TEAM.TOKIWAの ゲキレツマンガ道場  

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第7回 スペシャル座談会 TEAM.TOKIWA「音楽漫画」を語る   2005.9.5

ちまたは「NANA」映画公開で盛り上がっております今日このごろ、今回は特別企画として渡辺・真下・粟生の3人で音楽漫画について語ってみました。音楽漫画っていっぱいありますねえ。字数の都合で語りきれなかった作品も多々ありますがごかんべんください。しかし、このメンバーで漫画についてしゃべり出すと止まらない……。長いです。おひまな時にどうぞ!

【クラシック漫画】

粟:こないだNHKで「なぜ今クラシック漫画がはやるのか?」みたいな番組やってたんだよね。見なかったけど、『のだめカンタービレ』(二ノ宮知子/講談社)と『神童』(さそうあきら/双葉社)、『ピアノの森』(一色まこと/講談社)を取り上げてたらしい。

渡:あー、でも今の『のだめ』っておもしろい?

真:(即答)全然おもしろくない。パリに行った10巻あたりから(※現在、主人公のだめはパリに留学中)ダメでしょ。学祭あたりで終わっていればよかったのに。

粟:私としては、千秋(※のだめの彼氏?同級生にしてすでに天才指揮者)中心で話が動いてるのもいまいち。

真:まあ、最後は千秋が指揮するオーケストラで、のだめがピアノを弾いて終わるんじゃないの。つまりピアノ協奏曲を演奏する 。

粟:あまりにも道が遠いよ。

渡:50巻くらいでやっとたどり着くんじゃない(笑)? やっぱ楽団(※日本での学内オーケストラのエピソード)でいろんな人が出てきた頃が一番おもしろかった。

真:7巻くらいまでだね。

粟:パリ留学で出てきてる外人キャラがおもしろくないんだよね。

渡:新キャラ出てきても、結局は今までのキャラの焼き直しっぽいんだよ。

粟:のだめが天才なのか何なのかちょっと伝わりにくいな。一瞬持ち上げては落とし、の繰り返しだから何者なのかわからん。あれの評価をどう描くのかな……。

真:引っぱりすぎだよ。パリへの取材費も出たんだろうけど。ところで、クラシック漫画って昔からあるよね。竹宮恵子とか。

渡:『変奏曲』(朝日ソノラマ)のこと?

真:くらもちふさことか。

渡:『ポケショパ』(※いつもポケットにショパン)ね。

真:少女漫画では、クラシックって路線が脈々とあるからね。

粟:『のだめ』のおもしろさは、音大の日常的な内幕を描いたとこだと思うけど。

渡:“クラシックやってる人”のおもしろさだね。

粟:昔のクラシック漫画はエリートにしかスポット当ててないからね。それにしても『マエストロ』(さそうあきら/双葉社)2巻以降さっぱり出ませんなあ。

渡:3か月連続で1巻ずつ出るはずだったんだけどね。単行本描きおろしってのが、無理があったみたい。

粟:これもオーケストラを描いた、内幕っぽい話。

真:でも、男のクラシック漫画って少ないよね。

粟:少女漫画では限りなくあるけど。駄作も含め(笑)。となると、青年誌でやってる『ピアノの森』は珍しいのかな。4巻くらいまで読んだはずなのに、何も覚えてないけど。

渡:でもあれ、正確にはクラシック漫画じゃないよね。チャラい“天才ピアノ少年”の物語。クラシックっていうよりは、むしろ絶対音感とかあっち系の才能があるって話。『神童』とかぶるよね。

真:そういえばクラシックを題材にした漫画で超大作ってないよね。今『のだめ』がそうなりつつあるけど。

渡:まあ、まとめとしては、『のだめ』の旬は過ぎたってことで。

 

【ロック漫画】

粟:『NANA』(矢沢あい/集英社)の売れっぷり、すごいことになってますな。最新刊の発売日が8月12日だったんだけど、前の日駅ビルの書店に「開店まで待ちきれないお客様のために、8時から特設売場で早朝販売を行います」って貼り紙してあった。

渡:意味わかんな〜い! 『ハリーポッター』並み?

真:あおってるだけじゃない?

