ときどき日記(20011101〜20011115)

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2001/11/14(水)

カスミン(1)/あもい潤(NHK出版・NHKテレビコミックス)

 教育テレビ土曜午後6時半からやってるアニメのコミック版、とのことです。アニメのほうは見たことないんでそっちと比べてどうなのかは不明。
 作者はずいぶんキャリアの長い人だし、厦門潤だったころから名前は知っていたのだけど、なぜかこれまでほとんど縁がなくて、コミックガイズかコミックジャスティスかどっちかで読んだのがほとんど唯一の機会でした。今回の購入がほとんどジャケ買いだったように絵はどっちかというと好みだし、あっちこっちで描いてきた人だと思うのに、まるで接点がなかった。不思議といえば不思議だけど考えてみれば少女まんが畑には知らない人が山ほどいるしな。
 まんがの内容のほうは元気少女が主人公の元気のいいまんがで、さらさらと読めて楽しい。17年もプロで食ってる人に対して上手いもないもんだけど、でもさすがに上手いもんです。これは続きも買うな。@テンションあたりにも手を伸ばしてみようかな。

漫画サンデー2001年45号

漫画サンデー2001年46号

 なぜか2号まとめて読む羽目に。「(被)警察24時」(小田扉)、45号のほうは2色です。2色向きのねたです。あほらしくてよいです。46号では万引き女子高生を老刑事が追跡して、5コマで300kmほど走っています。「いっそこういう機械を発明して…」と描かれた人間をぞうきん絞りして甘いもの食った分を絞り出す機械、こんなのあったらおれも欲しいです。でも果てしなく痛そう。

コミックバーズ2001年12月号

 「極楽丸」(相川有)はvs図死王丸編が佳境に。vsつっても主人公である極楽丸はさっぱり争う気がないうえに「おれ極楽丸やめる」とかあっさり言い出す始末だけど。図死王丸の体に異変が生じている以上このままではすまないとして、行き着く先が共生なのか片方の撤退なのかはけっこう興味をそそります。それはそうとこの麦わら帽子の人はにーちゃんなのかねーちゃんなのか。
 読切「院内メタモルフォーゼ」(深町ひちる)は耳が獣のそれに変化していく少女のおはなし。まじめなおはなしかなーと思って読んでたらあらびっくりバカまんがでした。むう。

隔月連載:「極楽丸」(相川有)
読切:「おさるのムード」(玉木満)、「ノージル博士のキカイなる日々」(福原鉄平)、「院内メタモルフォーゼ」(深町ひちる)


2001/11/13(火)

 バーズの「おさるのムード」は連載じゃないそうです(作者ご本人からメールをいただいてしまった)。アワーズライトの「S and S」は連載だそうです(コミティアのちらしに書いてあった)。連載とシリーズ連載とシリーズ読切と短期集中連載と読切前中後編、どれもこの日記でも使ってる表現ですが、正直どれがどれとどう違うのかまるでわかりません。短期集中とかいって2号で終わられた日にはもう。

 ところでうちに今日からADSLが開通したみたいです。みたいですというのはADSLモデムがないので開通したんだかしてないんだかさっぱりわからないからです。のできょうも56モデムでダイヤルアップ。なんだ今までどおりつかえるじゃんとか思ったけどそういう問題ではありません。一式揃って設定して無事開通するのはいつになるやら。

 いやそれよりもっと大事なことがあった。Webをうろうろしてるうちに悟ったのだが、どうもおれはソノラマ文庫・谷山由紀・コンビネーションなる本を探さないといけないようです。絶版本だそうでブックオフで探したもんだか数年ぶりに図書館行くのがいいか思案中。店頭在庫はさすがになさそうだしなあ。

Jの神話/乾くるみ(講談社ノベルス)

 この本の感想はなにも書かないことにしておきます。とりあえず、意外と普通の学園ホラーミステリだったです。でも「マリオネット症候群」OKだった人はこれも読んだほうがいいです。書いてることが矛盾してるな。

コミックドラゴン2001年12月号

 「モンスター・コレクション」(伊藤勢+安田均)、大団円。見事なまんがだし見事な締めくくりだと思います。4年間お疲れさまでした。
 これでおれをコミドラにつなぎ止めてるのは「クロノクルセイド」(森山大輔)「テスタロト」(三部敬)だけになってしまった。そのクロノは一段落だけど主人公サイドの完敗というか惨敗だった初戦。巻き返しの糸口さえまるで見えないけどいったいどうすんだろ。1ヶ月お休みの間に作戦を練るんだろうか。

新連載:「エンブレムノート」(鳴瀬ひろふみ)、「コスプレCOMPLEX」(酒月ほまれ)、「りとぷら」(かき氷屋ほっそー)
最終回:「モンスター・コレクション」(伊藤勢+安田均)、「陰陽探偵少女遊RANTO☆魔承録」(奥田ひとし+あかほりさとる)、「デザート・ジュエル」(短期集中)(角井陽一)

random attractor/SPINDLE(大塚隆真)

 「kyrie」シリーズの6冊め。背景世界がよくわからないままここまで読んできて、6冊目にしてようやっと話が見えてきました。バイオものだとは思わなかった。
 あと3、4冊でシリーズ完結かな。そのあかつきには最初から読み返してみようかと思います。同人誌の長期シリーズってどうしても最初の方の記憶があやふやになってしまうので。

緑虫地獄/みりめとる(小田扉+古梅屋)

スパニッシュ屋根瓦/みりめとる(小田扉+西田章二+弥生一八+古梅屋+フロケア)

 古梅屋はもともとサークル名なんで作者名だと梅川幸太のほうがいいのかもしれない。いちおう目次の表記に従いました。
 前者に「革むくじゃら」後者に「バルコニー知らんぷり」と載ってる小田扉のまんがは、なんだかいっそうラストの唐突さに磨きがかかってきた感じ。まとめることをまるで放棄してるんだけど実はおはなしとしてはまとまってたりするので油断がならないったらありゃしない。むさいおっさんの独白ものとたよりなさげな少年+クラスメート少女というまんがです。いちおう。
 まんが描くの5年ぶりという梅川幸太のタイトルなしまんがは続いています。次は5年も待たないうちに読みたいです。「第四話」と書いてある西田章二「コスプレキャプターゆいか」はいったいどこに一話から三話まで載ってたのか覚えてないのだけど、なんとなく「▽はいすくーるメモリーズ地獄変〜ワクワク義理人情〜」か「シティーハンター木」かどっちかに載ってた気もします。楽しいばかまんがです。同じタイトルで同じ本にべつの作者(弥生一八)のまんがが載っていていっそう混乱を助長します。前三話の作者はどっちだったんだろう。ていうかほんとに三話まで描かれてるのかこれ。

横浜/universal kidology(西村竜)

 1999年に出た「東京」の続編。全ページ同一サイズの縦3コマというページレイアウトも一緒。あっちは9ページ、こっちは11ページと少しだけこっちのが長くなってます。
 ところでこのまんがにはオチがあるのだけど、悔しいことにどういうオチなのか何度読んでもわかりません。「東京」と家具の種類も配置もいっしょやなあ芸が細かいとかこんどのは時計も少しずつ進んでるなあ芸が細かいとかそういうことには気づいたけども、肝心のオチがわからないああ悔しい。しかたないんでいつか雷に打たれたように悟るまで待ちます。

