貴方に惹かれました。
涼しげな目元にさらりと指が通る長い髪。
どこか神秘的な表情を見せる貴方に。
「白馬君、どうしたの?」
そう聞いてくる青子さんに僕は彼女に視線を移した。
「いえ、ただ。あんな綺麗な人このクラスにいたのかなと」
そう言っただけで青子さんは誰のことを指しているのか気づいたようで。
「そっか、白馬君が転校してきたときは紅子ちゃんは病気で休んでたものね」
名前を出される。
「あ、青子さん」
「紅子ちゃんはね。綺麗ですっごく大人っぽいんだ。子供っぽい青子とは大違い」
そう言って青子さんは少し自虐的に微笑む。
「青子さんは子供っぽくはありませんよ。それにそこは青子さんの魅力ではありませんか」
「は、白馬君」
「そう言いながらアホ子はどこからどう見たってお子様だろうが」
背後で嫌な殺気をさんざん見せつけていた男は僕と青子さんの会話に割り込んでくる。
「ひどい、バ快斗だって子供でしょ?」
「青子よりは子供じゃねえよ。お子様プリントパンツだしな」
「きゃ〜〜〜」
黒羽快斗は青子さんをスカートを捲るという非常識な手段でからかう。
彼に文句を言おうとする前に
「快斗ぉ!!!!!!!!!!絶対許さないんだからね!!!!」
そう言って青子さんは逃げ出した黒羽快斗を追いかけ始めた。
青子さんと黒羽快斗の追いかけっこは日常茶飯事の出来事で。
誰も止めることをしない。
「元気よね」
落ち着いた女性の声がすぐ隣で聞こえる。
「そうですね」
僕は冷静にその声に答えた。
「まだ、貴方とは挨拶を交わしてませんでしたが……」
「私は小泉紅子。そしてあなたは英国帰りの名探偵、白馬探。意外とフェミニストなのね」
そう言って彼女は微笑む。
青子さんとの会話を聞かれていたのだろうか。
「一応英国帰りですから。海外ではレディーファーストは常識ですよ?」
「そうだったかしら」
興味なさそうに僕を見てそしてまだ追いかけっこをしている青子さんと黒羽快斗を見る。
「僕には興味ありませんか?」
「…………」
なぜそんなことを聞いてしまったのだろうか。
後から考えても分からない。
でも、僕は彼女の本質を掴んだ気がした。
彼女の興味は黒羽快斗に注がれている。
もしかすると彼女は黒羽快斗=怪盗キッド?であることに気づいている人間なのかも知れない。
だから興味を持つ。
僕でもそうなのだ。
けれど、どうしてそのことがひどく息苦しくさせるのだろうか。
そのことを考えるだけで息が詰まるようでどうしようもない。
「紅子さん」
名前を呼ぶ。
「何かしら」
その返答には考えていない。
ただ名前を呼んで自分に注意を向けさせたかっただけ。
でも、出てきた言葉は
「覚悟しておいてください」
なんてあり得ないと思った。
「覚悟…?」
「えぇ、覚悟です」
「どういう覚悟?」
僕の言葉の意味が分からず彼女は首をかしげる。
「とりあえず、ありとあらゆる事を想像していてください」
「ありとあらゆる事?」
戸惑っている彼女に僕はゆっくりと頷く。
彼女の意識を僕に向けさせる。
「そうです、ありとあらゆる事」
そして僕は微笑む。
「覚悟……ね」
彼女は僕の言いたいことに気がついたのだろうか。
僕から視線を外す。
彼女の心を僕に向ける覚悟。
僕が彼女の心を浮かぶ覚悟。
「……好きに、したら」
少しだけ震える声と染まった頬。
微妙で普通なら気がつかないのに気づくのは僕が探偵だからだろうか。
なんて勝手に解釈。
「そうさせて貰います」
これは宣戦布告。
君に僕は惹かれた。
たとえば、君を攫うような事を。
怪盗キッドの様になって君の所に向かうことを。
そのときは君は笑っていてくれるだろうか。
今みたいな少し寂しげな表情ではなく。
白馬君の描き方を忘れてるね……。