TEAM.TOKIWAの ゲキレツマンガ道場  

>>この連載は月1回更新します。次回更新は4月の最終月曜日です。バックナンバーは下にあります。 >>TOPPAGE

 

 第3回 もてはやされよ、ショートコミック!   2005.1.31

第3回のテーマは「ショートコミック」です。 ショートコミック……とにかく「短いマンガ」です。 マンガ雑誌のメインディッシュが、続きが気になる連載マンガだったりドラマティックな50ページ読み切りだとすれば、ショートコミックはほんの刺身のツマ。しかし、小粒ながらにピリリと辛い山椒っての、探せばあるものですよ。

 

渡辺水央●ライター
真下弘孝●イラストレーター・デザイナー
粟生こずえ●編集者・ライター

『キノコキノコ』(みを・まこと/集英社/72〜81年)

 うわぁ、なんかまたちょっと面倒臭いお題ですね、ショート。面倒臭いと言うか、そもそもショートの定義とは……みたいなところから入らないといけなくないかい、これ。

 まぁ言えばページ数が通常の作品より短いもの? 雑誌のラインナップに置いて箸休め的な意味合いの軽いタッチのもの? それがいわゆるショートだとは思うんですが、でもさぁ、だからと言ってギャグ漫画をショートに定義してしまうと、はてさて、個人的には少々違和感があります。これ、たとえば4コママンガなんかだったらまさにショートなんだろうけど、ギャグってあるときから雑誌に置いて箸休めどころかメインになってるじゃないですか。いや、昔からギャグまんがは立派にメインではあるのだけれど、それはストーリーギャグであって、本当にページが短いギャグって一時期までは明らかにそれこそ箸休めだったと思うんですね。

 なんだろう、たとえば『伝染るんです』(吉田戦車/小学館)とか『すごいよ!!マサルさん』(うすた京介/集英社)とか。でも90年代の初頭くらいから不条理ギャグのブームみたいなものがあって、これまでは取り沙汰されもしなければ正面切って語られなかった……と言うか語りにくかったと言うか“ハシマン”が(といきなり略してみましたが、箸休めマンガ、ですね)大きくクローズアップされるようになった気がするんですよ。少女漫画においても『りぼん』の『ちびまる子ちゃん』(さくらももこ/集英社)や『お父さんは心配性』(岡田あーみん/集英社)が人気作になってそれが実際看板にまでなっていたし、いまの『少年マガジン』なんて『School Rumble』(小林尽/講談社)や『魁!!クロマティ高校』(野中英次/講談社)のほうがストーリーものよりよっぽど元気で読ませるし。

 じゃあギャグ(や4コマ)じゃないショートなんてあるのかい!? という話になってくるのだけれど、ほのぼの&ファミリー・動物系なんてくくりはひとつありますよね。それこそ『ちびまる子ちゃん』も『お父さんは心配性』もあそこまでカッ飛んだ内容じゃなければ、くくりとしてはギャグよりはこっち。青年誌で言えば『三丁目の夕日』(西岸良平/小学館)とか『クロ號』(杉作/講談社)とか『カッパの飼い方』(石川優吾/集英社)とか。『子供なんて大キライ!』(井上きみどり/集英社)、『夫すごろく』(堀内美佳/集英社)、『インド夫婦茶碗』(流水りんこ/ぶんか社)とか最近流行りのエッセイ漫画もそのほとんどが夫婦or育児ネタなので、くくりはこっち。さらにひとつ大きなものとしてあるのが、ちょっといい話&恋愛系。『三丁目の夕日』なんてこっちに入れてもいいのかもしれないけれど、作家で言えば、わたせせいぞう、よしまさこ、サキヒトミ(あれ、『まぼろしママ』や『ヒゲとボイン』の小島功はこっちなのかどっちなのか!?)。