渡:そんなに好きなら連載で読めよ。

粟:うちの近くのしょぼい本屋でも、広告のウラ紙に「NANAL 出ました」って貼ってあった。「冷やし中華はじめました」みたいな感じで(笑)。

渡:矢沢あいにしては13巻って長いよね。

真:私としては『NANA』は6、7巻で終わったな。

渡:終わったね。

粟:あたしは買ってますが…今の楽しみはしつこく暗示されてる“不幸な結末”を読みたいがため。ていねいにいろんな伏線はってると思うけどね。

真:音楽漫画というよりは恋愛漫画? 友情漫画?

粟:座談会にあたって1巻から全部読み返したんだけど、最近は人間関係がこみ入りすぎてイヤ。全員裸にしてひとつの部屋に入れて「それぞれ一番好きな人のとこへ行け!」って言いたくなる。

真:ナチスみたい(笑)。最近つまんないとはいえ『のだめ』のいいところは、読んでて音が聞こえてくるところ。『NANA』の場合、聞こえてこないね。同じロックでも『TO-Y』(上條淳士/小学館)みたいには音が聞こえてこないし、『ファイヤー』(水野英子)みたいにロックのために死なないし(笑)。

粟:矢沢あいって絵がうまいのに、演奏シーンはホントにひどいよね。パンクバンドって設定も苦しいが。「トラネス」はまだ音が想像つくけど、ナナのバンドはどんな音楽なんやらさっぱりわからん。

真:そういえば矢沢あいなら『下弦の月』(集英社)は好きだけど、あれも音楽漫画に入るのかな。ミュージシャン出てこなかったっけ。

粟:ああ、霊ね。霊がミュージシャン。たしかビジュアル系みたいな。

真:まあ、矢沢あいはたぶん好きなんだよね。音楽を象徴として使うのが。イメージアルバムって出てないの?

渡:出てるよ。けっこう有名な人が参加してるはずだけど。イメージアルバムは『BECK』(ハロルド作石/講談社)も『のだめ』も出てるよね。

粟:『BECK』も長くなりすぎて、つらくなってきた。20巻超えてるけど全然先が見えない。

渡:『BECK』はちょっと音が伝わってこないな。あれはバンドの初期から描きすぎてるのが問題な気もするけど。そんなにすぐうまくなるのかな、とか疑問もわく。

粟:バンドの話というより、主人公たちをつぶそうとしてる巨大勢力と戦ってる時間が長い!

真:それって、ケンカ漫画と同じじゃないの? 『なんと孫六』とか。

渡:『修羅の門』とか。

粟:月マガだからねえ。最近では、彼らのバンドが特集された雑誌が発禁回収までされてましたよ。

真:そのへんは少年漫画だね。対戦ものだね。でも、ロック漫画だから、最終的にはサクセスするんじゃないの?

粟:『TO-Y』みたいに?

真:あれの場合は主人公がいわゆるサクセスに興味なかったわけだけど……話を芸能界とうまく絡めたから面白いよね。

粟:『TO-Y』はライブハウスの雰囲気もよく出てたと思うよ。

真:あと、よく言われることだけどポイントは「無声で勝負」したことかな。いい加減な歌詞が出てこないのがいい。

渡:ロック漫画でショボい歌詞を見るとサメるよね。

真:『NANA』って詞は出てくるっけ?

粟:“こういうことを歌ってる”くらいの説明は出てきたような。

真:反抗的な歌詞なんでしょ?

粟:もちろん。『NANA』は主人公はじめ、みなし子盛りだくさんだからね!

真:TO-Yも親はいるけど、親とは断絶って設定だし。『ファイヤー』もそんなような……みなし子はロックの王道なんですね。

渡:ハングリー精神……古いよねえ(笑)。

真:千秋は金持ちだけどね。

粟:のだめの家は?

渡:パリ編になる前に出てきたよね。実家は福岡で……。

真:のり産業を営む家!

