旅日記 CAMBODIA〜2day〜 
〜Angkor Wat ・ Angkor Thom〜

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 前日の夕方にプノンペンからシェムリアップへ飛んだ我らは、翌日早速、待ちに待ったアンコール遺跡の観光へ。
 まず最初は、やはりお約束の
「朝日が昇るアンコールワット」へ。
 まだ暗いうちに起き出して、眠い目を擦りながら車(ぼろぼろのバンだ)に乗り込む。なにぶん、前日も着いたのは日が暮れてから、だったし、其の日もまだ周囲は真っ暗だし……いったいどういう場所を移動しているのか皆目見当がつかない。窓から覗いても何も見えない、まるで目隠し状態でボコボコに揺れる道を行くこと暫く……。「着きましたよ〜」と車からおろされるが、これまたなんにも見えない!水のたまった石畳(?)を促されるままに歩いた。前方に巨大な石の建物…らしきもの。そこで立ち止まって日の出を待つ。他にも観光客がわさわさカメラを持っていたので、ここがベストポジションなんだろう。うっすらと周囲が白らんできて、ようやく自分の周囲と、前方に見える建物が、写真などでよく見る有名な三つの塔の構図だ、ということに気づいた。


 最初は輪郭

 重い濃紺の空に、黒っぽい巨大な影が浮かび上がる
 必死に何か見えぬかと目を凝らす


 
それから――ゆるゆると空が色を変えていくのを息を詰めて見守る


 白っぽく曇り空のようにはっきりしない空
 明るくはあるけれど、うす曇のような色
 天気が悪いのかなあ、いまいち……と思っているうちに


 紫とも茜ともつかぬ光が雲を染めかえていった

 
垂れ込めた紺の雲のひだ
 
その隙間にたなびく紫
 
それらを背景に、やがて姿を現した大遺跡の輪郭――


 
シヤッターをきる手が一瞬、止まる


 より明るく薄い紫に晴れていく空を、ただぽかんと眺めているうちに―――


 
塔の向こうからが差した
 
まるで、後光のように
 
紫の雲も、淡いピンクの空も、すべて吹き飛ばして
 


 
世界は黄金に染まった



 
眩しい
 目がくらむようだ


 
参道脇の野原草が、風にさわさわと揺れ
 鮮やかな緑と金の色を交互に撒き散らす

 
もはや金に埋没して、再び輪郭しか見えなくなった寺院は
 
間違いなく「神」の光に包まれている

 
遠い昔
 恐らくはこの光に額づいたであろう人々を想う

 
魅入られたまま、一歩踏み出してみる
 参道の石畳を少し歩くと

 
黄金が身体を静かに侵食した――
拡大



Angkor Thom


一旦、ホテルに戻って朝食をとる。それから再び観光へ。

アコールトムとはジャヤヴァルマン7世によって建設された都城の名前だ。「大きな町」という意味だそう。高さ8m、周囲12kの城壁に囲まれている。
十字に走る主要道路の中心に位置するのがバイヨン寺院だ。アンコールトム、と聞いて誰もが真っ先に思い浮かべる、巨大な顔の四面仏があるのが、ここ。初めてまみえるクメール仏に、ドキドキしながら、車が駐車スペースに停まるのももどかしく降りる。


バイヨン


メール山(=須弥山)を象徴しているバイヨン。大乗仏教の寺院だ。至る所に配置された観世音菩薩の四面仏で有名。
アンコールワットとは異なった世界観に基づいて造営されたこの寺院。ワットとの違いを感じながら歩くと面白い。
伽藍は対称型で、東が正面。参道の南北に配置された聖池を眺めながら二重回廊で囲まれた伽藍に入る。内部構造は複雑で、参拝順路らしきものはない。
迷路のように張り巡らされている回廊らしき石畳の道、階段。よく似た十六基もある尖塔を巡礼するかのようにぐるぐると巡っていると、「あれ?何処何処見たっけ??」と混乱してしまう。
かがみ込んで見ないと気づかない、光の差さないような場所に、こっそりと隠れるようにしてある経蔵。やっと一人が通れるくらいの穴倉のような部屋に、小さな像が座っていたり。テラスに隠されて、パッと見分からない部分に、丁寧な彫刻があったり。なんとも不思議な場所だ。
なんだか、かくれんぼをしながら、秘密の宝物を探しているようで、わくわくさせられる。
好きなように歩いて、自分の気に入ったレリーフを探したり、ひとけの少ないお気に入りの隠れ場所を見つけて腰を落ち着けてみよう。
そして――最終的に頂部へ辿り着いて、50面にも及ぶという四面仏の優しい視線に身体を晒してみるといい……。


