「宜しくね、ロシュ」
「あぁ、こちらこそ宜しくなミア」
笑顔が印象的だと思った。
色素の薄い髪。
木々の間から降り注ぐ髪は光に透けると金色になる。
同じように色素の薄い茶色い瞳。
金髪にブルーアイズのランディールとはまた違った印象を受ける青年。
ロシュオール・ダルハート。
神託は、彼がそうだと示している。
彼がゴルドバに来ること、それは先が決めている。
「ミア、そこ少しぬかるみだから気をつけろ」
そう、言ってくれるロシュはひどく優しい。
ミアは戸惑わずには居られなかった。
自分に接してくる人間は全て「ミアが何者か」と言うことを知っている人間で。
必ず一つの線を引いて接してくる。
兄妹であるヴェクレイもイスフィアもそうだし、従騎士であるランディールもそうだ。
彼女に対する態度は巫女であると言う敬意を持って接してくる。
それがミアには寂しかった。
でもロシュオールは違う。
自分の正体を話していないからかも知れないけれども。
「なぁ、ミア。この森をどうにかする方法アルって言ったよなぁ」
「え、えぇまぁあるわよ」
ロシュオールに突然聞かれミアは戸惑いながらも答える。
「どういう方法?」
「この森のどこかに、神殿があるのを知ってる?」
ミアは周囲を見渡しながらそう言う。
「いや、初耳だぜ?そんなの」
「そう、やっぱり知らないか…。そこの神殿が原因だとは思うんだけど…。そういえば、この森はハーシャの管轄じゃないの?」
「いや、ハーシャじゃなくってシスアード…いやマルデュースだ」
スクードの森の中央大陸側は商業都市シスアードと魔法国家マルデュースの境がすぐある。
ここはマルデュース側だというのだ。
「まだ半分も来てないから、マルデュースに出るのは難しいわね」
「どうしたいんかわかんねえけど、ハーシャに戻るのも無理だぜ?」
「分かってるわ。今あそこは混乱して居るもの…」
ハーシャの状況を思い出してミアは考える。
「ミア?………おまえ…」
「何?ロシュ」
「いや、何でもねえ。で、その神殿って言うのはどういう奴なんだ?」
「昔、この一帯を整備していた道は知ってるわよね」
「あぁ。魔道士達が陸路でも中央大陸に渡れるようにっていう結界みたいなもんだろ?」
ミアの言葉に頷いてロシュは思い出すように言う。
「そう、その結界の発動位置がその神殿なの」
「つまりその神殿に行ってその結界を直せばいいんだな?」
「そうよ」
ミアはロシュの言葉にゆっくりと頷く。
ロシュオールは知らない。
その神殿は遠い昔に崩れているはずなのだ。
だから、ここは魔物に侵食されている。
でも、ミアはその神殿に行かなくてはならなかった。
ロシュオールはその理由を知らない。
神殿は巫女に見つけられないし、結界も巫女にしか扱えない。
直したことでロシュオールに自分の正体がばれることもない……。
何故か隠したかった。
普通の女性としてロシュオールと接していたかった。
それがこの数日の間だとしても。
「でもミア、何でそんなこと知ってるんだ?」
「…私も似たような理由かな?」
当たり障りのないようにミアは答える。
「ふーん」
気づいているのか、それとも思っていないのか。
そんな返事が聞こえる。
「こうしてるわけには行かねえな。急いでその神殿に行って休もうぜ。下手したら日が暮れちまう」
「……そうね」
ロシュオールの言葉にミアは歩き始める。
その神殿の気配を探す振りして迷わずその神殿に足を進める。
いつかは伝えなくてはならない。
それでも、ミアはロシュオールと居る時間を失いたくはなかった。
そろそろ先に進めようかな。まだ出会って1時間たってませんよこの二人。