相続開始後のタイムスケジュールと遺産分割
2018(平成30)年3月6日改訂
2019(平成31)年3月18日改訂
2019(令和元)年8月9日改訂
2020(令和2)年1月16日改訂
2020(令和2)年2月29日改訂
2021(令和3)年5月31日改訂
2022(令和4)年7月25日改訂
- 第1 自然人が死亡すると,相続が開始します。
- 第2 被相続人の死亡後(相続開始後)7日目まで
- 1 葬儀の準備,死亡届の提出
医師から死亡診断書をもらい,市町村役場に,被相続人の死亡届を提出します。
死亡届の提出期限は,死亡後7日以内です。 - 2 死亡から葬儀まで
死亡から葬儀までの手続は,仏式では,以下のようなものが一般的だと思います。
死亡 → 葬儀社へ連絡 →寝台車でお迎え →安置・枕飾り →
枕経 → 葬儀内容の打合せ → 関係者への連絡 →
納棺・通夜 → 出棺・火葬 → 葬儀 →
初七日法要 → お斎 - 3 葬儀費用を,被相続人の遺産の中から負担するのか,喪主が負担するのかが争われることがあります。
近時有力なのは,喪主負担説です。
なお,相続人全員が合意すれば,葬儀費用を遺産から支出することは可能です。
また,香典は,喪主が受贈者であり,葬儀費用に充当されるべきことになると思います。 - 第3 被相続人の死亡後(相続開始後)49日目まで
- 第4 相続開始後,相続開始を知ったときから3か月まで
- 1 限定承認・相続放棄の手続を行う期限が到来します。
民法915条の規定により,相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,相続について,単純承認若しくは限定承認又は放棄の手続をしなければなりません。
この期間のことを,「熟慮期間」と言います。
熟慮期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったときは,民法921条2号により,単純承認したものとみなされます。
詳しくは,気をつけたい法律のポイント2016(平成28)年4月6日「単純承認と債務の相続について 」を参照して下さい。
- 2 熟慮期間の伸長
被相続人に負債があるときなどは,被相続人の遺産の価額と負債とを調べて,相続するか否かを慎重に判断する必要があります。
しかし,被相続人の財産及び債務を調べるためには,3か月という期間では足りないことがあります。
そこで,被相続人の遺産や負債を調査するための期間を,家庭裁判所に申し出て,伸長してもらうことができます(民法915条1項但書)。
詳しくは,気をつけたい法律のポイント2016年(平成28)年4月26日改訂「相続放棄について」を参照して下さい。 - 第5 相続開始後4か月まで
- 第6 相続開始後10か月まで
- 1 相続税の申告・納付期限は,相続開始後10か月です。
- 2 この時までに遺産分割が行われていなくとも,法定相続分によって相続したものとして,相続税の申告と納付を行わなければなりません。
その後,遺産分割協議が成立した場合には,修正の申告と納税を行うことができます。
- 3 なお,申告期限までに分割が決まっていない財産については,
「配偶者の税額軽減の特例」
「小規模宅地の評価減の特例」
等のような特例を受けることができません。
ただし,上記二つの特例に関しては,申告の際に,「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し,申告期限から3年以内に相続財産の分割が完了した場合には,遡及して特例が適用されます。
また,分割できないやむを得ない事情があり,税務署の承認を受けた場合は,3年以上の延長が可能です。
詳しくは,税理士に相談して下さい。 - 4 因(ちな)みに。遺産分割については現時点では法的に期限は定められていません。
ただし,未施行ですが2021(令和3)年に成立した令和3年法律第24号民法等の一部を改正する法律に定める,改正不動産登記法76条の2では,不動産の所有権の登記名義人が死亡して相続が開始し,その相続によって当該不動産の所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければならないと定められました。
その期限までに遺産分割が未了であれば,法定相続分に従った所有権移転登記をすることになります。