リークレイトの魔女/薔薇とチョップ(矢直ちなみ)

 村を救うために旅をし、目的のものを探し当てて帰る若者に、ちょっかいを出すいじわる魔女。気楽に読めて楽しい掌編でした。このひともずいぶん作風が広いなあ。


2001/11/12(月)

 今中慎二引退、杉浦忠死去と寂しいニュースが相次いでいます。実質8年間の現役生活だった今中だけど、通算防御率3.15は素晴らしい記録と言っていいでしょう。杉浦さん(さんづけさせてください)はおれが南海ファンに出向してた時期、南海最後の3年間の監督で、その懸命の選手育成と決して上手くはなかった采配も、まだ若かった湯上谷のザル守備もへなへななハモンドの応援マーチも中条のサヨナラ押し出しに天を仰いだことも、いまでは懐かしい思い出となってしまいました。ご冥福をお祈りします。

ヤングマガジンアッパーズ2001年22号

 3度目登場「ツルちゃんデッパツ!」(つるたえみこ)はだんだんバイクまんが色が濃くなりつつある。目が大きく元気のいい主人公とストーリーとのバランスは決していいとは言えないのだけど、これはこれで悪くないんじゃないかと思います。若くて元気があって。最終回「PERIDOT」(こばやしひよこ)はなんとなく丸く収めたラスト。「春よ、来い」(咲香里)とともにアッパーズお色気担当ではありながら、主人公まわりの人物描写に微妙な作者のこだわりが感じられて、このまんがは実はけっこう好きでした。次はアトリ…はむりかなやっぱり。

最終回:「PERIDOT」(こばやしひよこ)
シリーズ読切:「ツルちゃんデッパツ!」(つるたえみこ)

ヤングジャンプ2001年49号

 主人公大混乱中の「キャラメラ」(武富智)ですが、主人公はおかしくなったことを自覚してるのかそれともこの地の文は主人公による回想なのか。たぶん後者なのかな。
 いまのところこのまんが、本編突入以降のアッ子さんがまだなにもしてないのだけど、このまま脇役に回るわけではたぶんないはず。そのへんどうなってくるか楽しみです。

ヤングマガジン2001年50号

 引き続きクライマックス中の「3×3EYES」(高田裕三)、主人公を追いつめるだけ追いつめてます。まさかこのまんま突き落として終わりで実は暗黒まんがということはないだろうなさすがに。そうおもいつつトラウマのように記憶に突き刺さっているあんなのやこんなのが脳裏をめぐる。いやまさか、な。
 「全力!かちわりホームラン」(柘植文)はたぶん初の3本立て。しぶとく野球ねたに徹しているのはよいんじゃないかと思います。「ガタピシ車でいこう!!」(山本マサユキ)は珍しく外車で新車で色気あり。いやこれは色気というには気迫満点すぎるかもしれないけど。

まんがライフオリジナル2001年12月号

 読切で「史上最低のXマスSHOW!!」(日高トモキチ)が載ってるがねたが結婚やお見合いに比べていまいちなのはたまたまかクリスマスねたなんてそんなものなのか。
 この雑誌の中で一番おもしろい4コマは実は「めもるは何もメモらない」(真右衛門)ではないかとふと思ったり。変な4コマでおもしろいのは少ないけど、おもしろい変な4コマはおもしろいのだ。

カラフル萬福星2001年20号

 すっかり定着した感のある田中浩人「ストロベリーショートケーキ」はやっぱりSFエロでした。前半はどうみても姉弟ものだけど、後半の「一千万年以上進化した体のせいで〜」というセリフなど読むと、これがはたしてほんとうの−−つまり21世紀の人類が思うところの姉弟なのかすらあやしい。最近この雑誌で描いてるのが1冊にまとまるとかなりおもしろい単行本になるんじゃないかな。
 「らくがき」(粟岳高弘)はこれはこのひとのまんがとしては新規世界の物語か。「彼女の描く意味不明の紋様は3658分の1の確率でその周囲数センチ〜数キロ内に空間異常を発生させる」などという設定を考えつくのはまんが家多しといえどもこのひとくらいかもしれません。これもSFエロか。メガフリークで描いてた井上眞改がこちらに登場、「VOX SWEET」というこのまんがどうやらフルカラーで連載らしい。「Body Language」(けろりん)は英語教師登場。'If you've got a fucking question, say it in English! You damn dick-brained!'というのはどう訳すのがよいもんだか。


2001/11/11(日)

イリヤの空、UFOの夏 その2/秋山瑞人(電撃文庫)


 これからこの本のなかからいくつかのシーンを引用します。こんなに大量に引用して著作権法上の引用の範囲と認められるのかどうか自信はないけど、でもおれの意図がこの小説がどういう文章でどういうシーンを描いているのかを例示することにあって他の意図は全くないことは明言しておきます。だからこれは断じて引用なのですどうか著作権者さま出版権者さまこの阿呆の意図をくんでやってくださいませ。
 ついでに書いておくとこの引用、引用なんだから当然なんだけどそれなりにネタバレです。もうこの小説読むことに決めてる人は、どうかこの感想をいま読むのはやめてくださいもったいないから。読んでくださるのはうれしいけど、でも小説読んだあとにしてください。お願いします。
 最初は27ページから29ページにかけての部分です。

−−引用ここから−−

 見られた。
 おまけに、鼻と鼻がくっつきそうな至近距離からわけのわからない質問をされた。最近だれ
か知らない人に声をかけられたりしなかった? アメリカの本当の首都はどこ? 家に無言電
話がかかってきたことはある? ウォーレン委員会のメンバーのうちで人間じゃないのは誰と
誰? ジュースの自動販売機の中に人がいるって思ったことはない? MJ−12文書が偽物で
ある根拠を三つ挙げて。
 四階の女子トイレを出た。浅羽は世にも情けない面でズボンのベルトを直し、伊里野にずん
ずん手を引かれて同じようなドアの並ぶ狭い廊下を走った。
 突き当たりの裏口から非常階段に出た。
 伊里野は裏口のドアに「仕掛け」を残し、浅羽の手を引いて赤錆だらけの階段を一気に駆け
下りた。ビルの裏手は細長い駐輪場になっていて、三方を建物の背中に囲まれ、残る一方が表
通りへと通じる路地に面していた。
 駐輪場に落ちるビルの影の中で伊里野は足を止め、一秒だけ考えた。
「見張ってて。百秒でできる。帰ってちゃんと練習したから」
 −−百秒? 練習?
 浅羽がなす術もなく見守る中、伊里野はつぎはぎだらけのアスファルトにひざをつき、今日
一日肌身離さず持ち歩いていた黒いバッグのファスナーを引き開けた。中にはラップトップ型
のコンピュータと接続ケーブルと工具類と、浅羽には用途のよくわからない様々な機械が整然
と詰め込まれていた。
 そして、伊里野の目の前には、一台のスクーターがあった。
 伊里野がナイフを抜いた。背中から。制服の下に手を突っ込んで。グリップにパラシュート
コードがぎっちりと巻かれた、銃刀法違反まちがいなしの見るも恐ろしいナイフだ。素早く逆
手に握り直し、スクーターの鼻っ面にブレードをどかりと突き立て、FRPのカウルをボール
紙か何かのように切り開いていく。むき出しになったイモビライザーにコンピュータのケーブ
ルを接続してコードブレイカーを起動、ミリタリーチップの演算速度に物を言わせて総当たり
攻撃で暗号鍵をぶち破る。マイナスドライバーを鍵穴に突っ込み、無理矢理シリンダーごと回
転させてメインスイッチをONする。すべての道具を撤収し、シートにまたがって車体を両足
ではさみ、力任せにハンドルを回してロックを破壊する。ブレーキを握り、イグニションボタ
ンを押した。
 エンジンは一発でかかった。
 百秒はかからなかった。
「乗って!」
 そのとき、二人の頭上で騒ぎが巻き起こった。浅羽が呆然と仰ぎ見れば、四階の裏口に残し
てきた「仕掛け」が作動していた。消火器がホースをヘビのようにのたくらせ、白煙を撒き散
らして暴れ回っている。
「早く乗って!!」

