◆邪馬台国の殺人 (中津文彦) カッパノベルズ
津軽の旧家で邪馬台国に関係する古文書が発見された。邪馬台国九州説の権威である大学教授・倉橋浩二は、この古文書を調べるために津軽に出かけたが、田道将軍を祭る猿賀神社で他殺体で発見された。
傍らには古文書を発見した郷土史家の柳原の死体もあった。発見された古文書は田道将軍の事跡を書いたもので、倉橋浩二の甥の健次郎と邪馬台国畿内説の歴史小説家・芦川玲子は、この「田道文書」のコピーを入手して事件を調べ始める。
田道将軍とは日本書紀の仁徳記に出てくる武将で、蝦夷討伐のために東北に進撃して現地で戦死した人物だそうである。私は知らなかったが、東北では知られた人物らしい。
その田道将軍の事跡を書いた「田道文書」に何が書かれていたかというと、古代史の謎の一つ「熊襲」の正体であった。
この古文書の中の「クマソ」とは、古代中国の稲作世界の雲や雨に対する信仰を受け継いだ人々で、太陽を信仰する「ヤマト」族と対立関係にあったらしい。
この「ヤマト」と「クマソ」がと常に政権を争って抗争を続けていたのが大和朝廷であるという説になっています。卑弥呼はもちろんヤマト、それに対して神武がクマソ。
10代崇神はヤマトで、15代応神でまたクマソ政権に変わる。この交代劇が桓武天皇まで続いていく。
太陽信仰のヤマト族と雲信仰のクマソ族の対立というのはわかりやすいんですが、その後の政権の交代劇はかなり強引ですな。ただヤマト族の天智と、クマソ族の天武の対立という説は面白いかもそれません。天武天皇という人も謎の多い人ですからね。
◆博士の異常な発明 (清水義範) 集英社
発明や学者に関する短編集。中でもヒットは「鼎談 日本遺跡考古学の世界」と「野良愛慕異聞」でした。
「鼎談 日本遺跡考古学の世界」
今から約1万年後の12068年、日本の古代史を研究する学者が3人が発掘された20世紀の遺跡から当時の日本文化を検討するという話。日本列島は西暦2000年前後に一度海中に没して、一万年後に再浮上したらしい。この日本沈没については、“コマツ卿”という人物が書いた記録が残っている(笑)
また、新宿遺跡の“トチョーシャ跡”の調査では、この建造物が地上25mの高さを誇っていたことがわかり、これが太陽を崇拝する神殿ではないかと推理されている(゚o゚)
さらにさらに博多遺跡から見つかった「王さん。ありがとう」の落書きによって、古代九州に“王”と呼ばれる人物がいたことがわかり、この人物こそ卑弥呼ではないかという説が出て来たりする。
爆笑ではないけど、もう笑いっぱなしの1編でした。誰でも一度は考える、古代遺跡のとんでもない解釈を思い出して楽しめます
「野良愛慕異聞」
大量生産されブームになった子犬型のロボット。しかしすぐ飽きて捨てられてしまう。ゴミとして捨てるのにはお金がかかるので、無責任に道端に捨てられる。そんなロボット達は最後の力を振り絞って人間に愛嬌を振り撒くが、やがては力尽きて路地の奥などでゴミにまみれて死んでいく。
無責任にペットを飼い、無責任に捨てる人々。そんな人間に腹が立ったある技術者が、ロボット達のプログラムを自力で生きていけるように改造する。
しかしそのことがやがて彼らの悲しい運命につながってしまう・・・。
ペットがロボットだろうが生きていようが、無責任な人間はやっぱり無責任なんですよね。
◆箸墓幻想 (内田康夫) 毎日新聞社
奈良にある大和女子大の学生の長井明美は、畝傍考古学研究所の発掘調査のアルバイトをすることになった。発掘するのはホケノ山古墳。卑弥呼の墓という説もある箸墓古墳を含む纒向遺跡の古墳の1つで、平成七年から発掘調査が行われ「石囲い木槨」「画文帯神獣鏡」などの新しい発見がされている古墳である。
しかし、アルバイト初日から研究所の名誉顧問で発掘を指揮していた小池拓郎が行方不明になり、初瀬ダムで殺されて発見されるという事件が起こった。浅見光彦は学生時代に奈良を訪れ、小池とも面識があった事から事件の調査に乗り出した。
小池はまるで死期を予知していたように身辺整理をしていた。しかしただ1つ残された古い写真と手紙から浅見は小池の過去に遡っていく。最新の発掘調査の結果や調査に隠された事件を追いながら、飛鳥の観光と歴史の話が楽しめる1冊でした。
ちょっと本の内容から外れますが、内田康夫さんは邪馬台国畿内説なんですね。私は一応九州説なので箸墓が卑弥呼の墓とは思えません。
九州説というと、「では畿内の古墳群をどう説明するのか」と問われるのですが、九州説だからと言って、古代の奈良大和地方に勢力を持つ集団がいなかったとは言いません。むしろ九州に匹敵する勢力集団があったと思っています。ただそれは魏志倭人伝に書かれている邪馬台国ではないと思うんですよね。
邪馬台国というのは中国の史書に書かれている1つの国であって、当時の日本の情勢を正確に表しているとは思えません。考えてみてください。南北朝時代、後醍醐天皇の皇子・懐良親王は40年に渡って九州を治め、中国の皇帝(明の洪武帝)から「日本国王」の称号を貰っていました。また戦国時代の大内氏も「日本国王之印」を持って中国貿易を行っていました。それだからといって、当時の日本の権力中枢が懐良親王や大内氏だと考える人はいないでしょう。