その後に遺産分割がなされた場合は改めてその遺産分割に従った所有権移転登記をすることになります。
なお,この改正不動産登記法76条の2は現在未施行ですが,改正法公布後3年以内の政令で定める日(2024年(令和6)年4月1日)に施行されます。 - 第7 相続開始後,相続開始及び減殺すべき贈与又は遺贈等があったことを知ったときから1年
- 第8 相続手続の概略
- 1 相続手続の流れは,以下のようになります。
- ① 相続人の範囲,相続分の確定
- ② 遺言書等の有無の確認
- ③ 遺産の範囲の確定
- ④ 遺産の評価
- ⑤ 特別受益・寄与分の確定
- ⑥ 具体的相続分の確定
- ⑦ 遺産分割方法の決定
- 2 前提問題と付随問題
- (1)前提問題
遺産分割手続を進めるにあたって,予め解決しておくべき問題として,以下のものがあります。
① 相続人の範囲
② 遺言の効力・解釈
③ 遺産分割協議の効力
④ 遺産の帰属などについての争い
なお,相続人の範囲と相続分に関しては,最高裁平成25年9月5日決定により,嫡出子と非嫡出子の相続分は等しいものとされています。
- (2)付随問題
遺産分割に付随して,以下のような問題があります。
① 使途不明金
② 葬儀費用
③ 遺産から生じる収益の分配
④ 相続債務
⑤ 祭祀承継などの問題
- 3 遺言書がある場合
- (1)特定の遺産について,遺贈又は相続させる旨の遺言がある場合は,当該遺産は,遺産分割の対象から除外されます。
- (2)遺産全てについて,遺贈又は相続させる旨の遺言がある場合には,遺産分割の対象となる財産はないことになり,遺産分割調停・審判を行うことができません。
- このような場合は,別途,遺留分減殺請求権(2019年7月1日以降は「遺留分侵害額請求権」になります。)が問題となります。
- なお,相続人全員の合意で,遺言と異なる内容の遺産分割をすることも可能であるとする判例もあります。
- (3)自筆証書遺言の場合は,遺言書の発見後,すみやかに,家庭裁判所において,検認の手続きを行う必要があります。
- 検認手続については,気をつけたい法律のポイント2010(平成22)年12月1日自筆証書遺言の検認申立を参照して下さい。
- 検認手続を経ていない自筆証書遺言では,不動産の所有権移転登記手続を行うことができません。
- 但し,2020年7月10日から施行される法務局における自筆証書遺言の保管制度を利用した自筆証書遺言については家庭裁判所の検認手続は不要です。
- また,遺言書を破棄・隠匿した場合は,相続の欠格事由になります。
- (4)公正証書遺言の場合,公証役場は,遺言者が120歳になるときまで,公正証書遺言原本を保管しています。
- そのため,公証役場で手続きをして,被相続人の公正証書遺言の写しを入手することができます。
- (5)遺言書の有効性に争いがあるときは,遺言書の効力を,遺言無効確認等の民事訴訟で,裁判所に判断してもらう必要があります。
- 4 遺産分割協議がある場合
- (1)有効な遺産分割協議がある場合には,遺産分割の対象となる財産がないことになるので,遺産分割調停・審判を行うことができません。
- (2)遺産分割協議の有効性に争いがあるときは,遺産分割協議無効確認等の民事訴訟で,遺産分割の効力を裁判所に判断してもらう必要があります。
- 5 遺産について
- (1)遺産分割の対象となるのは,①被相続人が所有していたプラスの財産,かつ②相続開始時に存在していたプラスの財産,かつ③現在も存在しているプラスの財産です。
遺産分割調停や審判時に存在していない財産は,持戻しなどがない限り,基本的に遺産分割の対象にはできません。
また,遺産の種類によって,調停・審判の対象になるか否かが分かれます。
以下に,主な財産ごとに,調停・審判の対象になるか否かをまとめます。 - (2)遺産分割調停でも,遺産分割審判でも扱うことができる財産
土地・建物,株式,現金,借地権,投資信託,国債,預貯金 - (3)相続人全員が合意すれば,「調停と審判」で扱うことができる財産
貸金,不当利得・不法行為債権(使途不明金),賃料債権 - → 相続人全員の合意が得られないときは,民事訴訟等の手続によって解決することになります。
- (4)全相続人が合意すれば,「調停」で扱うことができるもの
相続債務,葬儀費用・遺産管理費用 - → 相続人全員の合意が得られないときは,民事訴訟等の手続によって解決することになります。
