オレが狙うモノは宝石。
ただの宝石じゃない、世界最大の宝石群ビッグジュエル。
それを狙うために、オレは彷徨う。
「快斗」
青子がオレを呼ぶ。
それだけがオレの真実。
「怪盗キッド、今日こそお前を捕まえてやる!!!」
中森警部がオレに向かって叫ぶ。
それはオレにとっては虚像のはずだった。
でもどっちのオレが本当のオレ?
側にいる青子にオレが怪盗キッドだって言えない。
「青子ね、怪盗キッドが大っ嫌いなの!!!」
そう言う青子にオレは何も言えなくなる。
青子の口から大っ嫌いって言葉を聞くときついって知ってる?
オレが青子のこと好きだって思ってること青子が知るわけない。
いつか青子にこの姿を見られるときが来るんだろうか。
青子はオレが怪盗キッドだって分かる?
怪盗キッドがオレだって分かる?
オレを見てなんて言えない。
青子を守りたい。
「そんなに彼女が大切?」
ボディースーツに身を纏った美人のお姉さんがオレに向かって言う。
「あなたに関係あるんですか?」
気を失っている青子を横抱きに……いわゆるお姫様だっこをしながらオレは答える。
大事なんて誰にも言えない。
「そんなに大切そうに抱え込んだら誰だって彼女があなたの大事なものだって気がつくと思うけど?」
「そうですか?オレは女性には優しいんですよ?」
そう答えながらオレはにこやかに笑みを浮かべる。
ほほえみはポーカーフェイスの基本。
笑っていれば誰でもその笑顔に騙される。
このオレのポーカーフェイスに騙されない奴はいない。
親父直伝だし。
「そう?」
禅問答にも飽きたのか彼女は宝石をオレの足下に投げ捨てる。
「世界最大のビッグジュエルだというのに随分ぞんざいな扱い方ですね」
「私が欲しいものではなかったから?と言った方がいいか?縁があったらまた逢いましょう。怪盗キッド」
そう言って彼女はその身を翻し高層と呼ばれるビルの屋上から飛び降りる。
その姿は既に見えない。
どこに消えたかも分からない。
足下に転がってるビッグジュエル。
青子をそっと降ろしてその宝石を拾う。
雲がかかる月は何も映さない。
「巻き込んでごめん…」
そう言った言葉は青子に届くだろうか。
オレにとって大切で宝物のような青子。
真実はいつも一つ。
そう口癖のように言うあの名探偵は伝えられる真実がどれほどつらいモノなのか知らないのだろうか?
それともそれを知っていながら暴かずにはいられないというのだろうか。
知られたくない、知って欲しい。
矛盾を抱えながらオレは中森警部が来るのを待ち続ける。
その姿は既に怪盗キッドでもなくオレ黒羽快斗でもなく、全く関係ない他の人物として……。
途中で出てきたボディースーツのお姉さんはまた逢いましょうってところでヴィレッタさんを思いだしたので声は田中敦子さんです。
彷徨うって書いたあたりで……タキシード仮面様でもいいんじゃないかと思ったのはココだけの話。