渡:クラシックは基本的に金ないとやれないからね。

粟:ピアノやバイオリンは拾ってこれないからな。

真:あいつはハングリーだったよ!『協奏曲』の……バイオリン弾いているエドナン。ピアノのウォルフは育ちが良かったけど。

渡:でも、現実にはロックやってる人も普通の家庭の子じゃないの? ハングリーなんていないでしょ。まあ実際描くとなると、家族とか出てくるとカッコつかないんだろうけど。

真:『TO-Y』で、イサミってキャラの家族が出てきてたけど、あれはギャグで使ってるから。「パパ」「ママ」とか呼んでて。

渡:そういうの読みたいけどな。普通の家の子でパンクバンドやってて「そんなかっこうで外歩いちゃダメ」って親に言われちゃうような。そのほうがリアルだよね。

粟:ロックをテーマにした小説でおもしろいのがほとんどないんだけど、それは成功することを前提に「カッコいい」様子を書こうとすると、ものすごくカッコ悪いからかな、と。

真:『TO-Y』が良かったのは、成り上がりのストーリーにしなかったからじゃないかな。

粟:成功して終わるのって、難しいね。「カッコいいんです」って描こうとすればするほどしらじらしくなる。私が『気分はグルービー』(佐藤宏之/秋田書店)が好きな理由はそこにあって、最後はサクセスじゃなくてバンドの解散で終わるからなんだよね。

 

 

【ロック漫画〜その2〜】

渡:多田かおるの話が出ないなあ。

粟:『愛してナイト』(集英社)か。きみが語らなくてどうする!

渡:多田かおるは音楽漫画シーンにおいてとっても大事! 着地点がサクセスじゃないとこがキモなんだよ、あれは。メジャーデビューを目指してるわけじゃないけど、ライブハウスですごく人気があるバンドを描いてるとこが安心できる。主人公と恋仲になるのはいわゆるロックンロールバンドの男で、三角関係の恋のライバルとして出てくるのがパンクバンドの人なのね。その対称がわかりやすいのがいいんだよね。彼がツアーに出ちゃって、さびしい思いをしてる時にパンクの男に言い寄られたりして。ロックの人は言葉たらずで信頼できなくなっちゃう時がある。でも、パンクの男は見た目はこわいけど中味は好青年だったりする描き方が理に適ってる気がする。

粟:わかりやすいなあ。

渡:すごい狭い範囲の話なところがいいんだよ。『ハイティーン・ブギ』(牧野和子 原作=後藤ゆきお/小学館)も初期はそうだったけど、ライブハウスに行くと「あの子がメンバーの彼女だ」って周りが知ってて、トイレでシメられてたりする。そこにヒーローが助けに来たり。

真:ライブハウス密着型ですな。

粟:それより昔の漫画は、もっと店が水っぽかったりするよね。あるいはコンテスト主導型かな。『愛の歌になりたい』(麻原いつみ/小学館)は、もろポプコン時代の漫画だけど、ラストは『TO-Y』に近かったよ(笑)。民が主人公のバンドの音を求めてぞくぞく集まってくる。権力に勝つ構図。

真:タイトルはいいよね。

粟:ニューミュージックですな。

渡:そういえば『ピアニッシモでささやいて』(石塚夢見/小学館)の続編、『BE LOVE』(講談社)でやってるね。しかも「第二楽章」とかいって(笑)。

粟:シンガーソングライターの話ね。ものすごく中島みゆきチックな感じの。

真:タイトルからして最初はクラシック漫画かと思ったら、芸能界ものだよね。

渡:内容はけっこう下世話。

粟:石塚夢見が生き残ってたこと自体知らなかった。

真:わざわざ出版社変わってまで続編やるほど人気あったの?

渡:編集者が当時の根強いファンだったんでは。

真:で、“第二楽章”は読んでいるの?

渡:いや。「やってんなー」と思ったくらい。

真:ベタな絵だよね。

渡:もともと絵うまくないし。

粟:いたずらに髪が長い。主人公が黒長髪で、ライバル兼親友が白ウェーブ長髪。(※この座談会のあと気になって立ち読みしましたが、何やら主人公は才能ある中学生少女を預かったりしてる様子でした)。

 

 

 

【そのほか〜1〜】

真:ジャズをネタにした漫画って、『BLOW UP』(細野不二彦/小学館)しか知りませんな。

渡:そもそもジャズって、サクセスしないじゃん(笑)。頂点がわかりにくい。頂点って……ブルーノート出るとか?