−−引用ここまで−−

 「総当たり」には『ブルートフォース』とルビが振られている。スズキトモユさんの言う「過剰さ」は「伊里野がナイフを〜」から「イグニションボタンを押した。」をコアにいたるところに見受けられます。このシーン済まそうと思えば5行で済むしほとんどの小説家はそうするかもしれない。
 もう一個所引用します。こんどは31ページから33ページ。

−−引用ここから−−

 水前寺が叫ぶ。
「あま−−−−−−−−−−−−いっ! おらおらぁどうしたどうしたぁ伊里野特派員っ!
そんなことで一人前のジャーナリストになれるかあ−−−−−−−−−−−っ!!」
夕子が叫ぶ。
「もういやあ−−−−−−−−−−−−っ!!止めて降ろしてーーーーーーーーーーっ!!」
 スクーターを追う。夏の熱気が粘土のような重さで身体にぶつかってくる。街の中心からま
だそれほど遠く離れたわけでもないのに、周囲には背の高い建物はひとつもなくなり、商店の
装いは一挙に泥臭くなり、どうかすると住宅の隙間に畑や田んぼが姿を見せる。それらすべて
が吹っ飛ぶように背後へと流れ去っていく。水前寺は笑い、夕子は止まれ降ろせと叫び、スー
パーカブはじりじりと伊里野を追いつめる。伊里野がこのあたりの道にあまり詳しくないのは
明らかだったが、その気になれば先回りできるチャンスがあっても水前寺はあえてそれをせず、
背後霊のようにぴったりとケツに食らいついて伊里野を追い立てる。
 スクーターが再び路地へと逃げ込み、路駐されている車の列を縫って県道へと抜けた。
 伊里野は西から南へと進路を変えた。その意図を読み切って水前寺はにたりと笑う。この先
には商店街、さらにその先には住宅街が続いている。派手なエンジン音を立てて住宅街を走り
回り、住民に通報させてそのドサクサに逃げ切る腹だ。そうはさせない−−踏み切りを突っ切
り赤信号を突っ切り、止まれ降ろせと叫ぶ夕子を無視して水前寺はひたすらに追いすがる。ひ
とつ角を曲がるたびに道が細くなる。伊里野が路肩に止まっていたトラックをぎりぎりで避け
ようとして軽く接触し、スクーターの右のミラーが吹っ飛んで転がってくる。道がゆるい下り
坂になり、行く手に町中を流れる川と橋と変則的な十字路と、
 ノラ犬。
 こけた。
 その瞬間、水前寺にはそう見えた。
 その瞬間、そう見えるくらいの勢いで、伊里野は車体を投げ出すように傾けた。無謀極まり
ない速度にタイヤのグリップが負けて後輪が流れ、それでも伊里野は十字路をぎりぎりで右折
するコースにスクーターをねじ込もうとした。
 水前寺が見ていたのは、そこまでだ。
 あるいは夕子との二人乗りでなかったら、水前寺にも伊里野と同じことができたかもしれな
い。が、伊里野の極端な行動に気を取られて反応が遅れた。あわてて逃げようとしたノラ犬に
進路をふさがれたことも災いした。結果としてスーパーカブはほとんど何もできないままに直
進し、ガードレールに接触し、『魚釣り禁止』の立て看板を飛び越えて宙を舞い、夕子も宙を
舞い水前寺も宙を舞った。
 夕子は叫んだ。
「きゃあああああああああ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−っ!!」
 水前寺は叫んだ。
「しあわせでしたっ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−っ!!」
 夕暮れの近い夏の空は、美しかった。

−−引用ここまで−−

 非常識なまでに引き伸ばした長音(実際の印刷ではここは長音記号の連発ではなく、すんごく長い長音記号になっている)、「スクーターを追う〜」から「〜十字路と」までのやはり過剰な描写、「その瞬間」の重複や「宙を舞った」の三連発。「十字路と、」と文章途中でいきなりぶったぎる手法もこの作家の文章にはしばしば見られます。
 最後の一文がたいへん効いている。いわば巨大な句読点で、非常に映像的です。それはここだけではなくこのシーン全体にあてはまることでもあります。
もう一個所だけ。こんなお祭り騒ぎな描写ばっかりじゃないのだよという例に。47ページから50ページ。

−−引用ここから−−

 とにかく日陰で休ませよう、そう思って、浅羽は伊里野の手を引いて公園の中へ入ろうとす
るが、歩道の敷石と公園の遊歩道との境目で、伊里野はまるでそこに結界でも張られているか
のように一度立ち止まった。が、浅羽に何度も促されて結局は公園に足を踏み入れ、水飲み場
にあるコンクリート製のベンチに腰を下ろした。
「あの、」
「もうだいじょうぶ。ほんとに」
そうは思えない。さっきの様子は尋常ではなかった。
「でもさ、今も顔色よくないし、」
伊里野は無言。
「ねえ、もし具合が悪いんだったら誰かに電話して迎えに来てもらうから、」
 そこで浅羽の言葉は潰えた。
 結局、自分が本気で心配して何を尋ねても、伊里野は何も答えてくれないのだ。
 今日一日、伊里野には本当に色々なことを尋ねた。しかし、伊里野はどこまでもいつもの伊
里野で、肝心なことには何も答えてはくれなかった。いつものことだったはずなのに、それが
今日の浅羽にはひどくこたえた。なにしろ今日はデートなのだから、普段と違う一面を見せて
くれるのではないか、という期待が心のどこかにあったのだろう。
 そのデートも、もうすぐ終わる。
 ため息が出た。
 疲れていた。
「−−ごめん。答えてくれないんだよね、どうせ」
 伊里野が息を呑む音が聞こえた。
 言い過ぎた。そう思った。
 取り返しのつかないドジを踏んだ。「ごめん」はともかく「どうせ」はまずい。疲れのせい
で頭が回っていなかった。考えなしのひと言がスキだらけの頭からこぼれ落ちてしまった。
「あ、違うんだその、立ち入ったこと聞いちゃったなと思って、」
 浅羽がしどろもどろになって懸命の言い訳を始めたそのとき、どこかでセミが鳴き始めた。

