◆ ドミノ (恩田陸) 角川書店
一言で言うと、「踊る大捜査線」と「ショムニ」を足して2で割ったような感じ(笑)
いきなり見返しに大きな東京駅の地図。これだけでなにか期待させるものがありますね。
そしてイラスト付きの登場人物紹介。これもコメディを予想させますが、あまりに数が多いのでちょっとめまい・・・(^^;) こんなにたくさん覚えられるんだろうかと不安になりましたけど、印象的な登場ばかりなので、すぐ覚えられました。でも警視庁OB組は最後までわからなかったけど(^^;)
ある夏の1日、雷雨にみまわれた午後の東京駅。そこに居合わせた様々な人たちがやがて1つの事件に巻き込まれていく・・・
本当にドミノ倒しのように一つの出来事が次の騒動を引き起こしていきます。何でもないように思える小道具が、次の騒ぎのきっかけになってつながっていく展開は見事。「50cm手前」とは〜これは映像で見たいですね。しかしどうしても北条和美は江角マキコが出て来てしまった(笑)
◆共犯マジック (北森鴻) 徳間書店
人の不幸のみを予言すると言う占いの書「フォーチュンブック」。あまりに衝撃的な予言に絶望し自殺する者が相次いだことから、ついに販売自粛になってしまう。その最後の数冊を手に入れた人間達のその後の人生を、学生運動からホテルニュージャパン火災、グリコ森永事件など、昭和の大事件もを絡めて描く連作集。
最終的にはすべてが1つの結末に結びついていくという、北森氏のお得意の形になっています。でも私と同年代から上の世代なら、二〜三話でだいたい結末の予想はついてしまうかもしれないですね。
帝銀事件、グリコ森永事件などに付いては、真相を追究した本がいろいろ出版されているので、それに比べるとちょっと推理が弱い気もします。ただあらたな真相究明がこの小説のメインではないと思うので、時代を映した作品として楽しめました。
◆金雀枝荘の殺人 今邑彩 講談社文庫
お屋敷ものです。密室ならぬ密屋敷!
すべての出入り口を完全に塞がれ、さらに窓は内側から釘付けされているという屋敷の中で一族の人間6人が殺されて発見された。しかもそれはグリム童話の見立て殺人になっていた。そのいわくある屋敷に一族の人間が集まった時、再び殺人が・・・
これでもかというほど、ミステリーの趣向を詰め込んだ作品。富豪がドイツ人の妻のために建てた広大な屋敷、見立て殺人、無理心中した使用人一家の呪い、密室の大量殺人、謎の登場人物、これだけでも読んでみる価値はあるでしょう(^^)
謎解きの方は充分納得できるとは言えないけど、それ以上に楽しめる作品でした。
◆そして誰もいなくなる 今邑彩 中公文庫
女子校の演劇部が学園祭で「そして誰もいなくなった」を上演中、最初の被害者役の生徒が本当に毒を飲んで死んでしまう。直ちに上演は中止されたが、その後も脚本通りに殺人は続いていった。
脚本と同じ順番で殺されていくわけだから、その役を演じるはずだった生徒は当然警戒している。それにもかかわらず被害者になってしまうのはなぜか? わざわざマザーグースの見立てで殺人を続けなければならなかったのはなぜか?
その点が疑問になってしまうのですが、学園ミステリーに仕立てたことで解決しています。「そして誰もいなくなった」の、もう1つのテーマに重点を置いて2重構造になっている作品。
◆コンピュータの熱い罠 岡嶋二人 講談社文庫
1986年発表の作品。
結婚相談所のオペレーター夏村恵理子は、登録者のデータの整理中に、恋人の輝雄の名前を見つけてしまう。釈明を求められた輝雄は、会員数を増やすためのダミーとして、会社ぐるみで登録したことを説明する。しかし輝雄のデータはあきらかに改変されていた。いったい誰が何の目的でやったことなのか?