真:フュージョンも絶対漫画にならないね。フュージョンやるヤツなんて嫌われてるし(笑)。

渡:逆にやればいいのに。「いまどきフュージョンやってるヤツ」漫画。まあロックやクラシックは読者がイメージしやすいけど、ジャズやフュージョンはそこが難しいんだろうね。

粟:服でしょ! ロックやクラシックは衣装でイメージをカバーできるけど、フュージョンはちょっと……。

渡:シャツとスラックスって感じ? 柄シャツ?

粟:それじゃ絵にすると単なる普通の人。

真:DJ系ってないの? ありそうな気がするけど。

渡:メインはないかもしれないけど、少女漫画では「カレがDJ」って設定多いよね。

粟:最近おおいね〜。

真:そろそろDJのためのサクセス漫画があってもいいんじゃない? 『包丁人味平』みたいな料理漫画のように全国大会で戦うとか。

渡:でも、ヒップホップだと歌詞を載せないわけにはいかないしねえ。あとはイメージ映像か。

真:『ゲームセンターあらし』みたいな画面になったりして。それはさておき、主人公は渋谷に行ってレコードを買うところから始まるんだよ。

粟:正統的なステップアップ漫画だね。

真:黒人のDJとかにスカウトされたりして。

粟:すごいレコード漁り能力のあるライバルも出てくる。幻のレコードを求めてバトルする。

渡:音楽として十分浸透してるから、あってもおかしくないよね。

真:フュージョンと違って、サクセスありそうだし。ロックに替われるものとしたらこれしかないよ。

粟:服は描きやすそうだ(笑)。あれ、ビジュアル系の漫画は意外とない? 

渡:少女漫画にはあるよ。『快感フレーズ』(新條まゆ/小学館)とか。

粟:『ブロンズ』(尾崎南/集英社)。今、新装版が刊行されてるみたい。

真:『ブラブラバンバン』(柏木ハルコ/小学館)ってあったね。ブラスバンド漫画。

粟:あれ、おもしろかった、変化球で。

渡:あの人、休まないよね。世はそんなに柏木ハルコを求めてるのか。

粟:いろんなテーマを描いてるし、チャレンジャーだと思うけど。映画では『スウィングガールズ』、最近は『リンダリンダリンダ』と……なんか青春音楽映画の流れがきてますな。

真:『スウィングガールズ』は正面きってブラバンやってヒットしたよね。

粟:どっちも見てないで言うけど、小さいサクセス具合がいいんじゃない? 学祭成功とか。

渡:このぐらいの規模の話がもっとあっていいんじゃない? 別にメジャーデビュー目指すような話じゃなくても。

真:あとはアイドルもの? 80年代以降多いよね。『歌ってナナちゃん』(奥村真理子/小学館)とか。

渡:なんでそんなこまごまとした例を(笑)。

真:実録ものとか。最近は『上戸彩物語』(咲坂芽亜/小学館)とか。

粟:渡辺くんに借りて読んだよ。アイドルものは少女漫画では定番だけど近年では、アクターズスクール関係はやった時、瞬間風速的に増えたね。

渡:『コミックBINGO』(※文藝春秋社の出してた漫画雑誌。すぐ廃刊)のヤツとか(笑)。

真:あ、あれか。牧野社長が裸で踊った漫画ね。

粟:そりゃアイドル漫画じゃないよ(笑)。その頃『ちゃお』がアクターズスクールとタイアップしてて、フィクションと実録が混ざったのをよくやってたな。『マーガレット』は今でもジャニーズとのタイアップものやってるね。最近は少女漫画の成り上がり系って、歌姫よりモデルとかのが多い気が……。

真:デザイナーとかね。

粟:スタイリストとか、ショップ店員で成り上がるってのもある。そういえば『眠り姫Age』(おおや和美/小学館)って、歌姫ものだっけ。

渡:プロデューサーと恋仲になるやつね。今、文庫で出てますな。

粟:アイドル系だと、自分はやる気なかったのにスカウトされるってのが、ひとつのセオリーだよね。少女漫画だと「友だちの付き添いでオーディションに行って、スカウトされる」ってのがよくある。

真:現実でもよく聞く話だけど。

粟:ホントかどうかあやしいなあ。立候補するより他薦のほうが位が高いから。槇村さとるにも不治の病のボーカリストが出てくるバンド漫画があったよ。90年代くらい……槇村さとるの不作時期。

渡:粗製濫造時期ね。

 

 

【そのほか〜2〜】

粟:フォーク漫画ってないのかな。

真:『ガロ』とかにはあったんじゃない?