「約束する?誰にも言わないって」

 それは、浅羽の懸命の言い訳を容易に断ち切るほどの、伊里野の口から出たとは思えないほ
どの強い口調だった。伊里野は相変わらずうつむいている。が、見開かれたその目に普段とは
違う力がこもっている。スカートを握り締めた両手をじっと見つめている。
「ぜったい、ぜったい、ぜったい誰にも言わないって約束できる?」
 セミの鳴き声がじわじわと大きさを増していく。夕暮れにはまったく似つかわしくない、人
の身体から汗を絞り取るような鳴き方をするセミだった。
「一回しか言わない。質問するのもだめ。具体的な地名や日付は言えない。それでもいい?」
 攻守は瞬く間に逆転していた。
 浅羽は完全に呑まれていた。ビビっていた。伊里野は今までずっと、本当はしたい言い訳も
せずにひたすら唇を噛み締めていたのかもしれない。首を横に振るのなら今しかない。「ごめ
ん」ではすまない、「どうせ」はもう通用しない。ここから先に踏み込むのならば、伊里野と
同じ覚悟を決めなくてはならない。
 浅羽は、首を縦に振った。
「−−わかった、約束する。けど」
「訓練中に仲間が死んだの」

−−引用ここまで−−

 当然こういうシーンもあります。あたりまえだ。この小説はスラップスティックではないのです。
 こんなに大量に引用しないと作家の文章を伝えられないのか、おまえそれでも感想書きのはしくれか恥を知れ恥をという非難は甘んじてうけます。そうですおれの文章では秋山瑞人の小説のなんたるかを伝えることはできなくて、こうやって山ほど小説からひっぱってくるのが最も効果的かつ唯一の方法なのですおれ程度の表現力では文章力では。そしておれの文章の限界なんてこのさいどうでもよろしい。

 おれは差別主義者なんでこの小説を−−秋山瑞人の小説を読んでない人を差別します。おれは気弱な人間だし自分の目をそれほと信じてもいないし人間の好き嫌いの多様さを知ってるつもりでもあるので、「えーイリヤの空だったら読んだけどでもそんなにおもしろくもなかったし好きでもなかったよ、そんなによいのあれ?」と言われてしまうとうーんそうだったんだそうかなあうーんうーんうーんとおまえ本当にこの小説好きなんかと難詰されそうな情けない反応を返すのが関の山です。でもおれは差別主義者なので、本読むの好きとかいいながら「秋山瑞人っていったいだれ?」とか「知ってるけど読んでない、そんなに興味もない」とか言う相手には「なに秋山瑞人を読んだことないそれで趣味は読書とか言ってるのか今年読んだ中でいちばん印象に残った本はとかぬけぬけと書いたりするんだ、へーえっ」と口にするか実際に口にしないまでも内心30回くらい繰り返して思います。イリヤの空を読んだから偉いわけではなく読んでないからだめなわけでもない、おれの知り合いの中には秋山瑞人を読んだことがない尊敬すべき活字の虫が幾人もいます。それとはまったく無関係に、おれにとってはこの世の人は「イリヤの空を読んでる人」と「イリヤの空を読んでない人」とに峻別されます。へー読んだことないのイリヤの空。ああそう、へーえっ。

 山ほど引用して柄にもなく挑発までして、結局、願うことはいつも同じことなのです。この小説が、もしこの小説を読んだとしたらおもしろかったよかったすごく印象に残ったと思う人たちのうち、ひとりでも多くの人に読まれますように。読まれるべき人にあまねくこの小説のことが知れわたりますように。それだけ。


2001/11/09(金)

 気がついたらあと50日ちょっとしか残ってないじゃないか今年。うへへえ。こりゃ死ぬまであっという間だな。

 リンク強化月間というわけでもないけれど、リンク集にDOXA最後通牒を追加しました。DOXAの日記(Jornada日記)は日記に登場する自分のコントロールの仕方というかさじ加減というかそのへんがすごく上手くて、最近とみに愛読しています。最後通牒はほんとにいまさらなんですが。

ヤングアニマル2001年22号

 あけてはならぬパンドラの箱。それはつまりずーっとふたりが望んでいながら互いが望んでいるとはぜんぜん思っていなかったことなのでしょう。あけてしまった以上もうあともどりはできない、一花はどうするのか、一花をどうするのか。いっそのこと3人で結婚してしまう…わけにはいかないんだろうなあやっぱり。
 「ハネムーン サラダ」(二宮ひかる)は大詰めです。大詰めだけどまだ結末が見えない。もうあとほんの少しなのに。

新連載:「パブロフの犬」(短期集中)(後藤羽矢子)
読切:「F/E/A/R〜恐怖という名のコミック〜」(後編)(永久保貴一)

近代麻雀オリジナル2001年12月号

 わあ「スはスーアンコのス」(赤羽文学)が終わってるよ。全部で88回、2回載った号もあったからほぼ丸7年。これでおれを近オリにつなぎとめるのは「シンケン君」(坂本タクマ)だけになってしまいました。まあ「スーパーヅガン!アダルト」(片山まさゆき)「ダイナマイト ダンディ」(押川雲太朗)も読めば読んだなりに楽しいんだけど。

新連載:「ビバ!ギャル雀」(藤波俊彦)
最終回:「スはスーアンコのス」(赤羽文学)
シリーズ読切:「わっぱ金五郎」(沖田龍児)

別冊ヤングジャンプ2001年12月10日号

 これまでのゆっくりした運びがうそのように、「サムライガン」(熊谷カズヒロ)が展開急。主要登場人物の退場が続いているし、これはもしかしたらこのままラストまで走るのか。
 あちこちで話題になっている読切「男爵の夢」(太田黒隆夫)は、一読した読後感がなぜか小野不由美の「東京異聞」を連想させた。登場人物ふたりの醒めたようなひねくれたようなセリフ回しのせいなのかな。期待していたほど好みではなかったけど、強いくせのあるおもしろいまんがなのは確かです。このくせをそのままにわかりやすく描くことを選ぶか、わかりにくいままに個性を磨き上げるか。ともかく次をまた読みたいです。
 「異邦人」(梅沢俊一)はラストをのぞいて救われないたいへんしんどいまんがだけど、登場人物の「あたし達はみーんなコピーロボットで/オリジナルなんてないんだもん」というセリフが強く印象に残る。こういうまんがが当然出てくるだろう今の日本だし、だからこのまんがのことは覚えておくことにします。好みとか好みでないとかそういうんじゃなくて。


2001/11/08(木)

