撃墜王に関わる
        6つの場面


ダレモシラナイ


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ダレモシラナイ


 見上げると、青い空が広がっている。
 先ほどまで飛んでいた空だ。
 飛行服をゆるめながらじっと見つめていると、歳老いた整備士の1人が声をかけてきた。
「どうだった?」
「悪くないと思う。ありがとう」
「それにしてもさすがだな、若きエースは」
 整備士の視線の先には、若い整備士たちの集団がある。その真ん中には彼の上司が立っていて、笑っているのが遠目にもわかった。
「天才ですからね。飛行するたび、見せつけられる」
 苦笑すると、老整備士は複雑な顔になった。
「あんたもすごいと思うがね。23期といえば、それだけで天才だろう」
「ただの、生き汚い男ですよ」
 それで会話を終わらせるように、再び男は空を見た。ため息をついた整備士がそこから去っていく。

 彼のまわりには、天才が集まる。
 そのことが彼を苛んでいることは、まだ誰も知らない。
 そう、彼でさえもまだ知らないのだ。