「ラティア…道を示してくれないか」
ハーシャの巫女であるラティアにロシュオールは声を掛ける。
魔法国家でもあるハーシャの巫女はその予言能力は高い。
「……ロシュオール、貴方の道はゴルドバへと続いている。中央大陸へ向かって」
ラティアは東へまっすぐ指さす。
その先はゴルドバの地。
「ゴルドバにはもうすぐよ」
商業都市シスアードでミアはロシュオールに言う。
「ミア、聞きたいことがあるんだけどさ」
ずっと持ってたミアに対する疑問。
彼女は単なる魔法使いだという。
だが、彼女が見せる力は魔法使いのそれではない。
「何?」
無邪気に問いかけるミアにロシュオールは気をそがれた。
彼女の目的地も、自分の目的地も同じゴルドバ。
そこで彼女はロシュオールに言いたいことがあるという。
ゴルドバに付いてからでも遅くはない、ロシュオールは自分にそう言い聞かせた。
「いや、ゴルドバってさぁどういうところなのかなぁって」
「ゴルドバには行ったこと無いの?ロシュはハーシャのスペルナイトマスターだったんでしょう?」
「まぁ、そうなんだけどさ。………国王の許可が降りなかったって言うか……」
ロシュオールは言いにくそうに言葉を紡ぐ。
ハーシャの国王、ソール11世。
別の名を斬首王。
ロシュオールはその王に仕えていた。
もっとも近年ロシュオールのスペルナイトマスターの地位は無いものとなっていたのだが。
ロシュオールがその名を憚るのは無理もなかった。
「ごめんなさい。嫌なこと聞いて」
「いや、気にするなよ。別に気にしてないから。で、そう言うわけでゴルドバには行ったこと無いんだ」
ロシュオールは苦笑いを見せながら言う。
「ゴルドバは城塞都市なの。巫女の住まう神殿を中心に城壁が広がっているわ。城砦は二重になっていて、一番内側には神殿が、弐番目の内側にはゴルドバの街があるわ」
「へえ、ゴルドバは人の世の最後の砦って聞くけれど、あながちウソでも無いんだな」
ミアの説明にロシュオールは関心しながら聞く。
「ゴルドバは人を護り、巫女を護るための呪文都市でもあるから」
「そういや、巫女には従騎士が居るって聞いたけど」
「そ、それがどうしたの?」
ロシュオールの言葉にミアは心臓を捕まれたような気分になり、言葉がどもる。
「いやさぁ、まぁ、多分むりだろうけどさ、力試しってやつしてみたいんだ。自分のスペルナイトマスターっていう地位は本物なのか。従騎士は巫女を護るためにいるんだろ?そいつとだったら本気の力だしても問題ないと思うんだけど…やっぱ無理か?」
無理だと思っているのかロシュオールは肩を落とす。
「……そんなこと無いと思うわよ」
ミアは慰めるかのように言う。
「なんでわかんだよ」
「…何となくだけど…。ただ、年に数回巫女は従騎士を決めるために試合を催すことがあるの、もし巫女もしくは従騎士の目に止まれば……従騎士と戦う機会はあると思うのだけど…」
選んでいるのか、ミアは慎重に言葉を紡いでいく。
「本当か?」
「え、ええまぁ」
「じゃあ、やってみるかな。それ」
「でも、あなた」
「どうせ、行く先が今のところゴルドバでその先が決まってないんだ。別に問題はないだろ?」
「そうだけど…」
歯切れの悪いミアにロシュオールは首をかしげる。
「ミア?」
声を掛けてもミアは考え込んでしまっているのか返事をしない。
「いや、別に本気でやりたいって言う訳じゃなくってさぁ」
「……ロシュ、本気?」
「だから」
「そうね、分かったわ。ロシュ」
「何がだ?」
一人で納得しているミアにロシュオールは再び首をかしげる。
「さぁ、行きましょう、ゴルドバへ」
「お、おぉ」
何となく納得いかないままロシュオールはミアの後を付いてシスアードを出た。
ロシュオールは、ミアが巫女だと言うことを知りません。
最後の最後で知らされるんです。