 と、まぁくくれるだけくくってみましたが、本題はここから。正直、困ったなぁ。これと言って押したいものがない……。うーん、いま連載中のもので個人的に好きなショートの“ハシマン”は『THE 3名様』(石原まこちん/小学館)。これ、やっぱり(ほめ言葉として)どこまでいっても“ハシマン”だと思う。あのダラダラしたノリよろしく、同じ『スピリッツ』の『20世紀少年』(浦沢直樹/小学館)なんかで“長ぇよ、浦沢。伏線張り過ぎで単行本じゃねぇとワケわかんねぇよ”と肩が凝ったところでこれをダラダラ読むとちょうどいいと言うか。実際面白いし、単行本飼おうかどうかいつもちょっと迷うのだけれど(粟生こずえさんは買ってるらしいですが)、雑誌で読むのが本当ちょうどいい。なんて言うか、クラスのムードメーカーとしてすごくいいヤツだし面白いんだけど、別に放課後時間割いてまで遊びたくはないと言うか、ほめてるんだかほてないんだか……と言うか。評価したいと思うのが『リトルフォレスト』(五十嵐大介/講談社)。田園暮らしを始めた女性の暮らしとその中での心の移ろい、そして季節の変化といったいわゆるひとつの“スローライフ”漫画で(出てくる料理がおいしそうなんだなぁ)、作家としては何年かにいっぺんは必ず出てくる絵がバツグンに上手でコマ割りが秀逸なアーティスト系。とりあえずこういう人を評価しておけばいい的な風潮はどうかと思うけれど、実際うまい(あくまで面白いではなくて、うまい)。  

 ただ結局のところ、マイ・フェイバリット・ショートという話になると、『キノコキノコ』(みを・まこと/集英社)に尽きちゃうんだよなぁ。個人的愛着とか思い出も大きいのだけれど、これって形態として究極の“ハシマン”だと思うんですよ。もちろんページ数は短い。4コマ〜1Pを一遍として数遍から1話が成り立っていて、その1話の中での大きな物語と言うかテーマもある。それがきちんと季節行事に則っていて、しかもほのぼのもあれば家族もあって恋愛もあって、登場人物たちがキノコ(笑)。そうそう、このなんかちょっとヘンっていうのも“ハシマン”の大きな特徴ですね。古い言葉で言えばブキュートですか。ブギミにしてキュート。そして究極的に言えば、“ハシマン”の定義って作家の名前がヘンっていうのもひとつあるんじゃないかと。『キノコ・キノコ』のみを・まことあたりの並びで言えば、『チョンチョンこまめちゃん』のあなだもあ、『マホーランドのマジョリカ』のみよしらら(それこそいい話&恋愛系のわたせせいぞうにしてもよしまさこにしてもサキヒトミにしてもヘンっちゃあヘンだ)……。でも実はこれ、すごく意味があることなんじゃないかと言うか、ハシマンにおいては作家名がヘンであればあるほどその作家性(と言うか、素顔と言うか生臭さと言うか)は逆に隠れていって作品が個性的なものとして立ち、ハシマン度は増す気がするのだけれど、そのへんどうなんだろう。実際問題、キノコを主人公にした漫画で、たとえばいたって普通の名前の作家が描いてたとしたら、キノコワールドを楽しむ以前にどうしてそんな普通の人がキノコを題材にしたマンガを描くに思い至るのだろうっていうほうに視点が行っちゃうじゃないですか。そこもみを・まことだからこそラクにスルーできると言うか。奥が深いっちゃあ深いね、ハシマン。でもキノコは奥が深いのか、底が浅いのか……。

【マンガ読みの余談】情報は去年あたりから聞いていて、それゆえそのネタを聞いてる仕事関係の人と合うたびにウワサし合ってたんですが、『タッチ』(あだち充/小学館)が実写映画化されるんだよね〜。あだち作品と言えばいま『H2』が連続ドラマになってるし、『泣き虫甲子園』も『陽あたり良好』もドラマ化されてて、そして実は『タッチ』も『ナイン』(以上、すべて小学館)も単発ドラマ化はされていて取り立てて驚くことはないんだけど(『タッチ』はミュージカル化もされましたね)、いまこの時代に『タッチ』って、なんかすごいよね。ちなみに南役は長澤まさみ。達也と和也は『王様のブランチ』にも出てる斉藤兄弟。うーん、だったら『H2』と逆にして欲しいと言うか、石原さとみの南と山田孝之(一人二役)の達也&和也で見たいな、どうせなら。主題歌はやっぱり岩崎良美の『タッチ』のカバーとかなのかなぁ。『ガラスの仮面』や『エースをねらえ』のドラマ化のとき以上に気にかかる今日この頃。

『柏屋コッコの人生漫才』(柏屋コッコ/集英社/94〜99年) 