14〜15世紀でも、それほど九州は遠いのです。3世紀に畿内の勢力が九州まで治めていたということは、とても考えられることではないでしょう。
倭人伝については、伊都国から先は伝聞によるもので信憑性は薄いと思います。邪馬台国までの行程で、対馬国→対馬、一支国→壱岐、末盧国→松浦半島、伊都国→糸島群は現在の地名に対応しているのに、そこから先はまったく一致しなくなるのは、謎というより伝聞による記述に変わったと考えた方が正当でしょう。(それでもなんとなく九州っぽい地名なんだよね)
邪馬台国の風俗習慣も南国っぽいし、邪馬台国ブランドにこだわって、無理やり奈良に持ってくる必要はないと思うんですよね。奈良には立派な古代史があるんだから。
◆鬼面の研究 (栗本薫) 講談社文庫
伊集院大介シリーズの三作目。町への交通手段を断たれた閉ざされた村、
鬼の見立て殺人、読者への挑戦、本格もののアイテムが盛り沢山の1冊。
こんな書き方をすると、いたずらに本格を気取った作品と間違われそうですが、そのすべてに意味があるところが素晴らしい。
九州の山奥にある隠れ里《鬼家荘》。鬼の子孫を名乗り、謎の伝承が残る村にTVの取材スタッフが入った。しかし、事前に取材を了解をしていた庄屋の当主が急死したことから、村人は祟りを恐れて取材を拒否する。そんな中、町へ通じる断ったひとつの交通手段である吊り橋が落ち、村は外界から完全に閉ざされてしまう。そしてスタッフが次々に殺されていく。
伊集院大介はTVのレポーター役をすることになった森カオルの付き添いとしてスタッフに参加しているんですが、何から何まで優しくて、もう憧れの1冊(^^)
ただ1つカオルくんの伊集院さんへの想いは、そういう意味の想いじゃないんですけどね。ちゃんと読めばそれは感じられると思います。
すべての記述に意味があるという本格の王道的作品です。
◆シャム双子の謎 (エラリー・クイーン) 創元推理文庫
山の頂上にある一軒家の屋敷で起る連続殺人。閉ざされた空間ものですが、その閉ざされ方が半端じゃない。
エラリーと父親のクイーン警視は休暇をカナダで過ごした帰りに山道に迷い込んでしまう。やっと抜け出せそうになった時、眼前の道路が炎に遮られているのを発見する。山火事によって下りの道を閉ざされたクイーン親子はひたすら頂上に向かうが、道路は断崖絶壁で止まっていた。しかしそこには1軒の大きな屋敷が建っていた。
暗い山道を迷ってたどり着いたら黒い屋敷があり、出てきた男は怪しい老人。ゴシックホラーそのままのような設定で思わずニヤついてしまいますが、これだけじゃありません。
その屋敷は引退した医学博士のもので、動物実験室があり、【謎の美女】まで隠れているんですよね。ここで当の医学博士が殺されるのですが、この謎解きはちょっと無理やりな気がしました。ジャンル的にはダイイングメッセージものです。
しかし、この小説の醍醐味は山火事に閉ざされた山頂の一軒家という設定でしょう。そしてなんといってもラスト。この時のエラリーはカッコイイのです!!
◆仮面舞踏会 (栗本薫) 講談社文庫
パソコン通信のアイドルであるHN“姫”は、プロフィールも明かさず、オフ会にも姿を見せないので、謎の美少女として熱狂的なファンがついていた。その姫がはじめてに参加すると言ったオフ会の待ち合わせ場所で殺されてしまう。姫が姿をあらわすのを知っていたのは、通信仲間の11人だけ。この中に犯人がいるのか?
かなり厚い本なのですが一気読み出来ます。事件の発端から解決まで、ほとんどがチャット上で展開するネット通信ミステリーとでもいえる作品。この緊張感は体験してみる価値がありますよ。
7年ぶりの再読なんですが、最初に読んだ時はネットもやっていなかったので不気味な印象だけが残っていました。冒頭で主人公が受け取る匿名の脅迫メール、白紙メール。チャット独特の言葉使い。「この世界には関わらないことにしよう」と思っていたんだけど(笑)
文章だけで成り立っている社会の面白さと怖さも感じられます。何気ない一文でも書いた人の性格が出ることってありますね。「自分が書いた文章が相手にどう伝わっているのか?」と考えると怖いです。ネット上のほとんどの文章は、文章のプロが書いてるわけではないので、とにかくあんまり深読みはしない。被害妄想になら
ないっていうのは大切な気がします(^^;)
◆あかんべえ (宮部みゆき) PHP研究所
江戸物です。
深川の料理屋「ふね屋」の娘おりんは、高熱で生死の間をさまよったことから亡者の姿が見えるようになる。そんなおりんが見たものは、ふね屋に住みつく5人の亡者だった。
それは、ふね屋の建っている場所がもとは墓場であったこと、向かいにあった寺が焼け、住職が大量の人殺しをし廷たことが発覚して逃げていたことと関係があるらしい。いったい彼ら亡者の正体は何なのか?
