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あーとだいありー 2003年7月後半

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 7月30・31日(水・木)

 平向功一展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
 正面の大作「末裔たちの午後〜序章〜」にまずびっくり。
 平向功一「末裔たちの午後〜序章〜」。右上の線は額縁です近年とりくんでいるシリーズ「バベルの塔」の系列といえますが、縦1.5メートル、横4.5メートルという巨大さ。こんなにでかいのに「序章」かよ、と言いたくなるほどです。
 「ほんとはもう1枚つなげるつもりだったんですが、この壁におさまりきれなくて」
 左側には、手前のクレーンが大きく描かれ、遠近感が増しています。
 似た題の「末裔たちの午後」(F150)は、バベルの塔の周囲の風景も描かれています。使途不明の建造物がどこまでもひろがっています。
 無人のまま建設がつづく、と以前筆者はどこかに書いたことがありますが、むしろこれは、建設が途中で放棄されたとみたほうが良さそうです。
 それを証明したような絵が「前夜」(S100)という意味深な題のついた1点です。薄明かりの中にたつ塔屋の窓からあかりが漏れています。この絵の場面の翌日、神が怒って人々のことばをばらばらにしてしまい、塔の建設が中断したということなのでしょう。
 平向さんは、バベルの塔の前には、方舟の連作も手がけていました。「懲りない人類」への思いがあるようです。
 それにしても、これらは春のギャラリーDORALでの個展の後に描かれたもので、じつに精力的な制作ぶりです。もちろん、DORALでの個展で目を引いた「バベルの塔」という題の絵もありますが。
 一方、一昨年の「さっぽろ美術展」に出品された「月の輝く夜に」(F150)は、迷宮のような都市でさまざまな動物たちがうごめくさまを描く、別のシリーズです。猿がオレンジ色の電車に乗り、カメレオンが舌を出し…というぐあいに、それはにぎやかです。筆致はリアルなのに大きさがばらばら(カメレオンが象よりでかかったりする)で、建物があちこちにかたむいているので、めくるめくような感じです。
 「動物だけじゃなくて、もっといろんなものを出していきたい」
 この2、3年、バベルの塔のシリーズにかくれていた迷宮都市シリーズですが、まだつづくようです。
 「ほかにもいろいろ描きたいアイデアはあるんですけど。計画倒れになっちゃってるものもあるし」
 平向さんは札幌在住、道展会員。
 関連テキスト:■4月の個展

 きょうは大量にありますので、あとはかんたんにいきたいと思います。ご諒承を。

 十河幸喜展=同
 その平向さんの友人で、洋画を描く十河さんです。
 先の主体美術北海道展で「罪」の一作を見て、筆者は、メーンのモティーフを、船のへさきみたいだとしるしましたが、どうやらこれは、角張った形にデフォルメされたリンゴのようです。芯にあたる部分が、金属みたいになってるけど。
 これは筆者の深読みだと思うのですが、角張ったリンゴって、どうしてもセザンヌを思い出しちゃうんですね。セザンヌ自身は角張ったリンゴを描いてないけど、あの有名な、自然を円筒形と球と円錐形によって扱え−ということばが、20世紀絵画の出発点のひとつになったことを想起すれば、このリンゴ? は、あたかも近代絵画全体の壮大なパロディーのように風景の中に屹立しているようにも見えてくるのです。
 作品によっては、そのリンゴに、金色の蝶がおびただしく重なり、歓喜の歌を奏でているようです。
 函館在住。主体美術会員。

 武藏未知彫刻展=同
 原木のかたちを生かした抽象木彫が「夏の庭」など11点。
 自然な丸さのある部分とシャープな直線が共存しています。
 渡島管内森町在住、道展会友。

 MSB展=同
 武蔵野美術大の同窓生による展覧会。MSBは「ムサビ」の略です。
 意外にも工芸の作家が多いです。バリ島ろうけつ染めの中田ゆう子さんも出品していました。ただ、ふだんどこで発表しているのか、名前の知らない人が半数ぐらいいました。
 絵画では、木路毛五郎さんの墨絵みたいな作品、このたび全道展会友になったやまだ乃理子さんのあいかわらずにぎやかな「レクイエム」、阿部國良さんの抽象画「記憶の箱(風が透き通った日)」などがあります。いつもは自分の名前をひらがなで表記している阿部さんは、3点の副題が
「5月4日 SAKURA」
「9月11日 NEW YORK」
「8月9日 HIROSHIMA」
です。
 たしかに、風化させてはいけない「記憶」なのかもしれません。

 いずれも8月2日まで。

 今村とおる彫出物展=ほくでん料理情報館MADRE(中央区北1東4、サッポロファクトリー1条館3階)
 今村さんは、トリケラトプスだの、原核生物だの、舌をかみそうな名がついているアンモナイトだの、ミトコンドリアだのを、木彫で制作する人です。
 大きさは実物と比例しておらず、ミトコンドリアのほうが恐竜より大きかったりします。着彩はほどこされていません。
 こんなものを木彫にして、だからなんなんだ−という感じもしますが、色がないのでめんこい(かわいい)です。
 初期の両棲類イクムオステガは、説明に「水から離れられない」とありましたが、よく見ると前脚にペットボトルを持っています。このあたりも、あなどれなかったりします。
 31日で終了。

 第15回朋彩会展札幌市民会館2階ギャラリー(中央区北1西1)
 岸本裕躬さん(札幌、行動展会員)の教室展。水彩画グループですが、一部パステルもあります。
 その中では、「春色のソナタ」と題した横田百合子さんのパステル画に、ただチューリップを写生するだけではない、画面構築への意志を感じました。小田島謙次さんは「廃屋bT」などで、丹念に対称を見詰めています。
 8月1日まで。

 もう朝だ。とりあえずアップ。以下明日。

 7月29日(火)

 「アート本情報」に、一気に11冊の情報を追加しました。読んだうえの情報は、1冊しかありません。やれやれ。本を読むヒマがない。

 小川智彦展 「海」と「海だった場所」=ふるさと物産館ビューロー(空知管内南幌町中央1)

 会場には、みっつの三脚に固定したリバーサルフィルム計5本が、横に長く展示されている。
 ビューワーはないが、窓ぎわに置かれているため、海と水田が写されているのがわかる。プリントではないので画像はちいさく、詳細までは読み取れない。ただ、プリントされたものがノートに貼られ、テーブルの上に置いてある。
 展示は以上だけ。インスタレーションとしてはいささかさびしい感じがしないでもないけど、コンセプチュアルアートだからこれはこれでいいんでしょう。
 会場には、つぎのような紙が貼ってあった(写し間違いがあったらごめんなさい)。 
  「海」と「海だった場所」

 どれくらい昔のことか知らないが、この辺りはかつて海だったのそうだ。
 そのことが洪水の古い写真を見ていると、次第に、そのことを疑っていた訳ではないのだけれど、とたんに事実としてイメージできるようになってきた。
 今、「古い写真」と書いたのだけれど、写真の古さはこの場所が海だった事(ママ)の
「古さ」とは比べようもない程新しい。
 「古い写真」が撮影され時と「南幌が海だった」時の二つの風景にはどれ程の隔たりがあるのか。
 今日展示した作品はそれを確かめる為に制作した。
 時間を遡ることは出来ないので、同じ時間帯の「海」と南幌の「水田」を比較することにした。
 今回はこんな発見があった。

 1 フィルムを一本使いきる短い時間の間、波は何度も打ち寄せるが、初夏の稲はそんなには動かない
 2 海と水田では聞こえる音が違う。海では波の音が聞こえるし、夕暮れの田んぼでは波の音に負けないぐらい蛙の声が聞こえる。どちらも辺りに充満している。
 3 早朝の海はとても静かで美しいが、早朝の水田も同じくらい静かで美しい。

 たったこれだけの発見だって作品を制作することをしなかったら、出来ないことかもしれない。

 念の為言っておきたいのだけれど、作品は「南幌が昔海だった」ことを証明しているのではない。作品を制作することはその事実から遡って自分の新しい事実を発見することなのだ。
 例えそれがあまり重要でない発見だとしても、そんな小さな発見をすることはとても大事なことだと思っている。

              2003年7月
              小川智彦
 凡庸なフィルム5本が「美術作品」になるためには「文脈」が肝要だということがわかる。

 以前も書いたとおり、札幌から南幌へは、中央バスがいちばん速い(約45分)。
 札幌からだと、いろいろ南幌町内のバス停にとまった後、バス待合室などからなる複合施設「ビューロー」に停車する。会場は、その施設の4階。
 8月2日まで。

 7月28日(月)