粟:対決しやすそうだと思って。

真:叫ぶ詩人みたいな?

粟:路上ミュージシャン対決漫画?

真:そうね、路上ミュージシャンとDJは漫画になるべきだよ、そろそろ。

渡:でも、今の時代でフォークやる人ってケンカしなさそうだけど。

粟:音が混ざらないよう、適切な距離を保ってやってるもんね。気の弱い人なんて、だれも通りかからないようなトコまで行ってやってる(笑)。

真:長渕みたいな熱いヤツはいないのか。

渡:路上でやってる人って、基本的には左翼でしょ?

真:そう来たか……その話を始めると長くなるな(笑)。

渡:つまり民主主義っていうか、ケンカはいけないとか平和大好きみたいな。

真:癒しとか、まったりスタイルね。

渡:でも路上でいきなりマイク使うとかって反則だよね。

粟:あ、ブルース漫画があったじゃない。渡辺くんに借りた……。

渡:『ヘイ、ブルースマン』(山本おさむ/講談社)ね。

真:やめようよ、そんなすごいタイトル(笑)……。

渡:今度貸すよ。メンバーがガンで余命いくばくもないから、「これを最後に」ってことでブルースバンドで全国回る話。

真:いぶし銀ね。

渡:モデルがいるんだよね。だからノンフィクション。まあ「ブルース界はこんなにヤバい」と訴えてるような漫画かな。最後のツアーだっていうんで地方の小さいライブハウスに集まってきた古なじみのお客さんたちが「やっぱブルースいいじゃん」と感動する。

真:いい話だ(笑)。

粟:ある意味リアル。

真:ブルースは「死ぬ」わけね。サクセスじゃなく。ロックだと『ファイヤー』みたいに若くて死なないと。ジャニス・ジョプリンみたいに。

粟:殉死ですな。

渡:ロックのサクセスの先って難しいね。

粟:10万人コンサートの図とか描いてもおもしろくないしね。ちなみに山本おさむっていえば『天上の弦』(講談社)はおもしろいよね。

渡:バイオリンを作る人の話ね。これも実話が題材。

真:まるで貝塚ひろしの『父の魂』(集英社。※バット職人を父に持つ野球少年の話)だね。そういえば柳沢きみおって、音楽もの描いてないっけ?

渡:演歌がある……『流行唄』(小学館)。

粟:これはプロデューサーが主人公になってるから、作詞家とか作曲家とのエピソードが出てくるのがよかった。歌手も、昔アイドルで今はヨレヨレになってる人を掘り起こしてきて立ち直らせたりとか。

渡: 演歌っていえば『俺節』(土田世紀/小学館)があった!あれはちょうどいいサクセス具合だったよね。もともとロックやってた人が「演歌すげえじゃん!」って言って転向するっていうのも自然。

真:最後どうなるんだっけ。

渡:サクセスの着地点としては、地元でリサイタルができるようになった、と。

真:渋い終わり方だね。彼の出世作だよね。スピリッツにああいう漫画が載るっていうのがちょっと驚いた。

粟:どす黒いページが巻末のほうにこびりついてた印象強い……。演歌だと『演歌の達』(高田靖彦/小学館)ってのもあった。いまいちだったけど。そういえば島耕作も音楽つくってたな。

渡:初芝のレコード業界編ね(笑)。要するにEMI。

 

 

【まとめ……のはずが、プレゼンだらけの妄想大会突入編】

真:結局、私が音楽漫画の中で一番好きなのは『TO-Y』かな。

粟:私は『気分はグルービー』かな。好きなポイントがあってね、主人公が大学行くか変なオッサンとバンドやって生きてくかを迷ってる時、彼女(かつ同じバンドをやってた仲間)が「東京の大学行けばバンドなんかいくらだってできる」って言って引き留めようとするのね。そのへんのリアルさがせつのうて。

真:胸キュンだね。

粟:バンドは解散。メンバーたちは以後ほとんどバンド卒業。

真:高校でバンド卒業って早くない?

粟:でも大学生になったらもっと楽しい遊びがあるんじゃん?

