TEAM.TOKIWAの ゲキレツマンガ道場 >>この連載は月1回更新します。バックナンバーは下にあります。 >>TOPPAGE
第2回 燃えよ、ケンカ魂! 2004.12.27 第2回のテーマは「ケンカ」です。 なぜこんなテーマにしてしまったのかよくわかりませんが……冬→寒い→熱くなりたい→ケンカ……といった連想が働いたのかもしれません。みなさんも帰省などした折りに、幼なじみと思いっきり殴りあってみるといいかもよ! おっ、季節感あるじゃん。 |
渡辺水央●ライター
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真下弘孝●イラストレーター・デザイナー
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粟生こずえ●編集者・ライター
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『奪還 北朝鮮拉致ドキュメンタリー』(原作・監修=蓮池透・作画=本そういち/双葉社/04年) 粟生こずえ嬢に今回のテーマはケンカですと言われパッと頭をよぎったのは、相手と殴り合うことでしか愛情が確かめられない女の子のお話『ハートを打ちのめせ!』(ジョージ朝倉/祥伝社)だったんですが、いやいや待てよ、と。兄弟ゲンカ、家族ゲンカ、国家間のケンカ、そもそもの南北のケンカという意味でこれほどケンカというテーマを内包した漫画もないなと『奪還 北朝鮮拉致ドキュメンタリー』(蓮池透・本そういち/双葉社)が思い浮かんで、これで行こうかと決めかけていたところに最近一番ハマってたボクシング漫画『Big Hearts ジョーのいない時代に生まれて』の最新巻で最終巻の3巻が発売になり、あぁこっちだよ、こっち、と趣旨変更しようとしたんですが……ボクシングって格闘技? ケンカにはあらず? そもそも『Big Hearts』の面白さって、ケンカでもないのになぜ戦わなきゃいけないのか、そもそもなぜ人はボクシングに魅せられるのかみたいなテーマにあったりもして。と、迷ってるんですね、要するに。いまだにと言うかいまさらと言うか……。 そもそもケンカとはなんぞや。なんなんのか。せっかくなのでそのへんから考えてみようと思うんですが、まぁ漫画って基本的にはケンカの構図にあるものだと思うんです。あらゆるマンガはケンカである。ケンカと言うか戦いと言うか戦争と言うか。ぶつかり合いの構図こそがドラマであり、マンガであると。それはバトルものはもちろん、恋愛劇でもそうだし家族劇でもそうだし。あぁそうした意味ではやっぱり今回は『奪還』にしといて正解なのかなぁ。そうだよ、『奪還』だ! この作品、ストーリー的な説明は不要だと思います。はい、拉致被害者の蓮池薫さんとその透さんを救い出すために尽力された兄の透さんとご一家、そして周囲の人々と国の政治家たちの動きを漫画化したノンフィクション作品ですね。最初はちょっと引っ掛かってたんですよ。題材はいいし、心意気も買うんだけど、なんて言うか絵柄、かわぐちかいじじゃん! と。国家、テロ、歴史観、政治、人間ドラマみたいな作品で絵柄がかわぐちかいじって、いかんせんあざといだろうと。 しかも個人的には背景の描き方の甘さ(舞台は70年代なのに出てくるアパートの造りとかが最新鋭だったり)とかも気になってたんだけど、事実は小説より奇なりと言うか、やっぱり現場のドラマの重みでグイグイ読ませるんだよね。しかも構成がいい。時間軸じゃなくて、あくまで作品としてのドラマの盛り上がりでエピソードを行き来してて、うまく見せてる……って、あっ、なんか作画家のことはちっとも誉めてない気がするけど、結果、いい絵なのかもとも思います、あの絵。ドラマの前に出過ぎず、後に隠れ過ぎず、いい具合に物語と馴染んでて。 この作品におけるケンカは前に触れたとおりなのだけれど、やっぱり核となるのは蓮池兄弟の兄弟ゲンカかなぁ。せつないし、怖いよねぇ。