 辻徹個展 朱のうつわ・黒のうつわ=美しが丘アートギャラリー(清田区美しが丘2の1)
 札幌出身、東京藝大を経ていまは茨城県で漆器づくりにとりくんでいる作家の、札幌では4年ぶりとなる個展。
 漆器。しぶいです。見方がよくわからんですけど(^_^;)、小皿や小鉢、香合などのほか、テーブルなど大きいものもあります。
 素人なりに見たところでは、わたしたちが食器売り場でよく目にする味噌汁用のおわんにくらべると、厚く漆で塗り固めるというよりは、素材である木の質感をいかしたつくりになっていると思いますが…。
「おっしゃるとおりです。もともと木が好きで、そこから入ったものですから」
と辻さん。木工のほうもすべて自分の手でおこなっています。
 素材は、おもに茨城でとれるクリと山桜。見た目よりもずっとかるいです。
 「漆が良いのも、茨城に住んでいる理由」
ということで、漆は、職人さんに直接分けてもらっているそうです。
 朱、黒のほか、錫粉を塗ったものも。鈍い光沢をはなち、一見金属器のようです。
 漆というと、塗るのが大変というイメージがありますが、
「塗るのは基本的に3回。それよりも塗った後で磨くほうがむずかしい。紙やすりのやすり部分だけをつかったり、いろいろやっていますよ」
 
 8月3日まで。このギャラリーとしてはめずらしく週末以外もあいていますので、ドライブがてらどうぞ。ただし30、31日はお休み。
 作家のサイトはこちら
 余談ですが、辻さんは高校時代、伊藤隆介さん(映像作家。札幌)とおなじクラスだったそうです。

 さわやかな黄色の釉薬のうつわなどでしられる滝川市江部乙町の陶芸家、大野耕太郎さんが、濱田庄二賞を受賞、8月9日−9月7日に茨城県の益子陶芸美術館で「濱田庄二賞・加茂田章二賞受賞者展」がひらかれます。
 おめでとうございます。

 
 7月27日(日)

 讃雪の街さっぽろ 中野潤子写真展富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館)
 従来、雪の写真といえば、つぎに挙げる種類のものが多かったように思います。
  1. 雪の造形美に的をしぼったもの
  2. つらい冬、人びとはどうやって過ごしているのかに焦点をあてた、社会派的な写真
  3. その反対に、さっぽろ雪まつりなど、人びとがいかに冬や雪を克服しているかの現状をとらえたもの
 しかし、この個展は、そのいずれにもあてはまらないのが、大いに気に入りました。
 たしかにうつくしいのだけど、雪原の曲線とか、雪道のわだちの線などばかりうつした写真展ではない。かといって、「この下に高田市」みたいな調子で、雪の下で人々がうめいているという構図も、21世紀から見るとややふるめかしいと思います。
 雪の害をかなりの程度までやり過ごせるようになったこの札幌の街で人びとが楽しんであるいている−という、いまの時代にマッチした写真って、これまで意外となかったんじゃないでしょうか。
 「青磁の硝子<近代美術館>」は、同美術館がガラス工芸の収集に力を入れていることにひっかけた題なのでしょう。わざと逆光気味に、2階のロビーで思い思いの時をすごす人びとをとらえています。
 「のこり雪紫彩<南2西3>」など、とくに雪景色、というほどのものでもなく、むしろ主役はおしゃれなビルのガラス張りの壁です。早いたそがれ時の空気感を、やや青みがかった色調でとらえたのがうつくしい。
 晩秋や早春などの雪の美を提示してみせたのも新鮮です。「残された朝<北星女子高校>」は、芝生の上で消えそうになっている晩秋の雪と、洋館の黄色い壁との色彩の対比の妙があります。「ささめ雪舞う<北大構内>」も、まだ紅葉ののこっている季節の雪のおもしろさが眼目でしょう。ほかにも、厳冬期でないころの写真がかなりあります。
 もちろん、「逆風鳴る<南21西10>」のように、激しい降雪のなかを走る路面電車をとらえた厳冬期の作品もあります(通常なら邪魔になる架線のたぐいをあえてたくさん画面に入れて逆に動感を出しているのはさすが)。
 そして、見落としてならないのは、この作者がきちんと三脚(一脚かもしれないけど)をかまえて撮っているということでしょう。冬は暗く、昼間でも油断していると手ぶれします。雪の日など、絞りを開放にしていてもシャッタースピード1/15がやっとというのは、ざらです。これだけ被写界深度が深いのにきちんとピンが来ているのは、しっかりカメラをかまえてスローシャッターを切っているからにほかなりません。スローシャッターだから撮れた作品もかなりあります。
 札幌の町も、まだまだ撮りようがあるということをあらためて確認させてくれた、よい写真展でした。すべてカラーです。
 8月3日まで。

 廣島経明個展ing ―ENERGY44―=ウエストフォー(中央区大通西4、カメラの光映堂本店2階)
 2連のローライフレックス型カメラで撮影した立体写真を簡便に見られる「3-D View Box」の発明者である札幌の廣島さん。
 今回の個展にならんでいるのは、赤や青のうつくしい光がうかぶ、まさに抽象画の世界。
 合成もせず、偏光フィルターのたぐいもいっさいつかっていないというからおどろきです。
 窓のちかくのテーブルにビー玉やグラスなどを置き、その光をうつしこんだ写真だということです。「瑠璃色の地球」と題された1点など、どこまでも青がふかく、幻想的で、うっとりします。
 「デジタル全盛だけど、銀塩でこれだけやれるんだということを証明したいですね。会社を辞めたり、しばらく元気がなかったんですが、これらの写真を部屋にこもって撮り始めてからやる気が出てきました」
 サイトはこちら http://viewbox.eheart.jp
 31日まで。

 礒邉春美 タペストリー展=コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階)
 国際的に活躍する京都の染織作家。
 インスタレーションふうに、うすいタペストリーを天井から5枚互い違いにつるした「愛しきものたち」と、さまざまな植物の学名を切り抜いた紙の列と、庭園を思わせるうつくしいタペストリーを重ね合わせて展示した「フローラに捧ぐ」が、もっとも印象に残りました。
 植物の学名は、日本で絶滅したか、絶滅に瀕している種の名前なのだそうです。
 それと、色あざやかな、モネの絵を思わせるタペストリーとの対比。
 しかしよく見ると、タペストリーには、新聞のチラシをこよりのようにしたものや、ごみまでが織り込まれています。
 地球環境への危機意識−、とことばにしてしまうと陳腐になってしまいますが、そういうことばにおさまりきれない作者の大地にたいする思いが、会場からしずかにつたわってくるようでした。
 8月3日まで。

 ボビンレース 佐熊登貴子展 Soft SCULPTURE展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
 いわゆる糸によるレースもありますが、およそ半数はステンレスを編んだ作品。支えつきではありますが、薄い金網が空中にうかんでいるようで、たしかに「やわらかい彫刻」という形容はあたっているような気がします。

 府川比呂志バードカービング展=同
 シマフクロウやミヤマカケスなど。あまり新鮮味のない感想ですいませんが、剥製といわれてもわからないくらい精巧です。
 札幌在住。
 http://bcrt.hp.infoseek.co.jp/

 いずれも29日まで。

 第4回プチノール=札幌市資料館(中央区大通西13)
 久保田道子さんはナイフを効果的につかった海外の風景、黒田博子さんはおなじ版で色を変えて刷るなどした銅版画、鶴江和子さんは逆光がさしこむ家を描いた油彩、畑敬子さんはやわらかな色調の静物画や裸婦像など。それぞれ個性をいかしたグループ展です。
 27日で終了。

 7月25日(金)

 まず、訂正とおわびから。
 ギャラリー響(「きょう」と読むのだそうです)の須見さんからおはがきがとどき、15&16日の項に書いたOPEN展終了日が誤っていたとのこと。27日で終了です。ご迷惑をおかけしました。
 「ギャラリースケジュール」のほうは、ただしい日程になっています。
 8月8日から「石原昭治さんのポストカード展」とはがきにありましたが、何日までなんでしょう?

