「カリィ」
「なんだ、アシュレイ」
カリィと呼ばれた少女は全身を黒に染めたエメラルドグリーンの瞳の男の…アシュレイの声に振向く。
「暇そうだね」
「暇だ。当然だろ?わざわざ聞いてどうする」
「確かにじゃあ、暇つぶしに君に話をしよう」
アシュレイの言葉にカリィは頷く。
「過去の話か、未来の話か、それはオレにもわからない……」
アシュレイはそう遠くを見ながら呟いた。
雨が降る。
それはその城下を染める。
冷たい雨の中彼女はそこに立ちつくしていた。
「レリィ様、早くお戻りくださいませ」
「ネーデルさん…わがままを言ってしまって申し訳ありません。でも、もう少しだけこうしていたいのです」
「ミハエル様も心配なされておられます」
ネーデルの言葉にレリィはうつむく。
金糸の髪が雨で重く、体は冷えている。
それでも、レリィは動こうとはしない。
「心配してくださる、ネーデルさんやお兄さまの気持ちありがたくいただきます。でも」
「分かりました。では、半時ほどしたらお迎えに上がります。せめて雨の当たらぬあの木陰へと避難してください。そして、これを」
そばにある大木を差し、ネーデルは自分の上着をレリィに掛ける。
「ありがとうございます」
そう礼を言ったレリィが木陰へと行くのを見届けネーデルはその場を去る。
ネーデルが行ったのを見計らい、レリィは再び先ほどの場所へと立つ。
ペルガメント家の墓。
レリィ・ダリルート。
市井生まれのはずだったのに、何の因果かレオニート王国の王族ペルガメント家の一人娘だった。
ペルガメント家は数年前の軍事クーデターにより滅ぼされたはずだった。
が、彼女は生きて兄も生きていた。
喜ぶべきはずなのに。
彼女はどこか素直に喜べなかった。
育ての父親が軍の内乱の余波を受けて死亡してしまった。
自分を育て護り、慈しんでくれた父。
そして、今彼女がもっとも胸を痛めてるのは一人の少年の所在が知れないことだ。
城下の混乱に乗じて兄達はこのレオニート王国の象徴、王家の住まう王城を奪還した。
その混乱は市民をも巻き込み、レリィもまた争いへと巻き込まれた。
彼女が狙われ始めてからそれとなく自分を護ってくれていた少年。
彼の姿が無いのだ。
「どこに、いるの……」
彼女のか細い声は雨音に紛れ、そして消える。
それでも、彼女は名を呼ぶ。
「ヒューゴ」
「呼んだか」
「っっz」
振向けば彼女が探し求めていた少年がレリィと同じようにずぶ濡れになって立ちつくしていた。
「ヒューゴ、どうして、今まで何やってたの?探したのよ。貴方のこと」
「レリィ、風邪を引くつもりか」
「私の話聞いてる?いっつもそう、ヒューゴは人の話聞かないで自分が言いたいことしか言わない」
「レリィ、ずぶ濡れのオマエに言える言葉か?」
「そう言うヒューゴだって、ずぶ濡れでしょう?」
そう言ってレリィは自分が羽織っていたネーデルの上着をヒューゴに掛けようと手をかける。
「そろそろ戻ってくる頃だ」
ヒューゴが誰を差して言っているかレリィは気づいてヒューゴの腕を掴む。
「っなんだ」
「どこかへ行くつもりなんでしょう?いっつも勝手にふらっとどこかに行って。心配する私の気持ちぐらいわかって」
「だれが、行くって言った。俺はどこかに行くとは言ってない」
「でも」
「ネーデルからオマエを護れと言われた。元から俺はそのつもりだ。王城にはいるのは面倒だが、それぐらいオマエを護れるのなら別に問題ない」
「……聞いてないわよ」
「言ってなかったからな」
ヒューゴの言葉にレリィは不満げな顔を見せる。
「決まったのはつい最近だ。どうやって王城に忍び込もうかと療養先で考えてたときネーデルがつてを伝ってやってきた。言われたのはそのときだ。まだ1週間と立ってない」
ネーデルが普段は堂々としているのに、なにやらこそこそとどこかに連絡を取っていたのはこの件だったのかどレリィは思い出す。
「戻るぞ、レリィ」
ネーデルの姿を見つけヒューゴはレリィの肩を抱いて彼女を促す。
彼女の体は冷え切っており、ヒューゴも似たようなものだったが、それでも触れる体温は温かくレリィはホッと息を吐く。
「ヒューゴ、ありがとう」
「気にするな。礼を言われるほどの事じゃない」
そういったヒューゴの言葉にレリィは微笑んだ。
「レオニート王国…私は聞いたこと無いな」
カリィは黒ずくめの男が話した「物語」に出てくる国の名を呟く。
「それほど大きくないしな。200年程しか存在してない国だから、カリィが知らなくても無理はない」
「歴史は苦手ではないが…オマエが知ってることを私が知らないのはなんだか腹が立つ」
「相変わらず、負けず嫌いだよな。カリィは」
「誰のせいだ誰の!!!」
カリィは黒ずくめの男の言葉に突っかかった。
この世ではない場所で今の時間ではない時のお話。
以前書いたレリィとヒューゴのお話。
お題つかって書こうかなと思ったけどやめにしてみた(空想のお題20)。
カリィとアシュレイのみ声表記。
カリィは進藤尚美さん。アシュレイは石田彰さん……。
あぁ、石投げないでぇ〜〜〜!!!