撃墜王に関わる
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一度きりのウソ


 今まで冗談は言ったことがあるけれど、嘘は言ったことがなかったような気がする。
 だけど、俺は嘘をつく。
 君に、そして彼に。
 たった、一度きりの嘘を。

「最近、なんかおかしくないか?」
 始めに気づいたのは君だった。
「疲れてるからだと思う」
 それは本当のことだった。疲れている、だけど何故かは言えない。
「若い奴には付いていけないだろう? 俺のこと来いって」
 笑う君に俺も笑って答える。初めてなのに、最高の出来だ。
「無理だよ。お前の下じゃやっていけない」
 本当は、お前の下で飛びたかった。
 言えない思いには蓋をして。
 俺は、君に、嘘をつく。

「最近、なんか行動がおかしいと思うんだけど」
 最後に気づいたのは彼だった。
「そうですか? 出撃が続いているからでは?」
 それは本当のことだった。出撃が、本当は何の為だったのか彼には言えない。
「やっぱり副長に頼りすぎてるのかな、俺。隊員の奴らにも言われてるし」
 心配そうな彼に微笑んで答える。これが最後と思えば、自然に笑みは浮かぶ。
「そう思うのなら、もう少し自重してください。この先もまだまだあるんですから」
 本当は、もう時間がない。
 それを言うことはもうできなくて。
 俺は、彼に、嘘をつく。

 一度きりのウソを、俺はつく。