 25日はカルチャーナイト。
 ふだんは午後5時に閉まう官庁や放送局などを夜遅くまで開放し、子供も夜更かししていろんなところへ行ってみよう! という、初めての催しです。
 個人的には、裁判所に行って法服を着てみたいとか、管区気象台を見学したいとか、いろいろ希望はありましたが、とりあえず関連企画の「カルチャーナイトフィーバー」へ。
 これは、道立近代美術館、知事公館、かでる2・7、道庁赤れんが庁舎の4カ所で、道内の若手映像作家15人の新作を上映するというもの。
 筆者は、近代美術館に行きましたが、ここが全国の美術館でも映像作品の収集、発表にかつて有名だったことを思うと、けっこう感慨深いものがありました。
 さて、上映作品はつぎのとおりです。
近藤寛史「ONE WAY」(5分)
中川仁史「緩やかに」(1分)
吉川貫一「SOTOZURA」(10分)
広島祐介「Garden」(2分)
徳田直之「アダマンデヴァ 〜創唱〜」(記載なし)
河原大「アート!!!」(1分)
木村泥太郎「中二階のためのビデオアニメーション」(4分)
佐竹真紀「そらいろ」(1分)
坂井抄織・篠田健「オハナビ」(5分)
山本雄基「石膏像遊び」(2分)「hallway」(3分20秒)
久野志乃「記憶光」(3分)
奈良岡理恵「昼下がりの記憶」(5分)
寺林陽子「ozone apparatus」(6分)
 「オハナビ」までの9作品がデジタルビデオ、のこりが8ミリフィルムです。
 このほか、参加者が、上映中でまわっている16ミリフィルムにマーカーなどで直接色をつけていく、大島慶太郎さんのワークショップ「LIVE FILM PAINTING」がおこなわれました。
 近藤さんは、大村敦史さん、近藤さん自身、小川ゆうさん(漢字分からん、スマン)の3人の映像を編集したもの。大村さんはおもに文字を配置して絵のようにした画像、近藤さんはスーパーマーケットや図書館の実写に手を加えたもの、小川さんはCG−というぐあいに、まったくことなるタイプの映像をつなげていながらそれほど違和感がないのは、近藤さんの編集のノリのよさが一因でしょう。
 広島さんは、頭部が立方体という空想上の動物が切り株の上で昼寝しているところを少女が起こしにゆくというアニメの短篇。手慣れた絵はプロ級。
 河原さんもセルアニメふうCG。少女がデッサンしていたうつくしい風景が一瞬にして灰色の工場に変わるという、これまたプロっぽい短篇です。
 佐竹さんは、おとくいの「写真アニメ」。プリントされたたくさんのカラー写真をコマ撮りしてアニメにして見せるという技法で、プールの上に広がる青空をはさみで切って、紙飛行機にするというしゃれた作品。
 坂井さんは、これまでわりと、ドキュメンタリーっぽい素材を手慣れた編集で見せるという作品が多かったのですが、今回は、オオウバユリみたいな花が暗闇から灯りで浮かび上がり、その周りで中国語みたいな言語が飛びかうという、なんだかふしぎな作品でした。
 山本さんの「石膏像遊び」は、人形アニメの技法で、十数体の石膏像をうごかしてみた作品。学校の屋上みたいなところで石膏像がぐるぐると回っているのは、単純だけどおかしいです。「hallway」は、学校の廊下をひたすらぐるぐる回って撮ったフィルムを早回しした作品。BGMの鼓の音が途切れると映像も一瞬止まるのが、これまた単純だけど笑いを誘います。
 奈良岡さんは「昼寝をしたときの心地よい感覚を感じてもらえるとうれしいです」とのコメントのとおり、風に揺れるカーテンや洗濯物などをうつした1編。視点(カメラ位置)が低いのが、子供のころを思わせる原因でしょうか。

 さて、佐竹さんの作品の最後に、知事公館であなたの紙ひこうきをつくって−とかいう知事公館の庭字幕が出たので、となりでもあることだし、行ってみました。
 紙飛行機なんだからきっと庭だろうと思っておそるおそる入ってみましたが、さきほどまでおこなわれていたこどもミュージカルの舞台装置がライトに照らされているばかりで、人の姿はありません。
 うろうろしていると、昨年設置された安田侃作「意心帰」の前をとおり、三岸好太郎美術館の前に出ていました。
 筆者は、三岸美術館側と、知事公館側は、沢で区切られていて行き来できないものとばかり思っていましたが、公館は、庭も室内もふだんから一般公開してるんですね。知りませんでした。
 それにしても、都会のど真ん中に、ほとんど原始のままの森がのこり、そこを夜中にうろついているというのは、なんともふしぎな体験です。
 庭をひとめぐりして建物の中にはいります。
 さすがに歴史的建造物です。由緒ある洋館の趣です。
 木田金次郎、田辺三重松、岩橋英遠といった画家の絵があるのも意外でした。どうせ道の所有なんだから、掛けっぱなしにしてないで、たまに道立近代美術館で展示すればいいのに。
 紙ひこうきコーナーは2階の1室にありました。筆者も、青空の模様がプリントされた紙でひとつこしらえてきました。


 
 7月24日(木)

 南風香る 琉球ガラス村 平良恒男ガラス工芸展=工芸ギャラリー愛海詩(えみし=中央区北1西28)
 これはきれいです。「深海」シリーズのうつわは、なかをのぞきこむと、真っ青な世界がひろがり、うっとりします。
 27日まで。

 小坂英一個展=オリジナル画廊(中央区南2西26)
 「光」は、幅数ミリ、長さ数センチのくぼみが、58×353個規則正しくうがたれ、そこに色鉛筆かなにかで彩色されている、まことにごくろうさまな作品。色に規則性がないので、ますます「ごくろうさま」な感じがつよいです。
 8月2日まで。

 友岡幸代写真展 −slow and through-=円山社中(中央区南4西23)
 額装して壁にかけている写真が7点、ほかに窓際にならべているのが10点あまり。いずれもカラーです。
 壁にかけているほうは、いずれもピーカンの晴天時に海岸かそのちかくで撮影したもの。
 真昼の晴天は、コントラストが強すぎて、ラティチュードの狭いリバーサルフィルムにはつらい条件だけど、なんとかモノにしています。防波堤に自転車が置いてある1枚など、どこかで見たことがありそうなのにもかかわらず、自転車のフレームの赤と防波堤に曳かれたペンキの赤が共鳴して、鮮烈な印象をのこします。
 29日まで。

 佐藤正人・イラストカフェ展カフェ・ルネ(中央区南4西22)
 かわいい! 子供たちが川辺や草原であそんでいるイラストなどが展示されています。あかるい色調は、見る人の郷愁をさそいます。
 7月中で終了するという案内状も一部には出回っていますが、8月5日まで。

 第八回漆工房まほろば 府川晃 木のうつわ展=ギャラリー紀(中央区南5西24)
 おもにタモの木を材料につくりあげた、高杯や角皿などの端正なうつわ。漆を塗ってはふき取り−という工程を丹念に繰り返し、木目のうつくしさをひきだしています。
 府川さんは、胆振管内大瀧村在住。
 29日まで。26、27、29日は作家材廊。

 第1回 グループ櫂展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
 梅津薫(岩見沢)、斎藤嗣火(札幌)、福島孝寿(同)、川本ヤスヒロ(石狩)、渡辺貞之(深川)、田崎謙一(江別)、藤井高志(北広島)の7氏によるグループ展。
 いずれも、全道展の絵画の中堅会員です。
 札幌でははじめての開催ですが、じつは昨年、深川の向陽館で第1回展をひらいています。
 ことしも、来月に向陽館でひらくそうです。
 人間の存在を根底から問い掛けるような、重厚で、見ごたえのある絵がならんでいます。非常に注目すべき絵画グループ展だと思います。

 20世紀の美術は「芸術のための芸術」「他分野から自立した表現」をめざし、おしすすめてきました。
 造形を第一義におく美術の世界では、「この絵は文学的だなあ」という形容は、否定的な意味合いを持っています。これは、無理もないことです。美術を、挿し絵の地位から解放するとともに、たんなる観念の解説に終わらせないためには、美術以外の要素は画面からどんどん追い出してしまうのが一番だからです。
 しかし、1970年代あたりから、その行き詰まりはめだってきたように思われます。美というものを極限まで追究した結果がミニマルアートであり、そこに現出した世界は、美しくはありますが、わたしたちの日常生活とかかわりのないものでした。
 絵画、とりわけ具象絵画がいきのこっていくには、わたしたちの生との回路を復活させ、観念や言葉の翻訳にはおさまりきれない、絵画独自の表現を展開していくしかないように斎藤嗣火さんの作品思われます。

 たとえば、斎藤嗣火(つぐほ)さんの絵について、「精神的、社会的に分裂した現代人の表象」と言うことができます。
 しかし、それですべてわかったつもりになってはいけないと思います。そういう、ことばによる説明から、どうしてもはみ出してしまう部分というのが、絵にはかならずあるのです。
 田崎謙一「clone baby(吐)」筆者がいちばんおどろいたのは、田崎さんの「clone baby」の連作でした(「clone baby(虚空)」と「clone baby(吐)」=同題が2点)。大きく歪み、シャム双生児の赤ん坊の頭部が生々しい色彩で、大きく描かれています。
 赤ん坊は、苦しげな表情でなにか吐き出しています。戦慄すべき絵です。
 この絵にしても、現代人の象徴−と言ってしまえばそれまででしょう。そういう紋切り型のことばでは、この絵のもつおそろしさというものは、とうていつたえきることはできないのです。