ショート・コミック。マンガ雑誌の中では休憩室のような存在です。ストーリーを持たす必要は特にありませんから、そのネタは「日常」や「実話」や「蘊蓄」、また 「エッセイ」的なもの(要は「個人」的なネタ)になっています。でも、ちょっとしたオチは欲しいところ。よって「笑い」の要素がしばしば求められたりします。ゆえに描き手のセンスがそれなりに必要とされるジャンルだと思われます。

 そのような個人的なネタと笑いの要素がミックスされたショート・コミックはそれ こそ数多くありますが、今回、自分が取り上げるものは『柏屋コッコの人生漫才』という作品です。これは2つの要素が見事に調和した絶頂期と、ネタが尽きて全く笑え ない衰退期が手に取るようにわかる、ある意味、非常に人間臭いマンガなのでした。 しかしこのテのマンガは「個人」を売りにしても、好不調が分かれるのは禁物で、あくまで“好調”、上の言葉を再び使うならば“絶頂期”をずっと維持していかなければなりません。ギャグマンガではありませんが、常に面白くなければいけないのです。 「個人」であっても弱いところは見せてはいけない、「個人」の強靱なパワーと安定感が求められる、大変なジャンルだと思われます。

 さて、この『人生漫才』は連載が終了に近づく頃になると、残念なことにレベルが 落ちていく自分の作品について弁解をするという、作家「個人」の弱い部分を恥ずかし気もなくさらけだしてしまいます。それは最終巻において欄外に「(この作品は) エッセイ漫画として始めた(略)私はギャグ漫画家ではありまっせ〜ん(略)つまんなくなっても(略)大目に見て下さい」。挙げ句、ネームにも「実話ネタはもう限界!  シャレにならん!」という風に…。もはやヤケクソですね。これは贔屓目に見れば 上述した“人間臭さ”を感じられますが、むしろ作家としての自分を放棄してしまった言動と思われます。

 本作において柏屋は、自分の身を削りながら「実話」を描き、上手に「笑い」の域に持っていかせていたのですが、途中で燃料ギレになってしまったようです。しかし それを紙面において言い訳がましく描くことについてはどうにも頂けません。

 今回は悪い例を紹介してみました。しかし本作の第1巻〜第6巻までは面白いです。ちなみに最後の第8巻は“反面教師”としてオススメです。「個人」を売りにするショート・コミック。その切り売り方にはセンスが要求されるようです。

【マンガ読みの余談】 05年の1月は上條淳士の『SEX』(小学館)の第3巻を買いました。先々月に話題にした作品ですが、ついに本当に出ました。12年振りの続編の単行本。第1巻のよ うな神憑かり的な作風でないにしろ、物語の続きが読めたというだけでとりあえず満足でしょうか。  といってもこれで完結したわけではありません。さらに第4巻以降が待っています。毎月1冊づつちゃんと発行され、無事に全巻出ることを願っています。……何せ連載当時は、単行本を楽しみがたいため、あえて読まなかったマンガでしたから。それゆえにストーリーがどう完結するかいまだに知らないのです。

『りんご日記』(川崎苑子/集英社/75〜79年)

 ええと、ショートコミックが何たるかについては左のお二方がみっちりと書いてくださったので、私は安心してその上にあぐらをかかせていただくことにします。このジャンルってけっこう危険な商売ですよ。まあまあページ数のある〈ストーリーのあるギャグマンガ〉ならともかく、ほのぼのだけでやってる4コマや、ほのぼのだけで見せる数ページのマンガって単行本にならないリスク大! 実際、闇に葬られた名作も多いと思いことでしょう。

 今、気にいってるのはスピリッツでやってる『THE 3名様』(石原まこちん)。ハイ、コミックス買ってます。これね、確かに万人に「コミックスで読みましょう!」とはお薦めできないですね。舞台は必ず同じファミレスで3人がただただ座ってしゃべってるだけだからねえ……それもまったくくだらないことばっかりを。何編も続けて読むと飽きちゃう人が多いでしょうな。しかし、そのダラダラとしたメリハリの無さがグルーヴに変化したりして。私はこれぞワンパターンの美でありましょう、と思って読んでいる。あと最近おもしろいと思って読んでたのは『りぼん』で連載の(まだやってるか不明)『ハイスコア』(津山ちなみ/集英社)。4コマなんだけど、キャラのトビっぷりで読ませるタイプです。

