◆ 「あした天気にしておくれ」 岡嶋二人 講談社文庫
3億2千万円もするサラブレットのセシアが、輸送中の事故で骨折してしまう。弁償するためには牧場を売り払い、財産すべてを失わなければならない。そこで牧場の関係者はセシアの誘拐事件をでっち上げ、責任を逃れることを計画した。しかし事件は思いもかけない方向へ進んで行ってしまう。
あとがきにも書いてありますが、この中のトリックはいくつか先例があります。西村京太郎の作品にも同じようなトリックが使われていますよね。
そのためにに乱歩賞受賞を逃した作品なのですが、トリックを発表することがこの作品のメインではないので、先例のあるトリックでも問題なく楽しめます。ただ20年前の状況では、やっぱり受賞は難しかったかもしれないですね。最近は他人のトリック使っても、誰も問題にしないけど(笑)
倒叙もののスリルと、最後のどんでん返しが見事な作品です。
◆義経はここにいる (井沢元彦) 講談社文庫
「ヨシツネに殺される」という伝言を残して森川義行が姿を消した。森川は佐倉財閥の令嬢志津子の婚約者で、志津子の兄達を差し置いて、佐倉財閥を継ぐことになっていた。そして婚約披露パーティーの日、会場に送られた一斗樽の中から森川の首が発見された。平泉で殺された義経の首が、清酒の樽に入れられて鎌倉に送られたことの見立てなのか?
義経北行説・・・「源義経は平泉で死なず、北の地へ落ち延びた」という伝説と、殺人事件を結びつけた内容ですが、ミステリーより歴史の謎解きがメインになってます。特に中尊寺と義経伝説に関する説は説得力があって、今まで発表された解釈で一番納得できるものになっています。
井沢氏は、梅原猛氏の怨霊学の一番の信望者という感じですね。平泉に義経の墓がないというのは、考えてみると不思議。金色堂の内部の謎も、あっと驚きますよ。他にも、秀衡の念持仏である一字金輪仏の謎、覆堂、金輪閣の解釈など、日本史好きにはたまらない内容になっています。「逆説の日本史」を思わせますね。
◆大蛇伝説殺人事件 (今邑彩) 光文社
著名な油絵画家の月原龍生が滞在先の松江のホテルから姿を消した。翌日、バラバラにされた月原の死体がスサノオノミコトを祭る8つの神社で発見される。やがて月岡をヤマタノオロチと罵った男の存在が明らかになった。
歴史的に有名な出雲伝説の謎解きと、大和伝説を組み合わせたところが新しい。でも新説の展開までは行ってないですね。結論はどこに?(笑)
歴史の説明が多いから苦手な人には辛いかも。トリックは前例がありますが、それが見破られる目撃者の出し方が、いかにも本格っぽくてワクワクしました。難点はあるんですが、主人公を警察官でなく私立探偵にしたことで乗り切りましたね(笑)
ネタばれ→【 切断場所の確定方法が弱いですよね。ルミソール反応が出たと言っても、どれだけの血液を運んだのか? どのように塗りつけたのか?名刑事ものなら、そのあたりから解決の糸口を見つけそうですね。 】
◆Yの構図 (島田荘司) 光文社
東京駅に到着した上越新幹線の中で、女性の死体が発見された。さらに4分遅れで反対ホームに到着した東北新幹線でも、男性が死んでいた。そしてこの二人は、その2ヶ月前に盛岡でいじめを苦に自殺した少年の担任教師と、いじめの首謀者とされる少年の母親であることがわかる。
実際のいじめ事件をもとにした内容なので、社会問題を扱った作品の系列に入るものですね。島田荘司氏の、いじめ問題への見解というような内容になっているので、トリックなどはやや弱いところがあります。吉敷刑事の女難の始りの作品かも。このタイトルにも何重もの意味が含まれていますね。
◆どんどん橋、落ちた (綾辻行人) 講談社
「どんどん橋、落ちた」「ぼうぼう森、燃えた」「フェラーリは見ていた」「伊園家の崩壊」「意外な犯人」の6作からなる推理パズル連作集。
あとがきにもあるように「騙し」「ひっかけ」に分類されるトリックですね。頭の体操とか、ごく初期のマジカル頭脳パワー(マジカルミステリー劇場^^)など思い出してしまいました。
でも、ちゃんと考えたのは1作目だけ(^^;) 果たしてこれは真面目に読む本なのでしょうか?(笑) つい爆笑しながら読んでしまいまったんですが・・・
私としては「フェラーリは見ていた」が好き( ̄ー ̄)←意味ありげな笑い
ネタばれ↓
【 【ミステリーの起点を『モルグ街の殺人』とすれば、ありでしょうね。それに挑戦したわけか・・・。
1話目・「猿って人間の作った道通りに歩くのか?」と疑問がわいた(笑)
3話目・フェラーリって言ったら誰だって車だと思うよね。相手が勘違いしてるのに言い直さないのは、もう1つ裏があるのでは?(笑)
6話目・怪しいミステリー番組を見なれているとわかりますね(^^;) 「謎の洞窟にはじめて足を踏み入れます」と言いながら、映像は中から撮ってるってヤツ!】】
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◆声に出して読みたい日本語 (斎藤孝) 草思社
暗誦の文化は絶滅の危機に瀕している。危機を感じた著者が、歴史の中で生き抜いてきた名文・名文句を選んで編集した本。