 本屋に寄ったらステンシルが置いてあったので、「日暮れの国」が載っているのを確かめようと手に取る。おお載ってる載ってる、セリフが活字で打ってあるとまた印象が違うなでもやっぱりよいなとか思いながら読んでいて、最後の1ページが変更されていることに仰天する。うわなんで変えちゃったんだよせっかくのラストをそれともこれ編集部に言われて描き直したのかなんてことするんだというような言葉(実際はもう少し過激だった)が頭の中を駆けめぐる。
 編集部うんぬんはまったくの推量だしステンシル版のラストの方が一般受けしそうなのも確かだし商業誌に載せるためにはそういう選択もありでしょう。でもやっぱり、おれは同人誌版のラストのほうがずっとよいと思います。たそがれどきの世界の境目のあやふやさは、二度と起きないほうが強く印象に残ると思うのです。ていうか好きなんですこっちのが。もしかしたらそれだけなのかもしれないけど。

 なんてことするんだついでにもうひとつ。地底人の耳の穴(リンク集に追加しました)のはらわた雑記帳で知り、DRYBOXでも読んだのだけど、看護婦さんが看護師になるというのを知ってかなり頭にきています。よくこんな違和感のある言葉を発明するもんだと思います。看護って技術の提供なんでしょうか。
 そもそも看護婦を看護師と呼び替えてだれが喜ぶのか。当の看護婦さんたちが喜ぶなら外野があれこれいう筋合いはないけれど、でも賭けてもいいけど嫌がる人の方が圧倒的に多いはずです。なぜなら自分の仕事をいきなり存在しなかった日本語に変更されて喜ぶ人はいないから。職業名や公的施設名を婦人から女性に切り替えてるのも知ってるしそのわけもわかるけど、だからといって日本語をぶち壊されてたまりません。
 というわけでこの日記では、今後とも看護婦は看護婦と書きます。看護士も看護士と書きます。看護師は職業名で一般的な言葉ではない。そういうことにします。
 しかし今回に限ってなんでこんなにむきになってるんだろうおれは。

よろずお直し業/草上仁(徳間デュアル文庫)

 80年代後半にSF短編の名手として大活躍した作者の、これは連作短編集。1991年にPHPから出た本の復刊だそうです。一発読切でない作者の小説で読んだことのあったのは「東京開化えれきのからくり」だけで、それがいまいちだったので実はそれほど期待せずに読んだ本だったのだけど、これはよかったです。
 壊れたものの他人には見えない「ねじ」が見え、それを巻き戻すことでつかの間ものを直すことができる男が主人公で、自身も一度失った命を毎日巻き戻して生き延びています。死ぬ前の記憶は一切失われ、直すといってもいずれまた壊れることに変わりはなく、自分の生きる意味にもやっていることにも疑問を抱きながら生きる主人公。結果的には主人公の行為によって助けられる人々がいて、この慎ましやかでもあり、全面的に肯定されてるわけでもない善行の描き方がおもしろかったし、好もしく感じました。
 そんな感じの話だから物語のラストもはっきりしめくくりはしないのだろうなと思って読んでいて、ラスト直前で突然雷に打たれたように結末を悟る。このラストの鮮やかさには正直舌を巻きました。最初から決めていたのではなく、書き進むうちに見えたラストだとあとがきにも書いてあったけど、たしかにそんな感じです。作ったラストではなくそうなったラスト。
 人物名がわりと似ていて覚えにくいのがやや難点だけど、短編で鍛えた文章はたいへん読みやすく、あっというまに読めました。まあおれがこの作者の文章に慣れていた、というのもあるかもしれません。

少年チャンピオン2001年50号

 予告見てなにやら萌え系かいなと思っていた新連載「七人のナナ」(国広あづさ+今川泰宏)は、冒頭で主人公少女が7人に分裂するとんでもないまんがでした。多重人格とかじゃなく物理的に7人。12人の妹とか7人の主人公とか多けりゃなんでもいいのかよと悪態をつきつつ、でもなんだかおもしろそうなのでしばらく読むことにします。しかしこれ、どうやって7人見分ければいいんだろう。
 いっぽう萌えまんがの先輩格(なのか?ほんとうにそうなのか?)「しゅーまっは」(伯林)は巫女さんを投入。でもヌンチャク持つと目つきの変わる狂暴な巫女さんです。単に変なのがまたひとり増えただけじゃん。

グリーングリーン(グルーバー・18禁AVG)

 以前やったカナリアと同一チームが作ったゲーム。このゲームの会話のテンポは好きだったし、絵も割と好みだしと買ったのだけど。力作は確かに力作で、でもそれゆえかえって前作の持ち味だった軽妙さが消えてしまったような気もします。おれがやりたいのは口が動くアニメみたいなゲームじゃなくて、ゲームみたいなゲームなんだようとやりながら何度も思いました。単にマシンスペックが足りてない可能性はありますが(PII366以上推奨、うちのはK6-2-450)。
 あとはほとんどなにを書いてもぼやきか愚痴になるのですが、一つだけ。前作と同じく、このゲームの死の扱い方にはたいへん違和感があります。死を物語にするのはかまわんし必要だろう、でも物語のために死なすのはおれは好かん。両者の区別が明確につくわけではもちろんありません。でもこれはなあ。


2001/11/06(火)

 偶然見た夕焼けがおそろしくきれいだった。厚い雲の向こうに黄金色に光るそれは、神々しいとためらいなくいいきれるくらいの風景で、あんな夕焼けは見たことないしもしかしたら二度と見ることはないかもしれない。そう思いながらしばらく眺めていました。

空間アーカイブス/流線型工房(高見知行)

 以前べつの本に収録されていた「銀河鉄道に乗れなかった夜」を目当てに買った本。ところがこれがぜんぜん別の意味でたいへんおもしろい本でした。
 タイトルの由来はたぶん「NHKアーカイブス」に由来するのかなと思うけど、本のなかでたばこ屋、銭湯の番台、駅の売店と3つの「空間」のなかが紹介されています。これが意外なことだらけで、売店はともかく、たばこ屋や番台があんなんなってるなんて想像もしなかった。番台は踏み台で外から入るんだと思っていたのに。中で宿題やテレビゲームやってるなんて。
 お目当ての「銀河鉄道に乗れなかった夜」は宮沢賢治の童話をもとに作られた、入院中の子供と老人のつかのまの交流を描いたまんがで、さらりとした筆致の好もしさは初読時と同じ印象でした。

メル -flowers for you-/星と羽根(草野ちはる)

 死んだ兄に成り代わろうとする少年が主人公。くせのない絵で描かれたやさしいおはなしです。ややわかりにくいところはたくさん描くにつれて解消されていくのでしょう。なにしろこれが初めて描いたまんがだということだし。

自動家電お届けします/踊る道徳(柳沢はじめ)

 ロボット化した家電が大量に普及し、そして急速にすたれたあとの架空の未来が舞台。古い蔵に入り込んだ少年が人間に怨念を抱く家電ロボットと出会うおはなしで、といっても深刻なものではなく軽いタッチでコミカルに描いています。たしかにじゃまかもしれんなあ、狭い家の中ロボットだらけだと。そのへんが妙にリアルです。

このへん/いのべぇ(せんべぇ+inoko+¥+こう1)