- なお,債務の相続については,気をつけたい法律のポイント2016(平成28)年4月6日「単純承認と債務の相続について」 を参照して下さい。
- (1)遺産分割の対象となるのは,①被相続人が所有していたプラスの財産,かつ②相続開始時に存在していたプラスの財産,かつ③現在も存在しているプラスの財産です。
- 第9 特別受益と寄与分について
- 1 気をつけたい法律のポイント2011(平成23)年5月2日「遺産分割における特別受益及び寄与分について」を参照して下さい。
- 2 特別受益
- (1)特別受益とは,共同相続人の中の1人または数人が被相続人から遺贈または婚姻,又は養子縁組のため,もしくは,生計の資本として生前贈与によって受けた特別の利益のことです。
- なお,2019年7月1日施行の改正民法1044条3項により,相続人に対する特別受益に該当する贈与については,相続開始前の10年間にしたものに限り,その価額が遺留分算定基礎財産に算入されます。
- (2)遺贈や「相続させる遺言」は,目的に関わりなく,全て特別受益になります。
生前贈与については,①婚姻又は養子縁組のための贈与,②生計の資本としての贈与が特別受益になります。 - (3)学資
扶養の範囲内か否かで,特別受益にあたるか否かが分かれます。
扶養の範囲内と言えるか否かは,被相続人の学歴,資産収入,社会的地位,他の相続人の最終学歴等を総合的に考慮して判断されます。 - (4)生命保険金
原則として特別受益に当たりませんが,保険金それ自体の額と遺産との比較,同居別居の別,介護への寄与度,従前の生活実態等の特段の事情から,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不公平が,民法903条の趣旨に照らして是認できないほど著しいものであるときは,特別受益に準じるものと考えられます(最決平成16年10月29日裁判集民58巻7号1979頁)。 - (5)死亡退職金等の遺族給付
受給権者の生活保障を目的とした制度に基づいて支出されるものであるため,特別受益性が否定されることが多いようです。 - (6)遺産の無償使用による利益
争いになりますが,特別受益性が認められる事例は多くないようです。 - (7)相続人の配偶者や子に対する贈与
原則は特別受益に当たりませんが,実質的には相続人に対する贈与だと評価されるような特段の事情がある場合には,特別受益に該当します。
- 3 特別受益の計算
特別受益の計算式は,以下のようになります。
みなし相続財産(相続開始時に有していた積極財産+特別受益にあたる贈与)×各自の相続分率-特別受益分=具体的相続分 - 4 寄与分の類型と要件
- (1)寄与分とは,共同相続人の中で,被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をした者があるときは,その寄与に相当する額を加えた財産を取得させ,共同相続人間の実質的公平を図ろうとする制度です。
- (2)要件
寄与分の要件は,以下のとおりです。
① 相続人自身の寄与であること
② 特別の寄与であること
③ 相続人の特別の寄与により被相続人の財産が維持又は増加したこと
①「相続人自身の寄与であること」については,相続人以外の者がした貢献が,相続人の寄与と同視できる場合は,当該相続人の寄与に含めて請求する余地があるとされています。 - (3)寄与の態様
寄与の態様については,以下のような5つの分類が考えられています。
① 家事従事型
ア 特別の貢献
イ 無償性
ウ 継続性
エ 専従性
② 金銭等出資型
不動産の購入資金の援助,医療費・施設入所費の負担等
③ 療養看護型
ア 療養看護の必要性(被相続人が要介護2程度であること)
イ 特別の貢献
ウ 無償性
エ 継続性
オ 専従性(かなりの負担をしていたこと)
④ 扶養型
ア 扶養の必要性
イ 特別の貢献
ウ 無償性
エ 継続性
⑤ 財産管理型
ア 財産管理の必要性
イ 特別の貢献
ウ 無償性
エ 継続性
- 5 寄与分の計算
寄与分の計算式は,以下のようになります。
みなし相続財産(相続開始時に有していた積極財産-寄与分額)×各自の相続分率+寄与分=具体的相続分 - 第10 手続上の注意点
- 1 相続人調査について
被相続人の相続人が,誰になるのかを調査するためには,被相続人が生まれてから死亡するまでの全部の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍等を,取り寄せる必要があります。