 川本さんは2月に約40点による個展をひらいたばかりなのに、今回は新作をそろえてきました。
 川本さんの大作の重要なモティーフは、しゃれこうべや骸骨です。しゃれこうべは死の象徴ですが、これまたことばにしてしまうとおもしろくありません。激しいタッチから強烈なエネルギーがつたわってくるのが川本さんの絵だと思います。
 前回の個展では、骸骨や人間のかたわらに猫が描かれ、凄絶さを中和していたようなところがありましたが、今回は猫は登場していません。「石狩挽歌『天と地と』」では、大地に骸骨が横たわり、空には異様なオレンジなどの色が広がって、まるで地球最後の日のようです。「石狩挽歌『灯台の見える風景』」では、骸骨はばらばらになっています。
 リアルな筆致で、風景と人物で構成した絵を描く藤井さんが、100号クラスを3点ならべたのは初めて見ました。「季節はめぐり」は、椅子にこしかけた老女と、水路や青い蕗の葉などのある風景とをくみあわせた作品。明確にはわからないのですが、これらのモティーフには、藤井さんの生活史がおりたたまれているのでしょう。
 渡辺さんの絵は、モノクロームの天使たちが主人公です。ちいさな角だけに色がついています。天使たちは、人間の戯画なのでしょう。「Pic Off」は、めずらしく青を基調に描かれた作品。
 梅津さんは、7人の中では唯一、風景画が中心です。といっても、通常の風景画ではなく、青い空と草のはえる大地を単純化して描いています。「蒼穹の下で」は、コバルトブルーと黒の飛沫がまじりあう地の上に、横たわるトルソが描かれ、画風の変化のきざしがうかがえます。
 福島さんは裸婦がモティーフです。「時」は、横たわる裸婦と立像をくみあわせています。福島さんの絵に出てくる裸婦は、なにかに苦悩しているようにも見えます。
 26日まで。

 札幌時計台ギャラリーの、ほかの展覧会についてかんたんにふれておきます。

 C室の光画会展は、山崎幸治さんが指導する絵画グループ。16人が出品しています。個性的な絵が多いです。
 市橋節こさん「記憶の風景」は織物のようにさまざまな色がとなりあう抽象画。田中恵子さん「街」は、子供が描く鳥瞰図にも似て、そこがかえって新鮮です。ほか、砂場忠子さん「何処へ」などが目を引きました。

 D室は沖本愼介油彩画展。毎年個展やグループ展に新作を発表する意欲的なアマチュア画家です。風景画が多いですが、今回はめずらしく、人物や花を描いた絵も出品しています。まばゆいツツジを手前に配して画面に奥行きを出した「キャンバスの白い建物」や、支笏湖に材を得た絵など、風景に向き合う画家の真摯さが反映しているようです。
 札幌在住。ご本人のサイトはこちらです。

 E、F室は弥永槙子油彩展。コラージュのようにいろいろな要素をこまかく描きこんだ、独特の画風。アンバー系を多用した色調も独特です。「2003年春 なにもしなかった」は、無謀なイラク戦争がおこなわれてしまったことにたいする無力感がにじみ出ています。
 G室は小野礼子水彩画展。札幌在住、道彩展会友。野の仏などを描いています。

 いずれも26日まで。

 さて、25日夜ははじめての「カルチャーナイト」。
 お時間のある方はぜひ道立近代美術館(中央区北1西17)へ。若手15人の映像の新作が見られます。

 
 7月23日(水)

 濱田五郎 油絵個展 〜北国の冬を(古里)〜=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)
 後志管内岩内町在住の濱田さんは、1929年生まれ、ことし74歳ですが、毎年のように札幌で、テーマを決めて個展をひらいており、その精力的な活動ぶりには頭が下がります。
 一貫して、地元・岩内の風景を油彩で、しかも現場にイーゼルを立てて描いています。
 ことしのテーマは冬。小品を中心に24点を陳列しています。
 冬の海辺で絵を描くなんて、考えただけで寒そうです。岩内は、内陸にくらべて気温こそ高く、氷点下20度などにはなりませんが、日本海から吹き付ける風はつよく、地吹雪もひどいです(たぶん。住んだことないけど)。テレピンが凍ったりしないのかな。
 しかも、濱田さんはこの春、がんの手術を終えたばかり。
 「入院する前にかきあげなきゃと思って、これぜんぶ5週間で描いたのさ」
って、だいじょうぶなんですか?!
 50号の「岩内岳雪景」は、ナイフで力づよく描かれたカカオブラウンの空が目を引きます。冬の日本海側は晴れません。青で描かれるより、こういう暗鬱な色のほうがリアルです。構図的には、ナイフによる横のストロークが目立つ空と雪原のあいだに、木々の縦線が走る−というものになっています。意外にも、濱田さんがナイフをつかったのはこれが初めてだそうです。
 もうひとつ、おもしろかったのは
「オレは波が1.5メートルの日にしか海を描かない」
という話。
「凪いでる海はつまらない。海水をかき混ぜているような日がすきなんだ。青くべたーっと塗って、白波をちょちょっとかきくわえている絵はウソくさい」
 ずーっと海のそばで暮らしている人の言葉だけに、なるほどと思いました。
 ほかに「冬の荒波」(F30)「岩内岳遠望」(M30)など。
 濱田さんは道展会員。

 高橋康夫油絵個展=同
 油彩32点、水彩2点。イタリアなど欧州と、道東の風景が中心です。全体に落ち着いた色調の中で、クロームグリーン系があかるいのがめだちます。
 F100号の「黄金道路」は、けわしい断崖と、その下にへばりつくようにたっている人家との対照が、つよい印象を残します。
 高橋さんは釧路在住、道展会員。
 いずれも27日まで。


 7月22日(火)

 第2回S.C.リボングループ展=CAFE and GALLERY ShiRdi(中央区南6西23)
 昨年、移転前のシルディで開いた第1回展につづく5人展。
 メンバーは若干いれかわっているようです。
 5人のうち4人が写真を出品しています。 
 tenkoさんは、デジタルプリント出力したカラー16枚とモノクロ12枚。壁の左側にカラーが、右側にモノクロが等間隔にならび、まばゆく咲き誇る桜の花や無人の緑地などの写真が上の方に、人物のスナップが下の方に集中しています。案内状のはがきにもつかわれていた、旅館の室内から窓の外を写したとおぼしき陰翳の深い1枚が、旅愁を感じさせて印象にのこります。
 アサキチカさんは、フォトコラージュ的な作品を3点。いずれも題はついていません。机といすをとらえたカラー写真の中に、おなじネガの小さなプリントを30枚散らした作品が目を引きました。さいきん若い世代に支持されている1950-60年代のモダンな家具です。
 tsuruno yurikoさんは「ambivalentic soul」と題し、家などをうつしたモノクロ5枚と友人たちのスナップ多数。このなかでは、いちばん「女の子写真」っぽいかな。
 野越さゆりさんは「color of summer」と題したカラー16点。金魚、ヨーヨー、ラムネ、サクランボ…。どうも気温の上がらないことしの夏ですが、涼味たっぷりの写真です。たんにそういうモティーフをならべただけではなく、ガラス玉をうつした1枚に女性の顔の影がうつしこまれているあたり、「演出」が特徴の野越さんらしさが出ていると思います。
 Junoさんはただひとり、ボックスアート3点を出品、「フラクタル」と名付けています。ついつい、箱の手前にはりわたされた糸や貝殻、さらには、赤やピンクの物質が入った小さなガラスびんといったオブジェに目がいってしまいますが、背景にある写真にも注目です。右側の箱の、奥の壁に貼られている写真は、ガラス玉がおびただしく転がるなかで少女が横たわっているというものですし、中央の箱の写真では、蝶のかたちに切り抜かれた白い紙を黒い服にたくさん付けた女性が立っています。
 これは、道内ではほとんど手がける人のない「コンストラクテッド・フォト」の一種といえないでしょうか。米国ではサンディ・スコグランドなんかが手がけている、インスタレーションやセットをわざわざ組むなどして虚構の世界をじっさいにつくりあげて、それからシャッターを押すという写真です。
 撮影にはとても手間がかかりますが、本格的に取り組む人の作品が見たいなー、なんて思います。
 28日まで。


 7月21日(月)

 渋谷俊彦展−森の鼓動−ギャラリー門馬ANNEX(中央区旭ヶ丘2)
 