 ところで、思い起こすに珠玉の名品は少女マンガに多い気が。ギャグマンガを意図的にはずして考えると、むかーし『花とゆめ』でやってた『シュガーベイビー』(高野まさこ)『小さなお茶会』(猫十字社)なんかを思い出す。そう、これらはマンガというより「ポエム」ですね。絵本的世界です。かわいい登場人物(オッサンだってかわいく描くぜ!)×かわいい衣食住(もちろんヨーロッパ調ね)×かわいい自然×かわいいお茶とおやつ……で成り立つ世界。だからおもしろくなくたっていいんです。どっちかというと、ときどき教訓的。キーワードはエプロンドレスだな。『りぼん』でやってた『空くんの手紙』(小田空/集英社)なんてのも、この部類では。今でいうと『コーラス』でやってる『おやつの時間』(やまじえびね)が近いかな?

 で、この業界の第一人者といえばなんといっても川崎苑子です! 70〜80年代の〈スキマ産業的業界〉ではかなり認知度があったわりには、後年まったく顧みられないよなあと、常々不満に思ってるんですよ。昨今の文庫復刊ブームでも出たのは『土曜日の絵本』だけですからねっ! 私が一番好きな作品『りんご日記』が連載されていたのは、今は月2回刊の『週刊マーガレット』が、ホントに週刊誌だったころさ。主人公の一ノ木りんごはオッチョコチョイで元気だけど特にとり得もなく、と少女マンガの主人公像のまさに王道。その中学校生活・家を舞台に毎回ちょっとしたドタバタが展開されます。こう書いてしまうとホントにたわいもないんだけど、この人のすごいところは絵、ですね。テンポのいいギャグタッチと、ときどき大マジな少女マンガらしい場面の振り幅が自由自在。細かいモノの描き込み、風景の描き込みも達者で、そういうところからも女子中学生の〈ものすごく現金で都合のいい性格〉やら〈突如何かに奮起したりする実態〉やら〈ガサツで食い意地がはってる本性〉やら〈素敵な大人の女性を目指す乙女心〉やらをひとまとめに描き切ってしまう。

『りんご日記』の、いわば小学中学年版『あのねミミちゃん』(集英社)、いわば低学年版『土曜日の絵本』(集英社)ともに名作です。

 そういや、前々回の【余談】で取り上げた『マシュマロ通信』『オリオン街』(山本ルンルン)なんかも、この系譜を継ぐものと考えてよいでしょうね。

 ああっもうひとつ、忘れようがない逸品を思い出してしまった! 今や百戦練磨のストーリーマンガ家となった(こうなるとは思わなかったな)ぬまじりよしみの、たぶん初連載作品『ひがみちゃんJam』(白泉社)。たしか連載はじめのころは、違うタイトルだったはずだが。大学のキャンパスを舞台に大ギャグはナシで会話の妙、そこここに隠されるパロディの妙を楽しむような作品で、ある種カルチャーマンガぽかった。鶴丸先輩(男)が意味なく「とほい空でぴすとるが鳴る」だったか「青白いふしあわせな犬よ」だったか、朔太郎を吠えるちーさなコマが今も印象的に残っている。

『シニカルヒステリーアワー』(玖保キリコ/白泉社)といい、白泉社ってなかなかいいショート作家土壌ですね。倉田江美とか坂田靖子となるとすでにツマっぽくないけど。ほのぼの系じゃなくシュール系だけど、ポエム属とはいえそうかな。

【マンガ読みの余談】 最近マンガの中吊り、よく見かけますね。『恋愛カタログ』(永田正美/集英社)の連載が長くなりすぎてダレ始めてから、『別冊マーガレット』離れしておりますが、なんといっても「マーガレット」地帯は少女マンガのボリュームゾーン、ときにはチェックしてみたい。ぶ厚い『ザ・マーガレット』でも持って新人チェックとばかりに長風呂キメたいところです。今、地味に気になってるのが『週刊マーガレット』。『新・アタックNo1』てのがやってるらしいけどどうなのさ? もちろん浦野千賀子が描いてるわけじゃないらしいが……たぶんダメだろな、ダメだろなと思いつつ立ち読んでみるかト。

コンビニとかで売ってる、雑誌に毛が生えたようなB6版の特別編集コミックス。あれには手を出すまいぞと思ってましたが……つい『スプリンター』(小山ゆう/小学館)買っちまってます。しかし続きが出るのが遅〜い! 

 

 

第1回 燃えよ、プロ野球! 2004.11.29

第2回 燃えよ、ケンカ魂! 2004.12.27