクターは表情豊かです。笑うときは大口開けて笑い、腹を立てると眉つり上げて怒る。素直な線で描かれた彼ら・彼女らが、コマの中で生き生きと動き回る。くりっとした目もなかなか魅力的だったりします。
 同作者の「バラ色カンパニー」も読んでるんだけど、こっちの方がずっと楽しく読めました。理由は単純、主人公の差につきます。ショートヘアで目がくりっとしてて大口開けて笑ってさっぱりしてて子供っぽくてビンボーであわて者で。こういう女の子は大好きです。って実世界とごちゃまぜにしてどうする。そうじゃなくって、新田朋子の絵にこのキャラクターがきれいにはまってるんです。
 「バラ色‥」のほうは女の子として振る舞う会社の御曹司が主人公なんだけど、こういう陰影のある設定はどうも合わない気がします。どうせがははと笑うなら、がははと笑って似合うほうが楽しい。

 オレンジ基調のカバーデザインも楽しいこのまんが、絵さえ好みならなにも考えずに読めます。真夏の死んだ頭でもOK。しんどいまんが読んだあとの箸休めにどうぞ。

・竹書房バンブーコミックス ISBN4-8124-5204-X C9979  (1)620円(590円)

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ワガランナァー/羽生生純

 1500円とはまた思い切った値段の設定をしたものです。しかもこの表紙。
下手くそな字で描かれた不気味な文句の羅列と、その向こうに透けて見える著者の顔は、知らずに見た人をたじろがせるに十分なしろものです。まるで「これでひるむような奴は買うな」と言わんばかり。
 内容もまたくせの強いものです。テーさん、ヨメン、一人旅という3人の浮浪者(です。ホームレスではありません。彼らは家がないのではなく、浮浪しているのです)と、3人に引きずり込まれた、イッキュと呼ばれる女性。一行4人の姿かたちもそれを描く筆致も、爽やかさとはまるで無縁です。
 登場人物たちのつじつまのあわない言動、理解不能の行動、おせじにもきれいとは言えない絵。読み始めた人のほとんどが途中で投げ出したとしても不思議ではありません。

 でも、辛抱強く読んでいるうちに見えてきたものがあります。
 見た目汚いこのまんがの底流にある無垢なもの。言葉にするとたちまち陳腐化してしまう何かが、ときにほんの少し、登場人物たちの言葉の端に見え隠れします。
 そして最終話。雑誌連載時はあまりまじめに読んでなかった−−正直、2回に1回くらいは読み飛ばしていた私は、最終話のラスト3ページを目からうろこの落ちるような思いで読み、それまでまじめに読まなかったことを後悔したものです。

 正直、単行本で読めるとはとても思いませんでした。これを単行本として刊行した編集部と出版社に、敬意と感謝の気持ちを表わしておきたいと思います。

・アスペクト・アスペクトコミックス  ISBN4-7572-0078-1 C0979 1300円(本体)

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