建築家赤坂真一郎氏の設計によるこの空間を一目見て、自分の展覧会をぜひここでとの衝動に駆られました。会場の空気感を大切にしています。この白い回廊を自分色に染めるべく、1年前から準備に入りました。この展覧会のテーマは「森の鼓動」です。森の持つ生命力を四季を通じて、また早朝、真昼、夕暮れ、深夜と時間の経過と共に変える表情を色彩の移り変わりで表現してみました。表現技法も今回は通常とは異なる透明感を重視してみました。
 と、案内状の手紙にあったとおり、これほ渋谷俊彦展の会場風景どまでに、緑に囲まれたこの会場との調和に意を尽くした個展もめずらしいのではないかと思います。
 右側の壁にならぶ「森の鼓動T」シリーズは、17点。縦横11センチの正方形で「これほど小さい作品を作ったのははじめて」だそうです。細長い会場で、引きがない(=後ろに下がって作品を見ることができない)ということを意識してこの大きさにしたということです。
 入口から順番に見ていくと、黄色、黄緑、緑、青、藍…と、色彩がグラデーションになっています。これは、最初からの意図ではなく、会場でならべているうちにそうなったとのこと。四季というよりも、朝から夜、そしてふたたび朝、という、一日のうつろいのようです。
 特殊な金属板でモノクロームの版画をつくり、その上から絵の具を30回以上も重ねて、厚みを出しています。いろんな色をつかうというよりも、重ねるたびにメディウムの調合を変えて、透明度の差を出しているのだそうです。そのため、画面は、マティエールの厚みがあるというよりは、すいこまれていくような深みをたたえています。おもわず、横に回って作品の厚みをたしかめたくなるような、それほどの深さです。
 いっさいフォルムはなく、色彩の深さだけで、森の持つ生命力の深さを表現しえているのは、細かい作業の積み重ねがあってのことでしょう。
 ゆっくり1点ずつ見ながら進んでいくと、左側にも「森の鼓動U」のシリーズが並んでいます。そして、木々にかこまれたテラスに出ます。こずえを渡る風がさわやかです。渋谷さんによると、ときおりリスが出てくるそうです。ここが、札幌市役所からわずか3.5キロの住宅地のなかだとは、とても信じられません。
「これが東京だったら、はやく冷房のきいた室内にもどりたくなるんだろうけど。この風土はいいよねえ」
「まったく」
 自然とがむしゃらに対峙するのではなく、かといって自然と完全に融合してしまうのでもなく、小さいながらも確乎として存在している渋谷さんの作品。テラスから見ていると、雲間からのぞいた太陽の光線がギャラリーのすりガラスを通して細長い空間を充たしました。微妙な光のうつろいもたのしめる会場空間でした。
 帰るときも、おたのしみがありますので、お見逃しのないよう。
 渋谷さんは札幌在住。ベルギーなど、国内外での発表多数。
 28日まで。

 ギャラリー門馬への行きかた。
 地下鉄東西線円山公園駅からJRバスの「ロープウエイ線」に乗り継ぎ、「旭ヶ丘高校前」で下車、徒歩3分。
南11西23から旭ヶ丘2にいたる階段 あるいは、「旭山公園線」に乗り継ぎ、「界川」下車、徒歩6分。
 地下鉄南北線の中島公園駅か幌平橋駅からJRバスの「山鼻環状線」に乗り継ぎ、「南11西22」で下車、階段を上がって徒歩10分。

 芸術の森の彫刻たち 橋本タミオ写真展富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館)
 カラー39点。題名のとおりの写真展ですが、ただ彫刻を撮影したのではなく、秋や冬の低い角度の太陽光線を生かし、周囲の緑などもとりこんで、「園内に息づいている彫刻」という感じがよく出ている写真が多いと思いました。
 本郷新「鶏を抱く女」や、本田明二「道標−けものを背負う男」、グスタフ・ヴィーゲラン「母と子」など、見上げるような角度から撮ることによって、作品のもつ生命感のようなものが強調されているようです。
 また、朝倉響子「ふたり」は、葉の茂みの間からねらうことで奥行き感を出していますし、宮脇愛子「うつろひ」を撮った1枚は、青空の占める割合が大きく、独特のカーブの上に広がっている空の存在をあらためて感じさせます。
 ライモ・ウトゥリアイネン「昇」や佐藤忠良「女・夏」は、あまりみることのない、雪のなかのたたずまいが美しいです。
 橋本さんはカメラマンですが、仕事では料理などの写真を撮ることが多いそうです。
 うーん、また野外彫刻を見に行きたくなりました。
 23日まで。

 お宝展(わたしのお宝交換プロジェクト)=公開秘密結社アジト(中央区南9西11)
 アサヒ・アート・フェスティバルの一環としておこなわれ、一般から「お宝」を募集してアーティストがアート作品に改造したものが展示されています。
 筆者がすわったテーブルには、トルコ旅行の思い出の品が、小林麻美さんによって、ふるい地図帳の切り抜きと合体させたちいさなオブジェに変身していました。
 カザフスタンがまだソ連のカザフ共和国だったころの地図です。
 ふるい民家を改造したカフェのなかをすずしく通り過ぎる風に酔いながら、筆者はひとつひとつ地名を目で追って、
「ああ、セミパラチンスク。ここはまだ放射能で汚染されているのだろうか。ゴーリキー。社会主義リアリズムの文豪を、この町の人はいまどういう思い出で受け止めているのだろう。ひとつひとつの地方都市にも、やっぱり美術家がいて、モスクワやサンクトペテルブルクとはちがったアートシーンをつくっているのだろうなあ。でも、それは札幌とおなじように、あまり知られることがないのだろうなあ」
などと、とりとめのない物思いにふけっておりました。
 ただ、店があまりにも繁盛しているので、ゆっくりと作品を見て回るという雰囲気ではないのがちょっとざんねん。
 22日まで。


 7月20日(日) 

 北海道浅井学園大学  北方圏アートプロジェクト 第3回美術展<イメージの発露>=北方圏学術情報センター ポルトギャラリー(中央区南1西22)
 阿部典英、佐々木けいし、永野光一、野崎嘉男、林亨の5氏による、ドローイングやエスキスを主にした展覧会。
 作家の、「素」にちかい部分が見えて、おもしろいです。
 各作家のコメントと、奥岡茂雄、佐藤友哉、中村聖司、古川俊英の4氏によるインタビューつき。ただし、だれがだれに聞いたのかは、わからないようになっています。
 たとえば、阿部典英さんは、近作のバーミヤンの母親をイメージした縦長の立体のドローイングを中心にならべているのですが、コメントにはつぎのようにあります。
咄嗟に、傍らになった紙に描いた。
ほぼ、瞬間的な行為だった。

アフガニスタンの光景をテレビの画像で見た。20年以上に及ぶ内戦で荒廃しきっている土地。さらに爆弾が炸裂し、一瞬のうちに全てが滅する。空を仰ぎ、無の顔になった老人。子供を抱き、ただ茫然とする女性。義足を付け、石になっている男性。
 おもしろかったのは、永野光一さんのコメントで、これを忠実に再現するのはむつかしいのですが


彫刻作品

源泉


         網膜        投射
               表出                 匂い
波動       戯れ
といったぐあいに、さまざまな単語が、ばらばらにならべてあるのです。

 ほんとは、ドローイングの持つ意味を、メルロポンティ、デリダあたりをふまえて論じるつもりでしたが、とてもそこまでの学識がないし、本を読んでいるうちに展覧会が終わりそうなので、ここまで。
 それにしても、筆者はこの展覧会、2度目なのですが、お客さんが少ない。
 きょう行って芳名帳を見たら、筆者の前の人は月曜か火曜に来ていたはずの人でした(そんなことチェックするなよ、と言われそうだな)。みなさん、22日までなのでどうぞ!

 野村裕之彫刻展 なぞなぞ=ギャラリーミヤシタ(中央区南5西20)
 野村裕之彫刻展の会場風景ネタばれになるから、あんまりくわしく書かないほうがいいのかな。
野村裕之「誰」 行ってみて、展覧会の副題の意味がわかりました。
 ほんとになぞなぞなんです。
 上にごく小さなレリーフ的な作品「ひかり」と、「問い」をしるした紙があって、その下に「答え」にあたる大理石の作品があるという、対になったのが12組あります。
 ただおもしろいだけじゃなくて、野村さんもいろいろ考えてるんだな、という感慨がわいてきます。
 「もっと若い人だと、ビデオアートとかにいっちゃうんでしょうけどね。石を彫りながら、どうして俺はこんなことやってるんだろうって考えるけど、でも、そっちのほうにはいけない」
 「いけないですか、やっぱり」
 「うん、だって、これまでの20年間はなんだったのかってことになっちゃうでしょ」
 なるほど。
 会場内は小品がメーンですが、ギャラリー前に石の大作「ひそやか−死神」があり、さらに向かいの「円山逍遥館」の庭にも6点ほど作品があります。野村さんの持ち味の一つである、たくまざるユーモアが感じられると思います。
 「(いままでの彫刻の歴史の中で)フォルムはだいたい出尽くしたのかもしれない。でも、野村らしいトーンが出ればいいなって思ってます」
と、野村さんはマイルス・デイビスを引き合いに出して話していました。
 空知管内長沼町在住。9月の「北海道立体造型展」にも出品します。
 27日まで。

 三浦砂緒理写真展 −詩点−=エルエテギャラリースペース (中央区南1西24、リードビル2階)三浦砂緒理「The light of lithium」より
 札幌の三浦さんの初個展。
 モエレ沼公園をモティーフにした、8点からなる連作「The light of lithium」(右はその1枚)は、デジタルデータをモノクロ出力したもの。
 色味が、いわゆる銀塩のモノクロ写真と微妙に異なるのは、わかっていただけると思います。
 三浦さんによると英語では、リチウムの光とは、いやしの光なんだそうですが、筆者は、新しい公園施設なのに廃墟に見えるのはどうして−と考えていました。
 「いや、いいんです。ヤナイさんの自由ですから。わたしも、100年後はどうなるんだろうと思いながらシャッターを押してました」
 筆者はこのシリーズが、硬質な感じがして、すきです。
 「der Wind〔vnit〕」シリーズ7点は、石山緑地を写したものですが、被写体に依存しない、独特の切り口を持った写真になっています。
 これは銀塩フィルムをスキャンして出力したもの。
 ほかに、エルムトンネルのなかで自動車のライトを露光した「fluctuation of 7」、JRの高架下をねらった「都市回廊」、コラージュ的な作品など。
 こうして見ると、コンクリートうちっぱなしの被写体が多いですが
「コンクリートっていっても人間がつくったものですから、わたしにはクールなものというより、あたたかみを感じるんですよ」。
 24日まで。

