心と身体の談話室
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−情動反応と自律神経−

今回はちょっと視点を変えて,自律神経から見た身体の不具合のお話しますね.「自律神経失調症」って診断名つけられて,いろいろ悩んでる人多いから...

自律神経と身体の反応

 まず言葉がちょっと難しいけど表を見てみて.この表,実は私の恩師,宇尾野先生がまとめられたものなんだ.自律神経には交感神経副交感神経の2つがあってね,これが拮抗的(綱引きのよう)に働いて,身体の臓器のはたらきを調節してることがわかるかな? たとえば心臓.交感神経が緊張すると,収縮力が増して,心拍数も上がる.たくさんの血液を回そうって働きだよね.心臓ドキドキって感じるやつがこれ.逆に副交感神経が上がった時は,収縮力も心拍数も低くなる.
 今度,この表,縦に見て心臓と呼吸.交感神経緊張して心臓バコバコなってる時,同時に呼吸も上がってるでしょ.驚いたり,怒ったり,逃げたり,争ったり,そういう時なんだけど,酸素たくさん取り込むために,呼吸もハアハア..,わかるでしょ.
 こんなふうに1つ1つ見ていくと,実にうまくコントロールされてるなって,思えるところ,あるんだよね.

自律神経刺激と効果器官の反応(宇尾野)
効果器官 交感神経刺激 副交感神経刺激
一般 瞳孔 散大 収縮
眼球 突出 陥没
涙腺・鼻腺
汗腺
立毛筋
骨格筋 収縮(A作動)
弛緩(C作動)
精神活動・基礎代謝
循環器 心筋 心拍・収縮↑
冠動脈 拡張 収縮
大血管 収縮
血管
心電図P-P間隔 短縮 延長
呼吸器 気管支 拡張 収縮
肺血管 収縮
呼吸運動
消化器 食道下部・胃体・腸運動
噴門・幽門緊張
唾液腺 ↑(腺終末)
消化管外分泌 ↑(管上皮) ↑(排出)
↑(生成)
胆のう・胆管
泌尿生殖器 腎排出量
尿管・膀胱排尿筋
陰茎 射精 勃起
子宮 収縮 弛緩
内分泌 下垂体・甲状腺・副甲状腺・副腎
・睾丸間細胞のホルモン遊離
膵α細胞内分泌
膵β細胞内分泌
排卵・排乳
血液 白血球数
血液凝固
血糖・血中脂質・血清K
血清Ca
注)↑:促進,↓:抑制,→:不変,C作動:コリン性,A作動:アドレナリン性(神経伝達物質)
(鴨下一郎:情動ストレスと自律神経の関係,わかりやすい心身医療ハンドブック)

情動と自律神経

 また別の表.喜び,怒り,哀しみ,楽しみ,そういう感情(主観的自覚)は,大脳辺縁系や視床下部を通して自律神経や内分泌に影響する.そして,先ほど言ったように,心臓ドキドキ,呼吸ハアハア..,そんな身体症状をかならず伴うんだ.1つ例をあげてみよう.「身の毛がよだつ」.恐ろしい時の感情表現だね.これ,上の表で見てみると,ゾッとして交感神経が緊張し,立毛筋に命令がいって,体毛が逆立つ.感覚としてわかるでしょ.そして,その場からあわてて逃げ出すという行動になる.この「感情」「身体反応」「行動」を合わせて「情動」なんていうんだけど,自律神経失調症の多くは「ストレスに対する情動反応に伴う身体反応」として理解できるよ.
 次に,交感神経を緊張させる情動の性状を見てみて.驚き,恐怖,怒り,不安..ねっ,なんだか納得でしょ.特に「不安」「緊張」「怒り」なんて感情は,交感,副交感,両方に働いちゃうもんだから,もう神経ビンビン.車にたとえれば,アクセルとブレーキ,両方一緒に踏み込んでるようなものだから,不安定になってあたり前だよ.ずっとストレスにさらされて,不安な状態が続いてると,こんな感じになっちゃうね.この状態が心身症や自律神経失調症の発症に大きく関係すると考えられてるんだな.逆に副交感神経を緊張させられるのは平安や休息.抑うつなんてのは,交感,副交感両方とも落ちちゃうよね.これじゃあ病的症状出てあたり前だ.
 言い換えれば,単純なストレスの場合,一過的に怒りや心配を感じ,涙が出たり,胸騒ぎがしたり..そんな身体反応が出て,すぐに消える.けれど慢性的にストレスにさらされるとそうはいかなくなるってこと.動悸,めまい,腹痛,頻尿,潰瘍,...こんなとこまで身体反応がひどく出るようになると,いったい私は何の病気?みたく,それが情動反応であるとは思えなくなってしまう.これが自律神経失調症ってことになるのかな.

