TEAM.TOKIWAの ゲキレツマンガ道場          >>この連載は月1回更新します。 >>TOPPAGE

 

 

 第1回 燃えよ、プロ野球!        2004.11.29

膨大なマンガ雑誌や単行本の上やら下やらで幾夜をともにした漫画馬鹿ここに結集! かつて某マンガ専門誌で猛威をふるった《マンガ評》軍団・TEAM.TOKIWAの3人によるクロスレビューをスタートします。毎回お題に応じた推薦図書を紹介。第1回は「プロ野球」です。

 

渡辺水央●ライター
真下弘孝●イラストレーター・デザイナー
粟生こずえ●編集者・ライター

『あぶさん』(水島新司/小学館/73年〜連載中)  

 たとえば、サッカーファンでサッカー漫画も好きっていう人はあまりいない気がするのだけれど、野球ファンの人には総じて野球マンガファンも多いんじゃなかろうか。少なくともプロ野球ファンとそれこそ水島新司ファンって、かなりカブるんじゃなかろうか。

 なんてことを今回このコラムを書くに当たって考えてみたんですが、それってきっと、こういうかと。大ざっぱな言い方をすれば、サッカーってば要するに向こうのもの(って、海外ってことですね)。文化としてやっぱり向こうが主流で、実際、本当のサッカーファンってJリーグや日本代表はどうでもよくて、見るなら欧州サッカーだったりするらしいじゃないですか。いまだサッカーは向こうのもので向こうが本場で、つまりサッカーファンは、日本サッカーを愛でてるわけじゃあない。でも野球って、プロ野球って、すっかり日本独自の娯楽として定着していて、そこにきちんとファンも着いてる。だからこそ逆に有名選手のメジャー輸出が特異なものとしてより一層盛り上がると言うか。そして日本人の野球に対するそうしたスタンスは、日本人の漫画に対するスタンスにも通じていく。

 それって結局、野球も漫画もすごく生活に根づいた大衆的で俗なものだということなのだけれど(対してサッカーはそのレベルにまでいってない)、その通俗性において野球と漫画はきっと非常に相性がいい。どちらも同じように海外が本場ながら、日本という土壌で日本人の好みにあわせて日本式に形作られていった、いたって日本的なアミューズメントだ。なんて素敵にジャパネスク! だからこそファンもカブると見るのだけれど、その味わいだって似てる。どうこういったって野球もマンガも泥臭くて埃臭いもので、ちょっとヘンでなんとなくうさん臭くてかなり仰々しい。なのに感動させて、だから泣かせる。野球も漫画も、野球漫画も本来はそうしたもの。そこで思うのは、水島新司っていうお人はそのあたりのことを感覚的によくわかっている作家なんじゃないかなぁということだ。

 水島新司の野球漫画ってば尋常じゃない。はっきり言って過剰で異常だ。型破りなキャラクター設定然り、掟破りな独自のルール作り然り、破れかぶれな展開然りだ。『ビックコミックオリジナル』連載の『あぶさん』(小学館)も奮ってる。なにせ主人公で南海時代からホークスに所属する“あぶさん”こと影浦安武は、酒を飲んでバッターボックスに立つというつわもの。球界一の酒豪で、アル中の飛ばし屋ときたもんだ!

 しかし、言えばそれこそが日本のプロ野球だ。このうさん臭さが、このアウトローぶりが、このフリークス感こそが、日本のプロ野球なのだ。B級感やVシネ感満載。選手なんて見た目からしてヤクザだ(金のチェーンorイタリアンなニット的趣味にしても)。日本のプロ野球嫌いな人は、まさにそうしたイメージと選手像がイヤなのだろう。でも裏を返せばそれは同時に日本のプロ野球の魅力でもあって、水島漫画はそこをなんともチャーミングに描く。常識の規格外の野球バカたちをいとおし気に描く。その描写は非常識ながらも、その描線は非常に真っ当だ。水島の描く線の太い野球選手のキャラクターは、本当に野球選手に見える。突出したすごさを、強さを感じさせてくれる。それだけに野球漫画としてのずっしりとした面白さも、野球漫画としてのどっしりとした安心感もある。  安心感と言えば、それこそ『ドカベン』(秋田書店)シリーズにしてもこの『あぶさん』にしても、長期連載で雑誌をめくればいつでもやってるという点も安心感だろう。最近の影浦はと言えばなんだかすっかり落ち着いてしまった様子で、酒さえほとんど飲んでいない。まぁそのへんは『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治/集英社)や『浮浪雲』(ジョージ秋山/小学館)と同じ。主人公として物語を動かしていると言うよりは、語り手として物語をながめている感じだ。影浦がメジャーをながめてみたり、球界再編を語ってみたり。

 いまの『あぶさん』は実質、影浦の視点を借りた水島新司の現代プロ野球論。それだけにさらに野球と漫画が相容れてる感も強いのだけれど、なにがあっても揺るぎなく、よくも悪くも続いていく安心感。気づけばやっていて、気づかなくてもやっている安定感。あぁ、そうした点こそがまさに日本のプロ野球的なのかもしれないなぁ。