 7月19日(土)

 細川護煕展札幌三越(中央区南1西3)
 初日(15日)に行ったのに書くのをわすれてた。
 さすが知名度抜群の人だけに、会場は混雑していました。
 作品は大半が茶碗で、ほかに湯のみ、香合、花器などもありました。
 茶碗は、粉引、天目、黒釉、信楽など多彩です。備前や有田の系統はありませんが、道内ではほとんどつくる人のいない井戸茶碗もありました。景色を見ていると、飽きません。すると会場にいらしたご本人が
「どうぞ、お手にとってごらんになってください」。
 室町から安土桃山にかけて豪華絢爛に花開いた日本の茶の文化の薫りただよう茶碗、という感じがしました。
 21日まで。

 感動の表現「スケッチ画」展=古屋ギャラリー(小樽市花園4の20の16)
 スケッチ、という題がついていますが、植物画やペン画のほか、油彩や水彩の本格的な絵もけっこうあります。
 出品者には道展の会員も多いです。
 岩崎正さん(小樽)の「灯台のある風景」(4号、油彩)は、しっかりと油絵の具で塗られた1点。
 小林達夫さん(同)「黒岳」はガッシュとコンテでしょうか。安定感のある構図です。
 三宅悟さん(同)の「初冬」、古屋五男さん(同)「牡丹」はいずれも水彩ですが、ふだんの油彩を思わせる作風。扇谷章二さん(釧路。道展会員)の「オンフルール」も、油彩で見せる独特のアンニュイな雰囲気がただよっているのが感じられます。
 そんななかで、いつもは地蔵などをリアルなタッチで描いている松田孝康さん(小樽。道展会員)「雪譜」は異色の作品。木炭で画面を覆った後で水を散らしたらしく、モノクロによる、力づよい抽象画になっています。

 ほかの出品作はつぎのとおり。
 小樽…安達謙三「無題」(6号)、阿部博「旅のひととき」(4号)、五十嵐平治「岬」(色紙)、上嶋俊夫「小樽運河」(同)、覚間武「裸婦」(4号)、工藤茂「港」(色紙)、工藤英雄「どくだみ草」(同)、崎野雄一郎「横浜港」(3号)、佐藤順一「赤岩海岸」(色紙)、佐藤ミツ子「ほたるぶくろ」(3号)、菅原睦子「花」(4号)、高橋晟「運河」(6号)、中村信博「ほたるぶくろ」(色紙)、日向良子「タニウツギ」(6号)、藤田勇一「十勝連峰」(8号)、藤田好文「スナック幸のママさん」(6号)、藤巻陽一「茄子」(色紙)、村元道男「バチュラー記念教会」(有珠)(4号)、山下脩馬「旅のスケッチから」(4号変形)
 札幌…小川智「岩内海岸」(3号)、坂本輝行「小樽北運河」(6号)、平山康勝「エルムへの雪道」(6号)
 後志管内寿都町…長内秋夫「薔薇」(3号)
 同古平町…桑原正憲「静物」(6号)
 同喜茂別町…林久毅「定山渓」(10号)、林久子「利尻−初夏」(3号)
 帯広…川添聳子「パンジー」(3号)

 第37回白日会北海道支部展札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
 絵画の公募展の支部展。毎春の本展では、若いハイパーリアリズム系の作家の擡頭がめだちますが、道内では旧来のリアリズムでおしていく画家が大半です。
 そんななかで、亀川巌さん(札幌。道展会員)の絵は、黒いすばやい線が画面を縦横に走り、異彩を放っています。ビュッフェを思わせないでもありませんが、風景全体を黒い線が覆っていること、地のベージュと調和していることなどが特徴になっています。「ひなびた海沿いの街」(F50。水彩)のほか、図録には記載されていませんが「パリの景」という50号くらいの作品も出品されていました。
 また、松信元一さん(札幌)は3点ともことなった画風。まるで未完成作のように、白地のカンバスの一部に紫で山が描かれているだけの「摩周」(M30)。紫や水色のまだら模様を白い山塊の前に配して幻想的な雰囲気を出している「樽前山」(P30)。原色を厚塗りして激しい絵になっている「半島の街」(S50)です。
 一方、リアリズム系では、平野俊昌さん(札幌)「文様を追って」(M60)。アイヌ文様の衣装を着た若い女性をモデルに、背景にも文様をあしらった作品。
 川村正男さん(同)は、平野さんより6つ下の1920年生まれ。F60の油彩を3点も出品しています。「然別湖秋景」「発電所のある風景」「牧場への道」のうち、「牧場…」が、黄緑の発色が良く、筆者が気に入った絵です。
 中西尭昭さん(十勝管内清水町)「アビニョンの古い家」(F60)は、静謐さに満ちた1点。手前の植え込みの緑と、まだ葉の出ない枯れ木とが、印象深い対照をみせています。
 筆者の知らない出品者では、前川英雄さん(岩見沢)「チェスキークルムロフ」(F80)。西洋の古都を端正な筆で描いています。また、芳賀文明さん(網走管内美幌町)「早春」もうまい。雪に覆われた沢地を描いています。S字状に折れる沢、一直線に横切る細い道、その向こうにならぶカラマツ林など、きびしい自然の様相を丁寧に描写しています。

 ほかの出品者は次のとおり。
 小林一雄(釧路)「花咲く路地」(F50)
 高橋芳夫(札幌)「小樽富丘教会」(水彩、F60)「ばら」(同、変形15号)
 南里葉子(同)「卓上の花」(F60)
 小堀清純(同)「野の花」(水彩、F50)「壺のある静物」(同)
 中矢勝善(同)「冬霞」(F100)「川」(F50)
 小川智(同)「漁港閑日」(F120)「桐咲く海港」(F100)
 関建治(恵庭)「待春知床」(F100)

 会場で平野さんとお話しする機会がありましたが、来月で89歳という超ベテラン。川端研究所(戦前有名だった美術学校)で佐藤忠良さんといっしょだったという話を聞いていると、頭がクラクラしてきます。
 毎年6月に札幌時計台ギャラリーでひらかれているグループ展「方究會」(1936年結成)の、唯一の当初からのメンバーだそうです。絵は、堅実なリアリズムですが、老いはまったく感じられません。びっくりです。

 第44回日本水彩画会北海道支部展=同
 道展にも出品している人が多く、昔ながらのリアリズムが大半です。
 もっとも、その範疇にとどまらない人もいます。
 何度見ても驚異的なハイパーリアルなのが、宮川美樹さん(岩見沢。道展会員)。近年「刻」と題した連作で、波打ち際の光景を描いています。今回の20号は、三つの輪が描かれた茶色の砂浜の上に、鳥の影が見えます。波の泡、石、目のこまかい砂などはいつもどおり。無常観をただよわせます。
 寺井宣子さん(札幌。道展会友)「残影」(20号)は、細かいスリットのような模様が、ホオズキなどの描かれた全面を覆っています。レースのカーテンを透かして室内風景を見ているようなおもむきがあります。以前から細密なタッチが目を引いていましたが、いろいろな技法にチャレンジしているようです。
 武田貢さん(室蘭。道展会員)「躍動」(20号)は、工場がモティーフですが、油彩のような重厚なマティエールです。
 栗山巽さん(江別)「宙 -space-vortex A」(S30)「宙 -space-vortex B」(S40)。アンモナイトのようなモティーフが消えてほとんど抽象になってしまいました。深い紺色が宇宙を思わせます。
 長年、海の底の情景に取り組んでいる青田淑子さん(同)の「海への追想」(60号)も、貝や魚などが、青や緑のなかにとけこんでしまっています。
 西村法子さん(札幌)は筆者の知らない方ですが、「舞」(40号)「ロンド」(同)はいずれも、茶色の紙の帯や花柄の帯が暗い背景の中から浮かび上がるという、風変わりな絵です。
 リアリズム系では、相馬茂雄さん(札幌)が2点出品。うち「冬陽」(40号)はとくいの雪景色ですが、「晩秋」(同)はめずらしい秋の原野の風景。わずかに左傾した背景の山々が画面に動感をあたえています。
 ほかに、ハイキーが特徴の成田一男さん(札幌。道展会員)「教会初夏の頃」(20号)、馬車を描いた笹川誠吉さん(小樽。道展会員)「乗ってみたいな(イタリア)」(60号)、織部釉薬の描写がうまい舎川栄子さん(同)「藍染とつぼ」(40号)、ワインやウイスキーの瓶37本の交響楽といえそうな深山美枝さん(同)「待つ」(50号)、明暗のコントラストが印象的な三留市子さん(同。道展会友)「裏通り」(60号)、冷たくぬれた舗道の質感などを巧みに表現し、いやな季節にも美のあることをしめした千葉竜和さん(後志管内余市町。道展会員)「初冬」(60号)などがありました。
 そのほか、伊藤俊輔、井内利道、池田和子、岩崎陽子、及川幸子、尾川和彦、川端敬子、金子恵子、北野清子、木村〓子(〓は日へんに景)、倉本英子、小林和子、近藤武義、近藤幸子、堺亮一、佐竹和子、佐藤京子、佐藤富子、佐藤信子、志賀廸、大藤淳子、筒井敦子、寺西冴子、中井戸紀子、西江恭子、富士田夏子、松本佳子、三井幸子(以上札幌)、村上千代(小樽)の各氏が出品しています。