精神生理反応の4つのパターン(山下,1979)
情動の性状 交感神経機能 副交感神経機能
驚愕,急性の恐怖,憤怒 +++ -
持続的な不安,緊張,怒り,興奮 ++ ++
平安,休息 - +
失望,抑うつ,悲哀,憂愁 - -
(鴨下一郎:情動ストレスと自律神経の関係,わかりやすい心身医療ハンドブック)

断ち切ってみよう悪循環

 不安に満ちた生活毎日続けてて,あんまり感じなくなっちゃってることもよくあるよね.そんな時,身体症状によって,逆に自分の感情,気づかされることがある.これが身体に表れる心からのメッセージ.まず悪い病気じゃないことが多いんだよ.だから,日頃の生活で,それ感じたら,ちょっと休憩してみましょ,慢性的になる前に...
 症状出るのは辛いけど,それは心が疲れているからなんだ.症状ばかりに目を向けて,一気になくそうとすると,余計に疲れたまっちゃうね.症状自体がストレスになる..これ,逆効果.ここで,いま一度考えてみてよ.なにが心を疲れさせてた原因なのかを.そして,いま自分に起きてる情動に気づき,症状に向けられた意識,それによって,さらに加速され,強められる症状の悪循環から抜け出して,うまく自分の心の舵取りしてみてくださいな.そうすると,少し楽になりますよ.
 どうですか? 少しは自律神経のこと,わかったかな? ドキドキ,ハアハア..,これは情動で,誰でも起こることだったんだね.それはわかったんだけど,でもでも症状とれないから辛いんだよ.どうすれば抜け出せるのさ...聞こえてきそうだ..それについては,ここの「森田療法」「自律訓練法」 「気分転換法」も参考にしてみてよ.
 「A医師に「自律神経失調症」,B医師に「心身症」「不安神経症」,C医師には「分裂病」と診断された,いわるゆ「自律神経失調症」患者が,実は「良性脳腫瘍」だったことが発見されて,一挙に解決」なんてこと,この宇尾野先生は経験されている(「後藤由夫ほか:全面改訂自律神経の基礎と臨床).よく「私は自律神経失調症にパニック障害に神経症に...」なんて,いくつも病名あげてる方,ネットでお見かけするんだけれど,この辺りの判断は,いまでも非常に難しく,先生によってまちまち.脳腫瘍なんて特例で,もちろん,そのような自律神経や神経自体の病気を除外診断した上で(この除外が非常に重要)のことだけど,似たりよったりかななんて気がしますよ.だから病名にこだわらず,ゆったりとした気持ちを持って自分の情動反応をみつめてみてください.
 今回は,鴨下一郎:情動ストレスと自律神経の関係,心身医療3-増刊号 わかりやすい心身医療ハンドブック,17-19,医薬ジャーナル社(1991)と,平成13年10月,名古屋で行われた第54回日本自律神経学会総会の公開シンポジウム「自律神経失調症−ストレスへの適応障害とその治療−」の中の,早野順一郎先生のご講演「ストレス反応としての身体症状」を参考に書かせていただきました.


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