 せんべぇ(作者名)+inoko(作者名)=いのべぇ(サークル名)なんだな。個人的にどれがどれだかなかなか覚えられません。なんだかちょっともったいないかなと余計な心配をしてみたり。
 巻頭イラストのせんべぇの絵と、「腐らないリンゴ」を描いてるinokoの絵はどちらもkrbk氏の絵に通じるものがあります。つまりおれ好み。前者がややラフにした感じ、後者が少年まんがによせた感じかな。もう少し長いまんがで読んでみたいなあ、もちろんこれはこれでいいのだけれど。
 「月へ行く話」(¥)は夢想家の男と惚れた弱みな女の喜劇まんが。「キドウマメ」(こう1)はおそらく遠い未来、天空と地上にわかれた人間が、それぞれ遠く上下に思いを馳せるおはなしで、きれいにまとまった短編ファンタジーです。パソコンでのトーン処理と手描きの背景線が混在していて、このひとの絵もなかなか風情があっていいな。

河底の砂/Cight(仁万+ミズタナシコ)

 以前は「水上左人+ミズタナシコ」というクレジットだったけど、どうやらPN変更のようです。
 まんがが4編短編小説がひとつ収録されてるなかで、特に「日暮れの国」(ミズタナシコ)がよかった。家に帰る途中の少女があの世との境に迷いこむおはなしで、夕焼けと(今日見たから言ってるのではないです念のため)やがて地に満ちる光の美しさをすくいあげた、とてもきれいなまんがです。ほんの一瞬で現に帰り、あとはもう確かめるすべもない。これはいいなあ。
 ほかの話も静かな雰囲気で統一されていていい感じ。あと、45ページイラストの少女の満面の笑顔がなんだか強烈な印象となって残っています。こういう笑顔にはもともと弱かったのでした。

 …とここまで描いて作者のWebサイトをのぞいてみたら、「日暮れの国」はステンシル12月号に載ってるそうです。これはびっくり。まだ本屋に残ってるかな。


2001/11/05(月)

 UFOはアルバムタイトルでグループ名じゃねえだろというつっこみをたちまち2名から受けてしまいました。あいすみません。GURUGURUがグループ名だそうです。

 ところできょう同人誌の感想を描いていて「絵がいい」という文句を連発していることに気がつきました。お前は絵だけで同人誌を選んでるのかと問われたら、絵だけで選んでるのではないのだけど、と答えます。だけではないのだけど、なぜか絵が好きなのは内容も好きなことが多いのです。不思議なことに。

ヤングマガジン2001年49号

 ちば賞大賞作「雪晴れの日に」(日高トミ子)は、行き倒れて死んだホームレスが幼いころ別れた実の父親だったというところから始まるまんが。設定に死をからめたまんがに対しては個人的にはやや点が辛くなるのだけど、ホームレスとその死がいまではなにも特別なことではなくなっているのも確かなことで、そして奥深くしまいこんだ記憶が甦るには時間が必要であることをしっかりとらえたこのまんがは、すばらしく上手いまんがであるのは間違いありません。次回作をまた期待して待ちます。
 月1登場の「バカ姉弟」(安達哲)は単行本化いまだし。さすがに今回はこりゃフィクションだろうという「ガタピシ車でいこう!!」(山本マサユキ)は頭文字Dの後です。

コミックフラッパー2001年12月号

 8月号以来の2回目の登場「ものものがたり」(深木紹子)はあっけなく魔剣に体を乗っ取られる主人公の情けなさに意表をつかれました。こういう風情の登場人物ってにっこりわらって余裕しゃくしゃくというのが多いのに。その分活躍したのは脇役のはずの少女のほう。おもしろいな。
 こちらは初登場「高屋と坂本とステキな妖精」(油布明子)は、山浦章と米倉けんごを足して2で割ったような絵の(うそじゃないですほんとにそんななんだって)イヤ妖精まんが。内容的には六道神士エッセンスも若干だけどさすがにあそこまで身もふたもなくはない。いやこのパワーは(それの向いてる変な方向も含めて)希有のものだと思うのでこのまんまのスタイルでたくさん描いたの見たい。変にオーソドックスになったりせずに。
 タイトルに偽りあり、極端なおっぱい星人まんがになってしまってる「Fairy Tales」(OKAMA)はいったいどうしたんでしょう。そしてもうひとつあっというまにラストへと走り去った「串やきP」(SABE)のこれはいったい何事。打ち切りなのか放り出したのかそれともこれで予定通りなのか。

最終回:「串やきP」(SABE)
読切:「ゲット・ツー」(福島鉄平)、「ものものがたり」(深木紹子)、「高屋と坂本とステキな妖精」(油布明子)

MAGURO FACTORY 8/昼寝堂(夙川夏樹)

 短編集。このひと独特の、描いてみただけという風情のまんが(けなしてるのでは決してない)がいくつか載っています。トラ一頭でホットケーキ約三十枚分。
 ひとだまを飼うことが流行しすぐに飽きられやがていなくなるというたった3ページの「ひとだま」のなんにもなさがいちばんこのひとらしいかなあ。いやどれもらしいのはそりゃ同じ人が描いてるんだからあたりまえだけど。

山師と羊/渦巻蝶蝶(伊東朔巳)

 ファンタジーまんがの導入部、といったおもむきの内容。タイトルの山師は身一つで世間を渡る主人公、羊はその主人公が不幸にも拾ってしまった美形で無能力な異国の男。これはあと100ページくらい続いたほうがいいまんがだとか描いたら作者に殴られるかもしれないけど、さわりだけなのでなんとも言えないという感じかなあ(長髪できれいな登場人物が男だとなんだか損した気分になると正直に言えよおれ)。このつぎは別のおはなしで、これの続きはしばらくあとになるそうです。

Blue/KIDS MONSTER(塒丸餅)

 再録本なのだな。大きな目も印象的なこの人の絵は、絵自体が大きければ大きいほど映える絵で、その意味で4コマよりページまんがのほうが合ってるかな。酔っぱらう女性とか舌打ちする少年とか、そういう生の感情の出た絵がとても上手いなあ。よいです。

ねむの鈴/天羅万象(中田歩美)

 少年二人少女一人がメインの登場人物で、へんな生き物が出てくるからファンタジーでいいのかな。描かれる街並みは石造りのヨーロッパ風です。
 絵の感じが入江アリ@アラビヤ魔人/にらによく似ていて、コミティア会場で見たときは一瞬別ペンネームなのかと思ったほど。入江アリよりほんの少しあたたかいほうに寄ってる感じだけど、生き生きとした人物の表情やトーンを使わず細かい線で描きこまれた背景も含めて、伸びやかですてきな絵です。これ前編で後編はこれかららしいので、そちらもすごく楽しみ。

NiNi 唄う森/非常階段(トガユウジ)

回帰線影/非常階段(トガユウジ)

よわむしな吸血鬼/非常階段(トガユウジ)

 「NiNi 唄う森」はNiNi 空往く魚の続編で、同じようにサイレントなまんが。元気な少年が主人公のファンタジーで、わかりにくいっちゃあわかりにくいんだけど、それが気にならない身にとっては黒白のコントラストも鮮やかな絵がとても魅力的です。
 「回帰線影」は設定集のようなイラスト集のような本。これは本編を見ていないのでなんとも言えないかな。
 「よわむしな吸血鬼」はミニ絵本。お前の望むものが手に入ると渡された薬を飲んだ「すごく怖がりの」吸血鬼が、最後に「何も失わずに何かを手に入れることなんてできないからね。」というその老婆の忠告に気づくおはなしで、語りすぎることのない悲しいラストがとてもよいです。この本と2年前に出た上記設定集を見比べると、このひとの絵が2年間で大きく魅力を増したのがよくわかる。これからも楽しみです。

