傘が雨に降られてパラパラと音を鳴らした。
地球に来てから私は雨が降ってても空を見上げるような事はやめるようになった。
誰かを待って雨の中傘も差さずに空を見上げるようなことは、しなくなった。
「何やってんだ?」
雨の音が変わったのはそう言うことだ。
銀ちゃんが私の上に傘を差している。
ここに来てからしなくなったことを久しぶりにしてみた。
傘越しじゃない空を見たくなった。
晴れた日はやっぱり紫外線が強くて、私の肌はすぐに赤くなってしまう。
これは夜兎の特性だからもちろん諦めている。
そうじゃなくて、ただ、空を見たかった。
誰かを待つための暇つぶしじゃなくて。
「風邪引いたら、誰が面倒見ると思ってんだ?」
「新八」
そう即答すれば、銀ちゃんは動かない私を無理矢理自分の方へ引き寄せて歩き始める。
「……っつーか、新八は帰るだろうが」
「そうアルな」
銀ちゃんじゃなければ良い。
なんてそんな事あるわけ無い。
私は、銀ちゃんがいれば世界は回るんだ。
「銀ちゃんマダオだから、面倒だって言うの分かってるアル」
「そう知ってるなら、雨に打たれてんなよ」
それ以上言ってくれないで銀ちゃんは黙る。
肩に腕が回る銀ちゃんの手は温かい。
そばにいたいのに、そばにいたくない。
そう思ってしまうのは何でだろう。
「銀ちゃんのそばにいたいアル」
「………」
銀ちゃんは何も言わない。
「でも居たくないアル」
「……………………………矛盾してんな」
たっぷり間を開けて銀ちゃんは言う。
「わかんないアル」
「オマエが分かんなきゃ、俺にはもっとわかんねえぞ?」
「銀ちゃんに聞こうなんてさらさら思ってないアル。銀ちゃんの言うことはたまにしか当てにならないアル」
私の基準は銀ちゃんで、それが全てという訳じゃないけれど。
「じゃあ、『たい』と『ない』どっちが楽よ」
「銀ちゃん?どうしたネ?」
銀ちゃんが突然分からないことを言い出した。
大丈夫カ?
「だからさぁ?ここに居たいのか居たくないかどっちが楽よ」
銀ちゃんのいうここって言うのはいまいち分からないけど。
それが銀ちゃんのそばだとするならば。
「銀ちゃんが、他の女の所に行かなければ、ここにいた方が楽ある。居なくなる断然」
別に銀ちゃんは他の女の所には行ってないのかも知れない。
お金ないし。
「じゃあ、決まりだろうが。とっくにオマエの中で決めてんじゃねえか」
「とっくにって言うわけでもないアル」
そう言った瞬間くしゃみが出た。
どの位外にいたのかわかんないけど、それが風邪としてやってきたらしい。
「おら、さっさと帰るぞ」
私を背負ってくれる。
「銀ちゃん、銀ちゃんがいれば、私は…………」
背中から伝わる銀ちゃんの体温が温かい。
銀ちゃんが居れば逃げ出したくなっても平気なんだ。
「神楽」
「………」
「雨の中わざわざオマエの探しにまで来たって言うのに、居たいけど居たくないなんてそんな区別必要ねえだろうが」
そう聞こえる銀ちゃんの声は優しくて嬉しかった。
やっぱり私の世界は銀ちゃんで回る。
あの場所から遠くに逃げてきた。
そこは地球だったけど。
逃げてきた私に銀ちゃんは優しく………とはほど遠かったかも知れないけれど、銀ちゃんの家にいるようになった。
でもこれ以上は逃げられない。
どこにいても私はわたしだと、銀ちゃんが教えてくれたから。
「銀ちゃん、喉渇いたアル」
「熱出てきたんじゃねえか?。なんかあったかなぁ」
銀ちゃんは素で甘やかしてくれる。
それが嬉しいから得した気分になれるんだ。
おんぶしてるあたりは親子ちっくだね。
恋人未満家族以上?……………????よく分かんなくなった。