「………」
ウツはそこにずっとたたずんでいた。
「リーダー、どうするんですか?」
キネが静かにテツに問いかける。
「リーダーって言い方やめてよ」
「リーダーになりたいって言った人の言葉じゃないよな」
キネの言葉にテツは不機嫌に顔をゆがませて言う。
「分かってるよ…今日明日で動くとは思えない」
そうテツはたたずむウツと自分の隣にいるキネに言った。
「グループは解散だ」
そうカイバラから告げられたのはほんの二、三日前の話だ。
「テツは本部付き、ウツとキネはやってもらいたいことがある」
言われた。
やってもらいたいこと。
それがどんなことなのだかカイバラがやってきた事を考えれば明白だった。
ウツの歌は何かしらの力がある。
それに気づいたカイバラはずっとウツを閉じこめていたのだから。
その能力が3人で行動し、音楽をやることによって開花したのだ。
ウツの歌は催眠効果を促したり、物理的に破壊することも出来る。
それはとてつもなくまれな能力だった。
単なる歌うだけでも発揮されていたそれを、カイバラは何かに使うつもりなのだろう。
ESP増幅機は開発されているのを知っているだけに、目的は火を見るよりも明らかだとウツは気づいていた。
「今日、明日でやつが動くとは思えないとは言ったけど、時間がないのも確かだよ」
「だろうな」
テツの言葉にキネは納得する。
「抜け出す算段は?」
「を、ウツ、復活したのか?」
顔を上げてテツに問いかけるウツをキネはちゃかす。
いつでも暗いときでも茶化すのはキネの癖だ。
よっぽど深刻でない限りはそれが出てくる。
「テッちゃんどうするの?」
「…これを機と見ようと思うんだ」
「機?好機?」
「そう、好機」
聞き返したキネにテツはうなずく。
「今だったらまだ能力があるのを知られてるのはウツしかいない。僕やキネの能力はばれていない。とはいえ、いつ開発されるかもしれないESP検索機に怯えながら組織にいるのは得策じゃないよね」
「まぁ、確かに」
テツの言葉にキネは気付く。
組織にはキネとテツの能力は隠している。
キネは高位のテレパシスト、周辺索敵の能力。
テツはテレポーター。
他の能力者とシンクロするならば、どんな距離でも移動することが出来る。
その力は3人以外の誰にも知られずに隠し通せている。
今はまだという注釈がつくが。
「だったらばれる前に逃げ出すべきだと思うんだ」
力強く、テツは先を見る。
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょ?ボクはテレポーター、キネはテレパシスト、ウツはシンガー。3人だったらどこにだって逃げられるよ」
いたずらっ子のようなほほえみを浮かべながらテツは無邪気に言う。
「テッちゃんの楽しそうな顔を見てたらなんだか出来そうな気がしてきたよ」
「ウツ、いいのか?」
あっさりとテツの提案に乗ったウツにキネは驚いて問いかける。
「そんなこと言ったって、僕は元々ここを抜け出したかったわけだし。キネは違うのかよ」
「そんなことあるわけないだろう」
「じゃあ、決まりだね」
テツの言葉にキネはため息をつき、ウツは苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、手始めに作戦会議と行こうか」
先ほどと違い生き生きしてきたテツにキネとウツの二人は苦笑いを浮かべ、テツの話に耳を傾けることにした。
3人が抜け出すちょっと前の話。