真:長くバンドをやってる人も多いと思うけど。

渡:でもイメージでは、フリーターでバンドやってる人のほうが多そうだけど。

真:まあ、卒業できない人がやってんだよ。

粟:それって……(笑)。 大学の音楽サークルでバンド活動デビューってパターンも多いみたいよ。

渡:漫画だったら、もっと中年バンドの話が読みた〜い。

真:中年でロックだったら、やっぱり柳沢きみおにお願いしたい。どこで会社をやめるか苦悩したり。

粟:うまくいかなくて酒をあおったり。

真:プロデューサーが通る時間をみはからってストリートライブをやったり。『男の自画像』(小学館)をそのまんまロックに置き換えて。

粟:30万くらいするギター買っちゃって、「もうこれで金も底をついた」とかモノローグする。「別れた女房に今月の慰謝料を払ったら、食費もない」と。背水の陣でやる。

真:飲み屋に太鼓腹のドラマーがいて、そいつといっしょにやる。

粟:原作書いてやって!

渡:趣味の漫画が少なすぎるんじゃない? 別に「プロ志向」でなくてもいいのに。働きながら普通に音楽やってる人の漫画。その人口は多いんだし。

真:じゃあ、こういう漫画どう?

渡:なんのプレゼン(笑)?

真:バーで演奏してる人たちがいて、そのバーに来る客の“人間交差点”。

渡:古谷三敏(笑)?

粟:『レモンハート』(古谷三敏)×『人間交差点』(弘兼)×音楽?

渡:実はクラシック人口も、アマチュアが圧倒的に多いじゃん。市民オーケストラとかいっぱいあるし。そう考えると、実はN響に入っただけでも大サクセスだよね。

真:オーケストラに入っても演奏だけじゃ苦しいでしょ。オーケストラの仕事がない時は、先生をやって稼ぐ。

渡:やな現実だね。

真:当然ヒマなパートもあるよね。

粟:ユーフォニウムとかやるもんじゃないな。100メートルを選ぶか、3000メートル障害を選ぶか……。

真:またひとつプレゼンいいですか? 女の指揮者のサクセスストーリーってどうかな?

渡:最近、日本人でいるよね。女性で、どっかの国のオーケストラの常任指揮者になった人。 見た目も宝塚っぽいというかユニセックスな感じ。

粟:アウトローは物語になりやすそうだな。

真:ところで、渡辺くんの音楽漫画ベスト1は?

渡:うーん(長考)……『ポケショパ』(※いつもポケットにショパン)かな。『ポケショパ』はやっぱ、音聞こえる。

真:くらもちふさこって音楽漫画多いでしょ。最近は描いてないけど。

渡:『アンコールが3回』とかね。『NANA』読んでると、あれをすごい思い出すんだよね。けっこう似てる。メンバー同士でラブラブやって、それが引き金になってどうのこうのするのが。

真:ロック漫画はすぐつかみ合いのケンカするけど、クラシックはしないよね。

粟:心情的にはしてもおかしくないけど、クラシックの人は暴力嫌いだからね。ケガとかイヤだし。

渡:昔よくあったよね、「指折ってやる!」みたいなヤツ。ギタリストとかピアニストとか。

真:ジャズ・トランペッターのチェット・ベイカーはやられたらしいよ。麻薬のお金が払えなくて歯を折られた。

粟:くらもち初期の『わずか5cmのロック』にあったじゃん、そんなエピソード。コンテストの前にライバルのバンドの刺客に襲われて骨折。

真:コンテスト前に襲われるのはお決まりだよね。

粟:ケガすると話が盛り上がるしね。バイオリニストやピアニストが腱鞘炎になるとか。きしんちゃん(from『ポケショパ』)もそうだったよね。

真:合唱部の漫画ってできそうじゃない?

粟:またプレゼンですか(笑)。短編なら少女漫画ではあったような……長編にはならないよね。まあ、あれもチームワークものだから、必ず仲間割れとかするしおもしろいかも。

真:派閥とかできてね。

渡:パートの違いが絵がわからないのがツライけど。

粟:いや、わかるよ。私がいた合唱団では圧倒的にソプラノに美人が多かった。アルトは、ガタイがデカくて地味な人が多かったから、アルトにふり分けられてショックだったもん。

真:じゃあこういうストーリーはどう? ベルリン・フィルがやって来て、ある合唱部にベートーヴェンの『第九』の合唱を頼むことになる。で、だれがソロをとるかでもめる。

粟:あるある。部内でコンクールに出るためのオーディションあったもん。りっぱに対決ものですよ。

渡:合唱部で、コンクールの本選に出られない人って何やってんの?