 いずれも20日まで。

 川村雅之展古書ザリガニヤ(中央区大通西12、西ビル2階)
 「2影」は、真っ白な大作。シリコーンとアクリル絵の具・油絵の具による凹凸とマティエールだけで勝負した作品。つやつやした表面は、おもわず撫でたくなります。
 ほかに、「白い花」、デジタルプリントにルージュなどで色を加えた連作「TEN」を出品。
 31日まで。
 BAR十蘭堂(中央区南2西7 M'sスペース)でも同時開催中とのことです。

 斉藤隆弘写真展 ruin-gray〜ハイイロ・ノ・カタチ〜=クリエイトフォトギャラリー(中央区南1西9、札幌トラストビル)
 清水沢発電所、奔別炭鉱、沼東小学校(美唄)、手稲鉱山など、道内の廃墟を、抑えたトーンのカラー写真でとらえています。
 廃墟写真って、さいきんブームでしたからねえ。
 25日まで。日祝日休み。

 佛教彫刻 海老名峰彰展札幌市資料館(中央区大通西13)
 芦別生まれ、京都在住。道内の個展ははじめて。
 「蜘蛛の糸」「千手観音」などの労作もさることながら、大きな一枚板に縦長に彫った「帰牧」が気になりました。
 こんな文がついています。
「牛車を引き 力づよく大地を踏みしめながら帰ってくる若い青年の姿に感動(インドにて)」
 牛車の部分は見えませんが、男の姿がしっかり描写されています。佛教彫刻の並ぶなかだからか、「十牛図」を思い出しました。

 第25回ポピーの会 画展=同
 コープさっぽろ中央文化教室で絵をならっている人のグループ。楠寿美子さん「青い月」が、雰囲気が出ていました。

 いずれも20日まで。

 7月17日(木)18日(金)

 パソコンの不調により、更新がとどこおりまして、ごめいわくをおかけしました。

 伊藤隆介展Art Warm Capybara Cafe(カピパラカフェ) (石狩市花畔1の1)
 映像を利用した作品により道内のグループ展にひっぱりだこ、実験映画作家としても活躍し、オタク系評論では村上隆に絶賛されるなど、多忙をきわめる伊藤・道教大助教授の個展。まるバ会館で映像上映はあったけど、美術系の個展はすごくめずらしいです。もしかしたら、はじめて?
 リアルとヴァーチャルの垣根を不断に攪乱するところが、隆介さんの作品の魅力だとおもいます。
 作品は5点。いずれも題名はついていません。
 というか、どこにも「伊藤隆介展」などと書かれていないので、個展をやってること自体、気づかない人は気づかないかも。
 うち3点は、筆者が「めまい系」と仮に呼んでいるもの。
 逆さにした人形をライトのつよい光で照射して、その影を壁に投影するという、かんたんな仕組みのもの。像はきちんと頭を上にしてうつります。動力はありませんが、人形やライトを固定しているスタンドが揺れると、もちろん像もゆらゆらします。
 これらの作品にしても、スタンドを壁から離せば、影は大きくなるわけで、作品のほんとうのサイズっていったいなんなのか、スタンドのほうが作品で影は作品たりえないのではないのかといった疑問を投げかけているのです。
 もう1点は、天井から吊り下げられた鳥かごに、モニターが入っており、下から見上げることができる作品。モニターに何が写っているかというと、飛ぶ鳥を写した数十秒の映像がエンドレスでながれているのです。
 自由に空を飛ぶ鳥の映像が、かごの中に入っているという、なんともシニカルな作品です。
 最後の1点は、テーブルそばの壁にすえつけられているもので、縦38センチ、横19センチの白い板に、ふたつの回転する輪が取り付けられています。上の輪は直径約15センチ。雲の浮かぶ青空が印刷され、およそ1分20秒で1周します。下の輪は直径10センチで、雲のような綿が取り付けられ、こちらは14、5秒ほどでまわっています。
 下の輪の中央部分に、隆介さんのインスタレーションではおなじみの小型CCDカメラが設置されており、その映像はテーブルの上に置かれた小型液晶テレビモニターで見ることができます。モニターの映像は、飛行機の窓から外を見たときのながめとよく似ています。ふたつの輪の回転速度がちがうので、まったく同一の映像が出てくることはありませんが、劇的な変化もおこりません。エンドレスの環境ビデオのような、しかし、ビデオではなく、永遠に現在をきざみつづける映像作品。

 31日まで。水曜休み。

 関連テキスト:■「水脈の肖像」展(2002年) ■ギャラリー門馬オープン記念「northern elements展」(同) ■吉雄氏との往復ビデオレター「sapporo映像短信」(03年) ■札幌の美術2002  

 地下鉄南北線麻生駅からバス(麻15、麻13、麻08、麻17)で約30分。「花畔中央(ばんなぐろちゅうおう)」下車徒歩4分。
 麻生駅の北寄り出口から出て、1番か4番のバス停から乗ります。なんと片道380円。札幌市外のため乗り継ぎ券もウィズユーカードもつかえません。
 筆者は「麻13」に乗りました。バスはそれなりに混雑しています。新琴似の四番通をまっすぐすすみましたが、なんと「石狩南高校前」までおりる人はだれもいません。新琴似の住民はべつの路線に乗るのでしょうか。
 ArtWarmはレンガ倉庫を改造した施設で、石狩のあたらしい文化の拠点です。駐車場があるので、筆者もこの次は車で行きます。


 TOPICSでもお知らせしたとおり、第11回本郷新賞(札幌彫刻美術館、同賞実行委主催)に土屋公雄さんがえらばれました。

 これはパブリックアートを対象にした彫刻の賞で、今回は、大阪府和泉市シティプラザのエントランスにある「時の知層」がえらばれました。土屋公雄の「時の知層」。大阪府和泉市のシティプラザ・エントランスピロティに設置され、第11回本郷新賞を受賞した第11回本郷新賞を受賞した土屋公雄
 作品は、高さ10.2メートル、横幅と奥行きが1.8メートル。
 和泉市の歴史や地域、文化を物語るさまざまな場所で採取された土、現代のテクノロジーによって生み出された強化ガラス、さらに市内の園児による粘土作品が、「過去の層」「現代の層」「子供たちの未来の層」として、複雑に積み上げられています。
 設置の趣旨は
 「和泉市の新たな文化拠点となる複合施設のシンボル作品として、市民や学生ボランティア、市内の園児が参加して、市民全体の原風景となるような作品づくりをめざした」
とのことです。

 選考委員の酒井忠康・神奈川県立近代美術館長(後志管内余市町出身)は
 作者の製作意図が明快であることと場所性=環境を考慮に入れた創意工夫が評価された。
 この作品は土屋公雄氏がこれまで国内外の野外彫刻プロジェクトに数多く参加し、そこで培われた経験をみごとなまでに結集したものとなっている。モニュメンタルな正確がけっして居丈高ではなく、人間心理のほどよい感応を誘発して、じつに爽やかである。
と所感を述べておられます。

 土屋さんは1955年生まれ、日大卒。
 フランス、英国、デンマーク、オランダのクレラーミューラー美術館など、海外でも数多くの野外プロジェクトに参加し、国内でも斎藤記念川口現代美術館の柿落としや原美術館での個展などを開催、まさに日本を代表する彫刻家のひとりです。

 札幌彫刻美術館では、8月29日に表彰式と記念のシンポジウムをおこない、翌30日から10月13日まで個展を開催します。

 なお、資料は同館に提供をいただきました。
 ありがとうございました。

 関連ファイル:■前回の受賞者、澄川喜一彫刻展

  
 7月15日(火)・16日(水)

