城が紅く燃える。
あぁ、夕日に燃えているのだろう。
この国が滅びるのが見える。
だけれども、私は止められない。
「どうかなされましたか?姫」
ディムル・ガスパール子爵がうつむいた私にそっと声を掛ける。
「別に気にするなディムル。それより、どうしたんだ?今日は珍しいな。お前が来るとは思わなかったから何も用意してなかったぞ」
彼は婚約者だ。
女王が決めた婚約者。
次期女王を支えるに相応しい人物と女王である母は言った。
母は私を次期女王としてこの国に立つ。
彼自身は子爵だけれども、ガスパール家と言えば、この国の王家に繋がる重要な家柄だ。
過去より影に陽向になって彼の家はこの国の王家を支えてきたという。
彼に対する礼儀は必要だ。
「私の方こそご連絡せず申し訳ありません。珍しい菓子が手に入ったので姫にお見せしたいと思ってお持ちしたのですよ」
そう言って来るなりテーブルの上に置いた荷物のひもを解く。
「シスアードで今はやっている菓子だそうです。我が家の者が珍しがって買い求めたのです」
そこにあったのは確かに珍しい菓子だった。
キラキラと輝きを見せるチョコレート菓子なのだろうか。
食べてみれば甘くとてもおいしい。
「羨ましい。シスアードの者はこのような物を食べているのか」
「シスアードでも人気のだそうでなかなか手に入らないらしいですけどね」
ディムルは私が食べているのを見ているのが楽しいのか自分は手を付けない。
「食べないのか?」
と聞いてみれば
「既に屋敷の方で頂かせていただきました。コレは姫の分です。どうぞ遠慮なさらずにお召し上がりください。それに家の者がわざわざ姫にと別に包んだものですから」
と答える。
「お気に召したようで光栄です」
そう言って彼は笑顔を崩さない。
何故だろう。
私は時折この笑顔に不安を覚えるのだ。
「シスアードに行ってみたいな」
「ご視察という形でならシスアードにもいけるでしょうが市井に降りられるのは難しいと思われますが?」
「そうか…残念だな」
「えぇ」
私の言葉にずっとディムルは笑顔で応対するのだ。
だからなのだろうか。
私はこの国の巫女で、いずれは現女王である母の後を次いで女王となりこの国を守るために過ごすだろう。
でも何故だろう。
私にはこの国が滅ぶのが見えるのだ。
巫女という力がそれを見せるのだろうか。
「ディムル、私を助けてくれ」
「姫、突然、どうなされたのです?」
滅多に変わらない表情が変わる。
「いや、何でもない。気の迷いだ」
あぁ、この国は滅ぶ。
誰でもない私のせいで。
この部屋に滅びの序曲が流れるのだ。
「姫、少々お疲れでしょう。お休みになってはいかがですか?」
ディムルが立ち上がって私の肩を抱く。
それが空々しいのは気のせいではないのかもしれなかった。
城が紅く燃える。
夕焼けの赤と血の赤で。
この国は滅ぶ。
巫女の死を引き金に……。
この国が滅んだことにより世界の運命はあらぬ方へと回り始めます。
彼女が生を全うしていればもしかすると違う世界になっていたかも知れない。