【マンガ読みの余談】最近、上村一夫作品の復刻や初単行本化が続いていてうれしい限り。こないだも、あの名作ドラマを漫画化した『悪魔のようなあいつ 上・下』(角川書店)と『夢師アリス 上』(原作・岡崎英生/愛育社)が出てたりして。

ところで『あぶさん』話に絡めて長編漫画と言えば、既刊69巻の『静かなるドン』(新田たつお/実業之日本社)。これ、ずっと買っていたのがどこまで集めたかわからなくなって途中止めてたんですが、こないだ読み直しをしたらあまりの面白さにいてもたってもいられなくなり、10冊ほどまとめ買いして既刊ぶんに追いつきました。いや、新田たつお、マジおもれぇ。ほぼ全編パロディの連続とくだらないギャグのオンパレードなんだけど、それをあそこまで面白くドラマチックに見せてくれる漫画力。それまさに、田村信と池上遼一の融合。池上遼一のパロディと言うと最近は『魁!!クロマティ高校』(講談社)の野中英次ってことになりがちですが、みなさん、新田たつおをお忘れなく! そう言えば『浮浪雲』(ジョージ秋山/小学館)も途中で止まってしまっているんですが、あれは何巻ぶん買えば追いつくのやら……。

『男の自画像』(柳沢きみお/小学館/85〜88年)  

 本作は野球が題材に扱われていますが、キモは作者お得意の“男の本当の生き方と は?”というテーマを追求した漫画です。物語は元プロ野球投手だった中年の主人公 ・並木が平穏なサラリーマン生活に疑問を持ち、「俺はこのままでいいのか!?」と自 問した末、再びマウンドに立つ決心をする…というものです。よってこの作品には試 合の勝敗より並木の練習風景や彼の心の葛藤、また彼に関わる周囲の人々の心模様の 方が丁寧に描かれています。現役に復帰にした並木の試合を克明に描いているのは僅 か一勝負しかありません。しかしそれこそ、本作が“野球漫画”として語られるに相応しい、魅力に溢れる内容だったのです。

 対巨人戦。先発投手として登場した並木は、得意のナックルで敵打線を見事に押さ え込んでいましたが、年齢が年齢だけあって、いつしか体力の限界がきます。だが、 監督は彼を変えようとしません。次第にナックルは衰えはじめ、試合後半は常にピンチの状態に。崩れる手前で踏ん張る並木と、彼を打倒すべく全力をあげる巨人打線。 だんだん観客は贔屓の球団を応援するのでなく、試合そのものに声援を送るようになります。それを聞いて監督はこう言います。「これだよこれ! 勝敗だけにこだわり 続け、失ってしまったプロ野球のロマンとは」と。監督が並木の続投にこだわったのはここにあったのです。監督のこのセリフと、汗まみれの並木と、割れんばかりの観客のコール。この場面が本作のクライマックスと言ってもいいでしょう。手に汗握る 試合展開は、漫画を読んでいるというより、本当に野球を観ているような気分になっ てきます。

 試合場面は少なくとも、本作はプロ野球の核心に見事に迫っています。それにして も「ロマン」とは上手く言ったものです。さて、球団新編成による来年のプロ野球は、私たちに「ロマン」を与えてくれるのでしょうか?

 

【マンガ読みの余談】11月は上條淳士の『SEX』(小学館)の第1巻を買いました。全7巻がこれから 毎月刊行されていくそうです。   さて、昔話。ヤンサンで『SEX』がまだ連載(88〜92年)していた89年に第1巻 (上記のものとは判型違い)が出た後、93年にようやく第2巻が発売されましたが、 その帯には「全7巻続々発売予定 もう待たせやしないぜ…!!」というコピーが書かれていました。しかしその後、単行本は出ることなく、04年も終わりそうな現在にな って、今さらやっとの再活動を始めました。思えば長かった。といっても出たのは振り出しの第1巻。よって今回は読んでいません。捲っただけです。…どうにもジラされている気分ですね。

 12月に入ると第2巻の刊行らしいです。これもおそらく93年版と同じなので自分は 捲るだけでしょう。けれどもしこれでまたストップしたら、完全に詐欺行為ですか ら、05年1月の第3巻は絶対にお願いしたいところです。  ところで以前、ネットの売買情報か何かで、『SEX』の第3巻を真剣に探してい る人がいたそうです。きっとその人は古書店など見て回った末、このような行動をとったのでしょう。しかし普通に買える日が来年1月にようやく来るのです。きっと …。

『ドカベン スーパースターズ編』(水島新司/秋田書店/04年〜連載中)

 やはりみなさんに知っておいてもらわなければならないという、使命感を感じます。かの国民的野球漫画『ドカベン』が今どうなってるかということを! 『ドカベン』→『大甲子園』→『ドカベンプロ野球編』を経て、週刊少年チャンピオンで現在連載中なのが『ドカベン スーパースターズ編』であります。みなさん、ついてきてますか〜? 

