2019/09/22 日本語の複合動詞と英語 / run up to
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“走り寄る” のように、2つの動詞 “走る” と “寄る” が連結した語句を複合動詞と言う。
複合動詞の由来は古く、日本で最も古い文献のひとつ「日本書紀」にも 〝阿弥播利和柁嗣=網張り渡し” や 〝豫嗣豫利拠禰=寄し寄り来ね” などの表現が見つかる(巻二神代下 歌謡番号 3)。
こうした複合動詞は、日本語を学ぶ外国人には手ごわいテーマだそうだ。
英語を学ぶ日本人から見ても複合動詞を英語に直すのは手ごわいことに変わりはないようだ。
だいたい “走り寄る” は和英辞書にはなかったりするし、中高のニューワードでも出てきた記憶がない。
そこで、母語話者が自然に身に着けた複合動詞や句動詞を 外国語と母語を対照しながら学ぶ方法について提案する。
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もくじ |
- 複合動詞を活用した英語学習 / run up
- “走り寄る” を対訳コーパス・CORPORA で引く
- “走り寄る” の英語表現候補は “run up”
- “run up” の実例で 確信を得る
- まとめ
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複合動詞を研究する英語教師の論文に、こんな提案を見つけた。
━━━━━━━ 引用開始
- 日本語には動詞と動詞の複合した複合動詞が存在するが,この中には手段・原因・様態などを表すものもある。こうした日本語の表現をそれに対応する英語表現と照らし合わせた指導を施すことで,学習者が結果構文のみならず,英語の様々な表現に習熟していくことは十分に期待できよう。
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- 平野 洋平(2016)「日本語を母語とする英語学習者による英語結果構文の容認性判断に影響を及ぼす言語的要因」広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部 第65号 2016 159-168
━━━━━━━ 引用終了 強調は田淵
たとえば “飛び上がる” は 飛ぶ=jump 上=up で “jump up” になるみたいな雰囲気だ。
同じようなことを田淵も考えていたので、さっそくやってみた。
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まずは 複合動詞 “走り寄る” の英語表現を調べる。
手順を示す。
- 日英対訳コーパス・コーポラ(CORPORA) を開く
- バージョン 1.90.922 (ページ右上)以上を確認
- バージョンが古いときは サイトを読み込みなおす
- 読み込みなおすには ブラウザのアドレス欄をタップ
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- コーパスは “講演 TED Talks” を選ぶ
- 入力欄に “走り寄” を入力し 検索ボタンをタップ
- 4件ヒット
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- このとき “走り寄る” と入力しないのがコツ
- “走り寄” とすることで “走り寄り”とか “走り寄って” がヒットするからだ
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- “options + ” から “/ フィルタ 対訳” を選ぶ
- “対訳範囲” で “文全体” を選ぶ
- これは コーパス TED Talks を使うときの テクニックである
- その理由は TED Talks 字幕特性にある
- TED Talks の字幕特性とは、TED の場合、対訳単位が 文であることが多いことだ
- 一つの文が2つや3つの字幕から構成されるとき、翻訳の都合で 字幕ごとに訳文が対応しなくなる場合がある
- 英語と日本語で語順が逆転することが多いからだ
- ちなみに コーパス・Seleaf は字幕単位での正確な対訳になっているので、このような操作は不要である。
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- “対訳 フィルタ” 小窓の下半にある語彙リストで、“RUN” と “UP” をタップ
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- “RUN” と “UP” がハイライトされる
- "対訳 フィルタ" 小窓が邪魔なときは 右上の(×)をタップして閉じる
- ここまでで基本操作が終わる
- 後は 英文と和文を見比べながら、“走り寄る” の英語表現を見つける
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字幕の順番は その時々で変化する
- “run up to him”
- “run up behind him”
- “run to Elsa”
- “came … straight to us” などが見つかった
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コーパスでは用例が4つしかなかったが、“走り寄る” の英語表現としては “run up” が有力そうなことがわかった。
そこで今度は 念のために 本当に “run up” が “走り寄る” の英語表現としてふさわしいのかについて確かめよう。
この確認作業にも 対訳コーパス・CORPORAが使える。
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対訳コーパス・CORPORA で “run up” の用例を調べることで、“走り寄る” の英語表現として “run up” が適しているのかを、以下の手順で確かめる。
- コーパスは “講演 TED Talks” のままで、“run up” を検索する
- “options + ” から “/ フィルタ 対訳” を開き、表現 "run up" に関りがありそうな語彙をタップ
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- ここでは "駆" "寄" "走" "登" の4つを選んだ
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- "対訳 フィルタ" 小窓が邪魔なときは 右上の(×)をタップして閉じる
- ここまでで基本操作が終わる
- 後は 英文と和文を見比べながら、“run up” の英語表現とその和訳表現を見比べる
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気づいたこと
- "駆ける" が20件あり、“走る” の7件の3倍もあった
- これは “run up” の語感が “run” の “走る” より “駆ける” に近いことをうかがわせている
- “run up” が “走り寄る” より “駆け寄る” と照合するのは “up” の効果であろう
- また “登る” が “走る” とほぼ同数の6件であることも “up” の効果であろう
- “up” には「上へ」と言う空間的上方向ともに「近づく」と言う空間的距離感覚も持っている
以上のことから、“走り寄る” や “駆け寄る” の英語表現として “run up” を使うことは適切であると考えてよいであろう。
さて こうしたことは、以下の方法でも 確かめられた。
“run to” をコーパスで引き、その訳語を “run up to” と 比べてた。
- コーパスは “講演 TED Talks” のままで、“run to” を検索する
- “options + ” から “/ フィルタ 対訳” を開き、表現 "run to" に関りがありそうな語彙をタップ
- ここでは "駆" と "走" の2つを選んだ
拡大
- "対訳 フィルタ" 小窓が邪魔なときは 右上の(×)をタップして閉じる
- ここまでで基本操作が終わる
- 後は 英文と和文を見比べながら、“run to” の英語表現とその和訳表現を見比べる
“run up (to)” と “run to” の訳語における特徴語の比較 |
“run up (to)” に観る訳語の特徴語
“run to” に観る訳語の特徴語
| run up (to) | | run to |
| | | |
駆ける | 20 | >> | 3 |
| ∨ | | ∧ |
走る | 7 | | 9 |
気づいたこと
- "駆ける" は3件あり、“走る” の9件の半分にも満たなかった
- これは “run up (to)” での訳語のふるまい("駆ける 20件" は 〝走る 7件” の3倍)と対照的である。
- “寄る” と “登る” はまったくなかった
- 〝run to” には、〝run up (to)” にあった “寄る” がなかったことから、“run up to” には、何か(誰か)に向かって急接近する語感が "run to" よりかなり強いと考えてよいだろう
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- 日本語でよく使われる “複合動詞” を、その英語表現と照らし合わせて知ることは、英語学習にとって効果がありそうなことが見えてきた。
- 今回の事例 “走り寄る run up” のような優良な事例を できるだけたくさん見つけることが大切である。
- しかし 他方では、日本語の “複合動詞” に、その英語表現が単純に照応しているわけではないことも知られている。
- そうした 照応関係/非照応関係のバランスをきちんと知っておくことも大切であろう。
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シリーズ 日英対訳コーパス・CORPORA / as ~ as 考
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2019.09.22 田淵龍二 TABUCHI, Ryuji
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