南参道(南大門)
一般観光客は殆どがここから入る。
通路は車が通りぬけられる程に広い。

門上にも四面の観音仏。顔の長さだけで3m。

参道の両脇には神々と阿修羅の像が54体、ずらりと整列している。ナーガを引っ張っているのだとか。
バイヨン全体。
左は南門側から撮ったもの。右は正面から。
写真だと小さく見えるが、実際に見上げると迫力だ。
四面仏の尖塔が無数に、中央へ向かって段に連なって、須弥山を象っている。

確かに、そこには。
小さいながらも
ひとつの宇宙――できていた。



 なんだか不思議なんだ
 どうしてだろう
 初めて出会う筈なのに

 懐かしいような 慕わしいような ホッとするような――
 なんて不思議な感覚

 あなたの顔が あまりにも穏やかで優しいから…

 こんな遠い異国の地にいるというのに
 僕はゆったりと弛緩してゆく――




 〜バイヨンのレリーフ(彫刻)たち〜

踊る 踊る 踊る

なんとも 楽しげに
至るところで

クメール世界のアプサラたちは
みんな、実に陽気で明るい――

第一回廊の浮き彫りは必見。
アンコールワットのものと違って、日常的な場面が多く、躍動的。
ほら
こんな小さな
柱の陰にも
隠れてる
こっそりと
うつくしい
彫刻たち

見逃しては
いけないよ?

ちょっとだけ拡大




バイヨン〜西



こんな風に、森の中にポツンポツンと遺跡が点在。
全部見ていると膨大な時間が……。
バイヨンを出て、アンコールトム内部の他の遺跡を見て歩く。
有名な観光場所の多い西方面。最初はいちいちカメラを向けていたのだが、あまりの遺跡の数の多さに、そのうち眺めるだけになってしまう。よって写真は殆どなし。(スミマセン)
余談だがフィルムは腐る程持っていったほうがいい。撮りたいものを全て撮っていると、あっという間になくなって、最終日までもたない。あまり持っていなかった場合は、吟味して撮る必要あり。風魔も、結構な枚数を持っていったにも関わらず、加減して撮らなければならない羽目に……。
木と草の茂った道無き道を歩いていくと、左右に幾つもの廃墟が。在りすぎて、どれが何だかさっぱり分からない。後になって地図を見てようやく「ああ、これが、あの建物でー」と思い至る。そして、そこらじゅうに遺跡の破片が転がっている。無造作にゴミのようにゴロゴロしているそれらだが、手にとって見るとどれも見事な彫刻が彫ってあって驚く。「これひとつでも博物館いきだよ…」と思うとなんだか勿体無くて悲しくなってしまう。持って帰りたい衝動にかられるが、これは厳罰ものなので止めておこう。一日も早い修復を望みながら、ずんずん歩く。
バイヨンから出てまずすぐに行き当たるのが「バフーオン」だ。空中参道と呼ばれる、円柱列に支えられた長い参道を歩きながら、ピラミット型の遺跡を見上げる。もとはバイヨンよりも高かったのだそう。今はすっかり廃墟のようになってしまっている。ここは、現在修復工事が行われている現場でもあるので、修復の様子を観察してみる。転がっている破片たちには番号が打ってあって、順番に組み立てようとしていることが分かる……が、棒を使って梃子の原理で一つ一つを持ち上げているのを見ると……一体修復に何年かかるんだろうと心配になってしまったり…。
それから、有名な「象のテラス」や「ライ王のテラス」へ。テラスの壁面に彫られたガルーダや象に乗って狩りをする人々や、女神像などを眺める。数か多すぎて、これまた大変だ。
とにかくアンコールトムの壁面には彫刻の数が多い。遠くに見えるテラスの壁に「何か細かい模様が入ってるなー」と眺めていると、ガイドさんに「あれ、全部ブツゾウ」と教えられ、「ええっ!?」と仰天したことも。(絶対に、千仏くらいじゃすまなかったぞ、あれは!しかもただの彫りではなく、きちんとした「像」になっていた……)
のんびり見ていると本当に日が暮れるので、好きな人はたっぷり時間をとっておくことをお勧めする。

テラス壁画のひとつ。馬…に見えるだろうか…?



Banteay Kdei ・ Ta Prohm


アンコールトムから車に少し乗って、「バンテアイ・クディ」 と「タ・プローム」へ。
どちらもかなり傷みは激しい。鬱蒼と茂った緑の中に埋もれるようにしてひっそりと存在している。陰になっていて湿度が高いのか、壁面は殆どが苔むして緑色に染まっている。
特に、タ・プロームは、自然の脅威を明らかにするために、わざと樹木の除去や修復をしないで、そのまま置いてあるらしい。その為、巨大な木の根が建物に絡み付き、遺跡を破壊していっている様子が見られる。