マサとお嬢さん/三枚刃(金田サカエ)

 気が強く惚れっぽくすぐだまされる良家の娘と、忠実で娘を守ることに過剰な使用人の男。泣きながら娘が男を鞭打つシーンに象徴される、男が奥深く密かに抱く感情がこの話のテーマなんだろうと思います。

HOW TO MAKE A PICTURE BOOK/Riffle Time(繁泉光太郎)

 絵本作家が主人公だからある意味タイトル通りの内容だけど、一方では「絵も心も純粋だった少女」が「斬新で前衛的な」売れない絵本作家になったところから始まる物語でもあります。きれいなラストがとてもいいこのまんがは、ブラックだった一作目と違い大人として生きる現実を肯定してみせるおはなしです。とんがった絵も上手い。

月光荘(1)/ぴこぴこ。(ピコピコ リョウ)

七夕展/ぴこぴこ。(ピコピコ リョウ)

るな と まゆこ/ぴこぴこ。(ピコピコ リョウ)

 「月光荘(1)」はふたりぐらしの少女のおはなし。ひとりは「暮らしていくためのほとんどのこと」を。盲目のもうひとりは絵を。そんなふたりのおはなし。
 「七夕展」は画集です。Web上で行われた展覧会の目録として発行されたもの。
 「るな と まゆこ」は喫茶店で働く女性と歳の離れた女の子の一夏だけの交流の物語。
 率直に言って、このひとの絵の魅力を言葉で説明する能力が、おれには全くありません。泣きたくなるほど好きなのだけど。作者のWebでぜひ実際に見てみてください。上記七夕展もそのまま見ることができます。

だしおんどイチ/だしおっと(だしお)

だしおんどニイ/だしおっと(だしお)

だしおんどサン/だしおっと(だしお)

 それぞれ6ページくらいの短編を中心とした本。いちごを取り合い光線を乱射して戦う姉妹とか、冒険者を気どる変な少女とか、他愛もないおはなしなんだけど、絵が元気いっぱいで眺めていて楽しいです。こういう勢いのあるまんが好きだな。


2001/11/04(日)

 ヒゲおやじ対ハゲおやじ(しかしなんつうことを言うかねこいつは)のNHK杯戦の棋譜が見たくて、ほんとうに久しぶりに週刊碁を買う。なるほど期待にたがわぬおもしろい碁でした。白54−白56のハザマボウシ連発なんか眺めるだけでうれしくなってしまう。この碁を白半目負けで落すのがまたらしいというかなんというか。
 ちなみに上記リンク元のサイトは大学時代の知り合いがやってるのですが、奇態な音楽が好きな人は一度のぞいてみてもいいかもしれません。個人的には、あそこに載ってるプレイヤー名で名前がわかるのはmagmaとUFOだけです。

ソウルの風景/四方田犬彦(岩波新書)

 ある活字中毒者の告白取り上げられていた本。旧い知り合いのやってるこの読書サイトは質量ともかなり乱読気味で、先日紹介されてる本のうちどうしても読んでみたいのをピックアップしたら40冊以上になってしまい頭を抱える羽目に。読書傾向がぜんぜん違うのが事態悪化に拍車をかけている気もします。
 それはそれとしてこの本は、かつて1979年に1年間滞在した韓国に21年後ふたたび長期滞在することになった作者が、20年間で大きく変貌した韓国のなにが変わり、なにが変わらずにいるかを、いくつかのテーマやエピソードを織り成して一冊にまとめたものです。ご多分にもれずわたし個人もこの隣国に対する知識にかなり乏しいのですが、それにしても書いてあることがいちいち知らないことばかりでたいへん新鮮でした。たとえば、ベトナム戦争における韓国軍の出兵と韓国の経済成長の関連、その経済成長の立役者である、暗殺された朴正熙に対する現時点での評価。不勉強な自分は、そもそもベトナム戦争に韓国軍が参加していたことすら知らなかったです。
 文章のについてはおれがあれこれいうまでもないでしょう。きわめて抑制され静謐な、しかも抑制するに十分な熱をひそかに内包する文章。文章を支える知性の明晰さ。自分にとってひとつの理想といっても言い過ぎではないくらいです。
 とにかく韓国に少しでも興味がある人ならば、まず手にとって読んでみて損のない本。とかくバイアスのかかった言説で語られることが多い国だけに、たいへん貴重な資料だと思います。

快楽天2001年12月号

 「おませなプティ▽アンジュ」(月野定規)にツボを直撃される。人里離れた山小屋での夜、和式便所に入った一人の天使を、便器の中から急襲するモンスター。それはかつて老人のもとを去り、そのまま行方不明になっていたちんぽだった…ってなにをあらすじ紹介してるんだおれは。性行為により人から人へ移り住むそれを本来の持ち主に返すため、最終的にヒロインがじーさんといたすことになるのだが、性別が本来とまるっきり逆。いそいそと尻を持ち上げるじーさん。エロまんがのエロシーンでこれだけばかくさいのもめったにないような気がします。素晴らしい。
 今回バカまんが比率がやたら高い気がするのは、これと「アルキ巫女」(小梅けいと)のせいでしょう。中世ヨーロッパ風の舞台になんで巫女がおるねんという気もするけど、つっこむべきはそこだけではないような気がします。しょうもないオチもよいよい。「MAMA」(松本耳子)はあいかわらず身もふたもないおはなし。すっかり絵は垢抜けたなあ。

新連載:「ZODIAC☆LOVERS」(シリーズ連載)(B.たろう)
隔月連載:「POSSESSION」(天竺浪人)
最終回:「天界公路」(琴吹かづき)
読切:「MAMA」(松本耳子)、「アルキ巫女」(小梅けいと)


2001/11/02(金)

漫画サンデー2001年44号

 今回の「(被)警察24時」(小田扉)はおもしろかった。ほうきを折って逮捕された(?)初老の男と老刑事との間でえんえんとつづく要領を得ない会話。幾重にもカムフラージュされた微妙な感情。それはそれとしてばかばかしい内容。オチはぜんぜんないけどおれこういうののほうが好きだけど漫画サンデー的にはどうなのかとおもうけどでもおれはおれがおもしろいほうがいいし。来週は2色だそうな。

レインボゥ・レイヤー 虹色の遷光/伏見健二(ハルキ文庫)