誰よりよくわかっていたはずの弟にやっと再会できたと思ったら、まるっきりの別人になっていて、言葉と思い出こそ共有できても、決定的に断絶されている構図って。それこそ言い合いをしても理解はちっとも深まらず、それどころかこの弟がかつての弟じゃないということを知らしめられるばかりって。そういう意味でこの作品のケンカは、もどかしくて、哀しくて、ささくれだっていて、それなのにだからこそ、愛がある。うん、そうだよ、ケンカの基本は愛。暴力とケンカの違いはそこだしね。やっぱりそこは愛し合っているからこそ、愛がうまく通じていかないからこそケンカになるわけだし……。 決定的に隔てられてしまった兄弟の再生の物語である『奪還』。どうなんだろう。この作品ではそこまで踏み込んで描かれてはいないのだけれど、透さん、薫さんと再会してケンカできたときって(いや、結果としてはケンカせざるを得ないような関係性になってしまっていたのだけれど)、どんな気分だったんだろう。せっかく再会できたのに言い合ってるという意味では哀しくもあり、再会できたからこそケンカできているのだと思うとうれしくもあり? ニュース的な事実だけじゃなく、そうした人間ドラマ的な真実にまでもう少し踏み込んでいてくれたら、この作品、もっとと読ませてるものになった気もするんだけどなぁ。子供時代の回想エピソード(それそこ小さい頃の兄弟ゲンカのエピソードとか)を入れてくれてたりしたら、いまの隔てられた関係性も逆に生きてきたと思うんだけどなぁ。やっぱり一応デリケートな事実を扱ってるものであり、あくまで報道的ノンフィクションっていうことでの漫画化だからそこまでは踏み込めなかった? それこそ編集部が救う会側とケンカしてでもそこに踏み込むという意志がなかったってことなのかね? 【マンガ読みの余談】 高野文子の『るきさん』がちくま文庫で文庫化されましたね〜。実家にあるんだよなぁと思いつつ、再度読みたくなってつい購入。吉田秋生の『ハナコ月記』やしりあがり寿の『OSHIGOTO』と言い、『Hanako』連載のマンガはどれもなんか気持ちいい感じに軽くてそれでいて生活感(生活観、でもいいな)がきちっとあって面白い。そして『ハナコ月記』もちくま文庫ですが、ちくまは文庫収録のマンガのセンス、いいよね! 杉浦日向子、近藤ようこ、やまだ紫……って並べてみると、地味っちゃう地味だけど。ほかにも水木しげるとか山上たつひことかとり・みきとか? さて、『るきさん』。在宅仕事もしっかりしていて、きちっとした女性に見えるんだけど結構ぬけててちょっとスボラで、それでいて家事や季節の風物詩にはこだわりがあって、本が好きで生活上手で社会に一言あって……と言うと、なんか思い出しちゃうんですけどね。誰って、粟生こずえさん。うんうん、るきさんってなんか粟生さんっぽいよ。読んでそれを再確認した次第(笑)。 |
『愛と誠』(作:梶原一騎、画:ながやす巧/講談社/73〜76年) 少年マンガにおけるケンカは「男の世界」です。それは勝敗がきわめて重要ですし、命を賭けることもしばしばだからです。そして物語を進ませるため、次の相手は前の相手より強くなっていなければいけません。つまりケンカを通じて男は成長していくのですね。 しかしそこに「水をさす者」があらわれた場合、ケンカ好きの男(の物語)は変わっていくほかありません。今回はそんな「男の世界」に足を踏み入れた少女が、ケンカに水をさしまくり、さらに男の楯にまでなってケンカ・ファイターの心を変えていく70年代劇画の名作である『愛と誠』を紹介します。ちなみにその少女の名は早乙女 愛といいます。ある意味、彼女は愛(註:ラブの意)という名のもとに男たち以上に戦っていますけれど…。 さて、一方、男子の名前は大賀誠といいます。彼は少年時代の怪我が元で、心がすさんでしまい、ケンカばかりしている問題児です。尚、その怪我の原因は早乙女愛に ありまして、彼女は負い目を感じて誠に尽くしています。要は「誠さんがああなってしまったのは私のせい」だからです。 誠は中学・高校でケンカを繰り返しますが、この辺は少年マンガらしく、ケンカの度に敵のスケールが上がっていっています。