真:きれいな声で応援(笑)。しかもハモる。

粟:でも、練習の時はレギュラーだけの練習になるから、お休み。(以下、なぜかしばし合唱Q&A状態に突入)そういえば、ボイパたちはどこ行ったの?

渡:地味に生息しているのでは。

粟:あったよ、アカペラコーラス漫画『ドラゴンボイス』(西山優理子/講談社)。5人のコーラスグループの話なんだけど、主人公の声の設定が特殊すぎてどんな声なのかさっぱりわかんなかった。ただ、ものすごくやかましい声だってことくらいしか。

渡:ちょい待ち!音楽で完全に食えるのって、宮内庁じゃん?

粟:さあ、邦楽漫画のプレゼンをしろ!

真:和楽器漫画あったよ。山岸涼子で。笛つくる話(『笛吹き童子』/秋田書店)。

渡:それ時代劇じゃん。しかもオムニバスのひとつ。地味〜(笑)。

真:しかしこういう話が盛り上がるのって、漫画で何がおもしろいかって「内幕」だってことだよね。どんなに地味でも。芸能界でも合唱団でも裏話が知りたいんだよ。

粟:華やかそうに見えてこう、とか。

真:足の引っ張り合いはもう大体わかったからさ。それ以外で。またプレゼンいい? 最近フジロックとかあるじゃない。ああいうフェスのウラ幕ものとか。

粟:『BECK』ではほんのちょっとさわってるな。おっと、ロック漫画で『緑茶夢』(森脇真末味/小学館)を忘れてましたよ。これをベスト1にしても良かったなあ。

真:え、何それ?

粟:これは絶対に読むべき!

真:いつごろの漫画?

渡:30年は前かなあ……。しかし、これだけ音楽の素養ある人が多いんだから、いっそ漫画に譜面とかバンバン載せればいいのに。「こんな曲を作ったんだ」って言って、歌詞じゃなくて譜面が載る。

粟:それ、作者がつくるんか? 外注? 経費が膨大にかかりそう。

渡:昔『キン肉マン』で超人とか募集してたノリでさ、「キミの作った曲が漫画に載る」っていう募集を……。『ハイティーン・ブギ』でよくあったよね、読者から送られてきた歌詞を作品に使うって。翔が歌う曲の歌詞ってことで載ってたよね。

粟:「MOMOKO」! あれも超サクセスしたよね。

渡:「翔&ライダーズ」アメリカツアー行ったし。

粟:アメリカのバンド「サティスファクション」に呼ばれるんだよ。初日はマジソンスクエアガーデン。ツアーに際し、モモコは大和魂を表現するための和太鼓チームみたいな衣装を用意。男はサクセス、女は病気で死ぬ(笑)。

真:成り上がりだね。実際日本のミュージシャンが世界で成功するって、極めて少ないけど……。

渡:喜多郎とか(笑)。

真:それじゃストーリーになりそうもないよ。

渡:宗次郎とか(笑)。

粟:坂本龍一ぐらい言おうよ。

真:音楽漫画に限らず、「海外で戦えるほどの実力」になって終わるっていうのが王道だよね。『エースをねらえ』にしたって。

粟:そこで終わらさないと、次は宇宙とかギリシア十二神とかと戦わなきゃならなくなる(笑)。

真:しかし必ず旅立つのは西洋で、だれも「飛べ、中国へ!」とは言わないよね。

渡:アジア、見くびられてるなあ。現実は、日本のミュージシャンでアジアで成功ってパターンは多いのに。 (2005年8月15日・都内某ファミレスにて収録)

 

第1回 燃えよ、プロ野球! 2004.11.29

第2回 燃えよ、ケンカ魂! 2004.12.27

第3回 もてはやされよ、ショートコミック! 2005.1.31

第4回 そろそろ読んでみようと思っている漫画! 2005.4.30

第5回 へいお待ち、料理漫画一丁あがり! 2005.5.31

第6回 漫画でムラムラできますか? 2005.6.30