発表当時、いち早くコンピュータ犯罪に警鐘を慣らした内容ということで話題になった作品らしい。たしかに最近似たような話を聞きますね。というか、今やこれくらいのことは常識…? それも怖い話ですが。
岡嶋二人名義ですが、井上氏によると「最初から最後まで僕がフルでイニシアティブを取った、これが最初の作品」ということだそうです。文庫版の解説で黒田研二氏が書いている、「井上氏はミステリー界でもっともコンピュータに詳しい人間」ということが納得できる内容です。
もし私が1986年にこの作品を読んでいたら・・・、さっぱりわからなかったでしょう(^^;)
◆卍の殺人
今邑彩 創元推理文庫
今邑彩のデビュー作。東京創元社が企画した<鮎川哲也と十三の謎>の1冊として刊行された作品。この企画では12作は既成作家の作品を集め、残り1作を公募したそうですが、その受賞作品です。「いかにも」という感じの本格ものになってます。
ジャンル的には、お屋敷もの。
舞台は山梨県K市にあるワインの醸造を家業とする資産家の家で、一族12人が住む卍の形をした屋敷。その屋敷には、82歳にして代表取締役として君臨する安東いつ、その双子の娘である福子と祝子、そして福子と祝子の子供達の一家と、3世代が同居していた。そこへ祝子の養子である安東匠が婚約者を連れて帰って来た事から、連続殺人が起る。
本格物への熱意が感じられる作品で、フェアということにこだわった(こだわり過ぎたくらい?)伏線は素直で、推理の楽しみが味わえる作品です。
ネタばれ→【 イタチの剥製は単純なだけに騙されるかも。主人公に対抗しているはずの宵子が、醸造所から帰ってきた時に、なんでわざわざ送ってくれるのか、不思議だったけど、そういう意味があったんですね 】
◆ロウソクのために1シリングを ジョセフィン・テイ ハヤカワミステリ
日本では「時の娘」で有名なジョセフィン・テイのグラント警部もの第1作。ヒッチコックの「第3逃亡者」の原作だそうですが、映画を見てないのでなんとも言えません(^^;)
事件は。人気絶頂の女優が密かに借りた隠れ家近くの海岸で溺死体で発見されるところから始まります。芸能界、社交界、修道士に占星術師まで登場する、華やかなミステリー。映像になりそうな作品であるのはたしかで、充分2時間ドラマになるでしょう。
解説を宮部みゆきさんが書いてますが、これには深〜い意味があります(^^)
1939年発表の作品というと、かなり古臭いイメージを持つかもしれませんが、読んでいて、そんな感じはありませんでした。
殺された有名女優の葬式でパニックになる群衆、それを煽るマスコミ、事件のあった家を観光バスが回り、野次馬が取り巻く。まるで現代の日本の話のよう。エリカという変わり者の少女が出てくるのですが、これが最近のアニメの主人公にようなキャラで、可愛いかったです(^^)
◆ 長い腕 (川崎草志) 角川書店
第21回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
いかにも横溝的な、古い因習の残る田舎町の早瀬町。そこでは殺人事件の発生数が全国平均の20〜30倍もあり、いわくありげな旧家の屋敷には謎めいた伝説が残されている。
その町で起った殺人事件と、現代の最先端を行くゲーム業界で起こった無理心中事件。その2つを繋ぐ接点はなにか?
・・・という内容なんですが、2つの事件を結ぶキーワードが充分に解明されてない気がしました。作者はゲーム製作会社勤務ということで、ゲーム業界の裏話は面白いんですが、事件との結びつきはかなり強引。
それよりも早瀬町の事件の元になった仕掛けの方が納得できますね。納得できるというか身近で怖いかもしれません。
インターネットを使った心理トリックについては、ごくごくありふれた計略。三国志にも出てくるし、少女漫画の世界なら十八番かもしれない(笑)
【 ケイジロウのキャラの出し方は無理やりだ〜 】】
◆ 11枚のトランプ (泡坂妻夫) 創元推理文庫
劇中劇ならぬ小説の中にもうひとつの小説が含まれているという凝った構成。
第1部はアマチュア奇術クラブのショウ。第2部はその奇術クラブのメンバーの一人が書いた奇術小説がそのまま使われていて、第3部は世界国際奇術家会議の様子が描かれています。
殺人事件は第1部の奇術ショウの合間に起り、第2部の小説が伏線になり、第3部で解決されます。
第2部の小説の1編1編が、すべて伏線になっているところがすごい仕掛けです。奇術のネタがいろいろ明かされて使われているのも面白いところでした。
◆竹人形殺人事件
(内田康夫) 中公文庫
第1章がいきなり「浅見家の醜聞」なのである(^^)
浅見陽一郎は、衆議院法務委員会のメンバーである瀬木山に、料亭に呼び出される。用件は、福井県に作られた大観音像の用地取得に関する不正問題の捜査に、手心を加えてほしいというものだった。
もちろん陽一郎は断るが、そこで瀬木山側が出してきた切り札が、亡くなった浅見の父親の愛人問題だった。その証拠に持ち出されたのが、浅見の父親から愛人に贈られたという越前竹人形。陽一郎は、この竹人形の入手ルートを探るため、光彦を福井へ送り込む。しかしそこに待っていたのは、人形師の殺人事件だった。
浅見兄弟の連携プレーということで、好きな1冊です。特に第1章、父親の醜聞と、それを知った母親の気持ちを推察した陽一郎の、ファザコン・マザコン炸裂が楽しい。実は一番動揺してるのは、陽一郎本人なんですよね。さらにブラコン疑惑まで発覚。大丈夫か〜兄さん?
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