つまり強敵の次はさらなる強敵、といっ た具合です。しかしです。どのケンカも勝敗を決することはほとんどありません。肝 心なところで愛が「待って!」とばかりに飛び込んできて、うやむやになるからです。それからはケンカの最中なのに説明的な台詞が飛び交い(そうしないと中断した行為に説明がつかないからです)、そのまま勝敗不明の形で終わってしまいます。 そしてさらに愛には心強い味方がいます。それは彼女の同級生の秀才・岩清水弘。 岩清水は彼女をひたむきに愛する男子で、彼もよく誠のケンカに首を突っ込んできます。当然、早乙女愛を守らんがためです。「待ちたまえ!」と叫び、眉間に皺をよせてザッ、ザッと足音をたてながら誠とその敵に迫る彼の姿は鳥肌が立つほど格好が良いです。 このマンガを読んでいると、真に強い人間というのは、荒くれ者たちより、実はス トッパーである彼らの方だと気付くはずです。愛(早乙女愛でなく、ラブの方です) こそ強いのだ、とばかりに訴える梶原氏と、それを白々しいものにさせないながやす氏の画力。この作品は戦うということがいかに無駄でつまらないものか、そして愛するという行為こそがいかに尊く、困難なものかということを物語っています。もし本作を読むことがあるなら、こんな御時世だからこそあえて心を真空状態にして捲って頂けたらと思います。 物語の最後、大賀誠はついに成長を遂げます。勿論、それはケンカで得たものでありません。もはや最後のケンカにおいて誠は無力でした。しかし敵に対して怒りがないその姿は、決して不様でなく、むしろ美しいものだったのです。「なんにせよ… おれが…おれでなくなっちまったらしい… いろんなことがあったからな… あれからいろんなことが…」。それから彼は傷つきながらも最後の力を振り絞り、素直な心を持って早乙女愛の元へ戻るのでした。 【マンガ読みの余談】12月は美内すずえの『ガラスの仮面』(白泉社)の第42巻を買いました。6年振りの新作です。しかしそうだからといって期待してはいけません。作品の進行は極めてユルかったのです。このペースでいったら、本当に終わるのかという心配が、決して言い過ぎではないと思うのです。とにかくユルいのです。これだったら次の巻は半年後によろしく、とお願いしたいくらいです。…それにしても真澄さん、今回は嫉妬の嵐です。何か彼、すっかり人間臭くなってしまったようです。かつてのクールさは一 体、何処へいったのでしょう!? マヤのことで仕事を投げ出す様は、とても神恭一郎 (『スケバン刑事』)の友だちだった人と思えません。挙げ句、顔もどんどん馬のように長くなってきていますし。まるでエーベルバッハ(『エロイカより愛をこめて』)みたいです。 |
『激!! 極虎一家』(宮下あきら/集英社/80年〜連載中) ケンカといって最初に思い浮かんだのは、『ど根性ガエル』(吉沢やすみ/集英社)18巻の1シーン。主人公のひろしはゴリライモとしばしば「決闘」を演じてコテンパンにやられるのが常である。とてもほのぼのした漫画のくせして、弱っちく特に何の取り柄もない少年・ひろしが真面目な面持ちで番長に〈果たし状〉を送り、不穏な風の吹き荒れる野っぱらでたたきのめされるまで戦うのは、どうせ負けるにしてもなかなか男っぽい様であった。私が思い出した1シーンというのは、彼らの決闘の後。かなりのケガを負って家に帰った2人の母親が激怒し、なんと母親同士が決闘をすることになるのである! ふだんは縁側でネコのノミとりをするのが一番の趣味というひろしの母親が、和服にかっぽう着スタイルで「かわいい息子のかたきっ!」とか言いながらほうきを武器に、ゴリライモ母と果敢に戦う姿というのが印象的だったものだ。 我が家には立原あゆみの『本気!』をはじめとする極道漫画がわんさかあるので今回セレクト迷いました。ヤンキー漫画では週チャンで連載中の『番長連合』(阿部秀則)も古典的なんだか新しいんだかわかんなくて好き。そもそもヤンキー漫画のすたれなさって、それだけで一考に値するな。