*** 忘れがさ ***(エッセイ民話)


             **  受けた恩 **


                   汽車で通勤していた頃のはなし、

        汽車を降りた直後に、「かさぁ 忘れとるでぇ」 と声があった、

        その声で、自分のカサがないことに気づき駆け戻ると、

        入り口でカサを差し出してくれた人がいた。

         「ありがとう」と受け取るも、1日気分が良かった。

        この世も捨てたもんじゃあねぇで・・・・・・

        受けた恩は誰かに返さねば。


** 小さな親切 **


                         汽車はここで折り返しだった。

        乗り込んでふと見ると、ぐっすり寝込んでいるアンちゃんがいた、

        「オイ」 と声をかけると、目をパチクリ・キョロキョロ

        「降りるんじゃあねぇか」 と言うと、飛び上がって走り降りた。

        直後にドアが閉まり発車した。

        窓からバッグを渡したのを覚えている。


** おおきなお世話 **


                  汽車が止まり、大勢降りた後に1本のカサが残っていた。

        大声は苦手であるが、

        「カサぁ 忘れとるでぇ」 と叫ぶ、

        取りに戻ったのは若い女性で、憮然とした表情で、

        ひったくって、降りていった。

        拾ぅたのが、くたびれたオッサンですまなんだ、

        白馬の王子さまでのぅて。

        はたまた、自分のうっかりに恥じてのことか。


** 礼節 **


                  汽車が止まり、大勢下りた後に1本のカサが残っていた。

        先日の女性のこともある。

        「ほっとこうか」と思ったが、

        忘れて、困る人がいるかもしれない。

        家で、叱られる人がいるかもしれない。

        何より、わしも助けられたんじゃけぇ。思い直して、

        「カサぁ 忘れとるでぇ」 と大声をすると、

        現れたのは中年女性、おっとりと優しそうな人で、

        「有難うございました、おかげで助かりました」 と

        丁寧に礼をのべ、頭を下げた相手は他の人だった、

        そういえば、やや分厚い眼鏡をかけていたっけ、

        良ぇんじゃ・良ぇんじゃカサが本人に届けば、せぇで良ぇんじゃ。

        礼など聞かんでも、良ぇんじゃ。


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