 確かJornada日記の感想につられて買った本だったと思う。だとしたら4ヶ月ほど寝かせておいたことになるのか。まあよくあることではあります。
 30世紀の未来、遠く宇宙に進出した人類。その進出はかつて否定され忘れ去れたのちに、物理法則では説明できない現象の発見により、そして不可思議な能力を持つ人間の登場により復権を果たした魔術(のようなもの)に支えられていた。遠くアルデバランの第4惑星で、だが突然2億人の住むコロニーが内部から崩壊する。急行する宇宙船、乗り合わせるエスパーやサイボーグやアンドロイドやロボトミー兵士、1000年間で本質に達するほどに変貌した人間たち。その前に突如姿を現すイカの化け物。見たものを一瞬で死に致らしめるそれは、太古から生きつづける邪神のひとつだった…
 えーと要約が拙いんであまり小説の雰囲気を伝えられてないのですが。基本的には血湧き肉踊る未来スペオペで、日本人的な感情の動きがほとんど存在しないためもあってか、日本SFよりむしろ海外SFに近そうなタイプ。どうもクトゥルーの要素がかなり入ってるらしいけど、そっちに疎いおれにはよくわからない。クトゥルーに造詣深そうな人にとってはいまいち納得のいかない内容らしいけど、これもよくわからない。個人的には十分おもしろかった。
 ただ物語的にはぜんぜん完結してません。読みながらこんなでっかいお話を文庫本一冊でどうやってまとめるんだろうと思ったら案の定というか、これで続きがなかったらうそでしょうという感じ。まあでもそっちはいろいろ大人の事情があるから難しいところです。
 参考までに(というか自分の感想がいまいちあてにならない気がするので)Web上でみかけた書評感想にリンクをはっておきます。Jornada日記泡沫の日々妹尾ゆふ子氏の評武田の鳥小屋第弐齋藤喜多哲士のぼやいたるねんたまにっき2k。順不同。作品単位の書評・感想リンク集というのもおもしろそうだなあ。1日48時間ぐらいあれば作ってみようかなとおもうのですが。


2001/11/01(木)

 旧い知り合いにいいように使われて、セ・リーグで規定打席8人到達のチームと、パ・リーグで9人到達のチームを調べる羽目に。せっかくなので(というか悔しいので)ここにもアップすることにします。
なお、記録は1957年以降、規定打席がチーム試合数×3.1で落ち着いて以降のものです。

○セ・リーグで規定打席8人

1978年・大洋
長崎−ミヤーン−高木−松原−山下−田代−中塚−福嶋
1987年・広島
山崎−正田−高橋−小早川−衣笠−長嶋−ランス−達川
1996年・広島
緒方−正田−野村−江藤−前田−ロペス−金本−西山

以上3チーム。1978年大洋は個人的には大好きなチームです。よくまあこんだけくせのある選手がそろったと思います。

○パ・リーグで規定打席8人

1991年・オリックス
福良−小川−松永−石嶺−ブーマー−藤井−中嶋−高橋−本西

このメンバーも渋い。高橋というのはまだ若かった高橋智。藤井はまだ若かった藤井じいさん。本西はまだ(以下略)

ヤングキングアワーズ2001年12月号

 新連載の4コマ「ウチら陽気なシンデレラ」(真田ぽーりん)が妙におもしろい。お掃除仕事な4コマまんがというものめずらしさとかわいい絵柄としばしばお下劣な内容。男子便所の小便器にはなぜすぐに毛がくっつくのかはおれにもわからん。だれか教えてください。
 「エクセル・サーガ」(六道神士)は妙な展開に。ハっちゃんは培養液行き、エルガーラは敵陣内をうろうろ。まさかおまえスパイか。「朝霧の巫女」(宇河弘樹)では巫女がカチューシャ付けてウエイトレスやってます。このまんがもいったいどうしたんだろう。

新連載:「うちら陽気なシンデレラ」(真田ぽーりん)
最終回:「LOAN WOLF」(山田秋太郎)
読切:「みのりの日々」(井上博和)

ヤングジャンプ2001年48号

 巻頭カラーで始まった月イチ連載「ちさポン」(中野純子)はなんつーか、一線近くをうろうろする高校生カップルまんが。これを熱心に読みふける自分に気づきいいしれぬ敗北感にうちひしがれる。おまえは中坊か。しかしこのひとのまんがはなんでか読んでしまうんだよなあ。
 「キャラメラ」(武富智)は想定外の展開に入っていきます。想定外つったってこっちが勝手に想定してただけなのだが。さてこれからどうなるんでしょう。

少年チャンピオン2001年49号

 「しゅーまっは」(伯林)は緊縛SMもの。うそか。緊縛は緊縛だけどSMではなくただ単に孫をいじめて喜ぶこまったじいさんのおはなしでした。しかしまはに猫耳まで生やすか。
 それはそうと柱のおたより募集欄をみてふと「こんな一話完結のまんがを週刊でやるなんて正気の沙汰じゃないな」としみじみ思ってしまいました。がんばってください。
 「ゲッチューまごころ便」(緋采俊樹)はきれいにまとめて最終回。お疲れさまでした。

最終回:「ゲッチューまごころ便」(緋采俊樹)
読切:「夢空館へようこそ」(後編)(七神銀次)

タブロウ・ゲート(2)/鈴木理華(角川書店・あすかコミックスDX)

 タロットカードをもとねたにしたまんがの2巻め。絵がややまんがとしてこなれてきて、その分迫力は1巻のほうが少しだけ上だったかなと思うけど、大筋においては変わりありません。迫力と華やかさを兼ね備えた絵です。
 タロットの数だけ枚数のある「タブレット」、本来そこに住まう人外のものたちの多くが行方不明で、彼らを探し説き伏せタブレットに戻す、管理者の勝気な少女と相方のやさしい少年。タブレットの住人すべてが戻るのが物語のゴールなら、まだまだ先は長いはず。掲載誌「少女帝国」は休刊してしまったのですが、どうやら角川系の別の雑誌に移る予定もあるようです。楽しみ。

黒男/あとり硅子(新書館・ディアプラスコミックス)

 ストーリーものとしてはひさしぶりの新刊。ウィングスでもサウスでもとんと見かけなくてもう描いてないのかなあと心配してたけど、ボーイズラブ誌(DEAR+)は完全にノーマークでした。なんにせよ一安心です。
 掲載誌に合わせた格好で登場人物はほとんど男性、でもおはなしの大半は性的なものではなく、ほぼ友達ものと言い切っていい内容です。そこにボーイズラブの気配が見えるとしたら半分は偏見。のこり半分はそもそも友情と恋愛感情の境界なんてまっぷたつにわかれてるわけじゃないからだと思います。なにやら物騒なことを書いてるように見えるけどたぶん気のせい。
 8年前に勝手に海に捨てた旧友の腕時計を探し続ける少年。エロ本をどっさりためこんだ隣の空き家に不意にやってきて泊まり込む男(「俺の菅野美穂!!」には大笑いしました)。ずっと病床のままの親友の身代わりを死神らしき男に頼み込むタイトル作。だいじょうぶこのひとのまんがは今でもこのひとのまんがのままです。「ぬるいものばかりですみません」という作者あとがきを見て「いいんだぬるいのばかりであなたのまんががおれは大好きだから」などと、こうやって書くと泣きたくなるほど恥ずかしいことをほんとに思ってしまう、そのあたりも変わりはありません。願わくは作者がこれからもずっとまんがを描き、それが単行本にまとまりますように。寡作でもいいから。


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