おっと、男の子のケンカものっていや、かつて『コロコロ』に連載された名作『あまいぜ!男吾』(Moo.念平/英知出版)もおすすめだ! 今や少年マンガってほとんどが対戦ものなのだが、対戦が形式的になりすぎるとしらけてくる。同じ宮下あきら作品『魁!男塾』も大好きなのだが、連載が長くなってしまった分、後半ケンカというよりどんどん試合=ゲーム的になっていくのでトーンダウンしてくるのが難。『激!!極虎一家』は、ド田舎の農村で牛やブタの子分を引き連れてる主人公の虎(←あっ、こりゃ人間の名前ですよ!)が、東京に修学旅行に行くところから始まる。夜の街でヤクザ相手に大暴れしているところを見込まれ、東京中のヤクザが虎をスカウトしにやって来る(笑)。虎はそこに現れなかった東京唯一の極道、〈学帽の政〉率いる極政一家にほれこんでしまうのだ。初めて会った虎と、政がさっそく拳をたたかわすシーンは、政の愛ある「ケンカ指南」。「ケンカはスポーツじゃねえ。素手で勝ったからってだれもほめちゃくれねえぜ」ってな政のセリフにしびれる〜! 虎はその後、そろって少年院にしょっぴかれた政たちを追って、自分もむりやり少年院入り。曲者ばっかの少年院ではさまざまなバトルが展開されるのだが、ありがちにすぐ「チーム化」しないところが気に入っている。対戦ものって、最初は同じ学校の中にライバルがいて、それを倒して仲間になると次は市内、県内、国内大会……その次は世界大会と進んでいくのが常。その構図にケチをつけるつもりはないのだけど、きのうまで敵だった相手と勝負を通して認め合うやいなや、永遠に今日の味方であり続けるというのは、仲間うち的でつまらないのよ。そういう馴れ合いがないのが『極虎一家』のよさである。この作品にも「日米決戦」(笑)はあるのだけど、チームで戦っているように見えても、戦う時にはいつも「一人でもやっつけたる!」的な姿勢で向かっているところがカッコイイ。 最後の最後、日米極道決戦のあとがいい。虎、政たちはアメリカから送りこまれるだろう次なる刺客に先手を打ち、先んじてアメリカに乗り込むことを決める。しかしその前に……「どうだ 政。ひさしぶりに一発。これが日本でやる最後のケンカになるかもしれねえぜ」と、虎。で、殴り合う二人。それを見た一家のメンバーもぞくぞくと参戦。「ウワッハハハーッ!やっぱりケンカってな参加することに意義があるんじゃーっ」とのセリフもすがすがしい。いくとこまでいっちゃったでっかいケンカのあとに、作品のラストを仲間同士のケンカでシメる、というのが何とも素敵である。ケンカ=コミュニケーションと言ってしまうと、ちょっと違う。だけど、ケンカすら成立しない相手、議論すらできない相手というのがいることを考えると、やっぱりケンカできる相手との間には愛があるのだと、思う。 宮下あきらは、私の田舎ギャグ&下品ギャグ&くどい反復ギャグ好き心を満足させてくれる。ちなみに全12巻一番の名場面といえば9巻の、政の吹雪の中の千人斬り……に枢斬暗屯子(自称・政の女房)が助太刀に乗り込んでくるシーンでしょうか。暗屯子、実にいい女です。ヒゲはやしててフンドシしてて口癖は「ぶち犯したる〜!」だけど。 【マンガ読みの余談】 週マガ連載中のコージィ城倉の『おれはキャプテン!』といい、アフタヌーン連載中の『大きくふりかぶって』(ひぐちアサ)といい、最近またおもしろい野球漫画が増えててうれしい限り。それに週チャンの『ショーバン!』を加えると、現在進行形MY注目野球漫画御三家完成。これらの共通点は、プレイヤーの性格がどうプレイに関係するかをかなり細かく描いてるところですかね。 東村アキコ2冊目の短編集『白い約束』(集英社)よかった。この人の短編集って『クッキー』連載中の『きせかえユカちゃん』とは遠く、どっか暗いとゆーか独特なクセがあっていいですね。 『近代麻雀オリジナル』連載中、片山まさゆきの『オバカミーコ』1巻出ました! 中学生の頃から片ちんファンの私としちゃあ、近年では『理想雀士ドトッパー』以降ひさびさに膝を打つ感じ。いいぞいいぞ。 |
第1回 燃えよ、プロ野球! 2004.11.29