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アビドスこの旅のハイライトの一つ。 この企画 のための写真が撮りたくて、「ちょっと、あの碑文を探しに行くわ!!」などと駆け出した私を生暖かく見守ってくれた友よ、ありがとう。(結構簡単に見つかったので助かったが) アビドスは、護衛なしでは行けない遺跡の一つだ。 早朝、ルクソールの町の出口に、各ホテルから参加したツアー客や、ガイドを引き連れた個人旅行の客が集まり、時間とともに前後を護衛に守られて出発する。 ルクソールからは車で、時速100キロ近く出してガンガン飛ばして3時間かかる。ガードレールなどというものもなく、普通の畑のど真ん中を突っ切っているただまっすぐな道…。信号機もない。それでも人とロバは横断する。どうやって避けているんだ、第六勘か。 高速道路ばりに飛ばしっぱなしだが、途中、線路と交わるところではさすがに停止した。カイロからルクソールへ向かう寝台列車らしきものが過ぎてゆくのも見た。 他にも、各町の出入り口は検問がしかれ、ライフルを持った人々が狭い窓の中からいつでも不審者に対応できるよう身構えている。テロ対策をしっかりしているんだなと思う反面、それだけテロの脅威がまだ残っているということを知った。 途中の看板。まっすぐ行くとソハーグ、曲がるとナグ・ハマディへの橋。 (ここまでの途中に、1997年の乱射事件の犯人たちが本拠地にしていたエナの町を通過する。) ここまで来ると、アビドスまで、ようやく残り1時間だ。ナイルを渡り、西岸を走り始める。ナグ・ハマディとアビドスは地図で見ると意外に近い。延々と続くヤシとサトウキビ畑、らくだはたまに見かけるくらいで、ロバと羊とヤギが圧倒的に多い。 検問で停車するたびにサトウキビを噛みながら小さい子供たちが手を振ってくる。そして何故か「ワッツユアネーム?! ハワユー!」と、みんなで言う(笑) 学校で習ってるのか。ディス イズ ア ペン みたいなもんか。 アビドス神殿(セティ1世葬祭殿)は、まんま村の中に建っている。 周囲は普通に村。奈良の、明日香村の古墳を見たことがあれば、まさにその雰囲気だと思っていい。遺跡あるのに横でおばあちゃんが洗濯物干してるし、かばんを背負った子供たちが遺跡前の道を集団登校しているし。 らくだに乗った警官が周囲を厳しく監視する中ではあるが、遺跡に突撃。 この神殿には7つの聖域がある。 入り口を入って、右からホルス、イシス、オシリス、アメン、ラー、プタハ、そしてセティ1世自身。それぞれの壁には、それぞれの神様に貢物をしたり、神像に衣を着せたりする礼拝の図が書かれ、いちばん奥には墓によくある「偽扉」が大きく描かれている。 墓だと故人の魂の出入りする場所だが、神殿の場合、神様がここから出入りすることになっている。VIP専用口ですな。 しかし、中央にあり、最も大きなオシリスの礼拝堂には、これは存在しない。ほかの礼拝堂で扉がある場所には、奥への入り口があり、かつて高級神官と王だけしか入ることを許されなかった部屋が続いている。 「オシリスの間には偽扉はありません。彼は、この神殿のオーナーなのでここに住んでいます。」 と、ガイドさんが言ったのだが、オーナー、という英語の言葉が妙にツボに入った。それだと、他の神様たちが間借りしているみたいな…。 ま、神様はそれぞれ自分の本拠地を持っているんだから、たまにしか来ない=ウィークリーマンション扱い ってことで。(笑) オシリスの部屋あたりは、色彩がものすごく綺麗に残っていた。 特に小部屋の中。 柱にも一部は色が残っていて、作られた当時はかなりカラフルな神殿だったのだろうと思われる。 セティ1世用の部屋にいくと、オシリスの復活を描いた壁画発見。 めったに見ない? 起き掛けのオシリス。 神話の中の、ミイラとして体をつなぎ合わされて、一時的にこの世に戻ってきたけど、体の一部(性器)が見つからず、完全に生き返ることは出来なかった。というシーン。 足りなかった体の一部はフェイクを作って代用したことになっている、そのフェイクを握り締めるオシリス様…。ソコの部分だけ真っ黒になっているのは、決して、小学生の観光客がたくさん来て触りまくったせいではなく、ここにやってきたコプト教徒が好ましくないと思ったから削り取ったんそうです。 いやでも不自然に黒くなってるけど。 そこはあんまりツッコんじゃダメということで。 復活したオシリスとの交わりにより、息子ホルスを宿したイシス。 ここだけイシスの姿が、カバの女神トゥエリスに変化している。残念ながら顔の部分が欠けているのだが、イシスとトゥエリスを同一視する信仰がこの時代には一般的だったということかな…? 神殿の保存状態がいいこともあり、内部は神様オールスター状態。 大体の有名な神様はどこかに出演している。神話の王道とか、有名どころとかを知りたければここに来い! と、いう感じ。ガイドさんの説明も熱が入っていた。 専用の神域はないが、壁面の各所でトトさんが大活躍。 仕事してます… この神殿の壁には、トトとセットでセシャトも多数書かれていて、特に王の名前は彼ら書記の神々によって厳重に守られていた。 とにかく「記録すること」、「後世に残すこと」に対する執念のようなものを感じた。 そして、その執念がある意味、結集したのだろうなあ… と、思うのが、これ。通路に書かれた、「アビドス王名表」。 この王名表は伝説上の最初の王、メン王に始まり、セティ1世で終わっている。息子のラメセス2世はまだ王子姿。アクエンアテンなど、政治的に好ましくないと判断された名前は省略されている。 これを書くことによって、セティ王は、「我々は由緒正しいエジプトの王ですよ。偉大なる、これらのご先祖様の血を引いているんですよ。」と、主張したかったんじゃないかと思う。 ここから上昇階段を抜けると、オシレイオンのある神殿の裏手にたどり着く。 神殿の裏手にある「オシレイオン」。 世界のはじまりの神話をなぞり、水を「原書の水」、その中に作った石の丘を「世界の最初にできた土地、原初の丘」と喩え、丘の上に置いた棺をオシリス神の棺、つまり死せる王の形式上の棺と看做して再生復活を願うという、儀式的な施設。「見立て行為」で世界の縮図を作るあたり、日本の枯山水の精神に近いものがあるかもしれない。 水面近くまで鉄の階段がつけられていたので降りてみたが、水のニオイが濃い。水の緑は水中に漂う小さな藻か微生物なのか。 ↓「入り口通路」方面。この先に通路が通じているのだろうか 奥のほうに白い板のようなものが見えるが、橋になっている。 が、そもそも、そこにたどり着くまでの石の足場が既に水没しているので、あんまり意味がない。 ここでおどろいたのは、水の中にでっかいナマズがいること! それも一匹、二匹ではなく、たくさん。 ヒゲの生えた、ヒエログリフの「なまず」まんまの、なまず。 「ナルメル王のパレット」で知られ、上下エジプトを統一したことが確認されている現時点で最初の王、ナルメル の名前が、ナマズの文字で表されていたことを考えると、意味深な一致だ。ナルメルが生まれた時代から、エジプトのこの辺には地下水の湧き出す沼にすむ大きなナマズが生息していたのかもしれない。 <ちょい情報> この遺跡のおトイレは、神殿の入り口横と、駐車場横の飲み物を売るお店付近の二箇所。遺跡観光中にもよおした場合は神殿の中にあるお手洗いを使うしかないが、一番端っこにあるので行くのが大変そうだ。 ▲top |