心と身体の談話室
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−森田療法(3)−

「社会の中での自分」ってなんだろう?

子供のように純粋になりたい?

 子供は純粋というよりも色のついていない白紙であるだけだ.大人が白紙であっては非常に困る.また,自分勝手に,思うよう振舞うだけでも困る.人生には良いことも悪いことも,不条理なことも,さまざまなことがたくさん存在するのであって,現在の生活が複雑で,灰色の状態であるということをふまえた上で,なおかつ,その中で,自分はこのように生きるというように,1つの生き方を貫き,その生き方がまた,何らかの形で社会の利益と結びつくとき,本当に一個の人間として,理想に向かって生きているとか,純粋な生き方をしているといえるのではないだろうか.
(岩井 寛:森田療法,講談社(1986))

社会の中での自分

 これから社会に出ていかれるみなさんへ.
 これまでの,学生としての人間関係から,「社会」という,また違った人間関係の中に出ていくことになる.
 「社会」における「自己」とは,「自分一人で存在する自己」ではなく「他者によって生かされる自己」ということ.ここに気づいて欲しい.
 貴方,自分一人だけで生きているのではないですよ.
 自他とは何か?
 私は社会に出てそれに直面し,苦しんだ.それと同じことをここに来たみんなが,長く繰り返して欲しくないから,ここで,あえて,みんなに問いかけます.
 社会における自分ってなに?

 人が10人いれば10の価値観がある.100人いれば100の価値観がある.
 物事のとらえ方,感じ方だって,ひとそれぞれ.みんな自分の物差しを心に持っている.それが全部同じものだと思うかい? 残念ながら,み〜んな違うんだな.
 会社に入って,自分のしたい仕事をしようと思う人もいれば,出世一筋,出世のためなら仲間をも蹴落とす,そういう価値観の人もいる.自分の創造物を世に残そうと思う人もいれば,社長になることが生きがいの人もいる.だから,人と比べてどうだとか,自分はこう思っているのに,なんであいつはそうなんだ...,まず,あまりそこにこだわらない方がいいと思う.

 新米の自分に何ができる? こんな自分でうまくやっていけるのかよ?
 そんなふうにあせる時もある.
 でも,やたら他人をうらやむことなく,かといって自分を卑下することなく,逃げないで欲しい.
 最初からうまくなんか,できなくてあたりまえなんだから!

 そんなこと言ったって...,そんな状態が続くと,いろいろ考えちゃうよね.逃げたくなるよね.
 「自分は・・・,だから社会に参加できないんだ」
 そんな時,勝手な理由をつけて,自らの内に入らないで!
 これ神経症の「合理化機制」なんていう.
 辛いことから逃げながら,だけど自分は正しいんだ,なんてね.

 まずうまくできなくても,その自分を肯定して.そして自己を確立して!
 難しい言葉だけれど,森田はね,「私」から私が生かされている「社会」を指向し,単なる私の「小我」を離れ,社会的自己実現の「大我」へと向かおうではないか,なんて言っている.
 社会が貴方を生かし,貴方は社会に生かされる.
 いやー,ちょいと,難しくなっちまったよ.ごめんね.
 何が言いたいかわかんねーよって人は,掲示板にでもカキコしてね.
 今回,岩井氏の著書の一部を引用し,この「森田療法」シリーズを書かせていただいた.岩井氏は,同書を,ガンを患い,片耳も聞こえず,両目も見えなくなってしまった状態で,口実筆記によって書き上げられた.
 しかし,岩井氏本人が記しているように,それは誰のためでもない.
 『「最後まで人間として意味を求めながら生きたい」と願い,「人間としての自由」を,最後まで自分のものにしておきたかったからだ』とのことだ.
 その気持ち,生意気かもしれないが,私にはわかる.
 そう,ある人は「そんなにまでしてやらなくても...」そう,思うかもしれないね.
 「どうせこの先,短いよ.だったら好きなことすればいいのに...」
 けれど,それこそ,「自己実現」を欲する人間の姿だと,私は思う.
 誰のためでもない
 たとえ死を目前にしていたとしても,人間であるために,自分がそうしたいのであろうと.

 人生,たかが70〜80年.
 そのわずかな時を,自由に生きてみないかい?
 そこで,ここにこられたみなさんに,私は,ぜひ一度,この著書を読まれることをお薦めする.

 こんなふうに思う自分はおかしい.
 他の人とはどこかが違う.そんな自分を人には見せたくない.
 自分の劣等感を人には知られたくない.
 ...などなど思いながら,
 それ自体が他人に迷惑をかけることなんだ.だから自分は人と会うこともしない方がいいんだ.
 その方が,その場の雰囲気をこわすこともないし,自分も気兼ねしないで済む.
 こんな勝手ないい訳をして,自分の考えを合理化する.
 しかし,そうしながらも,でもやっぱり,どこかが違うんではないか?
 そう思い続けるあなた.
 この本を読まれると,ん?と思うところが,必ずあると思うよ.


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