遺跡を侵食する木。
全体があまりに大きいので、フレームに収まらない…。
タ・プロームは観光コースの定番の筈なのだが、意外な程人が少なく、静かだ。建物の内部に踏み込めば、生い茂った自然に遮られて、光が殆ど差さないような場所もあって、少し怖いような気がする。
バンテアイ・クディはタ・プロームよりも更にひとけがなかった。崩壊度はかなりひどく、所々に木材で支えがしてある。僧侶が生活するために増築されたという回廊があるのだが、中を覗きこんでみると鬱蒼と暗く、壁面の苔に当たって緑色になった光が外から少し差し込んでくる。神秘的な雰囲気のある場所だ。ただし、今にも崩れそうなのでご用心を。
どちらの遺跡も、木の陰から小さな神さまでも覗いていそうな不思議な魅力がある場所だ。……が、、その一方で、ぽつんぽつんと何処からやって来たのか、遺跡の片隅で牛が草を食んでいたり……と長閑な一面も。(笑)


木の陰に廻りこんで探してみよう

くずれかけた壁面にも

ひっそりと彼らは存在している

自然の力に逆らわず

朽ち果てていくのを

ただ静かに 待つものたち――





Angkor Wat


巨大遺跡アンコールワットはアンコールトムとは違い、ヒンドゥーの寺院だ。ヒンドゥーの三大神ヴィシュヌに捧げられたものであると同時に、スールヤヴァルマン2世の王墓でもある。五基の尖塔から成る中央祠堂はメール山(須弥山)を現し、周囲の回廊はヒマラヤ山脈を、環濠は大洋を象徴する。
アンコールワットは、人が多くシャッターチャンスはなかなかやって来ないので、写真よりも心に焼き付けて帰る方が得策だろう。
周囲を囲む青々とした環濠の外から、まず全体を眺め、それから西の参道を歩く。三つの尖塔が歩くにつれ、見えたり見えなくなったりして、面白い。西の塔門までくると、入口の中に、まるで額縁に嵌っているかのように、中央祠堂がきれいに収まって見える。朝日を眺めたのは、この西塔門だったことに、この時ようやく気づいた。
経堂を過ぎると左右に聖池が見える。この辺りで道から外れて、池の手前からワット全体を眺めるのがお勧めだ。五つあるという尖塔が全部見渡せる。さらに歩いてテラスへ上がると、ようやく内部への入口が――。



環濠からの眺めと聖池からの眺め  → 拡大絵





第一回廊の見所はやはり壁面いっぱいに掘られた見事なレリーフだろう。第一回廊全体に、様々な主題の彫刻が施されている。アンコールトムのものとは違い、「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」などの神話が基になったものが殆どだ。繊細で細かな浮き彫りが、何mも延々と続く回廊を飾っている様子は壮観だ。ただし、人が多いのでゆっくり近くで見るのは大変。第一回廊には、ヴィシュヌ神像や、ナーガを従えた仏陀の像といった変わった像なども配されているので、要チェック。
連子状窓かが石畳の床に落とす不思議な影や、至るところに施されている美しい細工を見ながら第二回廊を一周する。
花模様の透かし彫りが特に美しい。アンコールトムよりも石が白っぽいせいだろうか、繊細さが際立つようだ。
また、ワットにはデバダー(女神)の彫刻が物凄く多い。きちんと浮き彫りにされているものから、下書きのまま放っておかれているものまで、ひとつとして同じ顔はない。豊満で妖艶な肢体と柔らかく動きのあるポーズを、硬い石で出来ているとは思えない程見事に表現してある。お気に入りを探して、少しうろうろしてみよう。
疲れたら、回廊の端に腰を下ろして水分補給をしておくのもいい。
見渡す限りの広大な森、建物の周囲を囲む緑の草地。――その上を渡ってくる涼しい風に吹かれながら一服する。 
この後に来る中央祠堂は、ちょっとした難物なので……余力を残しておくことをお勧めする。