たしかに声に出して本を読むことは、ほとんどなくなりましたね。昔はわざわざ「黙読」という言葉があったほど、声に出して読むことが普通だった。今は声に出して読むことは、悪いことのような気さえしてしまいます。イントネーション、リズムの変化はこんなところが原因なのかも。昔の論語教育などは意味もわからず暗誦するところから入ったんですよね
この中には、万葉集 漢詩 落語 新国劇などから選ばれた、おなじみの一節、決めぜりふが並んでいます。くじ引きなんかして順番に読んでみると楽しいかも。
・・・って、そうやって遊んでたのは私(笑) お正月に酔っ払って読み合いしてました(^^ゞ
芝居のセリフなんかだといいけど、般若心経なんかを引き当ててしまうと正月早々暗いです(笑)
我が家でも父母、祖父母は歌舞伎や文楽、落語などの名文句は頭に入ってるようで、何かの拍子に出てきます。『付け足し言葉』に載っている、「その手は桑名の焼き蛤」「驚き桃の木山椒の木」などを聞くと、祖父母を思い出して懐かしいです。
◆ドリームバスター (宮部みゆき) 徳間書店
時空のトンネルから異次元のお尋ね者がやってきて弱った人間の夢に入り込み、その人間の体を乗っ取ろうとする。そのお尋ね者を追っているのが、これまた異次元からやってきたドリームバスターと呼ばれる賞金稼ぎだった。そのバトルを1話完結で描いた連作集。
異次元からの侵入者といっても、ちゃんと人間の形をしているのでご安心を。悪夢の中が舞台という設定のせいか、今のところ登場人物のほとんどが大人で助かります。
SF仕立てですが、書かれてる内容は現代に生きる人の心の痛みを描いていて、いつもの宮部さんらしく深くて暖かい話です。「自分の問題は、最後はやっぱり自分の力で解決しなくてはならない」「自分の傷に立ち向かう強さを持ってほしい」という願いは、たしかに『摸倣犯』などにつながるテーマだと思います。この先も大人の心の問題を描いていって欲しいです。
ところで、シェンくん、かっこいいよね。個人的趣味で刀を背負ってるキャラが好きなんです(^^ これはアニメの影響か才蔵さんの影響か?(^^)
1話目の「巨大なピカチュウが出てきたらどうする」にはウケました。私はコジロウが出てきたら嬉しい〜って、そんなこと言ってる場面じゃないが(笑)
◆神戸殺人事件 (内田康夫) 光文社文庫
神戸に取材で来ていた浅見光彦は、取材相手の松村明男と夜の神戸の街を歩いている時に1人の女性を救った。その女性はヤクザ風の男に追われていたのだが、浅見に救われた後、名乗りもしないで姿を消してしまった。
しかし翌日、松村が殺され、浅見は容疑者として警察に連行されてしまう。さらに芦屋の豪邸に取引に来ていた美術商が殺される事件が起こる。2つの事件をつなぐのは、あの夜の謎の女性であった。
例によって、浅見光彦が逮捕されそうになって正体がばれると言うお約束もありますし、悩み多い美しい社長令嬢も登場します。でもその他は意外な展開で、珍しくなかなか先が見えませんでした。それというのも、ちょっと変わった事件なんですよね。
だからこの結末は私は納得できなかったです。この手の事件はきちんと刑事事件として判決を下した方がいいのです、そうしないと禍根は断てません。このままだと、また亜希は同じようなことで苦しむことになりそうな気がします。横山も無残です。
◆そして誰かいなくなった (夏樹静子) 講談社文庫
言うまでもなく、クリスティの「そして誰もいなくなった」に挑戦した作品です。
豪華クルーザー・インディアナ号に招待された5人の乗客と2人のクルー、出航直後、彼らを殺人罪で告発するテープが流れる。さらに、サロンには乗りこんだ7人の干支の置物があり、連続殺人が起る。
ネタばれでなくては、何も書けない〜(-_-;)
とにかく「興味のある方は読んで見て下さい」としか言えません。
「そして誰もいなくなった」もそうですが、本格ものというより、趣向を楽しむ作品です。ただ一応アンフェアというわけでもないです。
【6章までは遥の手記で、主観による記述だから、「死んでいた」と書いてもアンフェアじゃないんですよね。他のヒントとしては、冷蔵庫に肉がたくさん入ってるってことだけかな? でもこれだけでは推理は出来ないですね(笑)
解決編でちょっと後味が悪くなりますが、ラストは救いがあって、そこが夏樹さんの作品だと思いました。】
◆蒼穹の昴 (浅田次郎) 講談社
清朝末期の動乱を、貧民から後宮の宦官のトップにまで上り詰めた少年と、科挙に合格して官吏に上り詰める、同郷の郷紳の息子の視点を中心に描いた作品。
難しそうかな?と思ったけど、読みやすい作品でした。ただ上巻の前半くらいまでは、面白かったんですが、その先から馴染めなかったんですよね。私としては司馬遼太郎が読めない人だから、仕方ないかと思ってます(-_-;)
同じタイプの小説ですよね。
でも、肝っ玉母さんのような西太后と、良いとこ取りの李鴻章(第二の竜馬でも作りたかったんでしょうか?)は面白かったです。
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