「あかんべえ」のシーンで、「となりのトトロ」を思い出してしまったんですが、全体の雰囲気はそんな感じです。この世のものでない者が見えてしまう少女、彼女にやさしく接する亡者達。亡者達のために真相を探るうちに、いろいろな事件が起り、やがてすべてがあきらかになる・・・。
亡者が見えてしまう人は、亡者と同じ心の闇を持っている人だというのは考えさせられますね。心に隙があると見えないものが見えてしまうのでしょうね。私は霊感0の人間なんですが、悩みがないと霊も見えないのかも。よかったよかった(^^)
◆レイクサイド (東野圭吾) 実業之日本社
市立中学を受験する子供とその両親の4組が、避暑地の別荘で受験合宿をしていた。そこへ親の一人の不倫相手が現れたことから、殺人事件が起きてしまう。
一応倒叙ものになっているので、サスペンス感と緊張感があって面白く読めます。避暑地でいきなりテニスシーン。しかも医者とテニスコーチが出てくるというのも、後から考えると意味ありげな展開かも(笑)
ずっと「このまま終わるはずはない。何か仕掛けがあるはず。」と思って読んでいたんですが、展開は普通。これはきっと、動機がとてつもなく意外なものに違いないと思っていたんですが、これも普通でした。私としてはこのあとが興味あるんですが・・・
でも評価の難しい本なんですよね。これは謎解きパズルとして読んでいいのでしょうか?
パズルとして考えるとヒントはけっこう判りやすいですし、犯人の予想もつきますよね。
ネタばれ注意→ 【 P6「道路側にテールランプを向けている」は不自然に挿入された文章なので、何かの伏線とすぐ気が付きます。ただP72「へッドライトをつけると前の道が明るくなった」は、見逃しましたね。
】
◆靴に住む老婆(「生者と死者と」) (エラリー・クイーン) 創元推理文庫
マザーグースの見立て殺人なんですが、この作品では陰惨なイメージではなく、どちらかというとギャグとして使われています。
コーネリア・ポッツは70歳になるが、未だに自身が築き上げた靴の製造会社の社長として君臨していた。彼女は2回による結婚で出来た6人の子供とニューヨークの広大な屋敷に住んでいた。しかし、その屋敷は巨大な靴のブロンズ像のある摩訶不思議な建物だった。
そしてその屋敷で、長男が2度目の結婚で生まれた弟と決闘をして殺してしまうという事件が起る。長男の銃には空砲が入れてあったはずなのに、いつの間にか実弾に擦りかえられていたのだった。ずっとエラリー達と行動を共にしていた長男にはすり替えは出来ない。いったい何が起ったのか?
ユーモア満載なので、最初に読んだ時はとまどいがあったんですが、今になって再読すると、読みやすくて面白かったです。ニューヨーク市警の捜査が甘いと感じるところはあるんですけどね。
でも二転三転するストーリーは最後まで息が抜けません。
エラリーファンには、ある意味印象的な作品・・・(-_-;)
(注)【 最初の決闘に使われた銃を調べれば、エラリーの指紋がついていないから、すり替えがわかると思うのですが? 】】
◆オランダ靴の謎 (エラリー・クイーン) 創元推理文庫
世界的資産家の老婦人が緊急の手術のために手術室に運ばれてきた。担当医が手術を始めようとしたが、その時すでに婦人は絞殺されていた。たまたま手術を見学しようとしていたエラリーは、すぐに病院を封鎖、関係者から事情を聴取する。
まずはじめに登場人物の多さに驚き。そしてその関係者は、すべて病院内にいるために、事件後すぐに事情聴取が始まるんですが、人数が多いから読んでる方も、覚えるだけで大変。でもこれも【
仕掛けの1つ 】なんですよね。
下手な作家が書いたら、すぐ犯人がわかってしまうパターンなんですが、最後まで悩まされます。
部屋に入った時に生きていた人間が、部屋から出た時には死んでいた。
その時いっしょに室内にいた人物がいたとすると、どう考えてもその人間が犯人ですよね。それが怒涛のような関係者の登場と、看護婦という職業で騙されました。
だいたい秘書が医者を偽物と気付かなかったと言うの、おかしいんですよね。
よく知らない人間ならともかく、ずっと近くにいる人物を見間違えるはずはない。
(人は五感で相手を認識するから、瞬間の印象で疑うよね)この点はずっと
「いい加減だな〜」と思いつつ読んでたんですが、それが伏線だったとは(笑) |
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