 正直、『ドカベンプロ野球編』はかなり長くなってしまっていて(『ドカベン』の巻数超えちゃったもんね)……実際の季節が移り変わるのに合わせてペナントが開け、オールスター戦になり……シーズン終盤になると現実世界に忠実にセパの優勝チームが日本シリーズを戦う。まあ近年は山田のいる西武、岩鬼のダイエーが優勝争いするのが常なので、漫画的には助かってたと思うが。そしてオフになると、今やチームはバラバラなのに山田・岩鬼・里中・殿馬・微笑の「明訓五人衆」が毎年仲良く自主トレに出かける。ここ何年もそのくり返しでした。しっかしこの自主トレが、ホントに気色悪かった!いい年の男どもが(そういや全員独身だ)温泉つかって「里中は今年も防御率1位とはたいしたもんだ」「いやいや山田の記録にはかなわないよ」「すごいと言えば誰それの云々」、はたまた微笑いわく「おれ、松井さん(松井秀喜ノコトデスヨ!)に、おまえもメジャーに来いって言われてるんだよな〜」などとヌルイ会話を交わし合うのがうすら寒くて……。

「延々この調子でいってしまうんだろうか」と不安になりつつも、いやいやきっとFAの年に大シャッフルが起こるであろう。と予想はしていたが、水島新司はやらかしてくれました! 今年の初め。つまり、球界の編成問題がマスコミで騒がれだすより早く、パ・リーグに新球団を2個も作っちゃったのだから。FAで〈山田世代〉の有望な選手たちがメジャーに行ってしまうことを恐れたプロ野球連盟会長は、〈山田世代〉の選手たちを集めて「日本球界が魅力的な存在であるために日本に残ってくれ」と頼み(水島氏の心の叫びのようですな)、そのために「新天地を国内に求めてくれ」と、土井垣将と犬飼小次郎を新しい2球団の監督に指名、どっちに入団するかも各選手たちに選ばせるのだ! かつての明訓メンバーを主軸にした「東京スーパースターズ」には、山岡さんが入ってきたり(社会人でやってたらしい)、メガネの北くんがコーチで入ってきたりすんのが懐かし。まるで同窓会です。しかし、あとはわび助とか星王とかフォークの緒方くんとか、ちょっとイイ人キャラが集まりすぎて迫力にかけるな。犬飼三兄弟主軸のチームのほうが、不知火とか土門さんとかコワモテなライバルキャラがそろって燃えるんだよねえ。連載では、今年は思いっきりペナントレース無視して新チーム同士の開幕三連戦だけで半年くらいやってました(笑)。まあそもそも、もうすでにオールスター戦やる意味はないわけだが……しかし、一年経ってみると、このままじゃちょっと苦しいかな、という感想です。やっぱり長年の間にいろんな新キャラが出てきちまってるのに、なかなか出す場がないのがもったいないと感じてしまう。今度はいっそ、『野球狂の詩』みたいに一話完結風な運びで、いろんなキャラにスポットを当てた話を展開してくれたらいいと思うのだが。

 失礼ながらはたから見るとダラダラ描いてるように見えるが、きっと水島氏には大いなる展望があるはず。ドカベンと、他の水島作品の主人公キャラがごっちゃになって戦う『大甲子園』は、ともすると「あー、“自作WORLDサーガ”やっちゃったね」てな感想を持ってしまうのだが、コレ、ただの勢いじゃなかったんだって。いずれソレをやるつもりで『一球さん』も『球道くん』も〈高校3年の夏)を描かずにおいた、という話を最近聞いたのよ。やっぱり水島新司、おそるべーし!

【マンガ読みの余談】常に良質otometicalな少女マンガを探し求める私にとって、少女マンガがエロすぎる現代はせちがらい時代である。そんな中、ひさびさに小畑友紀の『まる三角しかく』(小学館)には胸キュンさしてもらいやした。ごっつぁんです!フラワーコミックスって、最近は青年マンガなんか足下にも及ばないほどの激下品なエロマンガが多いが、「別コミ発のフラワーコミックス」は、さすがにおとめちっくだぜ。小畑友紀の『僕等がいた』は人気があるらしく、ちょっと大きめの書店ではどこ行っても平積みだが、そんなら他の小畑作品もズラッと揃えとけや!……というのが、目下の私の願いである。

あと、山本ルンルンのコミックス。待ってましたあ!『オリオン通信』『マシュマロ街』。かわいいキャラ好きの方、要チェック。ベティーズブルーとかと既にコラボってるみたいだが。どっちもフルカラーコミックです。山本ルンルンってずいぶん前にときどきフィーヤンとかに掲載されるショートコミックをちぎってたものの、さっぱり見かけなくなったと思ってたら小学生新聞で活躍してたとはねえ。

そういや、こないだ本屋で『倉科遼 自選集』(注・漫画家じゃなくて売れっ子原作者ですよ)ってのを見かけた。手に取る時間なかったのだけど、渡辺くん持ってないかな?