世界は回る。
星の我が儘は、それすらも止める。
彼女の願いは誰も気がつかない。
彼の願いは誰も気がつかない。
それすら星の我が儘なのだから。
「ウィル…」
機械仕掛けの神殿。
ここに眠る人形に彼女は涙を見せる。
ベラヌール聖王国。
この国の許可なく立ち入ることが出来ぬ場所に彼女はいた。
周囲を金属に囲まれ、言うなれば機械に囲まれたその最深部。
眠る人形はまるでかつて動いていたかのように。
何かの液体に浸ってそこに眠っていた。
「あなたは、それでもこの星を変えたいと願うのですか?」
彼女の問いに眠る人形は答えない。
数百年前に目覚めたと言うけれど、巫女はその時のことを知るすべはない。
なぜここに眠るかも彼女は知らない。
ただ、名前らしきものがあり、彼女はそれを名前と認識し人形の名を呼ぶ。
「ランディールは、あなたの望み通り見事従騎士となりました」
静かに彼女の背後にたたずんでいた男…エルネスト・ハイリゲンは彼女…巫女シルフィアに告げる。
このベラヌール聖王国には法王と呼ばれる者がいる。
聖魔法、白魔法の正式伝道者。
シルフィアはこの国の巫女であり、そして過去にない女性の法王でもある。
「そうですか…、ラン様は、無事に従騎士となられたのですね」
「…よろしかったので?」
「なぜ?」
そう感情もなく答えるシルフィアにエルネストは言葉を失う。
「なぜ、そう思われますの?」
「あなたは、」
再度聞いてくるシルフィアにエルネストは途中まで言葉を紡げてもそれ以上は出来ない。
「…失礼いたしました。シルフィア様」
頭を下げるエルネストにシルフィアはため息をつきながら言う。
「謝る必要はないでしょう」
エルネストが謝る必要はない。
ランディールが従騎士となるのは運命なのだし、自分が巫女であり法王であるのも運命だ。
「私は巫女であり法王である。ランディールは従騎士。ただそれだけの事でしょう」
「御意…」
シルフィアの言葉にエルネストはただうなずくしか出来ない。
エルネストは知っていた。
シルフィアの想いを。
だからこそ聞いてしまう。
だからこそ聞けない。
シルフィアの想いを知っているから。
「エルネスト・ハイリゲン」
じっとたたずんでいたシルフィアが不意に振り返り、一降りの剣をエルネストに向ける。
「はっ」
返事をしてエルネストは立て膝を付ける。
「あなたをベラヌール聖王国聖騎士団団長に任命いたします」
「ありがたく、お受けいたします」
その剣をエルネストは受け取り立ち上がる。
「公式にしなくてよろしかったので?」
「問題はないでしょう?元々あなたがなるはずだったのを、あなたが辞退してランディールに受け取らせたのだから」
「そうでしたね」
シルフィアはもう一度人形を見てから神殿の出口へと向かう
その後をエルネストは静かについて行った。
「エルネストは、シルフィア法王の事が好きだったのか?」
カリィはアシュレイに問いかける。
「さぁ、そこまでは。でもシルフィア法王はランディールのことを好きだったのは本当みたいだよ」
そう聞いてカリィは思い出す。
「シルフィア法王の恋物語、読んだことがある。おとぎ話だったかな?」
「そうか、カリィの時代じゃおとぎ話だね」
アシュレイはカリィの言葉に苦笑した。
ランが好きだったんだけど法王でだめで、エルネストはシルフィアが好きだったんだけど、彼女はランが好きでっていう一方通行。
シルフィアは生涯独身だったけど、エルネストはどうなんだろう?
お見合い結婚ぐらいはしてるかも?