「……な」
声がする。
誰かの声。
「ティナ」
はっきりと聞こえた声。
眼を明けてみれば。
「ぎゃーーーーーーー、近いってばぁ!!!」
「おはよ、ティナ」
まだ寝起きなのか、リランは気だるそうに言う。
「おはよ、じゃないでしょーバカリラン!!人の寝てる所に忍び込むバカがいるか!!!」
基本的に目覚めは良い方だ。
じゃなくちゃ、王室のお庭番、諜報部『アースガルド(忍みたいなもの)』の人間はつとまらない。
次期頭領!!!
なんて目指してるわけじゃないけれど、幼なじみをサポートするぐらいはしたい。
と思うんだけれど。
当の幼なじみはアースガルドの人間の部屋に簡単に忍び込んだ。
どうせ教えたのはライナスだろうけど!!!
トーニックは全員友達。
幼なじみのリランにセンター。
上司の息子(次期上司)のライナス。
に弟みたいなウォン。
ショウはトーニックに入ってからだけど。
結構遊ぶことが多い。
もっとも、お互い仕事があるからそうでも無いけれど。
近頃は疎遠になってましたけど!!!
ついでにリランは行方不明の記憶喪失。
あり得ない話よぉ〜〜〜。
で、今の時間夜明け前……。
起きることあるわよ。
任務とか、任務とか、任務とかならね。
そうでないのに、なんでリランに起こされるのよ!!!
「ティナ、おいでよ」
「おいでって何をしろと?」
「出かけよう」
なんてリランは眠たそうな目の癖して、満面の笑みを見せる。
「早く支度して」
どこか焦ってるリランに頷いて、あたしは着替えを始める。
もちろん、その前にリランをたたき出すのは忘れない。
「どこに行くのよ」
着替え終わって、たたき出したリランを呼べば
「乗って」
と車を指さす。
乗ってって。
「早く、時間ないから。朝日見に行こう」
「いきなり、どうしたのよ」
急に朝日見に行こうなんて、今までリランの口から聞いたこと無いわよ。
「時間、いろんな意味でないから」
「………。それってどういう意味」
気づいているはずなのに、あたしは知らない振りをする。
「ティナ」
リランの呼ぶ声はあまりにも優しくて、あたしは「いろんな意味」の意味を知りたくて、車に飛び乗った。
夜明け前はすごく静かで。
起きてる人なんてほとんどいなくて。
「ティナ、俺達、ラプテフを離れるから」
視線を少しも向けないでまっすぐ前を見ながらリランは言う。
「そう」
……知ってた。
トーニックは要人警護。
あの方の命令で動いていく。
あの方が今ラプテフにいて、何かが、あたし達が計り知れないような何かが起ってて、あの方はそれを止めようとしている。
リラン達はそれの手伝いをしに行くんだ。
知ってる。
かなりとばした車はよく来た桟橋に止める。
「太陽が昇ってくる。間に合ったね」
「うん…」
ゆっくりと太陽が海から顔をのぞかせる。
新しい一日の始まり。
「ごめん…」
小さく呟いて、リランはあたしを抱き寄せた。
「心配掛けてるのに、これ以上掛けたくなかったんだけど」
「分かってるから。怪我したら許さないから」
泣きたいけど、泣かないようにして笑顔をリランに見せる。
「分かった、怪我はしないようにする」
「しないようじゃなくってしない!!!」
「分かったって」
いつ帰ってくるか、知らないけど。
「リラン、待ってて欲しい?」
「そんなにかかる訳じゃないけど、待っててくれるなら」
「しょうがないから、待っててあげるわ」
わらって見送ってあげるから。
いっぱい悪態付くけど。
せっかく笑って見送るんだから
笑って見送られなさい。
トーニックの事は最初の1、2行で詳しくは書いてないんだけどね。
好きなカップリング!!