中央祀堂。
五つある尖塔のうち、一番高い頂点で遺跡の中央に位置する。
ヴィシュヌ神が光臨し、王と一体化するもっとも聖なる場所である。


せっかくここまで来たのだから、上まで上ろう、勇気を出して。――そう、いかにその勾配が急で「絶対に無理だ!」と思えても……。(笑)
中央祀堂への階段は、ちょっと見るとまさに
「断崖絶壁だ。しかも、階段の一段の幅が物凄く狭く、足を横にしないと引っかからない……。そしてさらに、角が風化して丸くなっていて、滑ること甚だしい……。はっきり言って、ポカンと口をあけて見上げてしまったくらいだ。「怖い〜っ!」と半泣きになりながら、上る。両手両足を使って、よじ登る感じである。上を見上げても下を見下ろしても、怖くて足が竦むので、ひたすら上ることだけに集中する。少しでも滑ろうものならまっさかさまに落下し、落ちたらまず助からないよ〜(涙)と思いながらも上る。一度足をかけたなら、後戻りもできないからである。制するしかない!(笑)
お年を召した方は、ショルダーバックなど持たずに、できればリュックを持っていくことをお勧めする。上る時に本当に邪魔である。お尻にバックがあたるだけでも邪魔だ。そして、絶対に滑らない靴。アンコールに行くには、これが必需品だと、本気で思った。
一応、細い鉄のロープ(ゆらゆらしている!)が端のほうに一本だけあるのだが、これは降りる人の為にあけてあげよう。登ることはなんとかできても、アレを支えなしに降りるのはちょっと無謀……
自殺行為だと思う……。
それにしても、必死で登っている風魔の姿を下から写真に収め、さらに横を追い越して登り上がり、上からも写真を撮って下さった、いくさん……貴方は素晴らしい。尊敬します……いや、本当に。(笑)

こんな階段。見上げる首が痛くなる急勾配…

上から見下ろす。まるで穴を覗きこんでいるような絶壁。よく登ったものだ……。
登りきると、ホッと一息。そして、そのあまりの眺めの良さにすぐに有頂天になる。
360度、全てが見渡せ、ワットの全体像がよく分かる。そして、その周囲に広がる森の広さも――。
ぐるりと四角い回廊が巡っており、その中央に、一番高い尖塔(←)がそびえている。ワット内で、太陽に一番近い場所。夕暮れ近い日光に照らされてうっすらと輪郭が黄色く光っていた。

この、階段を上りきった中央塔には、専門のガイドたちが観光客を待ち構えている。
日本人だち見ると、日本語で話し掛けてくる、親しげな現地の人たちには要注意だ。ガイドして欲しいときはいいが、そうでない時はなるべく話し掛けられても応えたり話を合わせたりしないこと。少し話を聞いていると、ずっとついてきて、一周した後にガイド料をとられる。そこでようやく「ああ、これって押し売りガイドだったんだ!」と気づくことに。しつこくついて来るので、友達と話しながら一緒に廻るのがいいかもしれない。
でも、ガイド料は微々たるお金なので、現地の人と話す機会だと思ってガイドしてもらうのもいいかも。





中央祀堂からの眺め。
遠くに一人腰を下ろしている黄色い衣の僧侶の方が
なんともいい雰囲気を醸し出していた。
そっと  カメラを向けてみた……



Phnon Bakheng


黄昏色に染まり始めるアンコールワットを後にして、夕日を見るためにプノン・バケンに向かう。
アンコール三聖山のひとつがこのプノン・バケンだ。アンコール観光には、大概組まれている場所。
丘陵の上にテラス状の広場があり、その上に小さなピラミッド型の遺跡が残っている。もっとも、殆どの観光客のお目当ては遺跡自体ではなく夕日だろう。

一日歩き回ってクタクタになっていた我らは、とりあえず丘陵の下で車から下ろされたとき、呆気に取られて「それ」を見上げた。階段もなんにもついていないその山。道…らしきものはあるが、それは単に木を切り開いただけ。地面は木の根が張りだし、それを足がかりにこれまた「よじ登る」しかないような……それこそ急勾配である。ワットの中央祀堂にも驚いたが、それよりもずっと長い……。(当たり前だ。山なんだから)
「こ、この……頂上の見えない絶壁を……よじ登るのかっ!?しかも、もう余力まで使い果たしたこのカラダでっ!?」
―――気分としてはそんな感じである。たかが夕日、されど夕日。侮ってはいけない。一日、ベットに入る瞬間まで、体力は使い切らずに残しておきましょう……。教訓。
ひいひい言いながら、とりあえず登る。――が、流石にここはキツイ場所だったのか、初めてガイドさんが、全員に水を一本ずつ配ってくれた。(それはそれで、「ここからキツイよ〜」と言われているようでちょっと……)
それを携え、もう何も考えずに登ると――

広い
が、一番に目の中に広がった。
それから、その下に広がる――地平の果てまで続く

そして、巨大池、西バライの水面が、沈み行く太陽に照らされて
銀の帯となって森を分けている。
首をどっちへ向けても、空と緑の大地、それに湖しか見ることが出来ない。
―――ようやく、自分がとんでもない場所に来たのだと。馬鹿のように今更ながら感じた。
遺跡の上に腰を下ろし、冷たい水を飲みながら暮れて行く森を見つめた。暑くて、疲れて、クタクタだったけれど。ちょっと曇っていて、真っ赤な夕日は見られなかったけれど。
黄昏色に染まっていく広大な大地と、
濃紫にたなびく
長い長い雲と、
振り仰げば視界をくまなく埋める
天の平らかさに、
充実した一日の感謝を捧げた―−。




遠くに小さくみえるアンコールワット


西メボンの水面に沈む夕日と空