 昨日は、時間切れで、一部しかアップできず、見苦しいところをお見せしてしまいました。
 きょうは大量です。

 旧ミマンミニコレクション展(初回)札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
 苫小牧のベテラン画家で、国展、全道展の会員の遠藤ミマンさん(男性です)が、地元に美術館ができることをねがって、苫小牧市に数年前寄贈したご自身のコレクションの一部を紹介する展覧会。
 道内の国展関係で、物故者の秋山沙走武(彫刻)、国松登(油彩)、福井正治(同)の3人の作品をはじめ、海外のビュッフェやアイズビリ、カトランらの版画(マティスの版画だけは複製のようです)、北岡文雄さんや安田侃さん、伏木田光夫さんら道内作家、さらに川上澄生、原精一らの油彩や版画などバラエティーにとんでいます。
 さすがに個人のコレクションですから、サイズは小さいものばかりですが、これでもごく一部というからすごい。
 聞くと、遠藤さんは、たまに大作が売れてまとまったお金が手に入ると、生活費などにはいっさいあてず絵や版画を買っていたとのこと。
 十勝や釧路、北見、滝川、小樽など他の地方中核都市にはそれぞれ美術館があり、地元作家の回顧展などを時おりひらいていますが、苫小牧と室蘭は、人口10万人以上で、美術人口がわりあい多いにもかかわらず美術館がありません。長引く不景気の影響で地方財政は逼迫(ひっぱく)しており、悲願の実現はきびしいものがありますが、苫小牧にはりっぱな博物館や図書館があり、その施設の一部をつかうといったかたちで岡沼淳一「夜語り」でも、実現するといいですね。
 なお、遠藤さんと仲の良い彫刻家で、埋もれ木をつかったダイナミックな木彫で知られる岡沼淳一さん(十勝管内音更町在住、全道展会員)が友情出品しています。
 左の写真の新作「夜語り」です。
 従来発表してきた、円や三角など、幾何学的な形ではなく、天然の丸太のかたちを生かしており、洗練されたなかにもパワーがあります。
 ご本人によると
「アトリエに十年以上ほうっておいた木をつかってみました。ただ、9月の北海道立体造型展(道立近代美術館)からは、これまでの作風にもどる予定です」
とのことです。

 国展<絵画部>北海道作家展=同
 国松登さんらが亡くなられて十年余り中断していた展覧会が復活。隔年でひらく予定だそうです。
 道内在住の会員、準会員、会友のほか、北海道出身で首都圏在住の菅野充造さんと渡邉眞利さん(いずれも全道展会員)も出品しています。道内の公募展でも活躍している人が多く、大半が100号前後です。
 その菅野さんの「FACE03-1」は、ビリジアンの深い色彩が心にひびきます。キャンバスの向こう側にすいこまれていきそうです。これは出すのがむつかしい色だろうなあ。中央の三角形、ふちの赤い線が効いています。
 渡邉さん(男性です)「風砂の中で…。」は、全道展出品作と似て非なる作品。平原を駈ける数頭の馬がモティーフで、地面には赤などのあざやかな色の塊が配されています。西域へのはるかなるあこがれと、空間のひろがりを感じさせる絵です。
 遠藤ミマンさん「見舞の花束」は、入院していたときに病床でスケッチした花の絵をコラージュしたもの。ベッドでもペンを放さない絵描きの根性に敬服です。
 山本勇一さん(札幌。道展会員)「西安紀行(侍女図<遊宴>)」は、これまでとことなりほとんど抽象画のようになっています。リズミカルな線が画面におどります。
 福井路可さん(室蘭。全道展会員)「夜の海、明日の雨」は、キャンバスに板を、十字形に貼り付けた作品。ほとんど形象がなく、マティエールだけで成立しているような特異な絵ですが、絵の具のひび割れや飛沫から、空気のざわめきや疾風の音がきこえてくるようです。
 吉川孝さん(札幌。ことしの全道展で奨励賞)「翳ニ降ル雨」は、あいかわらず色彩の暗い絵です。寝台の上に重なるふたりの人物。その下の人間と、白いネズミが、不吉な印象を強めます。
 早春のリンゴ畑をここ数年のモティーフにしている山下脩馬さん(小樽。全道展会員)「春の気配」は、独特の枝ぶりを造型的にとらえようと腐心する画家の姿勢がつたわってきます。
 ほかの出品作は次のとおり。
 本城義雄「蔵にて「海景」」(歌志内。全道展会員)
 小林憲治「和・環・WA-03・2」(江別。道展会員)
 鶴田昌子「コンチェルト赤・2003」(札幌。同)
 中村泉「立花」(札幌)
 菅恵子「記憶」(網走管内留辺蘂町)
 今西直人「カオ」(苫小牧。全道展会友)
 佐藤フサ子「静物」(同。全道展会員)
 工藤善蔵「闇に向かって」「遠望」(室蘭。同)
 柳悟「牛と牧人」(釧路管内釧路町。同)

 なお、国展とは、国画会の展覧会のこと。有力公募展のひとつで、毎年ゴールデンウィークのころに上野の都美術館で展覧会をひらいています。
 なんだか国の展覧会みたいな名ですが、もちろん民間の団体です。創立時は「国画創作協会」と称し、日本画の団体だったことに由来します。国画とは、日本画の別称です。その後、日本画部は分かれて「創画展」となっています。絵画部のほか、写真、彫刻、工芸、版画もある大所帯です。

 いずれも19日まで。

 「アジア プリント アドベンチャー2003」協賛 北海道在住作家展=ギャラリー山の手(西区山の手7の6)
 世界33カ国81人の作家が出品し、9月に道立近代美術館(中央区北1西17)でひらかれる「アジアプリントアドベンチャー」に先駆け、道内の29人の作品を展示しています。「版」の概念を思い切り拡張したユニークな作品がならび、じつにおもしろい展覧会になっています。
 いやー、これは本展がたのしみだなあ。
 19日まで。

 OPEN展=Gallery響(西区山の手7の5)
 「ギャラリー山の手」の並びに12日オープンしたばかりのギャラリー。
 音楽スタジオの壁面を利用しており、中央にはグランドピアノが置かれています。靴を脱いであがるギャラリーです。
 最初はオープン展ということで、ギャラリー代表須見直子さんのコレクションなどを陳列しています。
 西村一夫さんの版画や彫刻、熊谷善正さんの水彩、江川博さんや藤野千鶴子さん、デュボア康子さんの油彩、小川東洲さんや塩谷哲郎さんの書など、大半は道内関連の小品です。うーん、半分くらいは、どこでいつ買ったかなんとなく分かる(笑い)。
 27日まで。
 8月からは貸しギャラリーとなるようです。

 両ギャラリーは、地下鉄東西線西28丁目駅からバスに乗り継ぎ(どの路線でも可)、「ふもと橋」下車徒歩4分。JRバスの手稲、張碓方面行き「発寒橋」下車徒歩6分(快速は通過)、JRバス・中央バスの手稲、小樽方面行き「琴似本通」下車徒歩13分(北1西4のNTTの北側のバス停で待っていれば、じょうてつバス以外の、次々と来るバスどれでも可)。

 札幌西郵便局(西区山の手5の1)でひらかれている橋本紀比古作品展ものぞいてきました。
 同局では、西区在住の芸術家をシリーズで紹介しています。
 創作陶人形作家の橋本さんは、ことしの年賀切手に「陶人形 干支土鈴 羊」が採用されています。
 ショーウィンドウに3点、局舎ロビーの一角に置かれたガラスケースに6点ほどがならんでいます。信楽の粘土を素焼きし、日本画の顔料で色を着けているそうです。浮遊感のあるやわらかな造型が特徴だと思います。
 道展会員。31日まで。

 五十嵐慈保子 オブジェドール展=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1)
 ユニークなかたちをした人形の展覧会。ちいさな頭部がちょこんとのっかっているので、どうやら人間らしいのですが、腕がなかったり、銅が極端に長かったりで、人間を元に自由にかたちを発想した、といったほうがよさそうです。
 どれも2色からなり、もっぱら上半身につかわれている朱色の部分はテラコッタ用の粘土、ベージュ色の部分はおがくずを固めたものだそうです。おがくずなので、焼成はしていません。表面に墨で線や模様が描かれているのも風変わりです。
「陶器とちがって割れませんが、水には弱いんです。気に入らなくなったら、外に置いておくと風化してなくなります。日本の人形ともフランス人形ともちがうので、仮にオブジェドールとよんでみたんですが」

 第31回創人夏墨展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)
 札幌の金津墨岱さんが代表を務めるグループ展。
 54人が出品しています。漢字が大半ですが、墨象、近代詩文もあり、書風も多彩。墨色がユニークな作品が多いです。
 たとえば清野和子さん(札幌)「然」は黒い髪に白い嗣、掛端春蓉さん(同)「追憶の苺畑」は水色の文字です。
 菅林恵太さん(同)「月輪に万象を一つに抱む」は、すがすがしい近代詩文です。

 2003年佐々木辰雄油絵展=同
 すでに北海道新聞でおおきく報道されましたが(16日朝刊)、かつて炭鉱で栄え、やがてダムの底に沈もうとしている大夕張鹿島地区を追想して描いた油彩の展覧会です。作者はいまは埼玉県在住のようです。
 絵は、写真を引き写したような硬さがのこりますが、リアルでこまかい筆致。谷底に炭住がひしめき、大夕張駅前に商店街があったころの様子がしのばれます。夕張の山々の絵もあります。

 以上、20日まで。