「なぁ」
「何?」
「お前はどうしてここの王なんだ?いつ王になったんだ」
「今日は、カリィにある二人の話をしてあげよう」
「お前なぁ!!!人の話を聞け!!!」
「ある遺跡に眠る女神?と話す少女とその少女を見守る少年の話…」
「アシュレイ!!!!」
夕刻。
遺跡の前に彼女はいる。
この時間だけじゃなく、いつも彼女はここにいる。
「フィリナ」
「ユーディン、何?」
「何じゃないだろう。そろそろ戻るぞ」
「どうして?ユーディンだけ戻れば」
俺の方を見ないで、フィリナは言う。
「勝手にしろ」
いつも同じ応答を繰り返して、埒があかなくなり、俺はフィリナを放って先に町に戻る。
俺たちの町は遺跡の町だ。
もっとも、遺跡の町とはいえ、町から遺跡までは距離がある。
遺跡に行くための最寄りの町と言う方が正しい。
「ユーディン、また遺跡に行っていたのか?」
町に戻ればそう声をかけられる。
人がそれほど多い町ではなく、知らない人間よりも顔見知りの方が多い。
声をかけてきたのはこの町の町長だった。
「あぁ、フィリナに付き合ってだけどな」
「あの娘…か」
俺の言葉にそう応えて町長はため息をつく。
町の人間は遺跡に近づかない。
遺跡を売り物にしているが、それは遺跡に近づく旅人が落とす金を求めてだ。
旅人の話では遺跡には大層な宝が眠っているという。
それを求めて旅人はやってくる。
最寄りの町なのだから旅人はここで足りない物を加えて遺跡に向かう。
旅人がこの町に落としていく金はこの町の重要な財源の一つだ。
町の人間が遺跡に近づかないのは、実は誰も知らない。
昔からの言い伝えで、堅くこの町の人間はそれを守っている。
フィリナ以外…。
「ユーディン、あの娘に言ってはもらえぬか?遺跡には近づくなと」
「何度も言ってますよ」
「きつく言い聞かせているか?」
「えぇ、もちろん」
町長の話を聞きながら俺は家へと向かう。
しつこく、町長はついてくる。
「だから、町の皆さんから言ってもらえないですか?俺だけじゃ効果上がりませんよ?」
「…………しかし……あの娘は魔女の娘…」
そういったきり、その人は黙り込む。
魔女の娘…。
フィリナの母親は高名な魔道士だった。
この町に魔道士はいない。
世界にはたくさんいるのに。
この町は、魔道士を排斥しているのだ…。
大きいようで小さいこの町で、フィリナは母親が魔道士だったというだけで、迫害されている。
フィリナが、遺跡を心のよりどころにしてもおかしくはない。
「ユーディン、何してるの?」
町長と押し問答の用になっているときに声がかかる。
振り向けば、フィリナだった。
「フィリナ。いつ帰ってきたんだ?」
「今、暗くなったから帰りなさいって」
そういってフィリナは先を歩く。
「おい」
町長がフィリナに声をかける。
もっとも、フィリナは自分に声をかけられてるとは夢にも思わないで先へと歩く。
「おい、無視をするな。イコの娘」
そこでフィリナはようやく振り返る。
イコは彼女の母親の名だ。
「………なに?」
「遺跡に行ってきたのか?」
「そう」
「勝手なことは許さんぞ!」
そういう町長はある一定の距離以上、フィリナに近づかない。
「勝手なことは許さないってどうするの?」
「決まってる。自警団に命じてお前を留置所に入れる」
その、町長の声に町の人間が集まってくる。
「何それ。すごい横暴過ぎる!!!」
「町長っっ。フィリナには俺が言っておく。フィリナ帰るぞ」
俺はフィリナの腕をつかんで家へと向かう。
「ちょ、ちょっとユーディン」
「ユーディン、待て!」
町長の声と、フィリナの非難の声が聞こえるが無視して俺は歩き続ける。
町長はそれ以上追いかけない。
町の人も追いかけてこない。
俺たちが向かうのはフィリナと俺が住んでいる家。
フィリナの母親、イコは彼女が小さい頃、この町に帰ってきた。
イコは俺の母親の姉妹。
で、彼女たちの母親、つまり俺やフィリナにとっては祖母に当たる人は魔女と呼ばれる人だった。
もっともこの町では隠しているようだが。
「ユーディン、なんで町の人はあの遺跡に近づいちゃだめって言うのかな。あたしはあの遺跡に行くと落ち着くの。母さんもそうだって言ってた」
フィリナはうつむいきとぼとぼと歩いている。
「あの遺跡に近づいてはいけないって言う理由が分からない。ユーディン知ってる?」
顔を上げて、フィリナは周囲を見渡す。
町の外れに来たことに気付いてそれでも少し声のトーンを落として言う。
「あのね、女神様があの遺跡に眠ってるの」
「は?」
初耳だぞ、そんな話。
この町の長老的扱いされているばあちゃんすらそんな話してない。
「おばあちゃんも気付いてないと思う」
「まて、フィリナ。遺跡に女神が眠るって旅人が言ったのか?」
「うん。それも聞いた」
も?
「あのね、私、女神様と話し出来るんだよ」
「はぁ?そんな馬鹿な話があるか!!」
「やっぱりか」
何が、やっぱりなんだよ。
「ユーディンは絶対わたしの話信じない」
フィリナは俺の目をまっすぐに見て言う。
琥珀色の瞳が宵闇にはっきり光る。
「だから、ユーディンには言いたくなかったのよ」
そうフィリナはうつむく。
俺は、俺だけは、フィリナを悪く言うのはやめようと思ってた。
俺だけは、フィリナの味方でいようと思ってた。
でも…。
そのフィリナの言葉でそれは自分勝手の驕りだったと言うことに気付く。
「ごめん…」
「別にいいよ。いつもの事だって分かってるから」
そういってフィリナは俺の手をふりほどき先に戻る。
「フィリナ、信じるよ」
先に行ってしまったフィリナの背に向かって俺は言う。
なくしちゃいけないと思った。
「フィリナ、俺も話せるか?」
「………誰だって話せるよ」
そう言ってフィリナはほほえんだ。
「だって、女神様は誰にでも話しかけてるんだから」
「…………その遺跡はどこにあるんだ?」
「さぁ」
「さぁってお前なぁ!!!!!女神って言うのは何だったんだ?」
「さぁ?」
「アシュレイ、お前は知ってるんだろう?」
「さぁ?」
「いい加減にしろ!!!」
フィリナは村田秋乃さん、ユーディンは白鳥哲さん。
えっと………だから石は(以下略)。