被相続人の本籍地が変わっている場合は,複数の市町村役場から,被相続人の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍等を,取り寄せる必要があります。
なお,被相続人の戸籍や,相続人の戸籍は,金融機関などで被相続人の財産を調査する際にも,提出を求められることがあります。
- 2 遺産調査について
- (1)被相続人名義の遺産を調べます。
- (2)市町村は,固定資産税を賦課するために,誰が,どの不動産を所有・管理していて,その不動産の価格はいくらなのか,把握しています。
そこで,土地や建物などの不動産は,市役所又は町村役場の税務課で,被相続人名義の「名寄帳」を取得することで,調べることができます。 - (3)被相続人の不動産を調査する際の注意点
被相続人が,単独で所有していた不動産は,比較的簡単に判明します。
しかし,被相続人が,不動産の共有持分を有していることもあるため,被相続人が単独で所有していた不動産だけでなく,被相続人が共有持分を有している不動産も,全てを調べておく必要があります。
例えば,ある一群の分譲住宅地で,全宅地が共同して利用するための私道があるような場合には,その私道部分の土地が,分譲住宅地の所有者全員の共有名義にされていることがあります。
この場合,その共有地である私道の地目は,公衆用道路となっている事が多く,土地の価値がわずかしかなく固定資産税もかからないため,発見が遅れるケースがあります。
また,不動産は,金銭のように価値が固定されているものではないため,不動産の価額をどのように算定するかも,争いの対象となり得ます。
遺産の評価時点は,原則は遺産分割時です。ただし,特別受益と寄与分の算定は,相続開始時を基準にします。 評価方法の合意がない場合は,裁判所における手続きでは,原則として鑑定が実施されます。 - (4)金融機関の預貯金等は,被相続人が残した通帳から調べたり,被相続人と取引があった金融機関に直接問い合わせて,調べます。
なお,金融機関は,過去10年間分の預貯金の取引記録を有していることが多いため,戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍等で相続人であることを証明した上で,手数料を支払えば,この記録を開示してもらうこともできます。 - (5)株式については,毎年6月頃に発送される,有価証券報告書などを元に調べます。
- (6)価値のある財産のみならず,マイナスの財産=負債も相続の対象となります。
そのため,遺産調査の際には,被相続人のプラスの財産のみならず,被相続人の負債も調べることが必要となってきます。
実務でよく問題となるのは,賃貸借契約の保証人となっていた場合や,金銭消費貸借契約の保証人となっていた場合などです。
また,消費者金融からの借り入れについては,その借り入れが法定利率を超えているものであれば,場合によっては過払いとなっていることもありますので,利息制限法に基づく引き直し計算が必要となります。 - 3 遺産分割の方法
相続が開始すると,葬儀や法要も含めて,行うべきことが沢山出てきます。
相続が開始した際に行うべき葬儀等に関する手続きと,法律上の手続きとを,時間順に解説します。
仏式では,五七日法要,及び四十九日法要を行います。
被相続人の所得税の申告と納付を行う必要があります。
遺留分減殺請求権(2019年7月1日以降は「遺留分侵害額請求権」になります。)は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈等があったことを知ったときから1年間行使しないときは,時効によって消滅します。
詳しくは,2008年(平成20)年3月26日遺留分でご紹介しています。
相続人の範囲,相続分の確定の際には,婚姻や養子縁組の有効無効
遺言書の有無の確認の際には,遺言の効力
遺産の範囲の確定の際には,遺産確認訴訟
遺産の評価の際には,鑑定
が,それぞれ問題となることが多くあります。
遺産確認訴訟については,気をつけたい法律のポイント2010(平成22)年9月28日遺産分割において,ある財産が遺産であるかどうか争いがある場合を参照して下さい。
(1)現物分割
(2)代償分割
(3)換価分割
(4)共有分割
の方法があります。
以上