「愛してます、あなたが!!!!」
そういって殴られること毎回。
「好きです……あなたが!!!」
そういって殺されそうになる事、毎回。
あなたが………。
「いい加減にしてください」
「なぜですか、お妙さん。俺はあなたの事をこんなに好きだと言ってるのに!!!」
「まだわかんねーのかこのゴリラ!!!!」
殴られて世界は暗転する。
「水持ってこい!!」
「お妙、やり過ぎよ」
「おりょうは黙ってて」
かけられる水。
殴られるのは毎回だ。
死にそうになるのも毎回だ。
でも、水をかけられるのは初めてだった。
スナックすまいるで、お妙さんに告白する日々。
彼女を好きになってほぼ毎日通っている。
閉店間際まで、焼酎一杯で粘るおれは店にとってはありがた迷惑な客だろうと思う。
だが、俺はお妙さんに逢いたくてそれでやってくる。
「近藤さん、私はね、あなたの本当の気持ちが分からないんです。私が好きだとおっしゃるけど、たとえばどこが?たとえば何が?それをあなたは言わない」
お妙さんは俺に手をかけながらそうつぶやく。
どことなく悲しそうに見えるのは都合のいい解釈なのだろうか。
「おい。いつまでやるつもりだ」
「土方さんは黙ってて」
トシが見かねたのだろう。
でも、止めたって、お妙さんはやめるような人じゃない。
「全部、あなたが好きです」
「なぜ?こんな風に邪険に扱ってるのに?あなた、死ぬわよ?」
「死んだっていいんですよ。それで、お妙さんが気にしてくれるのであれば」
「最低だわ」
「そうっすね」
最低だろう。
死んで彼女の心に残ろうとするのは。
最低だろう、殺して残そうとするのは。
「泣いてるんすか?お妙さん」
「泣いてないわよ。勝手に泣かさないでよ」
涙をこぼさないで泣くのはこの人の特徴なのだろうか…。
一度ならず二度までも見た泣き顔はいつもこぼさずに目にいっぱいあふれさせていた。
「何度でも言いますよ。俺はあなたが好きです。あなたに殺されてもいいと思うぐらい。でもあなたは人を殺せるような方じゃない。そんなの俺や他の人間に任せておけばいい。守らせてほしいとは言いません。でも、これから先もあなたと歩いていきたいんです」
「……馬鹿」
首にかけていた手を離して、腕を回してくる。
「嫌いになってくれればよかったのに」
「お、お妙さん」
耳元で聞こえる泣き声と、見えない表情とふるえる肩とが心細そうなので静かに腕を回す。
「私には、夢があるのよ」
「知ってますよ。道場の再建でしょう?」
「そうよ、そのためには恋なんてしてらんないのに。どうしてよ!!!」
「再建ぐらい手伝いますよ」
「そんなの当たり前だわ。責任とってよ」
「えぇ」
俺にしがみついてお妙さんは泣く。
「泣かないでください」
「泣いてるの誰よ」
顔を見せてお妙さんは言う。
「自分だって泣いてるじゃない。ホント馬鹿なんだから」
泣き笑いの顔でお妙さんは言う。
良かった。
「…姐さん!!、局長をよろしくお願いします!!!!」
山崎を筆頭に隊士達が俺たちに言う。
…………。
「近藤さん、道場の再建はいいがなぁ」
たばこを吹かすトシ。
「真撰組はどうすんだ」
「そりゃもちろん。やめるわけないだろう」
「道場はどうするんですか?」
「そりゃもちろん。お手伝いします」
二つぐらい、何とでもなるだろう。
俺は真撰組もお妙さんも大事なのだから。
「道場、ほったらかしにしたら。覚悟しとけよ」
「は、はい〜」
っていうか、姉御、好きって言ってない。